6 幻幼虫
総合評価の方を確認したら、20万まで500を切っていてびっくりしました!
大台までもう少し、皆様のご愛読に感謝です!!
「さて、指示通り締め落としましたが、この方はどうするのですか?」
「いや、無力化してとは言ったけど、締め落としてとは言ってないよ?」
水の中位精霊なら、海という水の精霊にとって有利な環境を得たのであれば、他の属性相手になら上位精霊並みのアドバンテージを誇れる。
そんな力を備えた相手を、なお無傷で捕獲して見せたクローディアの戦闘能力には脱帽しかない。
実際、ついさっきまで水の精霊は戦闘で大津波を引き起こしたり、ウォーターカッターみたいな攻撃魔法を撃ちだしたり、さらには海上を疾走するクローディアの足場を崩す大渦なんかも生み出していたけど、クローディアは自然災害と言えるようなそれらすべてを生身の肉体ひとつで対処して、肉弾戦で完勝して見せた。
「とりあえず、そこに寝かせて」
最後の最後はプロレスリング技のチョークスリーパーで、意識を刈り取るとは思っていなかったが、結果として無傷で制圧できたのならいい。
心配そうな、精霊たちに一回笑顔を見せつつ、水の精霊を見る。あの戦闘能力と虚ろな瞳、そして一切の会話をしない症状から見て間違いなくこの精霊は〝寄生〟されている。
クローディアが優しく、敷かれた布の上に水の精霊を寝かせる。
「さてと、予想通りならいるはずなんだけど」
そして俺は確信を得るためにマジックバッグから眼鏡を取り出す。
それは〝霊視の眼鏡〟と呼ばれるアイテムだ。
本来の使い道は、ゴースト系のモンスターが持っているハイドという姿を消す潜伏系のスキルを看破することができるアイテムだ。
『この眼鏡をかけることによって、あら不思議、見えないはずのモノが見える』という、FBOのネタアイテムの中でも怪しげな売り文句を並べたフレーバーテキストを持つ一品。
霊感商法とかで、売ってそうなへんてこな装飾も重なって胡散臭そうな見た目に仕上がっている。
「あー、やっぱり、いた」
そんな怪しさ満点なアイテムであるのだが、見た目に反してというか、見た目通りというべきか、素材はそこまで大したものを使っておらず、技術もそこまで必要ない。
霊視の眼鏡はクラス3のアイテムで作るのは割と簡単。
されど、安価だからこそこの西の大陸のクエスト攻略では必須と言えるほどの有能アイテムだ。
「うわぁ、実際見ると決行グロイなぁ」
「そこまでなのですか?」
「クローディアも見てみる?」
眼鏡越しに見えるのは、水の精霊の額に貼り付いている蛹のようなモノ。
本当にそこら辺の森の中で見つけられそうな、ソフトボールほどの大きさの蛹。
ゲームの時とは違い、生々しい寄生モンスターの姿に眉間に皺が寄り、俺の表情変化に気になったクローディアに霊視の眼鏡を渡して見せると、彼女の表情も何とも言えないものに変わる。
「見ていて、気分のいい物ではありませんね」
「だよなぁ」
霊視の眼鏡を受け取り直し、苦笑して改めて水の精霊を見つめ直す。
そんな物が額に貼り付いていたら誰もが気づくはず。しかし、現実では水の精霊には何か付いているようには見えなかった。
現実世界では見えない存在。眼鏡を付けず再度見てみると、そこには何もついていない水の精霊の顔が見えるだけ。
再び眼鏡をして、霊視レンズ越しに見ると再び姿を見せる存在。
「やっぱり、幻幼虫に寄生されてたな」
「げんようちゅう。はるか昔にこの西の大陸で生息していたモンスターですね。しかし、すでに絶滅したと聞いていましたが、リベルタの言った通りならまだ生息していたと言うことですか?」
「一部の環境で、人工的に生育されているんですよ。それ以外の場所じゃ見ることはできないですし、他の大陸じゃもともと見れないですし」
これまた西の大陸のクエストではもっとも目にするモンスターだといっても過言ではない寄生型モンスターの『幻幼虫』。
こいつのスキル構成は、寄生特化。
自身の戦闘能力は、皆無、ゼロと言っても過言じゃないくらいに低スペック。
実際自分だけじゃ、きっかけの寄生すらできない弱小キャラだと言って良い。
レベルもモチよりもほんの少し上程度、プレイヤーユニットが寄生されることはこの幻幼虫が持っているスキル構成上有り得ないと言って良いほど弱小。
しかし、その出現条件は特殊で、FBOのプレイヤーが西の大陸スタートを選んだとしても、ゲーム初期には出現しないモンスターだ。
西の大陸のクエストを進行する過程で過去の文献を漁りその存在を知るというのが常道の隠し要素的な存在。
その過去の文献でも西の大陸の気候変動によって絶滅したとされて、長い年月を経るなかで存在そのものを忘れ去られたと言われているが。
「その生育箇所が、元老院のおひざ元の世界樹の地下なんですよねぇ。言いたいことわかります?」
「前に言っていっていましたね、精霊の異常行動の原因はこの幻幼虫だと」
「個人的には諸悪の根源と言っても過言ではないんですけどねぇ」
実際は、元老院が幻幼虫の存在を意図的に隠蔽した結果、情報がなくなったという経緯がある。
隠した理由は単純明快、この幻幼虫には精霊を操るのに特化した性能があるからだ。
元老院にとっては、かなり都合のいいモンスターで、対処されたら困るモンスターでもある。
しかし幻幼虫単体は本当に弱い。
本来のスペックは、精霊に寄生できたとしても軽い幻を見せることができる程度の能力しかない。
到底、寄生した肉体を奪い、操ることなどできないが、元老院の背後にいる『夢幻のオヴェイロン』と組み合わさるとこの幻幼虫は化ける。
幻惑系のスキルを『夢幻のオヴェイロン』によって強化され、寄生された精霊は認識をずらされて、幻幼虫の思いのまま動くようになる。
それが幻幼虫の強化されたスキルの効果。
戦っている最中も、精霊にとって敵と認識するような存在を幻影として見せているのだ。
だからこそ、限界まで本気の能力を発揮して、戦闘を行う。
「このまま放置すると、この精霊は幻幼虫に体を完全に乗っ取られる。乗っ取られたら体は作り替わり、元の姿に戻ることは絶対にできない」
『お兄ちゃん変わっちゃうの!?』
おまけに、夢幻のオヴェイロンによって寄生性能が強化されている分、より寄生虫として危険性が増している。
寄生虫としての能力を大幅に増強し、寄生しその宿主の力を吸い続け、どんどん体の支配を深刻化させ、その体を自分の体に作り替え、最終的に自分の肉体として羽化させる。
その説明を聞いて、小さな精霊の一人が慌てるが。
「大丈夫、まだ蛹で、外に付属されている状況だから除去できる。そもそも、精霊の体を乗っ取ることなんて、一朝一夕にできることでもないしね」
できるだけであってその危険性はほぼないと言って良い。
この幻幼虫の強化された寄生能力、一見すればヤバい効果のように見えるが、この幻幼虫の元来の力はさっき説明した通り、弱小。
「ざっと、千年くらい寄生されたら危ないけど、一年や二年どころじゃなくて、数十年単位で寄生されても間に合うよ」
『・・・・・そうなの?』
「そうそう」
その低性能ゆえに、寄生先が長寿であり相性のいい魔力生命体であり比較的体が作り替えやすい精霊でなければその効果も発揮できない。
さらに気づいてしまえば、治療はできてしまう。
寄生能力が強化されて色々とできるようにはなっているけど、同化するスペックは本当に弱小なんだよねこいつ。
「といっても、アストラル体だから普通には掴めないし、力技で引き抜くと障害が残る可能性もある」
そんな弱小存在である幻幼虫であるが、治療法は少し厄介だ。
「状態異常解除系のスキルでは解除できないし、アンデッド系でもないから浄化系のスキルでも解除できない」
幻幼虫は名の通り、蟲系モンスター。
寄生効果は一見すればデバフ効果に見えるけど、実際は攻撃判定。
さらに、名が示す通り存在が幻、実体のないモンスターなので、物理接触ができない。
幽霊ではないので、ゴースト系のアンデッドモンスターに通用するような攻撃が効かない。
FBOの解析班は、肉体に寄生しているのではなく、魂に寄生しているのではという仮説を提唱していた。
実際、FBOの文献にもそのような記載があったから、その説が濃厚である。
「なので、取り出すのはこれだ!!」
まぁ、ここまで説明すれば厄介な存在だというのはわかると思うが、では探究すること旨とするFBOプレイヤーがその厄介な存在を、厄介な存在のままにすると思うか?
答えは否、断じて否である。
嬉々として俺が再びマジックバッグから取り出したのは、小さな壺だ。
『なに、それ?』
クローディアや、船員たちには説明しているから驚くような様子はないが、初見である小さな精霊たちは首を傾げて疑問を抱いてくれる。
「ん?ここに使い魔が入っているんだよ」
『使い魔?』
「おう、と言ってもそこまで強いモンスターじゃないけどな」
その反応に少しだけ気分が良くなりつつ、俺はそっと壺を水の精霊の側に寄せると。
『お兄ちゃん!起きた!?』
「いや、まだ意識はない。今のは幻幼虫が反応したんだ。天敵の気配にな」
びくりと、水の精霊の体が跳ねる。
その動きに、小さな精霊は目覚めたのかと勘違いするが、いまだ幻幼虫の支配下にいる精霊は自発的に動くことはできない。
クローディアが無理矢理に本体の意識を締め落としているから動かないだけで、意識があればこの壺を見た瞬間に暴れ出しているだろう。
『天敵?』
「おう、ほれ、出てこい」
そしてコンコンと壺を叩くと、そこからぬるりと灰色の粘体が姿を現す。
『スライム?』
「プチスライムゴーストだ。こいつらの主食は、霊体、実体のない存在でな。こいつらが大好物なんだ」
『へぇ!』
スライムという存在は、基本的に体が半透明で、向こう側が見えるほど透き通っているわけではないが、それでも一定の透明感がある。
しかし、このプチスライムゴーストは、体の向こう側が見えるほど体が透けている。
透明感があるというよりは、体の存在が薄いのだ。
ゴーストと名が示すように、これも歴としたアンデットモンスターなのだ。
「一号、これを喰らえ」
マジックアイテムによって、テイムしたプチスライムゴーストは俺の命令に忠実に従い、霊視の眼鏡をしていなくても、同じ霊体故に見えている幻幼虫に向けて体を進め、蛹になっている幻幼虫の体に覆いかぶさる。
「おっと」
その瞬間、再び水の精霊の体が跳ねた。
何かの拒絶反応を示すかのような、痙攣。天敵が現れた時よりも大きく示した反応に、小さな精霊たちから大丈夫なのかという視線を浴びるが俺は大丈夫だと頷く。
咄嗟に、水の精霊の体を押さえつけるが、もごもごと動くプチスライムゴーストから視線をずらさない。
何かを捕食しているのがわかり、その間幻幼虫は反射で必死に水の精霊の体を動かそうとしているが、俺の力で押さえつけているから身動きが一切できない。
その抵抗も徐々に弱くなり、そしてプチスライムゴーストの捕食が終わった瞬間、だらりと脱力した。
「よし、治療終了」
正確には、寄生虫を取り除いたと言った方がいいのだが、病気のようなものを取り除いたと考えれば、間違いではないか。
『お兄ちゃん?』
「期間は短くても、寄生されて支配されていたからな。起きるまでは少し時間がかかる。テントの方で休ませるから、一緒にいてやれ」
『うん、カイチョウ!お兄ちゃんを助けてくれてありがとう!!』
「おう」
小さな精霊からお礼を言われて、船員に頼み、水の精霊がテントの方に運ばれる。
「ぶっつけ本番の治療が成功して良かったですね」
「まぁな、これで切り札の確証が得られた」
そして、その姿を見ながら俺はホッと内心で安堵のため息を吐きだす。
それをクローディアに見抜かれて俺は苦笑するのであった。
今回も楽しんでいただけたのなら幸いです。
そして誤字の指摘ありがとうございます。
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