15 合成獣
合成獣とは・・・・・あまり好きではない物が出て来たな。
ジュデスに呼ばれて入った掘っ建て小屋の中で発見した本を手に取り、その中身を見るために本を開けば、実験記録が書かれている。
どういった実験を、どのような方法でやったか、事細かく書かれている。
その中身は正直、読んでいて気分のいい物ではない。
「なるほど、ね」
合成獣、キメラと呼ばれるモンスターは様々なゲームで登場する敵ユニットだ。
稀に仲間になる作品も存在はするが、基本的には討伐対象のモンスターだ。不自然と形容するしかない異なる種の生物を掛け合わせた肉体を持つキメラが、どうやって生まれて来たか疑問に思うことはないだろうか。
哺乳類と爬虫類が掛け合わされた姿、あるいは鳥類と昆虫が掛け合わされた姿。
自然界では決して生み出されない存在。
それに関しても考えさせるのがFBOという作品だった。
「何かわかったのか?」
「少なくともここで研究していた連中がろくでもないことを考えていたのは間違いないってところかな。ほれ、ここに栞が挟んであるだろ?」
FBOにおいてキメラという存在はモンスターの中でも異端児と言ってもいい。
異質な何かと何かを掛け合わせないと生み出されない、禁忌の存在。
自然の摂理に背いて命を弄び、あるいは、狂気に憑りつかれて人間の手で新たな生命を誕生させようという試みの先にしか生み出されることはない。
そんな狂った実験の結果をまとめた資料が目の前に存在している。
そしてFBOという作品の中にもキメラ誕生の設定を深掘りするストーリーが存在する。
「ああ」
「何の内容だと思う?」
「・・・・・そりゃキメラを作るための実験だろ?」
「残念、正確にはモンスターとそれ以外の生物の合成実験記録」
「は?」
これを著した人物は、キメラが生まれる経緯の中でも異端中の異端で、人間の進化にそれを組み込もうとした狂気に身を浸した研究者だ。
ちらりと、本の著者名のところを見ると案の定見覚えのある名前が書かれている。
歴史上の人物ですでに故人であり、FBOでも名前でしか出てこない。
ガンブルグ・ホセ。
合成獣研究の第一人者としてFBOでは語られ、合成獣作製方法の基礎を作り上げた人物。
その人物の研究記録だ。
当人は数百年前の人物だから、当時の神殿から禁書とされた原本がここにあるわけがなく、密かに写された写本っぽいけど、何度も使い込まれているところから見る限りここで作業していた邪神教徒が相当読み込んでいるのがわかる。
「この本は、モンスター以外の生物をベースにしてそこに色々なモンスターを混ぜ込む実験の記録だよ」
「・・・・・っ!?」
こんなものを読み込むということは、これをやろうとしているということ。
俺が嫌悪感丸出しに、表情を歪めて伝えた内容を理解したジュデスは吐き気で口元を押さえた。
「人間、獣人や妖精族はもちろん、鱗族も対象だな。ようは、人が通常抱える能力の限界をモンスターを混ぜることで突破しようって実験だ」
研究者は人類の進化のためだと大義名分を宣うが、やられる側からしたらたまったものじゃない。
「こんな物が邪神教会の手元にあるのは、ある意味で当然と言えば当然だけどな」
「・・・・・それは、邪神教会の教義に関係しているからか?」
しかし、邪神教会にとってはこの研究記録は聖典と言っても過言ではない。
ジュデスが吐き気から脱出して、口元から手をどけながらその理由を問う。
「そう、邪神はモンスターの祖。この世界にモンスターを生み出している大元だ。その邪神の生み出しているモンスターと一体になることは邪神教徒からしたら正しいことなんだよ」
「だったら、勝手にお前たちだけでやってろよって話しじゃないか」
「実際やってるんだよ。だけど、上手くいっていないから実験が必要なんだよ」
モンスターと一体になり力を得ることを、邪神教徒たちは神からの力を授かる行為だと解釈している。
そのため、この合成獣の実験に対して忌避感がない。
「狂ってるな」
「今さらだな」
被験者が死を躊躇わない、それはある意味で人体実験という行為においてはかなりハードルを下げる要素になりうる。
実験の失敗という事実を殉教の名誉と捉えることで、より一層そのハードルは下がる。
「机の上にある調査記録をみるかぎり、精霊とモンスターの合成実験のサンプルとしてこの封印地を確保したみたいだな」
「・・・・・この地に封印されている精霊は人間の勝手な都合で大変な目に合ってる精霊だって言ってたよな?」
「ああ」
そんな奴らに、他者を尊ぶという気持ちがあるわけがない。
あるのは、邪神教会の教えに殉じて、行動を起こす狂信のみ。
邪神教会の教えこそ正義。邪神教会の教え以外は邪教の妄言。
「そんな気の毒な精霊を研究対象にして弄ぶってか?反吐が出る」
「そういう倫理観がないのがあいつらなんだよ」
ジュデスの嫌悪感はこの世界では正常な人間の反応と言える。
慰めの言葉を伝え苦笑しつつ、彼の肩を叩き、他のエンターテイナーたちに資料の確保を命ずる。
「ここ以外にも研究資料があるかもしれない、それは全部確保してくれ。神殿の方にも情報を回すが、こっちの方でもある程度は情報を確保したい」
「わかった」
「隠し扉とか、隠し倉庫とか色々とあると思うから念入りにな。地下倉庫の下に更に地下室を作るような連中だから」
「了解、徹底的に探るわ」
あまり内容を知りたくはない情報であるが、嫌悪感だけでこの情報を破棄するのも危険だ。
邪神教会のやっていることを知って、より一層やる気を出したジュデスが捜索に加わる。
あのやる気だと、ツルハシを持ち出して壁まで掘りかねない勢いだな。
「・・・・・」
そんなエンターテイナーたちのやる気とは裏腹に、俺は思考がどんどん冷めていくのがわかる。
「原作の前倒しが起きた?」
そもそも、この情報が現段階で邪神教会の手にあるのがおかしい。
「いや、俺が追い詰めたから合成獣研究が進行しているのか?」
FBOの原作では、合成獣兵士と呼ばれる邪神教徒の中でも強者となる兵士が幾人も登場する。
それはFBOの原作の中でも後半、それも邪神教会と敵対して発生するストーリーを進めることで解放される要素だったはず。
プレイヤーが邪神教会側のルートでも一定の条件を満たせば発生したイベントだけど、プレイヤーが邪神教会側にいると勢力的に余裕があるからそっちの研究は疎かになる。
しかし、現状は南の大陸での邪神教会の勢力は原作よりも小規模勢力に縮小している。
それに危機感を感じて、研究を加速させたと考えるべきか。
顎に手を添え、思いにふける仕草で頭を活性化させて考えるも、思い浮かぶのは可能性のみ。
原作と現実を突き合わせて妥当なのは、今は研究初期、実験の準備を開始して間もなくで、実験段階にもこぎつけていないという可能性。
「だけどこのままだと、今後あれと戦う必要があるというわけか・・・・・」
モンスターの力を得ること、そのためには強力なモンスターを手に入れる必要がある。
物語の終盤になってくると、中央大陸のモンスターと融合した合成獣兵士が現れる。
すなわち、その素材となるモンスターを確保できる人材がいるということ。
「警戒は必要か」
それができる人材は何名かこっちで確保している。
ゲンジロウがその筆頭だ。
他にも数名、その可能性を秘めていた人物をこちらで確保している。
これで研究が少しでも遅れてくれればいいのだが。
この状況から察するに、その程度の引き抜きでは邪神教会の邪神復活という大望の前では誤差の範疇で収まってしまうと容易に考えることができる。
「となると、いまはとにかくさっさとこのクエストはクリアした方が良いか」
となれば、進めるべきことを進めるべきか。
ストーンサークルを見れば、いまだ沈黙を続けている。
この下に邪霊ケラスが封印されている。
人の業により堕とされてしまった精霊。
「ひとまず、ネルたちを呼ぶことから始めるかね」
ケラスの戦闘能力自体はそこまで心配はしていない。治す手立ても構築した。
問題となる部分はただ一つ、捕獲作業が大変というだけのこと。
こういう時にお約束なのは、戦闘に入り一定のHPまで削り、弱った所を捕獲用のアイテムで捕縛するのがゲームではよくあるパターンだ。
しかし、冷静に考えて欲しい。治すために邪霊を捕まえるのに、ボコボコにして捕獲するという行為は矛盾しているのではないか。
実際に、FBOでこの手のクエストでの捕獲の理想は無傷での捕縛だ。
多少のダメージはリカバーできるが、そのダメージ容量も一割が限度。
ダメージを与えすぎると治すことが出来なくなってしまう。
なので、FBOではヒーラーを複数人用意して、精霊を回復させながら捕縛するのが鉄則だった。
「ん?」
そんなお約束で、どうにか攻略しようと頭の中で攻略チャートを組み立てている最中に俺の耳が異音を捕らえた。
それはまるで何かが割れるような音。
そう、ちょうどそこのストーンサークルの岩に罅が入るような音だ。
「すぅ、えっとぉ?」
レベル上げによって強化された俺の五感は正確にその情報を拾い上げている。
感じ取った方向に目線を向けてみると、ステラがそこにいてちょうど手を伸ばしている個所にひびが入っている。
それを見てギョッとして『私、何かやってしまったか?』と仲間に向かっておろおろと顔を見合わせる姿が見えた。
その間にストーンサークルの柱の一本の罅がどんどん広がり、横に一線と割れるように亀裂が広がって柱が砕けた。
「何やってんのぉ!?」
「ごめんなさい!?」
さすが主人公、俺以上にトラブルに愛されているな!?
こんな形で見せられるとは思っていなかった。
「ストーンサークルから離れろ!!いますぐ!!」
そして連鎖的に砕け始める、ストーンサークルの柱たち。
それはすなわち、封印が解除されているという証拠、となるとその後になにが起きるかというのも自明の理。
ダッシュでストーンサークルから脱出するステラたちを脇目に、俺は緊急用の信号弾を発射できる装置を腰から抜き去り空に打ち上げる。
炸裂音と発光、それが空に打ちあがると一斉にこちらに駆けてくる足音が聞こえる。
「なんだ!?なにをしでかしたリベルタ!!」
「今回は俺じゃない!!って!ボケをかましている暇もないんだ!!封印が解ける!大至急、クローディアたちと闇さんを呼んできてくれ!!」
「わかった!!」
さっき立ち去ったばかりのジュデスに、冤罪をかけられそうになったが無罪を主張しつつ我がパーティーの主要戦力の緊急招集を呼びかける。
『ゴゴゴ』と地響きが鳴り、あからさまにマズいとわかる雰囲気が漂う最中、エンターテイナーたちと護衛の御庭番衆は戦闘態勢に入る。
「まったく、完全装備じゃないってのに」
時間稼ぎに徹する以外にやるべきことを考えつつ、俺は予備で持ち歩いている鎌槍を構えず、ストレッチを始める。
俺の鎌槍はダメージを与えるどころか、即死攻撃を放つための武器だ。
捕縛には向かず、今回使うのは鎖分銅の方だ。
「さてと、邪霊ケラス捕獲作戦を前倒しで始めますかね。ステラ!お前たちはひとまず後方待機!」
「はい!」
ジャラリと鎖が揺れる音を聞き取りながら、主人公補正を舐めていたとため息を吐きつつ、封印が解かれるのを眺めるのであった。




