12 コスプレ
神の敵というのは神の実在するこの世界では宗教的観念からみると決して無視することができない存在だ。
それは狂信者の集団である邪神教会という組織であれば、尚更だ。
うっかり、冗談でも信仰心の篤い人の前でその言葉を発しようものなら、この世界なら血を見るような凄惨な結末を迎えてもおかしくはない。
そんな言葉を、狂信者で溢れている邪神教会の隠れ里に行って、明言して挑発しようものならどれほどの効果があるだろうか。
少なくとも、最初に聞いた者からあっという間にブチっと堪忍袋を破裂させて襲い掛かってくるのは明白だ。
だけど、それだけでは弱い。
強力な効果はあっても万全の効果までは見込めない。
少なくともFBOでは神敵がやって来たぞと叫ぶだけでは、全員までは釣れなかった。
ならさらに何をすればいいかという話になる。
「うん、皆、似合ってるな」
ここは、邪神教会がせっせと建設している隠れ里の南に位置するエンターテイナーたちの隠れ家。
そこで俺は腕組をして、前に並んだステラパーティーの面々を見る。
「ずいぶんと凝ってる衣装ね。まるでこれから舞台に上がるみたい。というか見覚えがあるわね」
ステラの格好は、青を基調とした勇者を彷彿とさせる派手な恰好。青い騎士のような服に背中に羽織る純白のマント。
「事実、舞台とかで使う衣装を参考にした装備だからな、聞いたことない?蒼騎士ファナの舞台劇」
「有名な舞台ね。色々な街の舞台役者が演じる王道の劇。邪神討滅を掲げて冒険の旅をする話よ・・・・・そういうことね、道理で見覚えがあるはずだわ」
「そして、年に数回は邪神教会に襲撃を受けるくらいにヘイトを存分に買っている舞台でもある」
その恰好はステラが説明した通りの舞台劇の主人公の格好だ。
この物語は史実に基づいた話で、実際に邪神を倒すために世界を旅し、邪神教会と戦ったことがある経緯を持つ英雄の話だ。
「・・・・・まさか」
「おう、そのまさかだ。その恰好をした人物は邪神教会の方では有名な神敵でな。当然だけど、向こう側の話だと神に背く悪しき存在として教え込まれるわけだ」
「そんな恰好をした私がそこに行けば、存分に怒りを買えそうね」
そんな存在が邪神教会の信徒にとって面白い存在に映るわけもなく当然目の敵にしている。
自国の英雄他国の仇敵とはよく言った物だ。
「となると、俺の格好も?」
「アステルは舞台とか見ないか?」
挑発するなら、とことんまで演出をして挑発をした方が効果的だ。
ステラの後ろで体の動きを確認していたアステルは、俺の話を聞いて自分の巨躯にあった衣装をあらためて見下ろした。
「私の衣装が蒼騎士ファナの舞台演劇の衣装だとすると、アステルの格好はヘザね」
「ヘザ?」
「冒険王ヘザ、冒険者たちにとっての憧れじゃない。何で知らないのよ」
黒鉄を彷彿とさせる皮鎧。その鎧はアイアンベアと呼ばれる、毛が鋼鉄並みに硬いモンスターを素材としているからそういう風に見えている。
その黒い皮鎧を愛用し、大剣を振り回し、正義と冒険を愛した男の物語がアステルの衣装の原点だ。
「世界中を冒険して、様々な難関を突破したことで舞台の物語になった人物だ。東西南北の大陸はもちろん中央大陸での活躍もあったとされる、今から五百年ほど前の人物だ。その数々の冒険の中には邪神教会をぶっ飛ばす物語もあってな。当人の手記と伝わる文献からそのシーンが舞台で再現されて、それはもう痛快に邪神教会を倒している話がある」
「・・・・・話の流れから察するに、ヘザという男も邪神教会から嫌われているということか」
「蛇蝎のごとくな。そのヘザって男はさらに邪神教会にとらわれていた美女を救助したことでも有名な男で、舞台の最後はその女性と結婚してめでたしめでたしとなるわけだが」
冒険者の逸話としての舞台は、アクションシーンが多くて、受けがいい、さらに当人の手記から再現した話とあって、歴史的価値もある。
まぁ、今回はその歴史的価値はどうでもいい。
「その美女って言うのが邪神教会では中々いい地位にいる女性でな。端的に言うと邪神に捧げる生贄として、純粋に育て上げられた鳥かごの女性だ。それはもう丹精込めて育て上げ、誰が見ても美しかったと手記で語られている。舞台でも演じられているし、この冒険王ヘザの物語の一番の見どころは、成人の日に純潔のまま邪神に命を捧げさせ、生贄の儀式を成そうとした邪神教会から、その美女を当日に目の前でさらうように奪い去るというシーンだ。それは舞台の観客からしたら拍手喝さいの勧善懲悪の物語だ。だけど、それを歴史として学ばされる邪神教会の信徒の心情はどうなると思う?」
重要なのはヘイトを買えるかどうかという点に限る。
「・・・・・殺意が湧くだろうな」
「ああ、聞けば、今でも邪神教会のブラックリストのトップファイブに入っているらしい。蒼騎士ファナの演劇よりも舞台警備が厳しいのはそういうわけらしいぞ?」
話題性、認識性、ヘイトを稼げるという点において、前衛を務めるアステルにはうってつけの衣装というわけだ。
「とある話では、舞台を観た後にその衣装をまねて着込んだ冒険者を、当日に邪神教会が襲ったという実話もあるくらいだ。今度デントさんに聞いてみろ。ヘザの衣装をイメージした防具を作ろうと思うってな。絶対に止められる」
ヘイト管理というか、ヘイト集中要素てんこ盛りの装備をアステルはしみじみと見ている。
「それくらい邪神教会にとっては嫌な奴認定を受けている衣装だけど、大丈夫そう?」
「装備の質は問題ない。敵の意識が俺に集まるなら、俺の役割をこなすだけだ」
「OK、気負ってないな」
怖気づいていたら、衣装変更も考えたが、アステルは問題ないと頷いた。
「どちらかと言えば、武器の方が心配だ。いや、実際に訓練で使い実用性は実感できているが、本当にこれで行けるのか?」
そんな衣装装備とは裏腹に、今回支給された武器に関して不安を感じている。
「由緒ある、鎮圧武器だ。性能は折り紙付きだぞ?ネタ武器だけど」
アステルの背にはフライハイトで鍛冶もできるパーシー工房製の大剣が背負われているが、今回の戦いで使うメインウエポンはアステルの手に握られている武器だ。
いや、武器と言って良いのか。
その見た目は吉本新喜劇とかでたまに見るような代物、ハリセンだ。
白い本体は交互に折り目を作られ、打ち付けられたときにきっと小気味よい音を響かせると確信させる構造をしている。
弱者の証によって不壊属性を付与され、決して壊れないハリセン。
普通に武器として作った場合は、ステータスゴリ押しでダメージも出すことができる代物になるところだが、そこは数多のネタ武器を作り上げたFBOに染まりきった俺が監修した武器だ。
対暴徒鎮圧用兵器『HARISEN』とFBOでは呼んでいた代物で、デメリット効果である与ダメージ減少を付与し、それを代価として呪術のスキルの中にある気絶効果を持つスキル『意識飛ばし』の効果を増大させて、さらにスタンスキルを付与させて気絶確率を上昇させる。
「おまけに、素材もこの世界で入手できる最高級の紙をつかった闇さんも納得の逸品だぞ?下手な武器より性能はいいし、それの素材の費用だけで家くらいは買える」
「・・・・・性能は理解できる。実際、ゲンジロウさんの刀を受け止め打ち合える性能を持っている」
「あれは面白かったよな。打ち合うたびにスパン!っていい音が響いてたよなぁ」
そんな装備に付与するスキルを増やすために素材も妥協していない。
何気にアステルが背負っている大剣よりも高価な素材を使っていたりする。
「今回の戦闘は非殺傷がテーマだからな、そういう武器になるんだよ」
「でもなかなかシュールよね。全員の武器がこれなんだから。見た目が締まらないわよ」
サイズも大剣クラスの大型のハリセンを構える英雄衣装のアステルは、中々シュールな見た目をしているが、そのシュールさに反比例するように武器としての性能はいい。
ステラの腰には普通の武器も装着されているが、メインウエポンは片手剣ほどのサイズのハリセンだ。
「それで?私たちの格好の説明がないのだけど?」
そんな双子の兄妹の武装と装備を説明していると、苛立つようにライナの声が響く。
「え?後衛が目立ったらいけないと思ってそれ専用の装備にしたんだけど?」
「それはわかるけど、なんで全身真っ黒なうえに、こんな布で顔を覆わないといけないのよ!?」
ステラとアステルの格好はいうなれば、主役級の格好だ。
目立ってなんぼという意志をありありと感じ取れるほど、明確に意図してそういう格好をさせた。
対して、ライナとジュリの格好はどうだ。
「いや、後衛が目立っちゃだめでしょ。前衛のヘイト管理の問題もあるし」
ライナの説明した通り、ライナとジュリの格好は目立たないことを前提と言うか、そこにいない者として取りあつかってくれと言わんばかりの格好だ。
そう、彼女たちの格好は『黒子』
目立つことを前提としたステラとアステルの格好と正反対に、目立たないことこそ絶対とさせる衣装を着た二人がそこにいる。
「わかってるけど、もう少し何かあるでしょ!!普通の装備でいいじゃない!!」
普段の美少女とは打って変わり、本当に目立たない黒子という印象しか持たせない辺り、次女さんはいい仕事をした。
それくらい完璧な黒子を作り上げた装備と俺は断言する。
「やるなら徹底的にだ。それにその装備を舐めているかもしれないが、性能的にはエンターテイナーたちにも実装したいくらいに隠密性に特化した装備なんだからな。妥協せず、しっかりと素材からこだわっているからバンバン回復魔法を使いまわしてもヘイトが向かわない」
そんな装備に不満が出るのはやはり、女性としてファッションを気にしたいからなのか。
「落ち着いて、ライナ。仕方ないよ。後衛の私たちが目立って襲われたら大変だもの」
「ジュリはいいの?こんな格好で」
「まぁ、女の子のする恰好ではないよね。ただステラさんたちの格好と差がありすぎるのはちょっと・・・・・」
そこは今回は意図して無視した。
なにせ、ヘイト管理というのは戦闘でもかなり難しい分野の作業だ。
それを正確に管理するのに装備を妥協するのは愚の骨頂。
姉妹の不満は、あとでステラに解決してもらおうと視線を向けると、ステラは苦笑して、拍手をして注目を自分に集めた。
「はいはい、文句は仕事が無事に終わってから祝勝会の席で言いましょ。今は仕事優先ね。この戦いには私たちの将来がかかっている。レベリングから装備、そして情報、作戦、すべてをここまでリベルタさんにお膳立てされて、これで失敗したら目も当てられないわ」
パーティーリーダーとして自覚しているからメンバーの不満を逸らして仕事に集中させる流れを生み出した。
今着ている蒼騎士ファナの衣装も相まって、カリスマ性を感じさせる。
ただ、それでもパーティーの半数が黒子という事実に、内心で笑いを必死にこらえている俺がいる。
「やるわよ!」
「ああ」
「仕方ないわね」
「はい、頑張ります」
そんな俺の内心を知ってか知らずか、団結を示すステラパーティが邪神教会に挑むのであった。




