1 いざ西へ
新章突入です!
西の大陸にいる弟子であり、英雄とも言われるクラリス・ノーランドから救援要請を受けて数カ月。
救援の要請を受けてからも、色々とトラブルがあったりやるべき仕事が増えて、フライハイトでの日常は忙しなかった。
しかし、その忙しなさの甲斐があってか。
「いざゆかん!西の大陸へ!!」
「リベルタのテンションが高いわね」
今俺は完成し、試験航行も問題なかった大型潜水艦1号艦、『蒼鯨』の船首に立って西の方角を指さしている。
潜水艦の型式名称は鯨型モンスターに姿が似ているのと、船体を海の色に同化できるように蒼色で塗装していることから『蒼鯨型』ということで決まった。
一号艦を『蒼鯨』その後に二号艦、三号艦とそれぞれ『水鯨』『空鯨』と水色と空色の青っぽい色合いの名称から艦名が決まった。
俺の立っている蒼鯨の左右に水鯨と空鯨が並んでいると中々圧巻の光景だと思い、ついテンション任せでこんなセリフを言ってしまう。
ノリと勢いでやってしまった行為に対して、ネルが笑ってくれているのは呆れからではなく、楽しそうな俺の姿を見て喜んでいるからだろう。
少なくとも呆れの色はない笑みだ。
「リベルタ君!エスメラルダさんから貨物の積み込みの最終確認が終わったって!!」
「おう!わかった!」
そんな俺たちの元に空から舞い降りるのは、鳥人のアミナだ。
こういう海に浮かんだ潜水艦の上で、足場が限られている場所でも、こうやって空を飛べるアミナはかなり動きやすい。
だからこそ、港の方で資材確認をしているエスメラルダの伝言を預かってきてくれたのだろう。
その伝言を受けて船首から踵を返して、港の方向に進めば、蒼鯨の貨物搬入用の後部ハッチが閉まり、隔壁が閉じて、さらに外部カバーを閉鎖している光景が見える。
「アミナさん、リベルタを呼んできてくれてありがとうございます」
「いいよ!海の上って風が強くて飛んでいると気持ちいいから楽しんだよ!!」
「私も飛べたらその気持ちがわかるのですけど、リベルタ、飛行用の魔道具とかありませんの?」
物資の搬入作業をしていたのは、フライハイトで引き取った孤児たち、とくに男子が多い。
よく食べて、良く寝て、よく運動をして、さらにレベル上げをすると、ここ数カ月で見違えるほどガタイが良くなった子供たちが、重労働の後だというのに軽く汗を流した程度で余裕を持って仕事を終えられている。
しっかりとこの仕事にも給金はだすので、子供たちのやる気も上々、さらに衣食住も保証しているから忠誠度と言えばいいだろうか、仕事仲間同士の連帯感も強いのだ。
そうなってくると仕事も真面目にやるし、仕事の覚えも早い、それが重なれば仕事の効率も良くなってくる。
そこをしっかりと評価して給金に反映させると、子供と言うのは素直なものでどんどん仕事を覚えていくのだ。
バミューダが信賞必罰を徹底してくれている故か秩序と規律が彼らの頭の中に入っている。
元孤児ということで明日がわからなかった生活を経験している子供たちは、今の生活の価値を痛いほど理解している。それゆえに規律の必要性を理解した子供ほど、真面目に働く子供が多い。
「作れなくはないけど、素材がなぁ。飛行の魔道具は強いけど、それを破壊されたら地面に真っ逆さま、魔力が切れても真っ逆さま、機動力が低いと遠距離攻撃の的になるだけ、おまけに重量物を運ぶとしたら出力も必要だから、素材は厳選しないといけないんだ」
「遊びで飛ぶだけならどうですの?」
「それなら出来るね。趣味の品になるけど。ただし売るのは技術的にダメ」
そんな得難い働き手である彼らを俺がないがしろにするわけもなく、できうる限り優遇はしている。
宿舎は衛生管理を徹底して、水洗便所と大浴場を完備、さらに管理人と寮母も配置して食事も管理して栄養を摂らせるようにしている。
農地の方にも人員を回しているから、食糧生産は格段に増えている。
野菜、穀物はもちろん養豚と養鶏、さらに乳牛も増やして毎日食卓に肉や野菜がたっぷりと出る。
「危険だからですね」
「そうそう、クローディアの言う通り」
その恩恵を得られている彼らの出自は神殿が管理していた孤児院だ。
神殿出身のクローディアが、働く子供たちを優し気な視線で見つつ俺たちに近寄ってくる。
「そう考えるとこの潜水艦も相当危険な代物ですが、ここですとこれが普通なんですよね」
そして次に大型潜水艦が並ぶさまを見て苦笑し立ち止まる。
旅装に身を包んだクローディア。
彼女と出会った時のような武道着のような格好と旅傘。
その二つに加えて籠手や足具といった防具兼武器のような装備を身に纏っている。
「最近では、普通という言葉を使うのに違和感を覚えますわ」
「確かに」
そんな姿で現れたクローディアと話すエスメラルダも、動きやすいパンツルックスタイルの装いでローブを身にまとった魔法使いと言う格好。
これに大きな杖があれば、the魔法使いと言わんばかりの格好になる。
そんな彼女の手にあるのはクリップボード。タブレットPCみたいな現代機器がないこの世界では紙媒体こそが重要な役割を持っている。
クリップボードに束ねられた紙は今回の救援物資の数々と航海に必要な物資、そして人員のリストだ。
今回の潜水艦艦隊による西の大陸救援クエスト及び、西の大陸で権力を振るう老害こと元老院との対峙、さらにその老害たちの後ろ盾になっていると思われる『夢幻のオヴェイロン』との決戦。
これを想定するとどうあがいても一パーティーでは戦力が足りない。
いや、正確に言えば、倒すだけならできる。
損害を無視し、周囲への被害を顧みず、一切合切の容赦を捨てて外道な戦法も迷わず取ればの話だが。
「リベルタ様、船員及び、御庭番衆からの派遣員、エンターテイナーからの派遣員が揃いました」
「ありがとう、イングリット」
そんなことをする必要があるほど、追い込まれているわけでもなし、そうならないための艦隊でもある。
いつも通りメイド服を纏ったイングリットが、海風に揺れる青い髪を抑えて今回の遠征メンバーが集合したことを知らせて来た。
潜水艦の船員は、エスメラルダとクローディア経由で船乗りを集めて神殿の契約を施した上で雇った面々を育てた。
流石の俺でも外海での操船の経験のない孤児を一から船乗りに育てるのは時間が足りなかった。
皆を引き連れて乗員たちが集合している場所に行けば、整然と整列している姿が見える。
「提督、今日から頼む」
「はっ!お任せを!こんな立派な船たちを任せてもらえて海の男冥利につきますわ!!」
その中で、船を操船する中で一番のトップになる各艦の艦長たちの前に立つ。
俺が声をかけたのは、この船団の長となる提督だ。
彼自体はネームドとかではない。北の領地の不景気な漁村で漁船団をまとめていたのが彼、ダレドだ。
海の男は体力仕事と言わんばかりに、陽に焼けて見事に鍛え上げられた肉体。
その村一番の船乗りだった彼は、海上での操船技術はこのフライハイトで一番と言って良い。
レベルアップさせて操船系のスキルを身に着けたから、その感覚もさらに成長して、鬼に金棒と言わんばかりにこの潜水艦艦隊をまとめるにふさわしい男になった。
彼の背後には、蒼鯨の艦長、空鯨の艦長、水鯨の艦長が並び背筋を伸ばして立っている。
「よし、それじゃ、それぞれの艦に乗艦。行こうか」
そんな彼らも漁村出身でダレドが信頼する一流の船乗りたちだ。
潜水艦という特殊な船を操船する訓練の過程で成績優秀な面々を揃え、試験航行でも高い適性を示した船員を艦長に据えた。
「よし!行くぞ野郎ども!!出航だぁ!!!」
「「「「「おおおおお!!!!!」」」」」
そんな船員だが、俺が知っている潜水艦乗りというよりは、七つの海をまたにかける大海賊のようなノリだ。
潜水艦は本来であれば静けさこそ正義なはず。
ダレドの声に、鍛え上げられた海の男たちは大声を上げて潜水艦に駆けていく。
その勢いのまま乗り込んでしまえるのかと心配するような速さ。しかし、彼らは渡橋を絶妙なバランス感覚で危なげなく渡って潜水艦に乗り込んでいく。
そしてそのまま大きな体を小さな入り口のハッチに上手く潜り込ませて、潜水艦の中に入り込んでいく。
「さて、俺たちも入ろうか、各自振り分けた潜水艦に入ってくれ」
「「「「おう!」」」」
そんな船員たちが出航の準備を始め、俺たちもそれに続く。
御庭番衆とエンターテイナーたちをそれぞれの潜水艦に割り振り、俺たちは蒼鯨へ。
今回エンターテイナーのまとめ役である、シャリア、ジュデス、ヴェロッキオは別行動。
残った蒼鯨級潜水艦の四番艦『藍鯨』と五番艦『海鯨』にシャリアとヴェロッキオがそれぞれ乗艦して、ジュデスがフライハイトに残ることになっている。
街の防衛にジュデスと、ゲンジロウを残しているから防衛は大丈夫。
運営に関してフライハイトはバミューダとジンクさんに任せている。
エスメラルダの妹イリスさんと王家から預かっているカティアさんが一緒に行動したそうに見ていたが、さすがに連れていくわけにもいかないので、この街の護衛と貴族関連の方でジンクさんたちと協力するように頼んである。
ステラとアステルもいるから、戦力では問題ないとは思う。
向こうに着いたら、一度転移のペンデュラムで戻るから、連携については大丈夫だとは思うが。
「やっぱり、潜水艦の中って広いわね」
「普通の船と比べるとだいぶ広く設計して、余裕を持たせているからな。魔道具でスペースを節約して快適性は上げているし」
いざという時は、この潜水艦が拠点になるなと思いつつ、中に入れば見た目以上に潜水艦の中は広い。
三階構造になっていて、船底が貨物庫、中層が居住区、今俺たちが入り口から入ってきた最上層が操船区画になっている。
階段や通路はそこまで広くはないが、それでも人がすれ違えるくらいには余裕があるし、天井も体格がいい船員たちが普通に立って歩ける程度の高さはある。
「うう、やっぱり、僕は潜水艦って苦手かも」
「狭い空間がそもそもアミナは苦手だからな。おまけに海に潜るし」
「うん、僕泳げないし」
そんな空間であるが、アミナは苦手で恐る恐る降りてくる。
空を飛ぶアミナにとって、海中を潜る潜水艦には苦手意識がある。
最初は興味津々で試験航行に乗っていたが、いざ入って潜航航行してみるとその何とも言えない感覚が苦手だと言った時は正直驚いた。
ネルもアミナもどんなことにも好奇心でガンガン行くから、てっきり潜水艦も面白いと言って受け入れるものだと思っていた。
「でも船の中から海の中を見るのは楽しいよ?」
その苦手な理由はシンプル、アミナはお風呂とかは平気だけど泳ぐことができないからだ。
水遊び程度は平気だけどあの腕だと、水を吸ってしまうと普通に沈む。
脚も水掻きがないからバタ足をしても沈む。
アミナの体は空を飛ぶことはできても、泳ぐことには適していないのだ。
「気持ち悪くなったら言ってくれ、酔い止め薬とかそういうのも用意してあるし」
「うん、ありがとう」
潜水艦の閉鎖空間自体は平気だから、今回の救援作戦にも一緒に同行している。
本当にきついなら、フライハイトで待って後で転移のペンデュラムで迎えに来るという提案もしたが、大丈夫だとアミナは言った。
「出航!!」
そんなことを話しながら居室の方に移動していると、ゆっくりと潜水艦が動き出す。
向かうは砂漠の大陸。
この先に待ち受けることを考えると楽しいとは口が裂けても言えないが、それでも何とかするための準備はしてきた。
俺の知識とどれだけの差があるか不安に思いつつ、クラリス救援と西大陸のクエストに挑む航海が始まるのであった。




