22 誘致準備
やりたいことが決まれば、あとはそれをやるために手順を踏み、根回しをするだけ。
「バミューダ、エスメラルダはまだ戻ってないか?」
冒険者たちは一旦、第一城壁の城門の側に建築した宿泊所に泊まらせて、俺はジンクさんとアミナ、そしてネルとイングリットを引き連れて会議室に戻った。
「はい、戻っておられません」
会議室には、冒険者ギルドに関して相談したいので実務担当のバミューダを呼んでおいた。
その恰好は、この街で作った質のいい貴族のような恰好だ。
「んー」
「どうかなさいましたか?」
「いや、別件だけど、やっぱり制服がいるかなって」
一緒に入ってきたジンクさんにネルにアミナ、そしてイングリット。
「制服ですか、どうしてそのようなことを思ったかお聞かせください」
全員の服を見回した後に、冒険者ギルドという外部委託先の出先機関を作るのなら、俺たちがこの街の政府組織だとわかりやすくするために統一した服装を作るべきだと思った。
バミューダはわずかに目を見開いた後、何かあったのかと問いかけてきた。
「ああ、冒険者が孤児を輸送してきた際に、冒険者ギルドからの書状も運ばれてきてな。この街に冒険者ギルドを作らないかって」
「なるほど、冒険者ギルドも前々からこの街の価値には気づいていたでしょうし、今回神殿からの依頼を受けたのを好機と見て、繋がりを持ちに来たといったところですか」
「今のところ俺たちが懇意にしているのは神殿とエーデルガルド公爵閣下くらいだしな。冒険者ギルドなら神殿とのつながりもあるだろうし」
事情を話せば、納得したように頷いた。
「もしこの街に冒険者ギルドができたら、外から色々な人が出入りするだろ?そういうことで、制服を作って内部の人間と外部の人間を区別しやすいようにって思ってな」
「なるほど……良案かと思います。通常でしたら行政機関員の統一した衣服や鎧を用意するのに莫大なコストがかかりますが、この街ではそのコストを従来の十分の一、あるいはそれ以下に下げられます。服装を統一することで組織の連帯感を増すこともできれば、ゲンジロウ殿のような方々が制服姿で街の治安維持をしてくだされば、さらなる治安維持効果も見込めますな」
突然何を言い出したかと思われたかもしれないが、理解してくれて良かった。
統一感の無い服装の組織だから、これを機に揃えたらいいかなというアイディアだ。
バミューダもその提案に納得し、メリットを提示するなど前向きな反応をする。
「同時に、法整備も成さねばなりません。制服を無断で模倣した者、またその模倣した服で罪を犯した者、さらに制服を作る職人が横流しをした場合などの罰則を定め、制服を不可侵の物にせねばなりませぬな」
「そうだね」
そして価値を感じると同時に、悪用される懸念も示し、徹底した管理が必要だと説く。
その点に関しては俺も同意見だから、その手の分野に強いバミューダが嬉々として動いているのならそれに任せ、最終確認だけはしっかりとしようと思った。
「その話は、バミューダが草案を作ってくれ」
「かしこまりました」
「恐怖政治みたいな法案はだめだからな」
「……承知しました」
すべてを任せると、法令に違反した者が処刑台に直行しそうな法案を提案してきそうだし、それを否定してもデメリットをメリットのように語るバミューダが爆誕しそうだから、釘を刺しておく。
「さて、エスメラルダとクローディアはいないけど、冒険者ギルドの誘致について話そうか」
そして本題に入る。
それぞれ席に着き、イングリットだけは定位置の俺の背後に立つ。
最早それに関してだれかが何か言うことはなく、受け入れている。
そして彼女の手元には画板が握られ、紙にインクで議事録作成も担っている。
それも任せ、俺はなぜ冒険者ギルドを誘致するかを話し始める。
と言っても説明はバミューダに向けてだ。
ジンクさんに、ネル、アミナ、そしてイングリットには概ね伝え、そして了承を貰っている。
「なるほど、街中に作るギルドの管理と、冒険者ギルドへの影響力の確保ですか」
「ああ、どうだ?」
感情論ではなく、論理的な話に持ち込むのがバミューダと話すコツだ。
感情が無意味というわけではないが、こと政治面では論理の方を彼は優先する。
「よろしいかと。事実、冒険者ギルドの影響力は私がかつて仕えていたマーチアス公爵も気にかけていました。そして、この街の冒険者ギルドのマスターと懇意にすることで、こちらに都合の良い状況を作り出すことも不可能ではないかと」
一定の利があり、筋が通れば彼は賛同してくれる。
納得と理解、それを示した結果、バミューダは実例を踏まえ冒険者ギルドの設立に賛成してくれる。
「しかし、懸念点が1つあるとすれば、リベルタ様が目をかけた二人ですが、本当に信用できるのでしょうか?」
しかし、全てに賛成したわけではない。
一番の懸念点である、ステラとアステルの部分に触れてきた。
確かに見も知らぬ、初対面の、それもまだ若い二人をギルドマスターに据えると言えば、普通は正気を疑われ、次に反対され、最後に説得される。
「信用という点だけで言うなら、ないな」
「ないのですか」
「ああ、ない」
なので、いかにしてその点を納得させるかが問題になるが。
「ただまぁ、強くするって約束したからな。神殿での契約と、師弟関係になって世話した恩義を付ければ、その信用も得られるだろうさ」
「なるほど、そのようなお考えでしたらこれ以上は言いませぬ」
その点に関してはこの世界には便利な機能がある。
受け入れることが絶対条件だが、逆に受け入れないと信用が得られないという神の契約。
そしてこの世界では、知恵を授け、自分を鍛えてくれた師に対して敬意を払う。
そんな材料を用意すると言えば、バミューダといえど納得する。
「では次に」
「他に何か問題があるか?」
「あります。冒険者ギルドを受け入れたとなれば、他の組織も黙っておりませぬ。貴族はエーデルガルド公爵家が抑えてくれるでしょうが、商人ギルドは黙っていないでしょう。すべてを追い払っていた今までならまだしも、風評を気にするのであれば、彼らを放置するのもよろしくないかと」
「あー、そうかぁ、そうだよなぁ」
そして納得したのなら、最善を尽くしてくれる。
土豚公爵の腹心として敵対していた原作とは違い、俺のために働き、しっかりと献策してくれる。
耳の痛い話もズバズバと切り込んでくれるから、隙を晒さなくて済む。
「商人ギルドの地方ギルドマスターは、冒険者ギルドのようにはいきませぬ。確実に本部から人が送られ、この街の市場を抑えにきます」
「となると、だ。権利や土地を抑えられないように注意しないといけないわけか」
「あとは金融関連、金貸しなどを取り締まる法律も必要かと」
「なるほどな。そっちも必要か。その草案に関してはジンクさん、頼めます? お金の法律ならバミューダよりもジンクさんの方が得意だと思うんですけど」
厄介ごとというのは連鎖するもの。
一難去ってまた一難とはこのことかと思ったが、俺のこの世界の人生はいつもそうだったなと苦笑した。
「うん、大丈夫だよ。そっちに関しては任せてくれ。ついでにネルを借りていいかな? これを機に商人のイロハを教え込みたい」
「そうですね。ネル、いいか? しばらくはジンクさんのところで勉強することになるが」
「……わかったわ」
そして、それを解決するのもいつものことだ。
目には目を、商人には商人を。治外法権の土地に踏み込んでくる拝金主義者どもを迎撃する役割はジンクさんに任せる。
俺と離れることに一瞬葛藤したネルであったが、将来の目標にしている世界を巡る商人の勉強ができると判断した彼女は素直に頷いた。
そして一人、何も仕事を振られず、少し暇そうにしている少女を見る。
「よし、それじゃアミナ」
「え、うん、どうしたの?」
名前を呼ばれたアミナは、咄嗟に反応できなかったが、すぐに自分が呼ばれたことに気づいて慌てて俺を見る。
「アミナにも仕事がある」
「! うん! 任せて!」
冒険者ギルドは俺とバミューダ、商人ギルドに関してはジンクさんとネル。
では、もう一つ対処しないといけない組織がある。
「今精霊界の方に行ってる、ジュデスとシャリアに合流してくれ。前に公爵閣下の兵士を育てた時にやった歌を、ハーゲッツの面々にも歌って手伝ってやってくれ」
そう、エンターテイナーたちだ。
こうも忙しくなってくると、育てる時間をさらに短縮する必要がある。
レベリングとなれば相応の危険が伴うが、アミナがいれば大幅な戦力増強になるし、なんなら過剰戦力とも言える。
だが、間違いなくレベリング速度は加速する。
「任せて!」
アミナの歌姫はレベリングに最適だ。
なにせ集団強化だから、効率的にモンスターを倒すことに向いている。
「イングリット、紙を頂戴」
「こちらに」
そうなると、戦う相手も変えることができるので、ジュデスに指示を出すためにさらさらと紙にダンジョンの変更と戦い方を書く。
「この紙をジュデスに渡してくれ、そうすればわかるはずだ」
「すぐに行くの?」
「ああ、向こうで精霊の誰かに手伝ってもらっていい。わからないことがあったら戻って来て聞いてくれ」
「わかった! 任せて!」
ここでアミナにも一人で行動する経験を積ませる。
アミナは素直なのだが、自分で考えて判断するという点で他と比べて成長が遅い。
俺やネル、そしてエスメラルダにクローディア、全員が考える能力に長けているから、そういう方面の成長が遅くなっても仕方ない環境が揃っている。
なので、ここで一つ、思考面での成長を期待しよう。
会議室を飛び出していくアミナを見送り、背後にいるイングリットを見る。
「一応、あとでエンターテイナーたちに手紙を出しておいてくれ。それとなくサポートするようにと」
「かしこまりました」
すべてを丸投げするつもりはないので、支援はしておく。
「あとは、冒険者ギルドの返事だな」
「そちらは私の方で書きましょう。リベルタ様には後でご確認を」
「わかった」
残す仕事はデントさんに持たせる冒険者ギルドへの返事だ。
それもバミューダがやってくれるのなら、問題はなさそうだと思った時に扉がノックされる。
『御屋形様、エスメラルダ様がご帰還されました。中に入っていただいてよろしいですか?』
「どうぞ」
部屋の前で警護していた御庭番衆から、エスメラルダが帰ってきたと伝えられ、俺が入室を許可すると扉が開いた。
「……どうだった?」
「良い情報と悪い情報、どちらもありますわ」
真剣な顔のエスメラルダが入室した。
何事もなければ笑顔な彼女が真剣な顔ということは、公爵閣下と会って何か情報を得たということだ。
「どちらからお聞きになります?」
どうやら一難去ってまた一難だけではなく、もう一つ災難があるようだった。




