20 バランスブレイク
感想欄を見て、色々と解釈が分かれているのを感じ、文章を加筆しました。
良ければもう一度ご覧になってください。
外付けのスキルスロット。
その言葉を聞いて、何をふざけたことをぬかしていると思ったのが俺の正真正銘の本音だ。
FBOの数々の討論の中で何度も上がるのが、スキルスロットの数のことだ。
スキルスロットを制限することで、数多あるスキルから取捨選択し自分のオリジナルを生み出すことで楽しめると主張する派閥と、スキルスロットの制限をなくし、全てのスキルを一キャラで制覇し最強になりたいと願う派閥。
他にも主義主張はあるけど、遊び半分の論争ならこの二大派閥が主流だった。
その二つの派閥の論争において、ひとつ確実に言えることは、どちらもFBOが好きであるということ。
そして俺は穏健派の制限派で有り、無制限にするのではなくもう少しくらいスロットが増えてくれないかなぁと願っていた派閥だった。
「スキルスロットの外付け、ですか」
「ええ、神々の中でもそういうアイテムがあってもいいのではということでプロジェクトが開始し作られた物がこれです」
なので、ある意味でその願いを叶えてくれるアイテムが目の前に現れて内心が穏やかではないという事実。
「・・・・・詳細を聞いても?」
「はい、もとよりこのアイテムの性能と使い方を説明することも私の職務ですので」
外付けであってもスキルスロットが増やせる。
この事実が高速で脳内を駆け巡る。
その情報を得た際に思ったことは、純粋にスキルスロットが増えると言う歓喜、なんでFBOの時に実装してくれなかったのという失望、そしてこのアイテムが実装されることによって環境が変化することに対しての恐怖だ。
天使は言った、『外付け』のスキルスロットだと。
まだ確定ではないが、この『外付け』と言うのは、俺の予想が正しければある意味で純粋にスキルスロットを増やしてくれる便利アイテムというだけでなく、環境の変化への影響が強いというのがわかる。
今までのFBOでの傾向から、スキルスロットを制限することでプレイヤーごとのプレイスタイルが決まり、装備という外面からある程度のスキル構成を予測し、そこからさらに戦闘を重ねることで相手のスキル構成を暴く。
それが戦闘での常道であった。
熟練プレイヤーと呼ばれるガチ勢ならば、相手の装備から何パターンかのスキル構成を予測し、ほんの数分の戦闘でスキルを丸裸にするなんてこともできた。
互いにスキル構成を把握してからが本番なんて言葉があるくらいだった。
「まず初めに、この『外付けスキルスロット』、仮称として私たち天使は外部スロットと呼んでおりますが、これを体の一つの部位に付与することで、現状神々が用意できる外部スロットでスキルスロットは三つ増えます」
「・・・・・三つもですか?一つだけしかつけていないのに」
「三つのスキルスロットが1つセットになっている外部スロットと考えてください。一つのスロットを増やすために三つも四つもつけなくていいと思うのですが?」
「確かに」
そんな戦闘環境で、スキルを三つも追加で隠し持ててさらに変えられるという情報に、どんどん俺の目に力が籠る。
「外付けと先ほど言いましたが、このアイテムつけ外しができると考えても?」
「はい、できます。特殊な器具が必要になりますので戦闘中に簡単に変えられるというわけでもありませんし、付与する際に少々特殊な紋様が体に付与されますので、人によってはそれに嫌悪感を持つというデメリットもございますが」
外付けと言えど、サクサクと交換できるものではないという言葉に一旦安堵する。
場合によってはマジックバッグやアイテムボックスが最恐の武器に変化する可能性は一旦消えた。
俺の想像する中で最悪の想定は、この外付けのスキルスロットをマジックバッグに入れておいて、戦闘中に何度も高速でつけ外し環境を支配するということ。
これが出回ることでどういう環境変化が起こるかということで、真っ先に思いついた最悪の想定。
「それ以外は身体に害はありません」
「紋様、入れ墨みたいな感じですか?」
「いいえ、どちらかと言えば魔法陣に近いですね。外部スロットはこのスロットを保管するための神工皮膚によって管理されているのですが、こうやって魔力を流すと」
「魔法陣が浮かび上がってきましたね」
「はい、この神工皮膚に封印されている魔法陣を体に転写することでスキルスロットを増やすという仕組みです」
「・・・・・これ、魔法陣を解析すれば自分たちでも複製できる代物では?」
実際に現物を見て、その可能性がさらに濃厚になった。
これの有用性は凄まじいの一言、なので俺個人としてもフライハイトで量産体制を確立したいというのが本音だ。
同時にこれは強力なスキルを代わりに育成して転売できるという危険性も孕んでいる。
低レベルのプレイヤーに、純粋に強化を施すと考えることができるだけならまだ良かったが、世の中にはとんでもない使い方を考える輩は後を絶たない。
今現状俺の考える想定を上回るような使い方が出てきてもおかしくはない。
「作れるのなら、どうぞ」
「?」
そんな俺の懸念を、天使は目鼻の無い顔で一笑に伏す。
「もう一度魔法陣を展開します。その際に魔法陣に描かれている文字を見てください」
そしてもう一度外部スロットに手を伸ばし、魔力を流し、そこに再び魔法陣が浮かび上がると。
「なんだ?この文字」
「神々が使う文字『■■■■■』です」
「すみません、もう一度」
「『■■■■■』です」
その文字を凝視して、俺は混乱した。
一見すれば文字、だけど、その文字を認識しようとした途端に次から次へと文字の形が変容し意味を変える。
一つの文字で二つか三つのパターンならまだいいが、その変化の数は数百単位、クラス8まで登りつめたこの体の身体スペックであってかろうじて見える速度で文字が変化していると認識してしまう。
「セーフティーがかかっているのですか?」
「いえ、純粋に今のあなたでは認識できない言語なのです。それはこの精霊界を統べる精霊王であっても同じこと。我々天使であってもこの言語は発音はできても他者に伝達することはできません。意味を理解できるのも表層だけ、深層のほうの意味を理解できるのは神々だけです」
その異常性に気付いて顔を上げて天使を見れば、彼は苦笑しているような雰囲気を伝え、イングリットが用意してくれたお茶を手に取り口の無い顔でそれを飲む。
「魔法陣の構造自体は、シンプルに見えます。ですが、実際は神々の職人が丁寧に作り込むことでようやく作り出すことができる一品です。最低でもこの言語の理解、そして魔法陣のバランスの把握、それを成し得てようやくこの外部スロットの制作の足掛かりになる程度です」
それは俺の予想する危険性が杞憂であると言っているともとれる。
「なので、これを量産し世界にばらまかれることはほぼないと言ってもいいでしょう」
その言葉を信じる以外ない俺は、ひとまずこの危険性に関しては胸の内に秘めることにした。
「そして、貴方の言うセーフティーはこちらの神工皮膚の方にも施されています」
「この皮膚みたいのにですか?」
「はい」
ここでああだこうだと、危険性に関して問いただしても天使側からしたら答えらえるかどうかも定かではない。
「まず第一に、この神工皮膚が無ければ外部スロットは保管もできないようになっておりますし、剥がすことも、貼ることもできないのです。神工皮膚そのものが魔法陣の安定化と定着化の媒体になっております。そして第二のセーフティーとしてこの神工皮膚はこの額縁でないと保管できません」
ならば与えられる情報を全て飲み込んでからの確認にした方が良いと判断して、俺は聞く姿勢に徹することにした。
その空気を察して天使は説明を再開してくれる。
俺が懸念している部分を合わせて説明してくれるからある意味で助かる。
「あなたのことですから今後同じような物を手に入れることがあるでしょう、その際にもし額縁が壊れたり、神工皮膚が壊れても安心してください。一応、他の神工皮膚であれば互換性がありますので代用はできます。なので、最悪一枚の神工皮膚があれば剥がしたり、貼ったりはできます。しかし、皮膚も額縁も希少なモノには変わりありませんので保管に関しては細心の注意をしてください」
「わかりました」
量産することによって、世界の環境がガラリと変わることへの懸念。
それ自体は急には起きないという天使の説明、起きるとしても神々も急激な変化よりも徐々にゆっくりとした変化を求めているというニュアンスに聞こえる。
「この神工皮膚も特殊な作りになっているので、そう簡単には複製できません。なので、皮膚、額縁、文字、この三つのセーフティーがある限りこのアイテムの供給は我々天使からしか手に入らないと考えてください」
「なるほど」
過剰供給の心配がないなら、ひとまずは手に入れた外部スロットの管理を徹底すればいいわけか。
「次にこの神工皮膚から肉体への転写の魔道具なのですが、それに関しましては少々規模が大きいのと貴重なため、これに関しましてはリベルタさんが管理する街、フライハイトでしたか。その街の大神殿の方に寄贈します」
「なるほど、転写の技術を神殿で管理することで安全性を確保するということですか」
「はい、信徒の方には苦労を掛けますが転写した人物の記録も残します。そもそも、転写の魔道具と言っていますが、魔道具の核は神の欠片が使われていますので管理するとしたら神殿の方が都合がいいというのも有ります」
加えて、権力者に支配されない神殿に転写の魔道具を管理させる。
それによって神々の目で監視体制を作るというわけか。
流石に神々も『すごいの出来たからじゃあぶっこむか』って流れにはしなかったか。
「それなら安心ですね」
「ええ、その道具を投入する神殿に関しても試練を課しますので、安全基準は大丈夫かと」
「となると、気になるのはこれをつける体の部位と実装可能数ですが」
「先に実装可能数、いえ実装推奨数を説明しますが、原則一つです。これは、神々の方で実験を行った結果定めた安全基準です。二つ以上つけることも事実上可能ですが、その後に魂の変質と劣化が同時に見られたため寿命を著しく損なう結果となりました。短時間の使用なら問題ありませんが、魂に影響しない数値としては二十分未満がラインです。これも個体差があり、少ない方だと十分未満でした」
「あくまで平均値ということですか」
「はい、二つの同時使用ですと魂への影響が極端に大きくなります。これは外部スロットが互いに干渉しあって付与された側の魂に悪影響を及ぼしているという結論が出ています」
よくある強い力には相応の代価がいるということか。
当然と言えば当然か、バランスブレイクにはあるあるの設定だ。
「そしてこれはスロット数にも関係するのですが、現状の外部スロットで用意できるスキルスロットの数です。検証の結果三つが最も安全基準を満たし、使用者を強化できるラインだと結論づけられています。技術的には最大で一つの外部スロットで十三までスキルスロットを外付けすることに成功しておりますが、魂への影響力が大きくなるため負荷も多く、当面三つまでとさせています」
「わかりました」
むしろ三つでも多いと言えるのだが、今後の神界の技術革新次第ではもっと強力な奴が生まれるのか。
それを期待する。
「最後になりますが、これを付与する箇所ですが、計七か所のうちいずれかになります。左右の腕、もしくは足、背中、胸、そして顔です」
「・・・・・顔?」
「はい、顔です。お勧めはしません」
最後の説明で指折りで、付与できるか所を説明してくれるが、納得できる場所ばかりで、俺はどこに付与するかと悩んでいると最後に出てきた場所に『マジか?』という表情で聞いてしまった。
「場所によって、効果の強弱が出ることもありません。お勧めはズボンなどで隠れる足ですね。顔は覆面で隠すしかなく、腕や胸、背中はふとした拍子で見えてしまうので」
「がっつり魔法陣が印字される感じですか?」
「そのような感じです」
「あー、はい。承知しました」
「では、説明は以上となります。と言っても、説明だけではわからないことも多いでしょう。なので、最初の一回目は私が立ち合いの元外部スロットを付与しますが、いかがですか?」
そうしてバランスブレイクと言える外付けスキルスロットの説明を終えるのであった。




