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11 座学

 

 肉体を鍛え、技術を鍛え、なら次に鍛えるべきは知識ということになる。


「さてさて、楽しい楽しい座学の時間だよ。居眠りしたら俺の全力チョーク砲が火を吹くぜ」

「リベルタさん。あなたが本気で投げたらぶつけられた私たちの頭が大変なことになるわ」

「大丈夫、投げる前に俺の握力でチョークが粉々になるから飛んで来るのは粉塵だ。汚れるだけで済む」

「それも、嫌だな」

「だったら居眠りしなければいい」


 戦いにおいて肉体スペックというのは非常に重要だ。しかし、それと同じくらいに知識も重要だと俺は考える。

 戦うにしても、考えることは必要だし、その考える行為の幅を増やすために知識は重要な糧になる。


 教壇に立つことなんて、前世では経験したことが無かったが、俺の発案でこんな立派な学園を作ったからには、その教壇立つこともあるだろうとは思っていたが、その初めての機会がステラたちの座学だとは思わなかった。


 ステラのツッコミは今日も中々いい切れ味。そんな感想を抱きながら手元でチョークをいじりつつ授業を始める。


「さてさて、本日の授業は君たちの出世の礎になる邪神教会の倒し方についてだ」

「なんだか言い方に悪意があるわね」

「悪意はない、ただ事実を言っているだけだ」


 この世界では学園のように公的な教育機関に通えるのはごく一部の富裕層の子弟のみ。なのでそういった知識は現場に出て得られる継承のみになるケースが多い。

 だから、教壇に立つという行為ができる機会自体が中々ないわけだ。


 ライナのツッコミも華麗にスルーしつつチョークを黒板に走らせて文字を書いていく。日本語で認識しているのにこの世界の文字がかけるのはやっぱり便利だな。


「まず最初に、こちらから質問。この中で人を殺したことがある人」


 邪神教会との戦闘は基本的に対人戦だ。

 主要な構成メンバーが人間なのだからそれも当然。

 FBOの世界であれば、ゲームの延長線上で対戦相手と戦いそして倒し殺すことも当然あったが、現実世界ではそれはそう簡単にできるものではない。


 この質問で挙手したのは。


「なるほど、全員か」

「盗賊討伐で経験済みよ」

「うん、全員卒業しているなら話が早いな」


 なんと四人全員だ。日本では考えられない経験を全員が積んでいる。

 相手に関しては盗賊という犯罪者、その討伐は冒険者ギルドではありふれた依頼内容である。

 その事実はこの世界の治安の悪さを物語っている。


 そして人を殺すことに嫌悪感を抱きつつも、それを実行できるということは戦いの場面で大きな差を生む。

 主に難易度という点だ。

 人を捕らえて無力化するのと、人を殺して無力化するのでは、その難易度に大きな差が出る。


「今回発見し、監視している邪神教会の拠点にいる人数は五百人前後。その内純戦闘員は八十人から多くて百人だと推定される」


 加えて、相手の方が人数が多い場合はより難易度が跳ね上がる。

 全員捕縛して無力化するとなると広域魔法で眠らせたりする状態異常攻撃で無力化するのが一般的だが、その手の魔法は専用スキル構成をしても耐性などで無効化されるケースが多い。


「ただこれはあくまで、向こうの戦力の中で戦闘経験が豊富な人員がそれくらいの数いるって話だ。邪神教会を敵に回した場合まず間違いなく、五百人全員が襲い掛かってくる」


 戦力として有効になるかならないかの判断も難しく、それを当てにするのはリスクがでかい。

 それを踏まえて無力化の方向でいくなら相応の準備がいる。


「今回のケースで彼我の戦力比は1対125。戦力差は125倍。普通に考えれば無謀な戦闘になる」


 そして今回使える戦力は、冒険者ギルドで下っ端からいきなりギルドマスターになるというステラたちの飛び級のような出世を果たすために、俺たちフライハイトの戦力は基本的に使えない。

 ステラパーティー単独攻略になる。


「相手の強さは、最大でクラス4が二名、クラス3が十名から十五名程度、他はクラス2が大半で、作業員はクラス1がほとんどだ」


 彼女たちが勝っているのはレベルとステータス、そして装備だ。

 これだけ用意すれば、油断さえしなければ無双ゲームのように相手を鎧袖一触で討滅できる。

 それを確信できるくらいに鍛えている。

 そもそも相手はEXBPも知らない、最強育成方法も知らないというステータスがお粗末すぎる育成しかしていない連中だ。


 人数だけは多いが、ステータスは圧倒的にこっちが有利だ。


「武具もそこそこ揃っているし、物資も潤沢ではないが揃ってはいる。一見すれば大戦力で、危険な集団ということになる。しかし、殺すことを前提に真正面から挑めば今のお前たちなら間違いなく全滅させることもそう難しいことではない」


 それだけレベル差というのはこの世界では重要なのだ。

 ステータスが高い分攻撃力が上がり、耐久性も増す。

 一方的に命を奪える状況が、この段階で揃っている。


「だが、しかし、殺戮で結果を示しても恐怖で周りが委縮して、今後のギルド運営に影響が出るし、『殺戮者』とか『殲滅者』とか付けられたら異名としては正直俺は微妙だと思っている」


 そしてその前提は、俺が用意したあくまで最低限クエストを攻略できる保証があるという内容だ。

 ひとまずクエストを攻略できる手段は用意したという、いわば保険のようなものだ。


「なので、こいつらすごいって思わせる、完全無力化で攻略を進めようと思う」


 黒板に再びチョークを走らせ、こっちの世界の文字で完全勝利と書く。

 ここにいる面々は文字が読めるから問題ないけど、普通のこの世界の住人なら首を傾げて何を書いているのだろうという話になる。


「・・・・・人殺しの経験の有無を確認したので、てっきり討伐で動くかと思いました」

「殺しができるか云々はあくまで安全の確保のための保険だ。いざという時に殺せませんと言われたら相手に侮られて危険だからな。正直、経験がないと言ったら半分くらいは討伐して残りを無力化っていう方針で経験を積ませるつもりだった」


 俺の話の振り方的に、殺しで解決するものだと思っていたジュリの言葉に俺は笑いつつ、黒板に絵を描き始める。


「その必要がないから、殺戮よりも都合のいい無力化による捕縛をメインにした動きを教えることにした」

「都合がいい?」


 絵心はそこそこあるので、一応見れる絵にはなっていると思う。

 村と邪神教会の絵を簡略して描いたもので、作戦の説明をするにはいいとは思う。


「そう、討滅による邪神教会問題の解決は一番簡単で、相手の勢力を消耗させる手段としても優秀だ。相手は戦力を削られ、拠点を減らすことになる。しかし、それ以上がない」


 その絵の隣に討滅と書き、そしてそのメリットデメリットも書いていく。


「次に捕縛。これに関しては幹部みたいな人物を捕縛できれば、最悪他は全滅させてもいい。欲しいのは情報、だから幹部を捕獲し神殿に引き渡すことによってステラたちは神殿から覚えが良くなる。そして次回から困った時とか新しい邪神教会の拠点を見つけた時に自力で解決するよりも神殿と協力体制が敷きやすくなる」


 それを書き終えて振り返るとジッと見つめるステラたちの顔が見える。

 授業あるあるの眠気に襲われている様子はない。まじめに聞いている。


「ようは、ギルドマスターになった時に神殿との関係がそれなりに良くなるってわけだ。皆が知っていると思うが、ギルドによってはその土地の権力者や神殿との関係が微妙なことがある。主に利権や、方針、あるいは組織とのつながりが理由で」


 実際に経験しているわけではないが、FBOでは色々とあったからそれを語っているだけ。しかし、それはステラたちにも経験のある話で、顔に出やすいライナはちょっと何かを思い出したのか眉間に皺を寄せている。


「あとはギルドマスターの個人的な主義主張に振り回されて、そのギルドの方針として一部の組織と関わるなとか冒険者に圧をかけることもある」


 経験があるなら話が早いと、黒板に手を伸ばし、ノールックで文字を書きつつ、説明を続ける。

 文字はしっかりと書けている手ごたえを手元で感じつつ、目はステラたちに向く。


「ギルドの支部ごとに雰囲気が違うのはそういうわけだ。そして支部ごとの雰囲気によって所属する冒険者の質や方向性が変わる。まじめで堅実なギルドにはその雰囲気が合致している冒険者が来るように、アウトローのような雰囲気が漂う賄賂が横行していそうなギルドにはそういう冒険者が集まる」


 このフライハイトのギルドマスターになるのなら、ある程度俺の意思を介在させておきたい。


「そういう意味で、殺戮よりも捕縛による実績で神殿と良好な関係を築けている冒険者ギルドマスターの方が都合がいいというわけだ」


 アウトローが集まるような冒険者ギルドは治安面でよろしくないし、邪神教会の拠点として活用される可能性も十二分にある。

 それを避ければ、自然と善良で真面目な冒険者が集まって、フライハイトにも良い風が吹き込む。


「なるほど、確かに管理しやすい冒険者が集まるのはいいわね」

「ああ、真面目な冒険者が集まればクエストもスムーズに消化される。そうすれば商人も集まり、経済効果も高い」

「アステルの言う通りだな。評判のいい冒険者ギルドのあるところに銭ありと商人たちはよく言うだろ?まぁ、評判の悪い冒険者ギルドのところにも一定の需要はあるわけだが、だいたいそういうギルドに持ち込まれるのはグレーと言い訳するのも難しいくらいにブラックな依頼が多いな」


 フライハイトの冒険者ギルドを構築するにあたって、俺の都合のいい方向に誘導しているが、その理由を説明すれば将来のギルドマスターであるステラは納得し、副ギルドマスター予定のアステルも理解しているのか頷いている。


「とまぁ、邪神教会との戦いでは捕縛の方が都合がいいというのを説明したが、肝心の捕縛方法が無ければこの話も意味がない」


 好意的に受け取ってもらっていると判断して、話を進め本題に入る。

 何せ捕縛する方法がないと意味がない。


「まず初めに、邪神教会とことに当たる場合一番重要なことを説明する。あいつらは、自分から攻めてこない限り基本的に逃げ腰だ」

「どういうこと?」

「襲撃されたらよほどの理由がない限り、まず逃げる。それは脱兎のごとく迷いなくその場から逃げ出して散り散りになって、近くの街や村に逃げ込んでは迷惑をかける」


 そして邪神教会が今日まで生き延びてきた理由の一端を説明すると、ステラが困惑気味に首を傾げる。


「あいつらは殴り掛かるのは良しとしても殴られることを良しとしない。襲われたら即座に逃げ出す」

「反撃はしないのか?」

「するやつもいる、狂気的に暴れるやつもいる、その間に大半がいなくなる」


 アステルも訳が分からないと言わんばかりに首を傾げるが身勝手な集団なのが邪神教会なのだよ。


 気持ちはわかると頷きつつ。


「なので、初手を間違ったら厄介な奴らが散り散りになるから気を付けるように」


 過去にFBOで初めて邪神教会を襲撃し失敗した経験を思い出す。

 あれは面倒だった。見つけたから完全装備で拠点を制圧しようとしたら、一斉に逃げ出したのだから呆気にとられたよ。

 そして、周りの街や村から食料とか金品を奪う。


 失敗したら周辺の治安が悪化するんだよね。


「その初手とは何をすれば良いの?」


 それを避けるためにライナの質問に合わせて答える。


「なに、簡単なことだ。たった一言、大声で相手に聞こえるように叫んでやればいい」


 ニヤリと口元で笑い、この一言を見つけた後の効率の良さと言ったらないと思う。


「『神敵が来たぞ!』と、これであいつらの狂気に火が点る」







今回も楽しんでいただけたのなら幸いです。


そして誤字の指摘ありがとうございます。


もしよろしければ、ブックマークと評価の方もよろしくお願いいたします。


コミックス一巻と書籍第二巻発売中!そしてカバーイラストも公開!

絵師であるもきゅ様に描いていただきました!!


今回はエスメラルダと背景に這竜を描いてもらいました!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
釣りのパワーワード過ぎるw
どんどんリベルタに汚せ…調きょ…色にそ…影きょ…感化されていくね!
解決方法雑スギィ おかわり、おかわりの挑発ワードはないんですか!!
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