25 邪霊 2
物理が効きにくい相手に対して、物理アタッカーオンリーで削りきろうとした矢先の、闇さんと、次女さんの参戦はかなり都合がいい。
属性的な話で言うなら、光の精霊か水の精霊の方が良いのだが、それを言っては贅沢だ。
今ここでは、魔法攻撃主体のユニットの参戦はこの戦いには大きな追い風となる。
『会長!助太刀するぞ!』
『まったく、騒がしいと思ったらあんたがいるとはね』
追い風となるであろう二人とこの邪霊はお知り合いのようで。
「知り合い?」
一旦距離を取ると、闇さんと次女さんも俺のすぐそばに降り立ってくる。
俺の左右に並ぶ形で立った二人は、俺の方を見ず邪霊ドーラスを見る。
御庭番衆とエンターテイナーたちが包囲して牽制しているからこっちに攻撃を仕掛けてくる様子は今のところはないが、上位精霊である二人が現れたことで、多面の顔の一つをこっちに向けて、じっくりと見つめた後。
『なんだ、喰われるために出てきおったか』
同胞のはずなのに、食料を見るような眼で見つめ舌なめずりをした。
『某の知り合いに気狂いの類はおらん』
そんなドーラスの顔を見て不愉快だと顔をしかめ、知人であることを否定する闇さん。
反対側に立つ次女さんも、舌打ちをするほどに嫌悪感をあらわにして。
『私もよ、でもあいつのことはよく知ってるの』
掌に雷を迸らせた。
「ドーラスって名乗ってたけど・・・・・もしかして、反乱のドーラスのこと?」
『会長知っているのか?』
精霊がここまで嫌悪感を示すほどの存在、そしてドーラスというネームド精霊。
さらに言えば、同胞である精霊のことを食料と認識している気狂い。
となってくると、俺も知っている邪霊がいる。
「精霊王選定の際に、その座に就くために名付けた契約者を喰らい、そして愛すべき妻を喰らった簒奪者。善性を喪い、力に溺れ、堕ちた精霊。名を名乗った時から薄々思ってたけど・・・・・」
しかし、俺の知るその精霊はもっと人の姿からかけ離れていた存在だ。
こんな阿修羅のような人型ではなく、もっとおぞましい怪物。
それは精霊を喰らい続け、魂が歪み、生き物としての形を成せなくなった、異形の邪霊。
力を欲し、そして力に執着しすぎた故に、精霊ともモンスターとも言えない何かになった存在。
それは邪神教会が丹念に毒を盛り込み、魂を歪め、教会にとって都合のいい存在へと変貌させたある意味で哀れな存在。
「元の姿ってこんなんなんだぁ」
うわごとのように呪いの言葉を吐きながら、魔力を求め、徘徊し、喰らい、破壊を繰り返すだけの存在で、再生能力が異常に高かった記憶があるが、こんな俺様気質な精霊ではなかった。
理性は溶けて消え、捕食者としての欲求しか残っておらず、ストーリーでは倒すことしかできなかった存在。
それが俺が知る邪霊ドーラスだ。
『まるで、こやつの別の姿を知っているような口ぶりだな』
「まぁ、一応?知恵の女神の使徒ですからね」
『なんで疑問形なのよ』
こうやって、対面し会話をしながら戦えるような輩では決してなかったから確信はなかった。
ストーリー上も、会話ができなかったから過去回想なんて便利機能なんてなかった。
ゲームのエピソードトークでは、邪神教会がうんたらかんたらと語られて、どうやってこんな怪物を生み出したかという経緯とドーラスという名前だけが語られている。
唯一知れるのは、精霊王との会話で少しだけどうして邪霊となったかという経緯が語られているが、姿かたちに関しては全く触れられなかった。
次女さんと闇さんが、反応してくれなかったら確信を持てぬまま倒していただろう。
「まぁ、それは後に回して、いまはこいつをどうにかしますか。うちの庭に精霊回廊で乗り込んできて破壊活動に勤しまれても困りますし」
『それもそうか』
『そうね、倒してからゆっくりと聞けばいいわね』
そして、二人は躊躇わずそのまま戦闘態勢になった。
それはすなわち。
「確認ですけど助ける必要は?」
『なくてよい。我らの味を知り、それを是とするこやつは最早同胞ではない』
『同感ね。空腹で苛立っている肉食獣の隣で生活なんてできないわよ』
「了解です」
この存在は精霊からも見放された、邪霊という名の、ただの怪物ということになる。
『ふん、上位精霊が2人加わった程度でこの俺に勝てると思ったか。浅はかなり、なんと浅はかな奴らだ』
「そうか、そうか。お前の認識ではそうなんだな」
ならば遠慮は無用だ。
遠くからの視線、きっとこの騒ぎを聞きつけて冒険者やカティアといった連中が見ているのには気づいているが、フライハイトの戦力の宣伝がてらこいつを蹴散らすとしよう。
「なら、その認識のまま死ね」
遠慮はいらない。
そんな言葉によって、俺の中のスイッチが入り完全に戦闘モードへと移行した。
前傾姿勢になる。
それはこれから突撃しますよと言わんばかりの体勢。
「二人は遠距離からの攻撃に専念してください」
『うむ、承知した』
『わかったわ』
俺がその体勢を取ったことで、御庭番衆とエンターテイナーたちも配置を変え始める。
包囲を敷き、逃げられないようにし、攻撃を通すために刃に魔力を通し始める。
この後に、エスメラルダとネルが来るから戦力的に見れば負ける要素はない。
そんなこととは露知らず、余裕綽々としているドーラスにめがけて、俺は一気に加速する。
ドン!と地面を蹴りぬき、後ろに砂塵を巻き上げて、あっという間にドーラスの足元にやってくるが、ドーラスもただただそこで突っ立っているわけではない。
腕にもつ炎と闇で作り上げた武器で迎撃してくるが。
「御屋形様につづけぇ!!!!」
「「「「おう!!!」」」
その振るうための腕に御庭番衆が斬り込むことで、攻撃が防がれる。
結果、その攻撃は俺に届かず、俺を防ぐこと叶わず、空歩で一気にドーラスの胸元まで迫ることを許すことになる。
「心臓打ち」
いかに精霊と言えど、核となる物は存在する。
人で言う心臓、精霊で言うなら魔力核と言えばいいだろうか。
魔力を吸収し蓄えて、身体に巡らせるための器官。
そこを潰されれば、いかに強大な力を持つ精霊と言えどただではすまない。
『ふん!』
故に、そう簡単に攻撃を許すほどドーラスも甘くはない。
口から炎を吐き出し俺を焼き尽くそうとするが、生憎とこの装備はそういった特殊攻撃には滅法強い、レイニーデビルの装備だ。
闇の炎なんて中二チックな攻撃だろうとも。
『グアァアアアアア!?』
容赦なく突破して見せて、油断で緩んでいた分厚い筋肉を貫いてドーラスの肉体に槍を突きさす。
足首を斬った時とは裏腹に、激痛に叫ぶドーラス。
『なぜ燃えぬ!?俺の炎は忌々しいあやつとて避けたというのに!!』
あやつとは、きっと精霊王のことだろうな。
そんな存在でも警戒する一撃をあっさりと突破して見せた俺に対して、目を見開くのは結構だけど。
『ふん、随分と衰えた軟弱な炎だ。その程度の炎で会長が燃え尽きるわけなかろう』
俺にばかり注目してたら、乱戦はこなせない。
頭部の四面で周囲を見渡し、様々な武器を持つ六本の腕を縦横無尽に振り回し、多対一の戦闘もこなせるスペックがあるはずなのに、巨大な顔のすぐそばに飛び込んできた闇さんに気づくのが遅れるとは、闇さんの言う通り、衰えている。
『受けよ!』
至近距離での、闇の槍・・・・・いや、槍と言って良いのか?
極太の巨大な槍のような物を打ち出されて、それが顔面に突き刺さる。
常人なら即死通り越して、存在を消し去るような闇の一撃。
それを受けてなお、顔を再生し始めているからこそ、ドーラスの異常性を認知できる。
その部分においては俺の知る、ドーラスと共通性がある。
あの再生能力は本当にメタを張らないと面倒この上ない能力だった。
この姿の時からその片鱗があったということなのだろう。
『この程度!』
『ああ、そういうセリフはいいわ。大体耐えきれないもの』
ただただ再生能力が高く、そして強力な攻撃を発してくる。
正直、この手の敵は確かに面倒ではあるが、アジダハーカと比べると脅威度は数段下がると言える。
迸る雷、それにより巨体が感電し、ビクンと体の動きが一瞬だけど止まる。
状態異常系の攻撃は少なく、周囲の汚染の心配もない。レイニーデビルのような複数の触手があるわけでもなければ、高耐久性能があるわけでもない。
高いのは再生能力と攻撃力だけ。
いわば、常時高性能のリジェネがかかりHPを回復し続けて、高火力の攻撃を叩き込むという再生型。
次女さんの一撃で、一瞬だけでも動きが止まってしまうのは防御力が低いという証拠である。
雷を弓のようにして、弓矢の形状にした雷を打ち出すという手法。
収束率が高まり、貫通力が増すというドーラスもやっている武器の具現化、次女さんがやっているのも同じだ。
「精霊回廊に逃げ込ませるな!!ここで仕留めるぞ!!」
魔法攻撃というのは精霊にとっては、一番ダメージが入る攻撃だ。
魔法という面攻撃によって、損壊する肉体を再生するのは、物理的に切られたりするよりもはるかに消費する魔力が多い。
御庭番衆とエンターテイナーたちも、その攻撃がどれだけ有効なのかを知るや否や、徹底的に闇さんと次女さんの援護に回るような動きに変わった。
『逃げる?俺が!?』
「そういう奴ほど、死にそうになると尻尾巻いて逃げるんだよ!お約束過ぎて、笑えるわ!!悔しかったら俺たちを倒してみろっていうんだ!」
それに合わせて、俺は徹底して、口撃に切り替え、挑発して相手の思考を単調にする作戦に出る。
「あ、ごめん。攻撃が当たらないんだった。それじゃぁ倒せないよな」
煽りに、煽り重ねて、さらに戦っている最中だというのに手を口元に持っていき、笑いを隠すような仕草までしっかりと見せる。
『キサマァアアアアアア!』
「あー、やだやだ、そんな単調な攻撃ばかり、もうちょっとひねりを加えろって」
激昂したドーラスのこめかみの血管を破裂させる勢いでの舐めプを披露し、俺を殺すために躍起にさせつつ、他のところのダメージをスルーさせる。
かといって、まったく俺が攻撃してないわけではない。
「ほらほら、頑張れ頑張れ、さっきから俺の攻撃しか当たってないぞ?どうした?ほらどうした?」
『コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス!!』
カウンターと、本当に隙だらけの時に攻撃を加えて、チクリチクリとダメージを重ねていく。
実際のダメージは回復で補える程度の攻撃だけど、その頻度がドーラスとほぼ同じで、俺の攻撃だけが当たって、向こうは一切当たらない。
空歩と、地面移動で走り回っている俺を追いかけて攻撃しているというのに、一切俺にダメージが入らない。
「ここと、ここと、ここ、本当に隙だらけ。え?これで精霊王になろうとしたの?マジでウケル」
こちとら、ネットで鍛えられた煽りスキルを携えている。
挑発スキルが無くても、こういう風にヘイトを管理することくらい朝飯前だ。
アジダハーカとかのモンスターだと、こういう系の挑発が一切効かないからスキルでヘイト管理するしかないけど、知性があって会話ができる系の敵は言葉と表情で煽ることができる。
攻撃を捌き、カウンターを叩き込み、そして追撃、回避。
この手順がルーティン化しちゃえば、完全に相手は視野狭窄に陥っている。
自分へのダメージ計算が疎かになり、攻撃に回す魔力管理も雑になり。
「ほら、ほら、いいの?俺ばっかり見て、大技、完成しちゃったよ?」
必殺技を許すことになるのであった。




