14 邪霊ケラス
ハリセンで邪神教会の有象無象をしばき倒していく様は、舞台劇のコントのようで面白く見える。
ステラとアステルが舞台衣装を模した装備を着込んでいるから、その立ち廻りが一層際立つ。
そしてその後ろに黒子の格好をしたライナとジュリが追従しているから、より笑いを誘う。
しかし、それに対して殺到する邪神教会の面々の形相は、怒り一辺倒。
神の敵に模した姿だけでも許しがたいと言うのに、時折ステラが立ち止まり、仰々しいポーズで大げさなセリフを叫ぶたびに、額の血管がブチブチと音を立てて引きちぎれているのがわかるくらいに目を血走らせて襲い掛かる。
情け容赦など端からない、殺意丸出しの攻撃をハリセンだけで凌ぎ、ステラたちは淡々と邪神教会の勢力を処理していく。
その傍らで、倒れた邪神教会の信徒を拘束し、まとめて荷車に放り込んで運び出していくエンターテイナーたちの流れ作業のような仕事ぶりが、より一層コント臭を漂わせている。
ゴミ収集員がゴミの袋をゴミ収集車に放り込む要領で、信徒を荷車に投げ込みそれを荷台にいるエンターテイナーが受け止め綺麗に並べて積み上げていく。
そして満載になったら、それを隠れ里の外にダッシュで搬出して、空荷になった荷車と交代する。
この隠れ里にいる信徒全員を生かして神殿に引き渡す必要はないんだけど、全員を無傷で倒し切って神殿の邪神教会撲滅の聖戦に協力しましたと言う方が、外聞的にインパクトは強い。
後はその噂が勝手に背びれなり尾ひれなり、手足なり生やして世界中に広まると言う寸法よ。
「なんだい、もう終わりかい」
「いや、ギルドマスター。それよりもっと言うことあるだろ。あいつら強すぎだろ」
「英雄様が育てたんだよ?木っ端の邪神教徒ごときじゃ話にならんよ。どうせならドラゴンでも倒させればいいのにね。それなら一層箔が付くってもんだ」
「ああー、その手もあったか。いや、そのくらい普通に倒せるから冒険者ギルドの上層部への手土産でいくつか竜の素材でも献上させるか?」
「ギルドマスター、どうする?こいつ、本気で献上させる気だぞ」
そんな感想を語り合っているうちに、某無双ゲームのワンステージをクリアするくらいのペースで、隠れ里の教徒が一掃されて戦闘が終わってしまった。
最後の方で、何やら激昂して喚いている教徒がいて、恰好からも教会のお偉いさんとまではいかないが、この隠れ里の責任者っぽい奴まで出張ってきたようで、あっさりとステラのハリセンでしばかれて終わった。
ゲームならそこからボス戦への流れなんだけど、最後まで戦闘描写が一切起きない系統の戦闘で終わってしまったな。
「別にいいじゃないか。竜の素材が入ってくればうちの財布の潤うってね。そうすれば、あの禿げどももギルドマスターの席の一つや二つ、簡単に用意するさね」
「気楽すぎるぜ。絶対それだけじゃ済まないだろ」
一方的な戦いすぎて、ドルチェさん的には物足りないようで、不満を漏らしながら望遠鏡から顔を離した。同じタイミングで俺とデントさんも望遠鏡から顔を離す。
「まぁ、戦闘能力に関しては問題ないね。あとは神殿が後ろ盾になってくれるだろうし、話は通しておくよ」
「ありがとうございます」
「いいさね。うちとしても、リベルタ坊やと繋がりを持てるのはいいことさ。あの気に食わない、銭ゲバどもよりも先に繋がれるのもいい話さね」
物足りないと言っても、ステラたちの戦いの方の評価は高かった。
ギルドマスターから見ても、戦闘面の実力には問題ないようだ。
あとはギルドマスターになるための、推薦人だけしっかりと確保すれば、無事にフライハイトに作られる冒険者ギルドのギルドマスターにはなれるだろう。
ひとまず、試験は無事に突破したと言って良い。
「それに、あれだけの実力があれば冒険者ギルドに来る厄介な依頼も、あの子に回せば解決してくれるだろうしね」
「仕事で忙殺するのは勘弁してやってくださいよ」
「そう思うなら、デント坊やのこともあんたが鍛えてみるかい?こいつがあれくらい強くなれば、少しは仕事が減るよ」
あとは、正式に冒険者ギルドからの通達を待つだけか。
さっき冗談のように言っていた竜の素材も、いくつかステラたちに持たせて渡しておくか?風竜か、いや、雷竜の素材を・・・・・そこら辺はエスメラルダとバミューダに相談してからだな。
「追々、検討しておきます。デントさんだけなら問題ないんですけど誰も彼もとなるとさすがに困るので」
「だろうね」
「ドルチェさんは強くなることに興味はないので?」
そして強くなったステラたちを見ていて、いかにして冒険者ギルドの依頼の中でも未解決の依頼をこなさせるかを考え始めたドルチェさん。
ギルドマスターのドルチェさんでも攻略できない高難度クエストを、ステラたちが解決すると言うのはある意味で自然な流れだけど、てっきりドルチェさんも鍛えて欲しいと言ってくるかと思った。
「おや?こんな老いぼれでも強くなれるのかい?」
その理由は単純で、年齢的に厳しいと思っていたからのようだ。
「王都の冒険者ギルドのギルドマスターに大きい貸しを作れるというのなら多少の手間は惜しみませんよ」
ガトウという高齢者でも普通に、クラス7までは育成できる。
いまの環境ではそこまでが限界で、無理をすればクラス8の途中までいけるくらいだ。
そこまでする必要はないけど、現状よりはドルチェさんが確実に成長できるのは確かだ。
「カカカカカ!強かだね。そういうのは嫌いじゃないよ。なら、暇を見て頼むかね」
「おい!ギルドマスターにこれ以上力を与えたらヤバいだろ!?」
政治の駆け引きはではなくシンプルな貸し借りの話は、ドルチェさんにとってもいい話のようで暇を見てフライハイトに来ることが決まった。
デントさんが焦っているけど、焦る理由に心当たりのない俺は笑顔でそれをスルー。
いざとなったらデントさんも鍛えるからそれで勘弁してほしい。
「そうと決まれば、暇を作らないとね。ほらデント坊や帰るよ」
「いや、だからなんで、俺の襟をつかむんだよ!?歩いて帰れるっての!?」
引きずられてツリーハウスから出ていいのか?
『ギャアアアア!?』
『ハハハハハ!この程度の高さで悲鳴を上げるんじゃないよ』
案の定、あの姿勢のまま自由落下を敢行したようで、デントさんの悲鳴が響く。
ピンク髪の中では例外的にまともな部類だけど、ドルチェさんはドルチェさんで破天荒なところがあるからな。
デントさんの苦労が感じ取れる悲鳴を聞きつつ、俺も次の行動に移る。
隠れ里の方が制圧されたのなら、おそらく邪霊ケラスの封印地の方もすぐに見つかるはず。
ツリーハウスから出て、俺も飛び降り、背後に御庭番衆が続くのを感じてそのまま隠れ里の方に進む。
時折、エンターテイナーたちが荷車を引いて邪神教徒たちを運んでいるのを横目に、鎮圧された隠れ里の入り口から堂々と入る。
戦場となっていたからには、相応に荒れているだろうと思っていたが、魔法を撃った痕跡や武器が振り下ろされてえぐれた地面は散見されるが、作っていた建物自体はそこまで壊れている様子はない。
あそこまで一方的な戦いになると相手側の被害も減るよなと思いつつ、水を飲んで休憩しているステラたちの方に歩みを進める。
「よっ!どうだった?」
「・・・・・緊張していたのが馬鹿らしいくらい一方的だったわ」
「ああ、だが、この武器だからできたことなのかもな」
汗はかいているが、怪我をしている様子は無し。
一方的に包囲攻撃されていたからかすり傷くらいはあるかなと思ったが、それもない様子。
「装備も優秀だったわ。何回か攻撃が掠ったけど全部弾いてたわね。布系統の装備ってすぐにダメになるけど、この装備は全然違うわね」
「精霊が丹精込めて作った装備だから、質が違うのだよ質が」
防具によって身を守られたということもあるようだ。
これを作った次女さんには後で、感謝しておかないといけないな。
ニヤリと笑って得意げな顔を作ればステラとアステルは苦笑し、わかっていると頷き返してくれた。
「まぁ、あの子たちは納得できないみたいだけど」
「仕方ない。俺たちの方は一見して強そうに見えるがあの二人の装備は、な?」
そんな高評価なステラたちとは一転、ライナとジュリの黒子姉妹はジトっとした目で自分の装備を睨みつけていた。
その顔はなんでこんな見た目なのに高性能なのかと、納得のいかない様子をありありと表現していた。
俺に文句を言わない辺りは自重できているようだが、視線までは制御できていない。
まぁ、それに触れる必要もないだろうと俺もそこはスルーしてステラと向き合う。
「・・・・・これから里の方を見て回るけど、ステラたちも来る?」
「そうね、ここにいても帰るだけよね?」
「ああ、戦闘も予定よりも早く終わったからな」
「残党の方も、エンターテイナーが索敵して排除しているから安全は確保されているぞ」
その目的は俺たちが探している、この里にある本命だ。
邪霊ケラス。天使より与えられたクエストの救済対象だ。
「そうね、じゃぁ、一緒に行くわ」
「ああ、貴方を見ていると学びを得られる」
「あなたたちはどうする?」
「ステラが行くなら、行くわ」
「では、私も」
それが封印されている土地を見るために、ステラたちを引き連れて隠れ里の奥に進む。
と言っても、エンターテイナーたちが探し回っているのなら、だいたいの目星はついている。
「ここだな」
「何これ、すごい魔力ね」
「だが、ここまで近づかないとわからなかったぞ?」
「精霊の力よ。これ、たぶんだけど高位精霊の力でやった封印ね」
「ライナわかるの?」
「ええ、光の精霊も協力しているからなんとなくだけど」
隠れ里の奥の方にあるストーンサークル。木々が生い茂っているかと思ったが綺麗に掃除されているからすぐにそこが封印地だとわかった。
近くに掘っ立て小屋が建設されていて、その中をエンターテイナーたちが捜索している。
邪神教会がこの封印地を発見して、掃除したのは明白。そしてライナの言う通りこの封印を作ったのは精霊だ。
ストーンサークルの石の一つに触れるライナは光の精霊を感じ取ったようだが、サークル内の地面を見れば俺も大きな魔力を感じ取ることができる。
しかし、ストーンサークルから一歩外に出ると途端に魔力を感じることができなくなる。
精霊の封印による完全な認識阻害。
意識してストーンサークルを見ないと、認識がずれるような感覚も味わう。
視点がぼやけると言うか、それを見る必要がないように誘導する意思を感じる。
それによって封印地からモンスターや盗賊を引きはがすことを想定しているようだ。
「おーい、リベルタちょっと来てくれ」
「わかった」
ストーンサークルを観察していると掘っ建て小屋からジュデスが出てきて手を振り俺を呼ぶ。
何か見つけたのだろうか。
招く手に従って、掘っ建て小屋の中に入るとそこはテーブルが一つあるだけで、その上には色々な書類が置かれている。
「これを見てくれ」
「これって」
その中で、唯一の本があって、俺はなにが書かれているか見ると。
「合成獣、キメラの実験記録?」
随分と古めかしい本は、この地に封印されているはずの精霊ケラスと関係のある書物であった。




