4 砂塵への洗礼
ゆっくりと休み、そして事前準備をしっかりとしていれば物事というのは大半上手くいくという。
ただし、物事にはすべて例外というのが存在する。
「うー、さっきから砂が羽の中に入ってジャリジャリする」
「私も、耳の中に砂が」
「獣人組にとって、砂漠は相性最悪かもな。イングリット、悪いけどエアクリーンを頼む」
「かしこまりました」
全身を覆うような格好に着替え、防塵ゴーグルもして、砂塵対策をしっかりとしても環境適応を完全にするのは難しい。
装備の方はどちらかというと砂漠の昼夜の気温変化、火傷しかねない炎天と凍死しかねない極寒への対策の方に重点を置いたから、砂塵が隙間から入ってしまうのはカバーしきれなかった。
いかにスキルでカバーしたとはいえ、完璧に快適に砂漠での過ごすのは難しかったか。
「あ、少し楽になったかも」
「そうね、新しく砂が入らなくなったからさっきより良くなったわね」
砂漠の民の衣装はその風土に合った合理的な物だ。
長い年月で培った経験が、形となり、生活を快適にするために考えられた構造。
地球でも似たような恰好もあるから、やはり、異世界でも似たような環境だと同じような発想になるのだなと装備を用意しているときに思った。
ローブのような格好に通気性を求めて熱を逃がしたりできるようにして熱中症対策をしている。
といっても、うちには環境適応が最強格のイングリットがいるからエアクリーンとサーモコントロールで、砂漠環境でも万全な動きはできる。
ただ、イングリットも寝ている間はスキルを発動できないから、テントとか服にスキルを付与して生活空間の快適さは確保しているというわけだ。
「だけど、僕、砂漠って砂だらけかなって思ってたけど、意外とごつごつしてる岩場が多いんだね。これなら歩くのは苦労しなさそう」
そして西の大陸に上陸して、初めての異国に渡ったアミナは遠くを見通すためにそっと額に手を当てて景色を見る。
南の大陸と違い、植物の緑の色合いが少ない光景。
海岸線にある岩場というまだ砂漠ではない地点から見えるだけでも、一面岩石ばかりが目に入る光景に、アミナは感嘆の声を漏らす。
砂漠と言えば辺り一面が砂って言うイメージが強いが、実際は砂漠のほとんどは岩場のような乾燥した土地が多い。
雨量が少なく、乾いた大地の表層が風で吹き飛ばされて、固く重い石や岩などが残ったわけだ。
それ故に、砂漠と言いながらも、残っている地面は岩のように硬いのだ。
「まぁ、そういうイメージの場所もなくはないけどな。あ、空を飛ぶ時は気を付けろよ、防塵ゴーグルは必須、喉を守るために口元の布はできるだけ外すな」
「うん、さっきちょっと外したけど砂が口の中に入って大変だったよ。岩だらけなんだけど、ちゃんと砂もあるんだね」
「今日は少し風があるからな。その所為で砂が舞っているんだろうさ」
「うーん、この風、飛んだら気持ちよさそうなのに」
この環境は正直に言えば、アミナのジョブ、歌姫とかなり相性が悪い。空気は乾燥し、砂塵が舞い、常に強い日差しが差し込む。
歌を歌うという環境としてはかなり悪いと言っていい。
「今はこの大陸の精霊や人に見つかるわけにはいかないからな、我慢してくれ」
「はーい」
さらに、アミナの種族である鳥人のような飛行系ユニットにとって、砂嵐がいつ起きるかわからないこの土地もマイナスだ。
喉のケア、さらに墜落の危険性、その二つを意識しないといけないこの砂漠はアミナにとっては相性最悪の土地と言える。
「あ、少しでも体調が悪いってなったらすぐに言えよ?」
「うん!!」
そんな環境下でも元気なのは、砂漠という光景の物珍しさによって芽生える好奇心が勝っているのと、環境の悪さにある程度対応できるレベルだからだろう。
種族的相性の悪さというのはFBOの時はなかった。
ゲームというシステム上、種族毎の個性という物を生み出すとゲームバランスを取るのが難しい、中には個体差として厳選し育成するゲームもあるが、種族によってその土地で環境補正を貰うというシステムはFBOにはなかった。
寒冷地や熱帯雨林とか気象変動の激しい地点での環境適性など、こういう細かな点で気を付けないといけないことが今後出てくる。
そういう学びは実体験しないと得られない。
そう考え、次回に生かす。
ゲームと現実の差を埋めるにはそうするほかない。
「皆も、水分補給はこまめにおこなってくれ。あと、水だけじゃなくこの塩飴も一日に二個か三個食べてくれ。熱中症対策になる」
そして気にかけるのは、アミナだけではない。
今回連れて来たメンバーは全員、西の大陸で旅をした経験がない。
シャリアとかクローディアとか、全世界を飛び回っていた人員は例外中の例外。
大陸を渡ることなどせず、普通に生きてきた面々だ。
「クローディアは悪いけど、しばらくは拠点での生活のアドバイスを頼む。俺も知ってはいるが砂漠での生活では色々とわからないところが出てくるからな」
「わかりました。任せてください」
砂漠という特殊環境での生活は事前に、講習を設け注意点を周知していて訓練も施した。
だが、経験値という点では大きく劣る。
俺も日本で生きたころは海外旅行の経験なんてない。
あくまでゲーム上での経験しかないから、実体験という点ではクローディアには劣る。
西の大陸で旅をしたことがあるというのは、今回の遠征では何物にも代えがたい財産だ。
クローディアにはその旨伝えてあり、この拠点の環境についても色々とアドバイスをもらっている。
「と、言いましても。フライハイトで用意した魔道具のおかげでこの場での生活は問題ありませんよ」
そのアドバイスを元に、色々と魔道具を持ち込み砂漠という過酷な環境でも生活できるようにしているのだが。
「水の魔道具で、水を生み出すことができます。砂漠でこの魔道具は反則です。食料の方も気を付ける必要があるのですが・・・・・鶏はともかく、豚とヤギ、さらに羊を持ってきて育成環境を用意できているというのはやはりすごいですね。いえ、すごいというよりもずるいというべきでしょうか」
「水を確保できるから栽培キットも使い放題!飼料も作れるし、野菜も育てられる!いやぁ!潜水艦艦隊を用意してくれたパーシーたちには感謝だな!!」
そのアドバイスで、これがあれば便利、あれがあれば助かるなどの悩みを解決するのは俺の知識の本領発揮。
「・・・・・栽培キットで当面の食料問題を解決して、その間に畑を作る。それで食料と水の問題を解決。あらかじめ聞いていた計画ですが、これを砂漠で生活している人が見たら怒り狂いますよ」
「ハハハハ!!フライハイトでの街づくり経験が役に立ったな!!」
砂漠に適応できる工作用ゴーレムを大量生産し、それと並行して生きるために必要な食料、特に野菜類を生産できる栽培キットを生産。
それを潜水艦に乗せているので、今絶賛拠点に配備中だ。
何度も潜水艦をフライハイトと往復させて、食料や消耗品を輸送することも計画しているが、やはり現地で作れて供給できるようにした方がはるかに効率的なのだ。
「あなたの非常識のおかげで、問題らしい問題は起きていませんね。強いて危険を上げるなら潜水艦を破壊されないようにすることですが・・・・・」
「特殊な方法を使わない限りは壊れないし、沈まないからなぁ」
唯一、現状で一番困るのは移動手段である潜水艦を壊されることだが、当然のように船体には弱者の証を混ぜ込んでいるので、壊れないのだ。
「盗まれる心配もないし、万一の場合に帰る手段も転移のペンデュラムがあるからコツコツと時間さえ掛ければ撤退することができるしなぁ」
「本当に、貴方は常識を破壊することに長けていますね」
「便利にしているだけだ!」
「今回は、そのやる気に助けられていますね」
そんな潜水艦から、次々に運び込まれるゴーレムが、岩場を加工して、拠点を作っていく。
そしてゴーレムが稼働して出来上がった建物に栽培キットや家畜が送り込まれて、食料生産拠点と、水場が生まれる。
この砂漠の土地において、この設備の価値がどれほどのものか考えるまでもない。
下手をしなくても、黄金より価値があり、この拠点の設備すべてが、世界樹に頼らなくても実現可能な生活基盤となっている。
「ハハハ!やるといったらやるのがリベルタさんですから!しかし、情報通りにはいかないなぁ。うーん、麦畑を作りたいけど思ったよりも土地が狭いかぁ、秘匿のことを考えるとやっぱり地下に農園を作るのがベストか」
この存在を知ったら、老害たちが示す世界樹の楽園とやらの価値は地の底に堕ちる。
地の底に落とすタイミングは選ぶ必要がある。
少なくともここの拠点で、数千、或いは万の人口を支えられるようにして、さらに複数の拠点を作り上げてから、世界樹を伐採の流れが現状の予定だ。
世界樹の正体を知っているがゆえに、その影響を受けない環境で沿岸部を選んだのもそれが理由だ。
沿岸部なら海水を利用して、塩も作れる。
「畑を地下に作る。本来なら考えつく人もいないでしょうね」
「魔道具とかいろいろと便利な物があるのに、なんでやんないんですかね?」
「そもそも、そんな設備を用意できる人の方が少ないのですよ」
さらに、衣服を作るための蚕と羊を用意した。
建築に関してはゴーレムを用意したから、これで衣食住は自力で用意できるようになる。
あとは、家畜を殖やし、食料を増やしと増産していけばおのずと開拓地は増える。
「まぁ、そうだよな。なら、できる俺がするべきだろ?」
クラリスが来るまでには、この拠点に相応の設備を用意して度肝を抜いてやろう。
いたずら小僧のような気持で、せっせと拠点を作る。
作業員が少なくても、工事ができるようにしているから上陸して大した時間が経っていないのに、搬入作業と並行して拠点づくりが進む。
「そうですね。あなた以外はできないでしょう」
「ハハハ!だろ?さてと、そろそろ話はおしまいだ。俺も、現場の方の様子を見ながら手伝ってくるから、クローディアは隊員の健康管理と、生活環境の調整を頼む。アミナ、ネルと一緒にクローディアの手伝い頼む、イングリットは俺と来てくれ、エスメラルダの方を手伝う」
「わかった!ネルを呼んで来るね!」
その搬入作業の中に、自分のステータスを駆使して、大人でも運ぶのを苦労しそうな大きなコンテナを担ぎ、運んでいる狐娘のところにアミナが飛んでいく。
「かしこまりました」
そして俺の背後には、静かに佇むイングリットがいて、搬入作業の指示を出して管理しているエスメラルダの手伝いをするといえばついてきてくれる。
「リベルタ様!」
「ん?何かあった?」
あとは分かれて、作業するというタイミングで潜水艦の乗組員の一人が俺の方に走り寄ってくる。
レベル上げをしているから、とんでもないスピードで迫ってくるから、足が砂を巻き上げて、ギャグみたいな走り方をしているが。
「精霊です!精霊が海の方に現れました!!」
その報告内容はギャグみたいな話題ではなかったのであった。
今回も楽しんでいただけたのなら幸いです。
そして誤字の指摘ありがとうございます。
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