24 邪霊 1
お休みありがとうございました!!
ペルソナに手を出して、時間があっという間に過ぎてしまいました(汗)
今日から投稿再開いたします。
2日で一話ペースになりますがよろしくお願いいたします。
「どちらからか・・・・・それじゃ、悪い方で」
一難去って、また一難。
悪いことというのはよく、重なるというが。
「今回の神殿による邪神教会の大規模討伐により、少なくない貴族の家が摘発されましたわ」
「それは、まぁ、そうだろうな」
悪い話と良い話、その二つをどちらかから聞くかと問われれば、良い話は後に取っておくのが俺だ。
行儀は悪いが、真剣な表情のエスメラルダが悪い話だと断言した以上、聞かないわけにはいかない。
背もたれに寄りかかり、少しでも気楽にならないとストレスで禿げる。
このふさふさになった髪が薄くなるのは何としても避けたいので、心の準備をしつつエスメラルダに話を促すと、彼女は了承の頷きを見せ、それから話し始めた。
話し始めたのは悪いことをしていた貴族が捕まったという、朗報ともつながる話。
そして大なり小なり、邪神教会と繋がりを持っている貴族はいるだろうから、今回の騒動で炙り出されるのは予想できた。
「神殿の動きを聞きつけ、証拠を隠滅しようとした家、摘発前に逃亡した家、素直に自白した家と様々ですが、今の王都は混乱真っただ中ですわ」
それによって生じる王国の貴族階級の再編、そして発生する治安の悪化。
エーデルガルド公爵の元にいる文官衆はきっとフル稼働で働いているだろうし、治安維持のために私兵も動員しているだろう。
エスメラルダの顔に焦りが無いということは、そこまで危惧するほどの混乱は無いということ。ここまでの内容に「最悪」と言い切れるほどの要素が無いのも、すべては本題への前振りに過ぎないということだ。
「その混乱に乗じて、何かをした。いえ、エスメラルダ殿の話を聞く限り逃亡した家が問題だということですな?大方、邪神教会に資産をもって合流したと言ったあたりですかな?」
「・・・・・その通りですわ」
そしてその前振りを聞いてバミューダが、何が起きたかを察して苦笑を浮かべた。
追い詰められた人間が何を引き起こすか手に取るようにわかるのだろう。バミューダの笑みに応じてエスメラルダも少し疲れた笑みを浮かべる。
妙に的確なのは、バミューダにもそういう経験があるのだろう。
貴族って普段は何でも許されるって思って傲慢に振舞っているけど、こういう時に盛大に落とし穴にはまるよな。
「ということは・・・・・邪神教会の戦力が増強されたっていうのが悪い話?」
「それもありますわ」
「それも・・・・・かぁ。なに?追い詰められた邪神教会と貴族たちが反乱でも起こしてどこかの土地に集結しているって感じかな?」
「その通りですわ」
そして裏切った貴族たちが自分は悪くないと開き直って、権力振りかざして暴走ってパターンはFBOではおなじみの展開だ。
反乱をおこしている方は必死なんだろうけど、普通に考えて悪いことをしたんだから謝って罪を償えって思う。
普通に迷惑。政治の問題なんだろうけど、こういう輩は大抵が正義を掲げているから余計に厄介なんだよ。
「加えて、それが起きた場所が問題でして」
「もしかしてうちの領地の近く?」
「近くはありませんが、反乱が鎮圧された後に出てくる野盗化した残党などが流れてくる問題が発生する程度には近く」
「あー」
そしてエスメラルダが厄介だと言ったのは、その反乱の発生地点が近くはないが、それでも事後処理でフライハイトに問題が発生する程度の場所であるらしい。
というか、北の領地のボルドリンデ元公爵の派閥の貴族は軒並み力を失っているから、今回の件の貴族は東の領地のマーチアス公爵派閥か王家派閥ということになる。
「具体的な場所は?」
「マーチアス公爵家の管轄領地と王族直轄地の境界線上にあり、互いの領地を繋いで交易をしている街、トレンダに集結していますわ」
「そんなシビアな位置の街の責任者を適当に選ぶなよ」
「風見鶏で、世渡りが上手い貴族でしたが、今回の件で色々とバレて首が回らなくなったようですな」
と、思ってたら思いっきり両者と関わり合いのある場所で問題が起きてた。
下手したら、これ、マーチアス公爵と王家との関係に亀裂が入るぞ。
カラカラと笑うバミューダは、その街の責任者の人柄を知っているのだろう。
そして過去に何らかの面倒を押し付けられたとみる。
ざまぁみろと言わんばかりに、邪悪な笑みを浮かべているあたりだいぶ根に持っていたようだ。
「その騒動のとばっちりが俺たちに来ないことを祈るしかないな。ここはお隣さんの国とは別の国だ。隣の騒動に首を突っ込んで余計な面倒ごとを背負いこむ必要はない。ひとまずは様子見と、エンターテイナーたちに偵察をさせて情報収集を」
面倒なことになったとため息を吐いて、そのまま別の話に持っていこうと思った時。
ゾワリと背筋に嫌な悪寒が走った。
なんだこれは?
嫌な存在を感知したと言わんばかりに鳥肌が立ち、思わずあたりを見回すと、この部屋にいる全員が似たような感覚を感じ取っていた。
そして直後に鳴り響く警鐘。
「敵襲ですわ!?」
その警鐘の鳴らし方は、敵襲の知らせ。
そして直後に響く爆発音。
「見張りを掻い潜った?いや、エンターテイナーや御庭番衆の目を掻い潜れるほどの存在なら・・・・・」
「リベルタ様、ご指示を」
「うん、そうだな。御庭番衆が迎撃に出ているはず。市民の避難を最優先で、物は壊れても良い。消耗品は惜しみなく使え。この襲撃に合わせて、さらに外からも襲撃が来る可能性もある」
その爆発音は、城壁の内側で響いたように聞こえた。
第一城壁と第二城壁の間、学園の敷地内での爆発音。
すなわち、第二城壁を越えられたということ。
冷静になって、敵はどうやってうちの防衛網を越えて来たかと考えたが、今はまだ情報が無さすぎる。
なので、イングリットのいう通りまずは指示を出すべきだ。
「バミューダは、城門の方の指揮をしてくれ。防衛と警備に専念。ゲンジロウに襲撃地点に行くように指示を出してくれ」
「承知しました」
「イングリットは冒険者のところに走ってくれ。襲撃されていたらそれの援護を。この部屋の警備の御庭番衆を連れて行ってくれ」
「かしこまりました」
「エスメラルダは学園の方に向かって、ガトウさんと合流。孤児たちの保護、安全を確保してから俺と合流してくれ」
「わかりましたわ」
戦力の分散はあまりしたくないけど、この場合は仕方ないと割り切り、それぞれの方面に出向させる。
こうなることがわかってたらアミナを精霊界に行かせなかったんだが、後悔してもしかたない。
エンターテイナーの新戦力たちの訓練中、それもジュデスとシャリアが同行して本隊から抜けている状態。
さらに出張中のクローディアが抜けて今のフライハイトは戦力が著しく下がっている。
なんというタイミングの悪さ。
「ジンクさんは街の方に戻って住民に避難勧告を。ネルはジンクさんについて行ってくれ、万が一がある。何もなく、避難が完了したら俺と合流してくれ」
「リベルタは・・・・・って本番用の装備を着ているってことは、聞くまでもないわね」
手が足りないから人を育てようっていうのに、全く、本当にトラブルには事欠かないな。
「ん?こんな騒ぎを起こした主犯にお礼参りに行ってくる」
幸い、俺という主力がこの街には残っている。
アジダハーカクラスのモンスターを投入されたらさすがにきついけど、それでも時間稼ぎくらいはしてみせて、その間に戦力を立て直してみせるが。
本気用の槍と、防具を手早く装備して戦う気満々ですとアピールしつつ、装備がしっかりと着込めているかチェックする。
「それじゃ、指示通りに頼む」
緊急時こそ冷静たれ。早着替えの要領であっという間に完全武装した俺は、どこの阿呆がこのフライハイトに殴り込みをかけて来たのかと、嬉々として窓から飛び出した。
開けた窓からは他の面々も飛び出していき、各々行動を起こしているのが見える。
廊下を走るよりも窓から飛び出した方が早いもんな。
そんなことを思っていると、連続での爆発音が聞こえる。
「ほうほう、これは」
「御屋形様!」
そして第一城壁にたどり着き、見下ろしてみると、そこで御庭番衆とエンターテイナーたちが異形の存在と戦っていた。
その姿は悪鬼羅刹か。
或いは修羅と言い換えても良い。
「敵は邪霊か。そりゃ、物理的な城壁じゃ意味ないな」
多腕多面の鬼のような顔。
紫色の炎を身に纏い、通常の人間についている腕のほかに、肩甲骨か背筋付近から生えた腕、腰から生えた腕と、合計三対の腕には合計六種の武器が握られている。
頭部には四方を見るように配置された四つの顔。
そして城壁の半分を超える高さの巨大な体躯。
そんな怪物に対して、御庭番衆が前衛になり、エンターテイナーたちが後衛で支援。
さらに、遠くのこの第一城壁からバリスタが打ち出されている。
「状況はわかった。俺が前衛に出る。サポート頼むぞ」
「はっ!」
御庭番衆たちと互角に渡り合えている。
そのステータスから察するにクラスは7か、あるいは8前半といったところか。
どこのどいつって考えるが、普通に考えれば邪神教会が俺たちを滅ぼすために送ってきた存在だろう。
まったくとんでもない怪物を送り付けて来たな。
普通の街ならあっという間に滅ぶ勢いだぞ。
このまま見ていたら、御庭番衆に被害が出る。
流石にそれはダメだ。
迷わず、城壁を蹴り、戦場に躍り出る。
「属性は火、いや闇も混じってるなこれ。共食い個体か」
地を走り、一気に邪霊の側まで走り寄り、爆炎の吹き消えない地面を突っ切り足元まで行き。
「まずは挨拶の、首狩り!」
右足首を切り裂く。
「ちっ、だから炎の精霊は戦いにくいんだよ」
手応えは有り、そして見事に両断して見せたが、実体が魔力体である精霊は物理的な防御力が高い。
切り裂いた矢先に傷口は紫色の炎に包まれ、何もなかったように足が繋がった。
「おっと」
しかし、攻撃は通るしダメージを与えた分だけ魔力を消費する。
余計なダメージを負いたくない邪霊は、腰の腕が持つ剣によって薙ぎ払い、俺を吹き飛ばそうとした。
宙返りで刀身を回避して、空歩で膝裏まで進み。
「これならどうだ」
マジックエッジで保護し、伸ばした刃で膝裏を思いっきり切り裂く。
それによって二足歩行という人型のデメリットが発生し、巨体は傾くが、その傷も炎に包まれあっという間に修復する。
「んー、レイニーデビルの装備のおかげで活動できるけど。こりゃ、エスメラルダが来るのを待った方が良いか?」
その回復速度から物理系攻撃主体の俺とは相性が悪いことがわかる。
倒すには時間がかかると判断した。
『弱い』
「ほう?」
俺の攻撃にあまり効果がないことに気づいた邪霊の方から、嘲るような声が響く。
『人にしては動けるようだが、このドーラスを相手にするのには格が足りぬわ!!』
笑う顔、泣き顔、怒り顔、無表情。
この四面の顔が首の関節の可動域を無視して回り、そして思ったことを口にしながら、俺の方を向いた怒りの顔が口から紫色の炎を吹き出す。
「格ねぇ」
その炎を真正面から受け止めても良いけど、当たったら熱そうだから回避を選択。
御庭番衆とエンターテイナーたちは物理寄りで、こういう魔力生命体とは相性が悪い。
「魔法部隊の育成って時間と手間がかかるから後回しにしてたツケが回って来たか」
嘲る邪霊の声を敢えて無視する。
「気にするな!無駄だと言っているのは無理をしているだけだ!切れ!徹底的に切り刻めば!こいつは消え去る!」
「「「「「おう!」」」」」
というか、襲ってきた相手と会話するよりも、効率的に処した方が良い。
そうして物理アタッカーでも魔力体の敵を倒し切れることを見せようと思った時。
『精霊の面汚しが!!』
闇が槍となり襲い掛かり。
稲妻が天より降り注ぐ。
「闇さん!次女さん!」
振り向けば城壁に立つ、このフライハイトに住む上位精霊の二人がそこにいるのであった。




