19 クエストの報酬
「ふぅ、あとは経過を見てどうにかってところかな」
ケラスの手術(?)は無事終了。
ゴーグル型の魔道具を外して、張っていた気を緩める。
元祖の湖の効果は凄まじく、モンスターを切除して穴だらけになったケラスの体をどんどん再生している。
「精霊王、いかがですか?俺の目から見たら、体の方は直に治ると思うのですが」
切り取り、無くなった体の欠損部位が命の雫によって補填される。
その形状はモンスターに浸食されていた時の姿ではなく、無事な半身と同じ健常なモノ。
『見事、としか言いようがない。モンスターに侵され、元に戻ることなど叶わぬはずの肉体が綺麗に再生されている』
その元に戻ったケラスの姿を見て精霊王も満足気に頷いている。
「ただ、これで助けられるのは体だけです。申し訳ないですけど心の方まではさすがに無理です。」
そんな満足そうな精霊王の気持ちに水を差すようなことを言うしかない俺の顔は、申し訳ないと言わんばかりだ。
ゲームであれば、怪我や病から体を治して目を覚ませば元気そうに走り回るシーンとかが流れるのだが、冷静に考えてあんな異常に見舞われた状況で精神がまともに保たれている保証はどこにもない。
『いいや、十分だ。我らでは手を下せず来たるべき運命に託すことしかできなかったことと比べれば、よくここまで回復させてくれた。あとは我らが領分だ。ケラスには家族がいる。彼の者たちに知らせを出し、時を使い癒えるのを待つとしよう』
「そうしてください」
これを救いと言えるかどうかは、未来が決めること。
俺にできることは体を癒すことまで。せめてもの救いは痛みと恐れから解放されたケラスの寝顔が穏やかということだけ。
「目覚めたら僕のライブに来てよ!!お祝いで盛り上げちゃうから!」
『ハハハハ!アミナちゃんのライブを観れば確かに元気になるであろうな』
「その時は特等席を用意しますね」
『うむ、重ね重ね感謝する。リベルタよ、そして皆よ。同胞を助けてくれて感謝する。この礼は精霊王として絶対に報いると約束しよう』
目覚めた先になにがあるかまではさすがに保証できない。
アフターケアもするつもりではあるが、できることは限られる。
アミナのライブが一番の特効薬のような気がするが、それ以外でもケアできる方法を考えておくかと内心で考えつつ、精霊王の言葉でこのクエストの終わりが告げられる。
『では、吾輩が彼を家まで送り届けよう。会長、またあとで』
「闇さんも今日はありがとう、お礼はするから何か考えておいて」
『なに、新しい魔道具を作れただけで吾輩は十分だ。会長には世話になっているしな、また力が必要なら言ってくれ』
元祖の湖は再び封印され、堅牢な扉の前の広場から外に出る。
階段を上るのが面倒であったが、ステータス補正があるから疲れはしない。
そして外に出たらケラスを背負った闇さんが彼を家族の元まで送ってくれるということで、早々に立ち去ることとなった。
『我も行こう、家族に説明せねばならぬからな』
「俺たちも行った方が良いですかね?」
『いや、リベルタは疲れているだろう。こちらの家でゆっくりと休むが良い』
「そうですか?ではお言葉に甘えて」
精霊王もそちらに同道するみたいで、居城の前に俺たちは残される。
「・・・・・そう言えば、これで天使からの依頼は達成ってことでいいのかな?」
背伸びをして体の緊張をほぐしていると、ふと、気づく。
天使からの依頼の達成をどうやって報告すればいいのかと。
FBOではクエストを受注すると、クエスト一覧という画面がありそこで達成か未達成かは確認できた。
そしてそこからさらに、達成ボタンを押すとそのままクエスト報酬までもらえる流れが出来ていた。
そんなシステムがこの世界にあるわけもなく、ステータス画面を試しに開いてみるが、クエスト一覧なんて項目は存在しないのを確認するだけで終わった。
「どうでしょうか。救済という依頼ですから。達成したと言えば達成しましたが、目覚めていないので未達成とも取れますね」
最終手段としてあった、邪霊としてケラスを討伐するのがもっとも簡単に依頼を達成できるルートだ。
しかし、今回はわざわざ手間と時間をかけて体を治して彼を救済するというルートを取った。
その所為でクエストを達成したかどうかの判断基準があやふやになってしまった。
クローディア的には達成したと判断しても良いとは思っているようだが、天使の方がどう判断するかがわからないようで、困ったような表情を浮かべる。
「どちらにしろ、俺たちじゃ判断ができない案件だよな。ひとまず、精霊王の言う通り体を休ませて貰おうか。邪神教会の隠れ里から通しで動いてたらさすがに疲れた」
ゲームならクエスト完了と同時に報酬が貰えて、それでクエストが終わったと判断できるのだけど、さすがに早々に報酬が貰えるわけがないと思い、精霊界にある俺たちの家に向かう。
そして持っていた鍵で、家の中に入ったら。
「ご苦労様です。無事に依頼を成し遂げていただき何よりです」
そこには何食わぬ顔、いや、顔のパーツがないから表情はわからないが、先回りして不法侵入で家に入り込んできた天使が待ち構えていた。
「えっと、いつからここに?」
「つい先ほどです。精霊界で私の姿を観測されると些か騒ぎになりますので、このような形での訪問とさせていただきました」
あいも変わらずののっぺらぼう。
しかし、その無形の顔であっても苦労人の雰囲気は隠しきれず、苦笑しているらしいのが見て取れる。
クローディアとエスメラルダは固まってしまい、ネルとアミナは俺の背後に隠れる。
そしてイングリットはと言えば。
「どうぞ、天使様。お茶のご用意ができました」
マイペースに茶を入れて、差し出していた。
「ああ、お気遣いありがとう」
そして天使も普通に受け取っている。
なんだろう、緊張しているのが馬鹿らしくなるやり取りに俺は溜息を吐きつつ、ひとまず席に着くことにした。
「私の隣に座ってもいいのですよ?」
「あなたのお立場を考えたら、こうやって向かい合って座るのでも俺たちには結構ギリギリですよ?」
「・・・・・偉くなるのも困りものですね。たまには気兼ねなく人と触れ合いたいものです」
と言っても座るのは俺だけで、ネルとアミナは遠巻きに見ている。
クローディアとエスメラルダは俺の背後に控え、イングリットは給仕に徹している。
「例えば?」
「そうですね、彼女のライブ、あれは良い物です。天上から見るのもいいのですが、会場の臨場感を味わうのならやはり現場で一緒に盛り上げたいものですね」
「あー、なるほど。まぁ、機会があれば」
「ええ、ぜひ」
最初は雑談から入るが、天使からの要望は叶えられる物だろうか。
少なくとも普通にこの姿でライブ会場に放り込んだらとんでもない騒ぎになるのはわかっている。
「仲間と一緒に参加したいですね」
それも大勢の天使が駆けつけるとなると、騒ぎだけでは済まないかもな。
「まぁ天使たちの休日を合わせることは、千年に一度できるかどうかなので、叶わぬ願いかもしれませんが」
「さすがに、それだけ年月が経つと俺も生きているか怪しいですね」
「君であれば、千年後の世でもこの世界に君臨していそうですね。あるいは、君の子孫がこの地を統一しているかもしれませんね」
大勢の天使がペンライトを振り回してライブを楽しむ光景をちょっとだけ見てみたいなと思う気持ちは隠しておきつつも、その後に出て来た天使のヤバい言葉は笑顔でスルーする。
「さて、できればあと十年ほどこうやってゆっくりとしたいのですけど」
「さすがに長いです」
「・・・・・報酬の件です」
そして、さらりと本音を交えた天使の言葉にツッコミを入れつつ本題に入る。
「此度の件、邪霊の見事な救済に神々はお喜びになられました。つきましては、まずは達成報酬としてこれを」
その事に居住まいを正し、言葉を聞く。
そして天使が空間の裂け目に文字通り手を差し込み、その空間から一つの物を取り出す。
「おお!それは!」
「さすがは知恵の女神様の使徒、これをご存じでしたか。はい、騎獣のベルです。これを振るえばあなたの望む騎獣が姿を現します」
トレイに乗せられて現れたそれは、ハンドベルの形をした魔道具。
騎獣のハンドベル。
FBOでも手に入る、移動手段の一つだ。
「しかも未使用!」
利便性から多くのプレイヤーが使ったアイテムなのだ。
これの何がすごいかと言えば、テイムスキルを使わず、自由に移動手段として使える騎獣を召喚したり送還することができる。
正確に言えば、このアイテムはテイムアイテムではない。
このハンドベルに騎獣を登録すると、そのモンスターとそっくりな存在を顕現させることができる。
ハンドベル一つにつき一体しか召喚できないが、万一その騎獣が倒されても時間が経てば再度召喚できるという利便性がある。
欠点としては、テイムモンスターと違い、成長を一切しないという点だが、ダンジョン内でも使える移動手段としてかなり重宝する。
さらに俺が未使用で喜んでいるのは、まだ、そのモンスター登録が未設定の状態という点。
通常この騎獣のハンドベルはドロップした際に、そのドロップしたモンスターが登録されている。
その際に色々とそのモンスターの特徴を彩った装飾がハンドベルに施されるのだが、これにはそれはない。
未使用のハンドベルはシンプルな見た目になっていて、量産品という雰囲気が前面に押し出されている。
「さらに、クラス6までいけるやつだ!!」
この状態でドロップするのはかなりレアだ。
さらにハンドベルの柄の部分には星が六つ描かれていて、クラス6のモンスターまでは登録できることを証明している。となれば、そのレア度はかなり高いことになる。
入手できる方法が限られた環境のクエストだけだから諦めていたけど、ここで手に入るのは嬉しい。
おまけに、このハンドベルはクラス6までのモンスターの中で自由に騎獣を選んでモンスターを登録できる状態。
砂漠対策は色々としているけど、このハンドベルが手に入ったのならあのモンスターを使えるようにするのも有りだな。
「よろこんでもらえて何よりです。そして、救済を成し遂げた追加の報酬ですが」
頭の中で今後の計画を変えながら、追加でさらに報酬が貰えることにさらにニコニコと表情が緩むのを感じつつ、次に天使が取り出した代物に俺は首を傾げることになる。
「こちらにつきましては、神界でも試作品となりましてこれまでこの世界には存在しない物となります」
「試作品?」
額縁に入れられた、皮膚のような生々しい代物。
確かに俺も見たことない代物だ。
FBOのアイテムであれば、よっぽどマイナーな物じゃない限り俺が覚えていないということはないはず。
「はい、神々が作られた試作品です」
「「「「!?」」」」
そんな代物を試作品と言い、それは誰が作った物だと言うことが問題になる。
「ご安心を、試作品と申しましてもしっかりと稼働試験は突破しておりますし、使用しても害はないことも確認しております。あくまで、量産体制の整っていない生産が難しい品と考えていただければ」
「はぁ、それでこれは一体なんでしょうか?」
神々という言葉に、俺以外のメンバーが息を飲むのが聞こえる。
俺が驚かないのは天使がこうして持ち出してきた試作品なら並大抵の存在が作った物ではないだろうと予測していたからだ。
多少のことじゃ驚かない。
そんな心境で、試作品のアイテムの内容を確認する。
「はい、外付けできるスキルスロットです」
「は?」
そして俺は目を見開き、思わず低い声で聞き返してしまうのであった。




