25 噂の独り歩き
さて、突然だが、噂話というものにどういうイメージを持っているだろうか。
俺は、少なくとも正確でない情報が、伝言ゲーム形式で伝達され、他者に伝われば伝わるほど正確さが落ちるモノというイメージだ。
なぜ、いきなりこんなことを考えているかと思うと。
「リベルタ、外が大変なことになってるわよ?」
「うわぁ、精霊さんたちがたくさんいるよ。僕のライブの時と同じくらい?」
「リベルタが精霊術を身に着けて精霊と契約するという噂が精霊界で広がった結果ですわね。空にもいますわ」
現在進行形で、フライハイトの自分の屋敷で頭を抱え悩んでいるからだ。
なんでこうなったとはさすがに言わない。いや、心の中ではそう叫びたいと思っているが、エスメラルダが一言で理由のすべてを物語ってしまったから、どういう経緯で屋敷を精霊たちに包囲されたかは理解している。
「さすがリベルタ様です」
「私も、言っておきましょうか。さすがリベルタですね」
その精霊たちの包囲網を形成させた俺に対して、イングリットの尊敬の眼差しと、クローディアの呆れた眼差しを同時に向けられるのは納得できないけど。
「昨日の今日だぞ?精霊術のスクロールだって今朝精霊王にもらったばかりで、習得すらしていないんだぞ?情報伝達早すぎない?」
「おそらく、神殿の神官のだれかの言葉を精霊が聞きそれが噂になったのでしょう。昨日は私も神殿の方で色々と仕事をこなしていましたが、貴方と天使様のやり取りの件の噂話でもちきりになっていましたし」
そんな噂話で、たった一夜でこれだけの数の精霊が集まることってあるのか?
俺が窓の側に寄るだけで、大変なことになるのがわかっているから近寄らないけど、窓の外を見ているネルとアミナの声から相当の数がいるのは間違いない。
「契約できる精霊の数には限りがあるから、みんな焦ってきちゃったのかな?」
「そうね、そう考えるのが妥当よね」
精霊術で契約できる精霊の数は、クラスとレベルに依存する。
クラス1のレベル1の状況で3人という初期契約数が与えられる。
そこから、精霊と親交を重ねることでレベルが上がっていくわけだが、次に契約数が増えるのはクラス4だ。
それまでの間の精霊術は精霊関連のスキルをサポートするスキルになる。
威力を上げたり、魔力の消費を抑えたりとかそういう系統のスキルになる。
クラス10のレベル100まで上げることによって契約できる精霊の数は10まで増える。
ただ、10人の精霊と契約したからと言って10人全員をフルで展開できるわけではない。
精霊を戦闘に参加させるには当然だけどコストが掛かる。
基本的には代価は魔力だ。
しかも一度に消費するのではなく、継続で消費する。
なので、精霊を主力に添えるのであればアミナやエスメラルダのように魔力寄りのステータスにする必要がある。
俺のようにゴリゴリではないにしても体力寄りのステータスだと、精霊を複数に同時展開するのは正直厳しい。
アイテムとかでサポートすればいけなくはないけど、そうすると本業の方がおろそかになってしまう。
なので、基本的に精霊術で精霊と協力プレイをするときは一人、多くて二人、切り札として三人といった感じの運用になる。
だから俺の場合は契約できる精霊の数が10人になっても、フルで契約する必要がない。
多くて、五人くらい契約できれば俺のしたいことはできる。
契約してくれる精霊次第ではあるけど、召喚頻度の差がでてしまうことを考慮して納得してくれるのなら、地水火風の四属性と光闇氷雷の四属性の合計八人と契約できれば理想。
「あの中から選ぶのは相当大変ですわね」
「そうですね。ですが、彼らも全員が契約できるとは思ってないでしょうし、騒動にはなるでしょうけど、問題になることはないでしょうね」
そんな考えの中で、このままでは誰と契約しても角が立つ。
「リベルタ様は誰と契約するかお決めになっているのですか?」
「受けてくれるかはわからないけど、次女さんと闇さんとあとは風さんには声をかけるつもり。なんだかんだ言って、あの三人が一番付き合いが長いから、戦闘での連携がとりやすいって言うのもあるし、強くするならあの三人が良いかなって思っている」
ならば、普通に知り合いから選んだ方が無難な気がする。
というか、今の環境だとFBOの精霊育成論もあまり役に立たない。
FBOで精霊を育成するとなれば、基本的に下位精霊、あまり力のない精霊から育てるのがベストだった。
その理由の最たる部分が、好感度管理が簡単だったからだと言うのがある。
強い精霊程、FBOでは我が強く、そして好感度の管理が難しかった。
さらにすでにスキル構成自体もその精霊ごとに固まっていて、自由にスキルを調整することができない。
すなわち、プレイヤーが自由に育成するなら純真無垢な小精霊の方が都合が良かったということだ。
かといって、精霊がプレイヤーやNPCのように変幻自在に育成できたかと言えばそうでもない。
精霊は基本的にプレイヤーユニットのように魔力と体力のステータスを自由に振ることができない。
何せ彼らは、魔力生命体。
ステータスが全部、魔力に極振りされる。
なので、精霊たちにはプレイヤーユニットと同じようなBPが存在しない。
レベルを上げれば勝手に魔力が増えるというシステムで彼らは生きているのだ。
そしてその育成の際にちょっとした工夫をしないと強くなれないという欠点も存在するが、そこはいずれ語るとして、いまはもう一つの欠点を上げる。
それは獲得できるスキルに制限があることだ。
すべてのスキルに制限があるわけではない、属性が関係するスキルのみ制限がかかる。
精霊はそれぞれの精霊が生来持つ属性系統のスキルのみ覚えることができる。
例えば、火属性の精霊なら水属性や風属性のスキルを覚えられないみたいな感じだ。
バリエーションを捨てる代わりに、所有属性のスキルのレベルは上がりやすいし、デフォルトで所有属性のスキルの魔力の消費を抑えてくれたり威力が上昇するという恩恵もある。
通常の物理スキルなら取得できるし、生産スキルには基本的に制限はない。
「あの三人ですか。でしたらすぐに呼んで契約してください。そうすればこの場に集まっている精霊たちも立ち去るでしょうし」
「いや、そうだけど・・・・・どうやって?」
なので、応用力が普通の人間よりも少し低いのが精霊と言うわけだ。
「僕が飛んで呼んでこようか?」
「アミナが行ったら騒ぎになる。俺が行くともっと大騒ぎになる」
「でしたら、私が行きましょう」
「イングリットでも子供の精霊に囲まれるだろう」
「というより、この場にいる誰が行ってもダメですわよ」
そんな精霊との契約をするのに、この包囲網を突破しないといけない。
「いっそのこと叫んで呼ぶか?それで来てくれそうな気もするけど」
「・・・・・それもありなような気がしますわ」
何で味方に包囲されているんだと思いつつ、どうにかして個人の呼び出しをする方法を考える。
「説明して、お帰り願うのはダメなのでしょうか?」
騒いでいる精霊、雑談をする精霊、色々といるけどお祭り騒ぎになっているのは間違いない。
どんな噂が流れているかわからない状況で、説明して帰ってもらう。
「できるか?」
イングリットのごく当たり前の提案を、真面目に検討する。
俺の言葉に皆一斉に考え始める。
「やるだけの価値はあるのではないのですか?彼らも噂でリベルタが精霊術を獲得したことを知って我先にと来たのですから、契約相手がすでに決まっていることを言えば帰ってくれそうですが」
包囲されて、俺たちも少し混乱していたが、精霊たちは基本的にいい子だ。
騙したりせず、普通に説得すれば帰ってくれそうな気はする。
「確かに」
「大勢の精霊が来て動揺しましたが、クローディア様の言う通りですわね」
納得と俺とエスメラルダが頷き、では早速と立ち上がって行動を起こそうとした矢先、窓際に雷が迸った。
「きゃっ!?」
「なによ!?」
窓の側にいたアミナとネルは驚き、そして俺たちもその不自然な雷に驚いて窓を見ると。
『こんにちわ会長』
「あ、ああ、こんにちは長女さん」
そこには雷三姉妹が勢ぞろいしてた。
軽く手を上げて挨拶する彼女は、他の精霊たちがやらなかった直接会いに来るという手段を取ってきた。
『こんにちわー会長さん』
「こんにちは三女さん」
彼女たちは顔見知りだし、なんならこの屋敷に何度も出入りしているから問題はないと言えば問題ない。
ただ一つ、異常な光景に目を瞑ればの話だ。
「あのぉ。その簀巻きになっている方はもしや?」
『ええ、噂を聞いても素直になれないうちの愚妹です』
『そうそう、うじうじと悩んでいて素直になれない、愚姉ですよ』
姉妹二人で抱え込んで運んできた、簀巻きの物体こと次女さんがじたばたと暴れまわっていること。
『それでそれで、会長さんは契約する精霊はもう決めちゃったかな?』
しかし、長女さんの一言でピタリとその動きを止める。
「いいえ、まだ決めてないですよ。声をかける精霊の方は決めていますけど」
『あらら、間に合わなかったかな?』
そして俺の言葉と、三女さんの言葉でどことなくしょんぼりという雰囲気を醸し出し始める。
簀巻き状態で顔が見えないのに、どことなく感情がわかるのはすごい器用だと思う。
「いえ、声を掛けようと思っていた精霊の一人が次女さんなのでそういうことは」
ここで下手に誤魔化しても、手間なだけなので俺は素直に雷三姉妹の質問に答えると、彼女たちが抱える簀巻きがビクッと大きく震えた。
それと同時に、ニマァと楽しいモノを見つけたと言わんばかりに笑顔を向ける長女さんと三女さん。
『聞いた?妹』
『聞きましたわ、姉さん』
本当に仲がいいなぁこの三姉妹は。
「と言っても、この話も強制じゃないですよ?断ってもらっても全然かまいませんし」
『そんなことしないわよ!!』
そんな揶揄う気満々な雰囲気の最中、簀巻きの中からガバッと次女さんが顔をだした。
『アラアラ』
『マァマァ』
その行動に満足気にそして楽し気に笑う二人。
「契約してくれるんですか?」
『・・・・・あなたが、どうしてもって言うなら。契約してもいいわ。しぶしぶとか仕方なくは嫌よ』
その二人がそっと手を離すと、簀巻き状態の次女さんは宙に浮き、一旦自分の体を雷と化して簀巻きから脱出する。
「ええ、次女さんがいいです」
『そう。あと、ちゃんとした名前を考えてよ!そうしたら契約してあげる!』
「わかりました」
締まらない契約の流れなのだが、それはそれで俺たちらしいと思いつつ。
「リナ」
俺は、次女さんと契約するのならこの名が良いと思って決めていた名を次女さんを見て呼ぶ。
「俺と契約してくれ」
『・・・・・はい、我が名はリナ。この日、この時よりあなたの雷となりましょう』
こうして周囲が騒がしくも、最初の精霊と契約するのであった。




