23 EX 落ちた神 3
明日から少しだけ、お休みをいただきます。
皆様も良きゴールデンウイークをお過ごしください
リベルタたちが話し合いをしているのなら、また別の場所でも話し合いをしている面々がいる。
「どうして!私たちに相談しないであんなこと言ったのよ!」
「相談できる時間が無かったからよ」
冒険者たちに用意された宿は、彼らにとっては貴族が泊まるような宿よりも質が良くて。
居心地が良いと言えばいいのだが、これを知ってしまったら元の宿屋生活に戻れないと危機感を抱く快適さでもあった。
そんな冒険者たちは寝るとき以外はロビーで集まっていようと、打ち合わせも無しに集合していた。
その集合に合流していないのが、ステラたち一行だ。
節制を心掛けていたので、元貴族であるステラとアステルはこの宿屋の質に驚きはしてもそれに溺れることはなく、それでもその生活を享受していた。
そして、今後の話し合いということでパーティーを集めて宛てがわれた部屋に入室し、扉を閉めたのを確認してからの第一声は、自慢の金髪を揺らしながらテーブルを叩く音とともに叫ぶライナの声だった。
こんな声を出しても隣には響かない、万全の防音。
いびきがうるさくて眠れなかったら大変だろうという、リベルタが前世に安いビジネスホテルで被害にあった経験を元に、防音と空調には力を入れている。
そういう気づかいから生まれた、ある意味で密会向きの部屋での会話。
アステルは自分の武具の手入れをしながら、一回だけ二人の方向を見たが、いつも通りのステラの姿を見てすぐに興味を無くし、手入れに戻った。
「私たちは元々この街に住み着くことが目的だったの。そのチャンスが転がって来て、さらに地位ももらえるなら多少のリスクをとってもそのチャンスは逃さない」
テーブルの上には、リベルタとの模擬戦で酷使した自分の武具たちが並べられている。
相手は木剣であったが、上手く打ち合わされたのでダメージが入っている可能性がある。
冒険者たるもの、自分の命を預ける武具は常に自分でチェックしなければ、いつ命を落としても不思議ではない。
ステラは戦いの邪魔にならないようにまとめていた髪を、今は緩く結い上げて作業に従事している。
手にはアステルと同じ作業用の皮手袋が装着されて、テーブルには汚れても良いように布が敷かれ、さらに服が汚れないように作業用のエプロンもしている。
「それに、英雄様は私たちのことを気に入ってくれたのよ?悪い扱いを受ける可能性は低いわ」
手入れ道具にも金をかけて、しっかりと手入れする。
リベルタみたいに、弱者の証を合成する知識などないから当然武具は消耗品だ。
「ライナ、貴方が何かを思って反対するのはいいけど、感情じゃなくて理屈で説明して」
手入れ作業を中断して、控えめな胸を一回逸らして体をほぐしてから、ステラは感情のまま叫ぶライナと向き合った。
その姿勢はこのパーティーのリーダーとして仲間の声を聞くときのものだ。
「だって、あんな怪しい奴の誘いに簡単にのっていいって思えなくて」
「神殿の信頼も厚く、エーデルガルド公爵閣下の覚えもめでたい、さらに精霊とのつながりもある、そして先日邪神教会の神山での破壊活動を鎮圧するのにも貢献した英雄を怪しいって言うのは無理があるわね」
「うっ」
そして必死に頭を巡らせてライナが発した答えを、バッサリとステラが切り捨てる。
リベルタは外部から見たら色々とやらかしていることも確かだが、それ以上に貢献もしている。
そしてやらかしている内容に悪事はなく、目立つ部分は善行が多い。
そんな人物を否定する要素を探す方が困難であり。
「アステル、戦ってみてあの人のことどう思った?」
なにより、今日実際に戦ってステラとアステルは、リベルタの人間性に触れた。
「・・・・・普通ではないのは確かだ。俺があの人を測るのは難しいが、それでも悪い人ではないのも確かだ」
戦いというのは思いのほか人間性が出る。
今日の戦いにおいてもそれは同じで、ステラは戦っている最中のことを思い返す。
「あの人は俺たちの力を引き出すことに重点を置いていた。負けるつもりは無いにしても、俺たちの実力を知り、そしてどういう人間か知ろうとしていた」
「あと、後遺症の残る攻撃は避けていたわね。あの人なら最初の攻撃で私かアステルのどちらかを無力化できただろうし」
「後半はどことなく、教導をしてくれていたようにも感じた。良い攻撃をするとあの人は口元が笑って、次のステップに入っていた」
ステラとアステルは最初はリベルタに余裕を見せつけられて、腹が立った自覚がある。
多少なりとも実戦経験を積み、その度に研究し研鑽を積み重ねてきた実力に自信があったからだ。
だが、戦ってみてわかった。
実力が違いすぎると。
単純なステータスの差もそうだが、剣技の技量が違うとステラは文字通り肌で実感した。
「そうね、私も動きを目だけじゃない別の何かで知覚されてた。スキルじゃないわね。私がどう動くかわかっていたような立ち回りだったわ」
戦っている最中はがむしゃらに、自分の持っている戦う術の全てを二人はリベルタにぶつけようとした。
しかし、それは最初の予定にはなかった。
自分たちの連携なら、多少苦戦しようともすぐに相手を追い詰められるという自負があった。
戦えば百戦して百勝というわけではない。
しかしそれでも、デントというベテランの冒険者からは勝利を拾うこともできたし、二人であるなら戦いを優勢に進めることができた。
Aランク冒険者にも手ほどきを受け、二人で勝利をもぎ取ったこともあった。
だから、二人は自分の実力が通用すると思った。
しかし、蓋を開けてみて、結果を確認すればどうか。
「赤子の手をひねるとは、あのことを言うのだろうな。優しく丁寧に相手をされていた」
「悔しいけど、負けたことには腹が立たないのよね。むしろ、感謝の気持ちすら湧いたわよ」
惨敗、いや、完敗だとステラもアステルも思っている。
手も足も出なかった。
終始、相手の動きに誘導されてこっちの実力をただ引き出されていただけ。
そんな感覚を二人が味わった戦いであったが、不思議と満足感は得られたとも二人は思っている。
「噂以上の実力者であり、戦った感じでは完璧な善人ってわけじゃないけど、常識が通用しないって感じでもない」
「効率的な印象があるが、合理的だけではないとも思ったな」
なので、ステラもアステルもリベルタに悪感情を抱かず、むしろこうやって反対しているライナの気持ちを理解できないと言わんばかりに見つめる。
「ジュリもそうなの?」
二人の話を聞いたライナはぐうの音も出ないと、歯を食いしばりどうにか突破口を開こうとしているが、言葉が出てこなかった。
「私は、正直分かりません。もやっとした嫌な感じはあるのですが、あの人を悪人だとは思えません。なので、ステラさんたちが納得できるような理屈に添った嫌悪感の説明はできないので、反対もしません」
「賛成もしないと?」
「・・・・・頭では賛成できます」
なので、もう一人のパーティーメンバーであるジュリに問うたが、彼女は栗色の髪を少し触りながら、感情ではなく理屈では理解していることを示した。
しかし、言葉とは裏腹に表情の方は嫌悪感をわずかに滲ませている。
「二人はリベルタ殿に会ったことがあるのか?」
短くない時を一緒に過ごし、多少なりとも性格を把握している故に、この二人が英雄の話を好まないことは気づいていた。
最初は犯罪者の関係者だから、その手の話に嫌悪感を抱いているのかとも思ったが、憲兵には堂々と挨拶をして、冒険者になってからは襲ってきた盗賊を容赦なく倒していた姿を見るからに、その線はないと兄妹は思った。
であれば、個人的につながりがあり過去なにかあったという話になる。
「・・・・・ない、と思うわ」
「私たちも覚えがないので」
しかし、その過去が問題なのだ。
名前と、二人が姉妹という事実以外は何も覚えていない。
すなわち、過去に何かあったという記憶すらないのだ。
「リベルタ殿は二人に見られているのを首を傾げて不思議に思っていた。二人が知り合いの可能性は低いと俺は思う」
「私も同感。あの表情は本当にわからないという時の顔だったわ。まぁ、演技だったら見抜けなかったってだけの話だけどね」
そしてもう一つの情報、リベルタ側の反応も二人の嫌悪感を説明するための手がかりが出てくるわけではない。
見るからに、初対面。
なぜ凝視されているかわからないと言わんばかりの困り顔。
「ということで、私たちの方針を変えるだけの理由はないわね。あなた達が感情的になる理由がもしリベルタさんに非があるなら考え物だけど、そういう雰囲気でもないし」
以上の話の流れ的に、冒険者ギルドのギルドマスターになる方向で話を進めても問題ないとステラは判断した。
リスクは当然のようにあるだろうが、それを踏まえてリターンの方が大きい。
「ああ、俺も問題はないと思う」
アステルも賛同し、これで賛成二に反対二のイーブンとなった。
「さて、話し合いの結果、意見が割れたわ。どうする?」
パーティーリーダーの権限で、ライナとジュリの話を断っても良いとステラは思うが、それだと禍根を残すことになる。
なんだかんだと言いつつも、ここまで一緒にパーティーを組んできた仲だ。
多少なりとも感情的に、思うところはある。
連れていくか行かないかの段階だったら容赦なく置いて行ったが、その過程でライナの努力によって『治癒魔法』を習得し冒険者にとってはのどから手が出るほど欲しい要員へと化けたからここまで一緒にやってきた。
ジュリの方は元々性格的には問題なかったが、さらに『地属性魔法』を身に着けて、戦闘に貢献するようになった。
今では立派な戦力になっている。
なので、頭ごなしに否定はしたくないとステラは考えた。
「・・・・・私は話を受けたうえで様子見をした方が良いと思います。警戒を怠らなければ問題ないと思います」
その結果、ジュリが少し考えたのちに消極的な賛成に回った。
元々感情的に引っ掛かりがあるが、それでもジュリの目から見てもリベルタは悪人に見えなかった。
警戒心は残したままだが、それを基準に考えては危険だと思ったゆえの判断だ。
「そうね、私もすべてを鵜呑みにするわけではないわ。きちんと一定の警戒は置くわ」
「それなら、私からはこれ以上のことはありません。事実、客観的に見ればこの話は美味しい話であるのは間違いないので」
姉妹の片割れが賛成に回った結果、賛成三、反対一という構図になり、最後の反対者であるライナに皆の視線が集まる。
「・・・・・しっかりと警戒するなら、私も賛成するわよ」
しばしの沈黙の後、しぶしぶという形でライナも話を受ける方向で納得した。
ここで強硬姿勢を見せれば、世話になってきたステラたちとの関係に良くないということも理解しているし、なにより、感情的な嫌悪感以外でリベルタが悪人ではないのはライナも理解している。
姉妹にとってもこの嫌悪の感情は意味が理解できず、そしてどう折り合いを付ければいいかわかっていない代物。
なので、その理由を探るという意味でも、様子見という選択肢は良いと判断したのだ。
「まぁ、誘われたのは私とアステルだけだから、二人はいらないって言われる可能性もあるけどね」
「確かに」
「あ」
「そういえば、そうでした」
しかし、その話し合いも、ひとつの落とし穴によって振り出しに戻り、どうしようとライナがジュリを見て、互いに困惑の表情を浮かべることになるのであった。




