24 スロットの使い道
外部スロット転写の施術が終わったのなら、いつまでも下半身半裸でい続ける趣味はない。
ステータスを見るよりも先に、イングリットに差し出されたズボンを履いて、術後の体の調子を確認するために動かしてみる。
「いかがですか?私の目で見る限り魂に変調をきたしている兆候は見えませんが」
「ナチュラルに魂が見える発言は止めてもらえます?」
「このような顔ですので、我ら天使は人を表情や声で認識していないんです。魂の波長や色で個を判別し認知し、魔力の波紋を発して会話しておりますから」
まだ施術された箇所に熱を感じるが、それ以外はいたって問題なし。
痛みなどの違和感はないし、変に強化されたような感覚もない。
いつも使っている足のままだとわかった俺は、天使様の言うことに苦笑しながら返事をして、天使という種族の五感の構造を初めて知る。
のっぺらぼうの顔でどうやって会話をしているのだと思っていたが、人ではできないような方法で会話をしていたことが判明して、ステータスを開こうとしていたのを思わず中断して、天使様を見てしまった。
「それって、俺たちに教えて良いことですか?」
「ええ、問題ありませんよ。いくつかの書物に書き記されているはずですし」
「・・・・・天使様の背後で神殿の方たちが全力で首を横に振ってますよ」
「おや?どこかで失伝したのでしょうか?たしか、五百と八年ほど前に神殿の大司教に教えたはずですが」
「五百年も時が経ってしまったら伝わらなくなってもおかしくはないですよ」
「そうですか、天界にいると時間の経過が地上と異なってしまいますから、つい先日のような感覚になってしまうんですよね」
天使という種族の生態。
その一部であっても情報を得られることは、この世界では特別なことではないだろうか。
苦笑しているような雰囲気を醸し出しているのも、魔力の波紋による感情の伝達ということか。
「その点に関しましては、後日暇がありましたらいつか話しましょうか。それよりもしっかりと外部スロットが付与され機能しているか確認を」
「わかりました」
外部スロットよりも気になる話題を提供した天使様に促されて、俺は自分のステータスを開く。
『リベルタ クラス8/レベル100
ジョブ 無名の暗殺者
称号 かくれんぼ達人
基礎ステータス
体力5580 魔力3720
BP 0
EXBP 0
スキル29/スキルスロット29+3 』
レベルに関しては一切変更はない。強いて成長した箇所をいうなら称号がかくれんぼ達人に成長して、隠密系スキルの効果がかくれんぼ名人の30%増加から50%増加になったくらいか。
しかし一番重要なのはスキルスロット。
スキルスロットの項目に目を向けると、通常に獲得したスキルスロット以外に+で表示されているスキルスロットがあった。
「確かに増えています。+3と表記されている奴でいいんですよね」
「ええ、問題なく付与できて何よりです。これで、今後その魔法陣を剥がさない限り、そのスロットは永遠にあなたの物です」
「このスキルスロットを剥がした時に、入っていたスキルはどうなるんですか?」
「クラスレベルを維持した状態で、魔法陣が更新されて神工皮膚に収納されますね。それを他の方に付与すればそのスキルが使えるようになりますよ」
「改めて聞くと、とんでもない代物ですね」
「なにせ、我らが神が作り賜いし代物ですから、性能に関しましてもお察しください」
あらためて俺の知らない方法で、スキルスロットが増えたのはすごいことだと感心する。
こんな簡単な施術で得られる性能ではない。
さらにつけ外しをすることで他人にスキルを渡すことができるようになるのは破格を通り越してチートではないか。
欠点は入手方法が天使様からのクエストオンリーで、入手できるかどうかはそのクエストの達成度合いに左右されることか。
「では、異常もなさそうなので、私はこれにてお暇させていただきます」
「天使様ありがとうございました」
「いえいえ、こちらも依頼をこなしてもらった報酬ですので、お気になさらず」
そんなクエストは天使様が天界に帰ることで終わる。
「では、皆様、これからも頑張ってください」
最後の最後は無難な言葉を残して前のように消えていく天使様。
その姿が完全に消え去り、一秒、二秒と経過してそして誰かがこっそりと安堵のため息を吐いたことで空気が弛緩する。
それでも誰かが声を出すような雰囲気ではない。
しかし、誰かが話し始めれば一斉にざわめきが広がるような雰囲気。
「さてと、頑張れって応援されちゃったから頑張りに行くとしますかね」
「何するの?」
そんな最初の波紋を呼ぶのは多分だけど、俺じゃないといけない気がしてあえて声を少し大きくして、体を伸ばすように手を上にあげる。
その行動の始まりは確かに人の目を集めるけど、逆にここから先は各々で行動しないといけないことを周囲に示す。
ネルの質問も、他のパーティメンバーの視線も受け止めて。
「とりあえず、精霊王にもう一度会って精霊術の確保から始めないとな。スキルスロット三つを一気に埋める」
「もうすでに獲得するスキルは決めておりますのね」
「ああ」
行動指針を示す。
この世界では精霊術の有用性はFBOの比ではない。
「1つの枠には精霊術を入れる」
「僕とおそろいだ!!」
「そうだな」
FBOでの精霊術はお世辞にも優秀とは言い難かった。
純粋にプレイヤーが操作するユニットと比べて柔軟性が低く、さらに管理も難しいというスキル。
しかし、ゲームの時とは環境が変化し、この世界で現実化し、精霊たちと交流がしやすくなったという点で劇的に化けたスキルだ。
「先日の邪霊との戦闘で共闘していたことが関係がありそうですね」
「さすがクローディア、よく見ているね。そう、精霊と連携することで戦術の幅が大きく広がるのはレイニーデビル戦の時からわかっていたけど、個人単位での戦闘でもあれほどまでに戦術の幅が広がるとは思わなくてね。ここでひとつ挑戦してみようと思ったわけ」
最近の出来事で自分の考えていたスキル構成を変えて精霊術を組み込む方法を考えていたが、どうやってもバランスが悪くなる。
正確に言えば今手を出しても中途半端になる。
レベル上げが現状できない状況ではスキルスロットの数制限がここで足かせになった。
下手に今持っているスキルを減らして精霊術のスキルを組み込んでも俺の戦闘力を下げるだけ。
そんなときに得られた外部スロットというのは俺の成長プランの環境を変化させるいい風を吹き込ませてくれた。
「ひとつの枠は精霊術として、他の二つも精霊関連のスキルを取りますの?」
たった三つのスキルスロットで何ができると思われるかもしれないが、FBOを知り尽くした俺からしたら、三つもスキルスロットが増えるのだ。
「精霊関連は絶対に必要な精霊術ともう一つだけだね。最後の一つは少し特殊なスキルを取る予定」
「何を取るの?リベルタ君」
「ふふふ、男の子は秘密兵器と言うのに憧れるのだよアミナ君。ということで、三つ目は秘密」
「ええ!?何それ!教えてよ!!」
その貴重な三つのスキルスロットを最大限に有効活用することを念頭においた、新たなスキル構成。
「三つ目はだめだけど二つ目は教えるよ。シフトチェンジって言うスキルだ」
「シフトチェンジ?」
アミナが俺の服を掴んで、教えてと上目遣いを使ってくるが、にっこりと笑ってごまかしておく。
そのスキルを獲得するために、とあることをしないといけないし、それをすることを女性陣から反対されたくないから、三つ目は男の子という部分を強調してできるだけ誤魔化しておく。
エスメラルダにイングリット、そしてクローディアからは少し生暖かい視線を頂戴したが、追及されないのなら甘んじて受けようではないか。
話題逸らしで話したもう一つのスキルにアミナが食いつくことで、話は別方向に移る。
「僕持ってないよ?」
「いや、アミナが持ってても意味のないスキルだからな」
精霊関連と言えば、アミナだ。
精霊術は当然としていくつか精霊関連のスキルを持っている。
その中には存在しない『シフトチェンジ』と言うスキル。
精霊専用のスキルではないが、精霊使いとモンスターテイマーくらいにしか使い道のないスキル。
「このスキルは契約している精霊と自分の位置を入れ替えることができるスキルだ」
場所の入れ替えスキル、効果範囲はクラス10のレベルマックスで半径50メートルほど。
効果範囲は狭いと思われるかもしれないが、交代するときは一瞬、スキルレベルを上げることによってリキャストタイムも三秒まで短縮される。
「後衛で歌っているアミナだと、緊急時の脱出手段くらいしか使い道がないからスキル構成には入れていないんだよ。だけど、前衛の俺なら使い道はいくらでもある」
このスキルの有用性は使い方次第なのだが、FBOでは少なくとも精霊とでは上手く使うことは難しかった。
精霊を助けるときに使うのは良かったが、精霊を囮に使うようなやり方をすると一気に好感度が下がるからだ。
「・・・・・対戦相手からしたら、ただでさえ見失ってはいけないリベルタが、対象が精霊だけとはいえいきなり入れ替わるのですか。考えただけでも首筋が寒くなりますね」
「こっそりと精霊を敵の背後に送り込み、不意を突いて精霊と入れ替わる。それだけで敵の首が飛ぶということですわね?」
「二人ともさすが、俺のことわかってるね。そういうこともできる。あとはシンプルに共闘してくれる精霊を守る手段としても使えるね」
しかし、この世界では連携訓練を十全に積むことが出来る。
好感度が下がるのは一方的にプレイヤーの勝手な都合を精霊に押し付けるからだ。
この世界なら、こういう連携をしたいとあらかじめ精霊と相談して訓練を積み戦闘行動に反映することができる。
囮としての働きをさせる場合でも安全面を最大限に考慮し、さらにケアもする。
それを踏まえて精霊と話し合うことができる。
ゲームでは考えられない緻密な連携も、戦術に組み込むことができる。
無意識に自分の首筋を触るクローディア、鳥肌の立つ腕をさするエスメラルダ。
二人は、精霊術とシフトチェンジの組み合わせの恐ろしさを瞬時に見抜いたようだが、シフトチェンジの恐ろしさはそれだけではない。
これはFBOで考えられた、精霊術を最恐のスキルに押し上げるためにやろうとした戦術の一つだ。
実際のゲームではNPCである精霊の動きの自由度が低すぎて実用化できなかったもので、机上の空論で終わった。
しかし、この世界ならできると俺は思っている。
「今でも凶悪なリベルタが、もっと凶悪になるのはわかりましたわ」
「エスメラルダ、俺のこと凶悪って、褒めてる?」
「味方だからこそ、非常に頼もしいと思っておりますわ!」
「それならいいけど、何か聞きたいことがありそうだけど、なに?」
「気になるのは、契約する精霊ですわ。どなたをお誘いになりますの?アミナファンクラブの面々でしたら喜んでリベルタに協力すると思いますけれども」
そんな俺の戦術プランに付き合ってくれる精霊は誰か。
頭の中には何人かの精霊がピックアップされているが、全員と契約できるわけではない。
精霊術のスキルレベルを上げても契約できる精霊の数には限界はある。
補助スキルでその制限をある程度引き上げても、それでも限界は来る。
ファンクラブ全員と契約できたら、ヤバいことができるなと思うけど、そこは制限の範囲内に収める。
「そこは、相談しながらかな。俺と契約するってことは戦うってことだし、戦いが嫌な精霊とはさすがに契約できない。だから色々と条件の合う子かな?」
「リベルタなら精霊王様とも契約できそうよね」
「ネルさんや、さすがの俺でも精霊王と契約はできないよ・・・・・たぶん」
そのファンクラブ最強格が精霊王であることを思い出し、制限のことを考えれば、ちょっと工夫すれば契約ができてしまうことを思い出すのであった。




