23 夢幻のオヴェイロン
風の精霊は話を聞いてもらったことで、幾分か顔色も良くなったように見える。
俺が西の大陸の精霊たちを救けるために行動すると宣言したことが効いたのかもしれないが、本音のところはよくわからない。
ただ単にこれまでの自分の行いを振り返って、第三者に話せたことで気持ちが楽になったのかもしれない。
『ありがとうございました』
「ああ、今度フライハイトにも遊びに来てくれ、そこを見れば俺がどういうことをしているかわかるだろうし」
『会長の街はすごいんだよ!他の街にはないモノがいっぱいあって』
『そうなんだ。わかりました。少し休んだら行きます』
「ああ、待ってる」
まぁ、俺からしたら気持ちが楽になってくれたのなら問題はない。
頭を下げて、友人の精霊と立ち去っていく風の精霊の背中を見送る。
「さてと、どうするかねぇ」
そして二人が見えなくなってから俺は頭を掻く。
困ったと言わんばかりの雰囲気は頼ってきた相手には見せられない。
我慢していたわけではないが、持ってきた話のことを考えると頭をフル回転せざるを得ない。
「そんなに大変なの?」
「大変・・・・・といえば大変だな。時間が足りるかどうかがネックだ」
風の精霊が持ってきた話は、まず間違いなく西の大陸でのラスボスの異名を持つモンスター『夢幻のオヴェイロン』のことだ。
南の大陸で言うアジダハーカの立ち位置にいるモンスターだ。
おまけに西の大陸でのクエストはもれなく、老害こと自称精霊王の派閥に属するエルフやドワーフといった妖精族が敵対してくるから、前の城蛇公爵クエストからアジダハーカ討伐への一連のイベントみたいにスムーズに事が運ぶ可能性の方が低いと来た。
最悪、老害たちの妨害で前みたいに包囲殲滅戦ができない可能性が出てくる。
「ふーん、でもできないって言わないんだ」
「なにせ、みんなが頼れるリベルタさんなので、いつも通りオーバーキルを狙っていきますよ」
そのことを考慮した戦略プランを立てざるを得ない。老害どもと言えどあの大陸では権力者だ。
協力関係にあるエーデルガルド公爵家の権力が使える南の大陸と違い、西の大陸では俺の地盤は皆無に等しい。
神託の英雄であるクラリスですら、追い込まれている状況で俺たちの救援を求めている。
なら、少なくとも権力的なバックアップはしてもらえないとみるべきか。
「その敵も大変ね、リベルタを敵にまわしちゃったんだから」
「はい、その通りでございます」
そこまでの想定をしつつ、頭の中で複雑化した盤面を読み勝利のピースを嵌める。
「そのためには色々と仕込みをしないといけないけどね。はぁ、しばらくは激務だなぁ」
その完成図を組み立てた結果、スケジュールがとんでもないことになった。
ドンとパーシー、そして闇さんの三人の残業は確定。
徹夜は効率が悪いからやらせないけど、その分ハードスケジュールをこなしてもらうことになる。
ジュデスとシャリア、ヴェロッキオたちエンターテイナーも激務が確定。情報戦が必須になるからエンターテイナーはフライハイトの警備に必要な人員を除いて全員フル稼働。
ゲンジロウたち戦闘要員もフル稼働確定、素材収集も必要だが今回の敵は特殊な戦い方をするから、その戦い方に慣れる必要が出て来たため、素材収集と訓練の日々を並行してやらないといけなくなった。
そのサポートをするバミューダたちも忙しくなること確定。
すなわち、フライハイト全体の激務が確定した瞬間だ。
「リベルタ君!迎えに来たけど、もう大丈夫?」
そんなタイミングでアミナが家に帰ってきた。
送り迎えだけならすぐに終わるけど、アミナには少し時間を置いてから帰ってきてくれと頼んでいた。
風の精霊との会話の途中でアミナが帰ってくると少し気まずい思いをして最後まで話ができない可能性があったからだ。
俗的な言い方で表すなら、イベント途中で割り込まれることを避けたということだ。
たまにある、クエストイベントで途中で別のキャラが乱入して来て、進めたいイベントをクリアするためには乱入イベントを攻略しないといけない展開というのがある。
アミナがそういう存在になるとは思わないが、相談事なら邪魔が入らないことに越したことはない。
「ああ、いいタイミングだ」
そんなやり取りをしておいたおかげでアミナが良い頃合いで迎えに来てくれた。
精霊回廊がないと精霊界を出入りすることはできない。近所の精霊に頼むこともできるけど、アミナに頼むのが一番楽なのだ。
「じゃぁ、よろしくふーちゃん!」
『わかった!』
そしてアミナの契約精霊に連れられて、精霊回廊を通る。
アミナと精霊の関係は良好と言って良い。
今回の外部スロットのスキルスロットの一枠は精霊術を取るつもりでいる。
アミナを通じて関係を持てたことで、精霊たちとの関係は良好だし、この前の邪霊ドーラスとの戦いで、次女さんとの共闘を経験して精霊術による戦闘での恩恵がすさまじいものだというのがわかった。
「・・・・・どうしたのリベルタ君?」
「いや、仲がいいなって」
「うん!僕とフーちゃんは仲良しだよ!!」
『私、アミナ大好き!』
「僕も!」
そしてこうやって精霊と仲良くできる手本が目の前にいる。
こういう関係で、精霊と一緒に冒険するのも面白そうだと思ってしまったら、こうしてチャンスを得られたのなら精霊術が欲しいと思ってしまうのも無理はないだろう。
なんとなく、アミナと精霊とのやり取りを見ていると、自然と想像が膨らむ感覚が走る。
精霊術を取った俺は精霊とどういう関係になってどんな精霊と契約するのだろうかと思う。
FBOでの精霊との出会いはランダム性が強い。属性指定をすることはできるが性格に関しては完全にランダムだ。
そこは賭けの要素になる。
そんなことを思っていると精霊回廊の出口が迫る。
「ついたよ!」
アミナの声で、フライハイトに戻ってきたのがわかる。
そして目の前には大神殿。
天使様が訪れているということで。神殿には神殿騎士が物々しい警戒態勢を敷いている。
俺たちが精霊回廊から出てきたことで、一瞬警戒をしたが俺たちの姿を確認した途端に武器を下げた。
「リベルタ様、お疲れ様です!!」
「ええ、入っても?」
「はっ!天使様がお待ちです。ご案内します」
そしてその部隊の隊長が一歩前に出て案内を申し出る。
アミナが道順を知っているとは思うが、彼がいた方が神殿的にも都合がいいか。
「頼みます」
「はっ!こちらです」
騎士隊長の先導で案内されたのは、十分ほど神殿内を進んだ先にある地下施設。
儀式関連の舞台は全て地上に設置されていることを考えると、外部スロットの付与は相当な警戒態勢ということだ。
地上への階段の出入り口に、さらに新設された設備の前と神殿騎士を配置して、周囲を警戒している。
それもそうか、天使様直々に頂いた魔道具なのだ。
万一にも狙われたりするようなことがあれば、神殿として大変なことになるだろうという雰囲気をひしひしと感じる。
部屋に入るための扉にすら魔道具を使っているあたり、相当予算を費やしている施設と見える。
「来ましたか」
「遅くなりました」
「いいえ、問題ありません。こちらの世界に理由を持って長く滞在できること自体は歓迎ですので」
そんな儀式の間に入れば、ゆっくりと待っていた天使と、そしてその間の応対をしてくれていたエスメラルダとクローディアがそこにいた。
疲れた雰囲気もなく、本当に雑談していただけだろう。
強いて言えば、この三人と対応していた神官たちの方が気疲れを起こしているようで、顔色が悪い。
「それが、外部スロットを付与する魔道具ですか?」
「ええ、ここにいる神官たちには説明したのですが」
そんなメンバーに囲まれ、鎮座している魔道具に目をやる。
一見すれば歯医者の診療台だ。
人が寝転がれる椅子があり、そして医療用のライトらしき魔道具がある。
他にも色々とコテコテとした機器が接続されているが、見た感想と言えばそんな感じになる。
「こちらの椅子はただ寝転がるためだけの物です。本体はこちらの転写装置ですね」
天使様は、何度もしたであろう説明を嫌な顔をせずゆったりと始めた。
椅子自体は施術に必要な物ではなく、代用ができるが転写する箇所を安定して乗せられるようにしている構造らしい。
少し特殊な形だなと思うが、ただ寝転がるだけなのだから指摘はしない。
大事なのは、アームに接続された移動できるライトのような魔道具だ。
「この転写の魔道具の背部に先ほど渡しました神工皮膚を額縁ごとセットしまして、あとは魔道具に魔力を流し込むだけです。安定化するまで身動きが出来ませんので注意してくださいね」
魔道具自体もそこまで大きいわけではない、転写する場所がしっかりと照らせるようになっているだけで、それ以上の機能は見えない。
再現しようと思えば再現できるだろうという雰囲気を感じさせるが、それは神々の作った魔道具。
あの神工皮膚に映し出された文字のように、蓋を開けてみれば中身がとんでもないことになっていて、元に戻すことができないようなブラックボックスになっていると推測される。
「転写するのにかかる時間はどれくらいですか?」
「おおよそ、五分から十分ですね。個人差があるので、明確に何分とは言えませんがそこまで大きな差にはならないと思います」
「そうですか。事情が変わってすぐに施術したいんですけど、できますか?」
「はい、可能ですよ。実演してほしいという希望も聞いておりますので。では先ほどの外部スロットをこちらに」
なので、その構造に関しては指摘せず、俺は施術台に歩み寄り椅子の感触を確かめた後に椅子に座る。
そしてイングリットがマジックバッグから、天使様からもらった神工皮膚の入った額縁を取り出して渡した。
天使様は慣れた手つきで、それを魔道具にセットする。
「服は脱いでください。ああ、下着は残していても問題ありませんので」
そして邪魔な衣類、この場合はズボンを脱ぐ必要があるのだが、大勢の人に見られながら脱ぐという羞恥プレイに、一瞬ズボンに手を掛けた手が止まるが、神官の皆はやり方を学ぶための真面目な視線で、仲間たちは俺を心配しているように見えた。
なので、諦めて、ズボンのベルトを外し、そのまま脱ぎ去る。
「綺麗な足ですね。右ですか?左ですか?」
「左でお願いします」
ムダ毛の無い鍛え抜かれた足に、天使様は感心の声を上げるが、さすがに今の格好を長く続けたくはないので、早く作業を進めてもらうために転写する箇所を指さす。
無言で近づいて来たイングリットにズボンを渡すと、彼女は受け取りそのまま作業の邪魔にならない場所まで下がる。
「では、始めます」
特段大きな儀式は必要ない、必要なのは魔力を流すことと、転写箇所を外さないように魔道具の位置を調整すること。
天使様の合図の元、俺の左足に光が照らされた直後のことだ。
「魔法陣の文字が流れてくる」
アミナの感想の通りだ。
光の中に魔法陣で描かれた文字が流れ落ちてきて、そのまま俺の体に移される。
「っ!」
「動かないでください。痛みはないと思いますが、ズレると少々面倒なことになるので」
光が当たった瞬間の感触と言えば、むずがゆく、そして少し熱を感じる。
体内に何かが侵入して神経に繋がるような感覚、そして痛くはないが熱いと感じるほどの熱。
その感触に咄嗟に足が跳ねそうになるが、天使様の右手が俺の足首を掴み、動かないように固定している。
万力で固定されたかのような力で、俺の足は動くことなく、そのまま作業が続く。
終わるまでの十分間は、ただひたすらその妙な感覚を我慢する時間となり。
「はい、無事に終わりました」
その我慢の先に、成果を得ることに成功した。
「ステータスを見てください。それで確認できるはずです」
天使様の言葉に従って俺はステータスを開くのであった。




