27 切り札
リナとナフセという強力な味方を戦闘方面で引き込めたのは大きい。
西の大陸でのクエストにおいて、精霊という種族は鬼門であるが、それでも味方だけならカバーの仕方はある。
というよりもその方法を踏まえ、FBOの猛者たちは運営の設けた縛りを突破して効率的に解決するために、頭のネジを嬉々として吹き飛ばして奇想天外な解決手段を発見してしまう輩しかいない。
元運営のスタッフが『まさかこんなことになるとは思っていなかった』と公式SNS上で呟きたかったと、サ終後に個人SNS上で呟いていたとかいないとか。
そんな俺たちの戦力強化を経て、一方ではドンたちの地下鉄工事が順調に進み、さらには先に開発を始めていた港が造船所と一緒に完工して設備が整いつつあるという報告もある。
これによって予定よりも早く西の大陸に向かうことができそうだ。
となれば俺は俺で、もう一つ、西の大陸に行くならやっておくべきことをやる。
FBOの鉄則は過剰なまでの対策、それこそ正義だと言わんばかりの対策手段を構築する。
フライハイトの屋敷を包囲していた精霊たちにはリナとナフセの二人と契約したと説明し、残りの枠は今は契約する気はないと説明して帰宅してもらった。
そんな日の翌日。
俺は契約した二人に加えてクローディアとイングリットを連れてフライハイトの中でも厳重な警備を施しているエリアに足を踏み入れていた。
『ついに、あれを使うのであるな』
「ええ、次の西の大陸で想定している戦いでこれを使わないって言うのは有り得ないですから」
そこは宝物庫。ダンジョンから手に入れたり商売で手に入れたりと、色々と貴重な品々がフライハイトには存在するが、それらの全てが宝物庫に入るわけではない。
消費が激しい物は資材庫に運ばれるし、希少性の低く使い道が少ない物は物置に送られる。
前者は弱者の証だったり、後者はハニワパーツみたいな物だ。
次に宝物庫に入れるべき物を挙げるとしたら、まずは希少性の高い物だ。
今すぐには使わないけれど、使い道があり中々手に入りにくい物だったり、今後使う予定がある高価なものだったり、うかつに売りに出したら市場を破壊しかねないほど高価な物がここには収まっている。
高速でダンジョン周回とかするとそう言った品々がゴロゴロと手に入るから、警備を御庭番衆の中でも選りすぐりのメンバーで固めて、さらに魔道具によって鍵を作って盗賊対策も施した。
緊急時には、この宝物庫自体が難攻不落の要塞になるようにあらかじめ設計してあるから、まぁまぁごつい見た目になっている。
『それにしても、とんでもない警備ね』
「保管している物が物だからなぁ。この浅いエリアの物を盗まれても結構やばいし、宝物庫の中でも奥の方、禁物庫の物を運び出されたら目も当てられない」
そんな場所に入るには、俺であっても正式な手順が必要で、顔パスで入ることはもちろん当日に許可を出すなんてことも有り得ない。
しっかりと手順を踏み、フライハイトの責任者の印をもらい、それで指定日の指定された時間に入るという手続きをもってしてここにいる。
入る人数、入る人員、そして取り出す代物を説明してここいる。
リナとナフセは契約しなくてもここに呼ぶ予定だったから、契約して一緒にいやすくなったのは良いことだと思う。
「と言ってもいま禁物庫に入っている物なんて、一種類しかないけど」
「アジダハーカの素材ですね」
『あれはマズい物だ。もしあんなものが外に持ち出されたらと考えると寒気がする。いや、そもそも常人が持ち出すことすら困難であろうがな』
そんな面々の向かう先は、ごついを通り越して過剰と言えるような現状用意できる最高の警備体制を施した施設。
中に入れている物が物で、中にきちんと収容されているかを確認するのも一苦労な品。
蛇竜アジダハーカの素材。
素材となってもなお呪いを振りまく、凶悪な品。
それ故に、保管するにしても普通に棚に収めるようなら、その棚すら呪物と化して部屋を侵し、瞬く間に空間を汚染する。
だから当然その素材を保管する方法も特殊で、尚且つ浄化して素材をダメにしないようにバランスを取ったものを用意しないといけない。
「普通の人が手に持ったら、生命は持っても数秒じゃないか?俺でさえもし普通に触れたとしたら呪われて一時間で死ぬし」
『恐ろしい品だな。それをよく処分しなかったな』
「対策さえすればかなり強力な武器になるからな。ぶっちゃけて、俺のビルドだとこのアジダハーカ以上に相性のいい素材なんて、この世界全体を見渡しても片手で足りる程度の種類しかないし、条件が噛み合うとアジダハーカの素材が最強になる」
せっせと、施錠を開錠しながら、ナフセの質問に答える。
手元にあるカギは鍵と形容するのも難しいような品。
カードキーとか、指紋認証とか、音声認証、網膜スキャン、現代のスパイ映画とかで出てきそうなセキュリティーをとにかく詰め込み、再現した品だ。
そこに最後に魔力波形なんて物をぶち込み、完全に登録されたものと一致しないと反応しない品が完成し、開けるのに五分もかかるというセキュリティが爆誕した。
そんな禁物庫に足を踏み入れた瞬間に見えるのは巨大な水槽だ。
「定期的にメンテナンスを頼んでいると言っても、水が濁っていないのは安心できるな」
正確に言えば、ブロック形態をとっている水槽で、それを立体的に四方八方に敷き詰めて中にある物体の呪いを遮断している。
水槽の中身は聖水。
それも今のフライハイトで一番浄化効果を叩きだせる、全力で歌ったアミナの聖歌によって清められた聖水だ。
「水槽の向こう側の空気がだいぶ淀んでいますけどね」
そんな聖なる光を発しているはずの聖水で満たされている水槽の向こう側の空気は赤黒色に淀んでいる。
クローディアの指摘に俺も頷き、その赤黒色の空気が今だアジダハーカの素材が呪いを保持していることを示している。
『それで会長よ。ここで何をするのだ?』
「ナフセに頼みたいのはアジダハーカの素材の背骨と呪毒牙を使った鎌槍の制作だ」
『ここに連れてきたと言うことはそうであろうな、闇の精霊である我なら他の精霊や常人と比べれば呪い耐性は強い。しかし、さすがの吾輩であっても、これを加工するのは命がけであるぞ?』
その呪いの強さは可視化された淀んだ空気の色が物語っている。
もし仮に、この水槽を壊して、中の空気をこの空間に満たしたら俺たちは数分と経たず死に至る。
実際はそうならないように二重三重の安全策は施しているが。
「うん、だからその前にリナと一緒にこっちの八頭蛇竜の黄昏石を使って作業用の防具を作ってほしい」
その安全策では、当然だが保管はできても加工をすることはできない。
作るとしたらこの呪いを浴びながら手元で加工するための装備か、あるいは触れないで加工するための設備が必要になる。
そんな物が存在するのかと言えば、うちの豪運狐娘ことネルがドロップしてくれた黄昏石という、このアジダハーカの素材を保管するのに役立っている石が存在する。
こっちの方は、呪いとか怪しい雰囲気は出していないから普通に弱者の証を混ぜ込んだガラスケースで覆っているだけで安置している。
ガラスカバーがそう簡単に外れないように専用の鍵は作っているし、台座の方も建物と一体化させてさらに弱者の証を混ぜているから壊して盗むことはまずできない。
そしてその光は、他のアジダハーカの素材が発する呪いを遮断する聖水を満たす水槽の浄化に使われている。
『二つともか?』
「さすがに一個は専用装備に組み込むから一個だね」
その素材の価値は長い年月を生きて来たリナとナフセの2人であっても測れないほどだ。
だからこそ、ナフセの欲望が溢れた二つという言葉を俺は首を横に振って否定して、1つだけだと説明する。
この使い方自体はFBOでもあったことだ、アジダハーカの素材を手に入れたり、他の呪い系の装備を作る際に黄昏石はかなり有効だ。
『そうか』
『当たり前でしょナフセ。リベルタ、残りの一つはアジダハーカの装備に組み込むの?』
「最終的にはそうするつもり」
黄昏石は、呪い系の装備に対抗する素材として間違いなくティア1に入る素材だ。
デメリットが無く、効果が高い。
浄化系統に極振りしているから応用力はないが、それでも呪い武器を行使する際に、自身への呪いのデメリットを緩和し、相手に呪いの悪影響を押し付けることができると言うだけでバランスブレイカーな素材なのがわかるだろう。
「最終的には?」
そんな素材の片方はアジダハーカなどの呪い系素材を作るための防具に加工すると言っておき、残りの一つはまだ加工しないという俺の口ぶりにクローディアが首を傾げ問う。
「うん、とりあえず加工するのは俺がとった最後のスキルのレベリングが終わってからだ」
「最後のスキル、外部スロットに付与したあなたの言う切り札のスキルですか」
「そうそう」
スキルのレベリングをするには黄昏石を用いる必要がある。
俺は腰にある、マジックバッグから一つのスキルスクロールを取り出す。
「それが切り札ですか。何のスキルですか?」
「呪い返しのスキル」
「「『『!?』』」」
呪い返し、これは主に呪術系統のビルドで使うスキルなのだが、このスキルの効果はいたってシンプル、自身に帯びた呪いを対象に移すスキルだ。
スキルの名称から、呪ってきた相手に呪いを返すみたいなスキルと思われるかもしれないが、効果的には呪いを移動させるスキルなのだ。
そのスキル名を聞いた瞬間、この場に同道した面々の目が見開かれる。
「まさか、あなた」
「うん、アジダハーカの呪いを受けてその呪いをアジダハーカの素材に返す。それによってスキルのレベリングをする」
このスキルの発動をするための前提として自分が呪われていないといけない。
そうでなければ呪いを移すことができないからだ。
しかし呪いはデバフ、様々な呪いの効果はあるが基本的にデメリット効果しかない。
場合によっては呪いブーストもできるけど、それは俺のスタイルではない。
「通常のスキルビルドだったら組む予定はなかったんだけど、アジダハーカの素材と外部スロットの組み合わせができるなら、やろうかなと」
しかし、外部スロットの登場により、1つとはいえスキルスロットに余裕ができた。
加えて精霊術とシフトチェンジというスキルを会得することもできた。
ならば、エスメラルダの言ではないが、俺自身をより凶悪にすることもできる。
「私とイングリットさんを連れて来たのは」
「うん、呪いでぶっ倒れるのが確定しているから治療要員だね」
「・・・・・はぁ、リベルタ」
呪い返しとアジダハーカの素材で作った武器、そこに俺の暗殺ビルドが重なったらどうなるか。
通常攻撃がデバフを振りまく癖に、急所に貰ったら一撃必殺という頭おかしいキャラが爆誕する。
しかも精霊術によって精霊が援護してくれて、場所を入れ替わって、死角から強襲してくる。
「あなた、馬鹿ですね?」
「いや、呪術系は育成がそうするしか方法がないんですよねぇ。ほら呪われないと呪いがわからない的な」
「だとしてももっと軽度の呪いがあるでしょう!!」
「いや、それだと俺のレベルだと効かないんだよ。ちょうど良い呪いだとスキルに入る経験値も少ないし、その点クラス9のアジダハーカの呪いならガンガン経験値が入ってくるし」
俺が敵なら対策なしで戦うのは御免被るようなキャラだ。
「命を何だと思ってるんですか!」
「大事だよ?命大事に安全に安全を重ねて、それでレベリングするって!?」
その下地を作るには強力な呪いに触れないといけないことを、この後一時間くらいかけてこの場にいる人と精霊に説明するのであった。




