26 もう一つの契約
なんだか照れ臭いやり取りをして、雷の精霊、名をリナと名付けた上位精霊との契約を完了した。
精霊術を身に着けてすぐに契約できるとは、FBOでの精霊契約の難しさを知る俺からしたら考えられない早期契約に、俺は思わず苦笑が漏れる。
『どうしたのよ』
「いや、こんな頼もしい精霊と契約できるとは思ってなくてね」
『そうよ、頼りにしていいんだから!』
何か吹っ切れたようなすがすがしい笑顔で笑う彼女の姿を見て、彼女の期待を裏切らないように俺は心の中で誓う。
「ああ、頼りにさせてもらうよ」
『ええ、ちなみに、他に契約している精霊はいないの?』
「いないね、リナが最初だ」
『・・・・・ふーん、そう』
『あらあら、この子ったら嬉しそうに』
『ええ、姉さんったら』
『そこうるさい!!』
髪をいじり、嬉しそうにはにかむリナが姉妹に揶揄われているのを横目に、このまま流れで闇さんたちも来てくれないかなぁと思う。
流石にそう都合よくは来てはくれないだろうと思っていると。
『会長!精霊術を取ったとは真か!?』
部屋の中に闇色の精霊回廊が開き、そこから闇さんが転がり込むように飛び出してきた。
一度あることは二度ある。
簀巻きの次はダイナミックエントリーか。
「とりましたよ」
『では、誰かと契約したのか!?』
「そちらで姉妹と戯れている方と」
『くっ!?出遅れたか!おのれ雷!貴様はもっとうじうじと悩んで出遅れて後悔して頭を抱えるタイプの精霊であろう!!』
俺の最初の契約精霊になれなかったのをここまで悔しがってくれるとは、俺からすれば何とも嬉しい限りなのだが。
『事実ね』
『そうよね、私たちが無理矢理連れださなければ今も部屋で右往左往していたわね』
『そこっ!う、うるさいわよ!!』
いきなり、恩人である姉妹を指さして失礼なことを叫ぶのはいかがなものか。
姉妹の肯定にリナは顔を赤くするが、それを指摘したら体から放電しそうなので、あえてそこには触れずに闇さんと向き合う。
「闇さんも契約してくれるんですか?」
『無論!吾輩はあの退屈の日々に終止符を打ってくれた会長に恩がある!精霊術をとらないことを無念と思っていたが、精霊王から精霊術を受け取ったと聞き急ぎ馳せ参じたのだ!』
このタイミングで屋敷の中に飛び込んできたということは、契約をしてくれるということ。
胸を張って堂々と俺と契約するためにやってきたと言う闇さん。
軍服みたいな恰好をしているから、その姿勢が妙に似合う
精霊界に初めてやってきたときに出会い、そして今の今まで色々と協力してくれた闇属性の上位精霊。
「そうか、ありがとう」
そんな彼が、自らの意思で自分の元に来てくれたことに対して素直に感謝の言葉が出た。
『なに!礼などいらぬ!これからも会長の側で面白い物を見れるという期待があるだけだ!』
「そっかぁ、それなら期待に応えられるように頑張らないとな。それと契約するとなると名前を付けないといけないよね」
『そうだな!カッコイイ名前を頼むぞ!』
こんな勢い任せでいいのかとも思ったが、闇さんは気にしていないようだ。
雷属性と闇属性の上位精霊との契約は、かなり戦力の増強につながる。
俺のスキルビルドとも相性のいい二人だ。
「カッコイイ、カッコいい名前かぁ」
闇さんのどことなくワクワクとした表情を見て、俺は頭の中にある名前候補をいくつも思い出し、そしてその中のひとつを選ぶ。
精霊にとって名づけとは、その長い生涯の中で唯一度の一番大事な儀式だ。
「ナフセ」
だからこそ、リナの時と同じように、闇さんの目をしっかりと見て名前を呼ぶ。
リナ、ナフセ、この二つの名、実は俺が別キャラで名乗っていた名前だったりする。
前者は魔法使いビルドの女性アバター、後者はクリエイタービルドのキャラの名前だ。
どちらもかなりやり込み、そして愛用していたキャラたちの名前。
それを使ってほしいと思った。
『ナフセ、ああ!良いな、いい名だ!』
そんな思いを受け取ってくれた闇さん改め、ナフセは、何度も頷きそして満足したのか大きく手を振り上げ。
『吾輩の名はナフセ!闇の精霊にてリベルタの盟友なり!ここに契約は成された!いかな困難が未来にあろうとも共に歩むことを誓おうではないか!!』
「よろしく。クローディア曰く、俺の未来は困難が待ち受けているらしいからね。ナフセが側にいてくれるなら頼もしいよ」
『ハハハハ!そうであろうそうであろう!!』
『ちょっと!私を放っておいて勝手に盛り上がらないでよ!』
快活に笑うナフセの姿と、俺たちの間に割込み少し拗ねるリナ。
この二人が俺の最初の契約精霊となってくれたことは望外の幸運と言える。
戦術の幅が格段に増えたこともそうだが、これでさらにリナとナフセの生産スキルを成長させることができる。
すなわち、強い装備を作ることができるようになるということ。
未契約の精霊のスキルを成長させることは至難の業、しかし契約した精霊は契約者の協力で成長させることができる。
これにより、錬金術関連と服飾関連のスキルを強化できるということになった。
バンバンと背中をナフセに叩かれているが、そこはレベルアップによって強化された肉体が耐えてくれる。
ダメージにならず、平気な顔で耐える。
『吾輩はナフセだ!雷の、そなたの名前を聞いても?』
『リナよ。貴方も良い名前を貰ったじゃない』
『そちらもな』
精霊の契約で注意する点の一つとして、精霊同士の仲の相性なんて物もある。
強力な精霊を契約したと喜んでいるのもつかの間、お互いの相性の悪い精霊が一緒にいると途端に好感度が下がるなんて仕様もあった。
精霊術が不遇なのは、そういう好感度管理に面倒な要素が多々存在することなんだが、今回はその点に関しては問題ないようだ。
『して、会長よ。吾輩とリナと契約して残りの枠にも限りがあるだろう?他の精霊と契約する予定はあるのか?』
『そうね、できればそこら辺は知っておきたいわ』
仲が悪い精霊は本当に仲が悪いからなぁ。知り合いのプレイヤーの精霊術師が同じ属性の精霊だと言うのに無茶苦茶仲の険悪な精霊を引き当てたと聞いたときは笑ったが、俺が当事者になるかもしれない今では笑えない。
「知り合いの風の精霊に声を掛けようと思ったくらいかな。それ以外の候補だと、正直いない」
『風の精霊・・・・・ああ、大鷲のやつか?』
『あの精霊ね。良いんじゃない?』
「あれ?知り合い?」
『何度もライブでともにサイリュームを振り合った仲ぞ』
『たまに素材を持ってきてくれるのよ。代わりに、いくつかアイテムを作ったりしてるわね』
そんなリナとナフセの関係に風の精霊さんとのつながりがあったことは意外だった。
『会長はどのような関係なのだ?』
「初めて会った精霊で、バレーボール友達」
『へぇ、そんな関係だったのね』
いや、上位精霊の数はそこまで多くないから普通に付き合いがあってもおかしくはないか。
『しかし、残念だったな。この流れなら契約をするために呼ぶのであろうが、風のは今は巡回で精霊界にはいないぞ』
「そうなのですか?」
『ええ、風の精霊は特定の場所の風の流れを調整しているのが普通だけど、上位精霊だと大きな風の流れを調整しているから一つの大陸にとどまっていないのよ』
「そう言えば、前に会った時にも持ち場ではないみたいなことを言っていたような気が」
てっきりこの流れで風の精霊とも契約できるかなぁと思っていたが、そう簡単にはいかないようだ。
風の精霊は持ち場が不特定のようで、大気の流れの調整のために今はどこかの上空にいるようだ。
『風の精霊の職務は他の精霊と比べて広範囲であるからな、偶然とはいえ最初に出会えたのはかなりの幸運だぞ』
『どこにいるかわからない闇の精霊のナフセが言っても説得力がないわよ』
『出現がレアな雷の精霊のリナにだけは言われたくない』
普段の俺はなにかと運が悪いが、それでも人や精霊との縁を結ぶ幸運は豊富に持っているようだ。
リナとナフセが言っている通り、FBOでも闇属性と雷属性の精霊は希少種扱いで、出会うことも契約をすることも難しかった。
闇の精霊は暗いところにいそうなイメージだけど、特定の条件を満たした場所にランダム出現だし、雷の精霊は雷雨の場所をまず探してそこにいるかどうかは運というランダム要素が強すぎる出現条件だった。
「となると、これで一旦精霊契約はおしまいかな。後は精霊術のレベルを上げたりして、リナとナフセの強化をする流れになるかな」
『いいのか?これほどの精霊が集まっているのならその中には優秀な精霊もいるであろう?』
「風の精霊からは名付けてくれって頼まれて、機会があったらって言ってるので約束は約束です。そういう約束は守る主義なんですよ俺は。向こうがいいよって言うか、緊急事態で戦力が必要じゃない限りは保留にしますよ」
そう考えると風の精霊は比較的会いやすい精霊だと思っていたが、特定の風の精霊に会うのは相当大変なんだな。
『そういうの、他の子には言っちゃだめよ』
『うむ、やはり会長は精霊誑しだな』
「あれぇ?ここで風評被害発生?」
『外にいる精霊の数を数えなさい』
「あ、はい、風評被害ではありませんでした」
なので、次に風さんに会うのはいつになるかわからないので、リナとナフセと契約できただけで満足しておこう。
「とりあえず、二人ともこの屋敷に部屋を用意しておくよ。工房まではさすがにすぐには用意できないけど、二人の私室があった方が良いよね」
『うむ、世話になる』
『そ、そうね』
しかし、精霊との契約ってこんな感じで終わる物なんだな。
普通ならもっと仰々しい儀式とか必要になると思うのだが、FBOだと意外とあっさりとしている仕様だ。
体から抜けるわずかな魔力の流れ、それがしっかりと彼らと繋がっている感覚を教えてくれる。
戦闘状態に入るとこれ以上の魔力が消費され、場合によっては自然回復では追いつかない魔力が消費される。
これは何回か訓練で魔力の消費量を把握する必要があるな。
「あ、そうだ。リナとナフセにこの際だから頼みがある」
『なに?』
『む?』
戦闘訓練は後々でもいいとして、いまは西の大陸に行く前に必要なことをするための準備をする。
「ちょっと作ってほしい装備があるんだ。割とガチ目な奴なんだけど。相談に乗ってくれる?」
『また面白い物でも作るのか?』
『リベルタの頼みなら、いつでも受けるわよ?』
これがあるのとないとじゃ、西の大陸のクエスト攻略難易度にかなり差が出る。
というよりも、今の進行状況だと、あれを使わず放置し続けるのがもったいないと言えるレベルだ。
「ありがとう。じゃあ後で俺の部屋に来てくれ。細かいことはそこで話すから」
『あとで?今聞くわよ?』
「先に表にいる精霊たちにちゃんと説明して、納得して帰ってもらわないといけないからな」
『ああ、なるほど。あい分かった。いつでも呼んでくれ』
その準備をするために、先ずは表にいる精霊たちに説明をしに行くのであった。




