21 腹案
明日大事なお知らせがあります!
活動報告にてお昼ころ詳細は連絡し、簡単な情報は明日の話の後書きにてお伝えします。
「どうしても?」
「そもそも、他所の組織から引き抜くのはご法度だぞ。自分の意思で移動するのならともかく」
デントさんに一度や二度断られたからって、諦めるほど俺は潔くない。
絶対に面白い結果になるとわかっているキャラに出会ったのなら育てたいと思うのはゲーマーとして当然だ。
「強引に引き抜けば冒険者ギルドとの関係も悪くなるぞ。さすがにお前でもそれはできないだろ」
「まぁ、そうですね」
なので少し強引にお願いしたが、デントさん的には冒険者ギルドからの依頼でフライハイトでのギルド設置を提案しに来たのに、それで期待の新人を強引に引き抜かれたとしたら、冒険者ギルド的にもフライハイトとの関係を見直さないといけなくなると言われれば、それ以上こちらから無理は言えない。
さてどうするかと考えていると、こっちに走ってくる足音が聞こえる。
「「是非に!」」
「やったね」
「おいおいおいおい!」
あえて大声でステラたちが欲しいと言ってみて、2人にわざと聞こえるようにしたら釣れるかなと思っていたが、治療を終えたらまっすぐに来てスカウトを受け入れてくれた。
せっかく止めたというのに、労力が無駄になったとデントさんが頭に手を置いて、しかめっ面を晒す。
「ちょっと待てって!少しは考えろよ!」
当人たちの問題とはいえ、さすがに目の前で引き抜かれるのは勘弁してくれと頭を抱えるデントさん。
「いっそのことデントさんも冒険者引退してうちに来ませんか?デントさんくらいの経験豊富な斥候は正直来てくれたら嬉しいですけど」
「俺もかよ!?見境いないな!」
「いや、優秀だとわかっていて、ある程度信頼できる人だけですよ?」
そんなデントさんに軽いノリでスカウトしてみたら、ちょっとキレ気味に返された。
誰でもいいというわけではないが。
こちらで人を選ぶというのは傲慢なように思えるが、見境いなくこの街に人を入れておかしくなる方が今は問題だ。
「こいつらどころか俺も引き抜いちまったらそれこそ冒険者ギルドに喧嘩を売ることになるぞ。それに俺も冒険者ギルドに恨まれる。勘弁しろ」
「そうですかぁ」
なので、本気でステラとアステル、そしてデントさんは確保したいのでスカウトしたのだが
立場的な物と組織的な関係上で断念するほかなかった。
冒険者ギルドは地域密着型の組織だ。
それを敵に回すと民間への風評というところで、大きな痛手になる。
物理的な戦闘なら負けることはないが、風評的な被害はさすがに勘弁願いたい。
「ダメなのか?」
「冒険者ギルドは、基本的に来るもの拒まず去る者追わずだけど、それは組織の方針であって人間の感情って言うのは面倒なのよ」
流れ的に、この街にスカウトするには通すべき筋を通さないとまずい。
アステルは、この街に移籍することをステラに確認していたが、そう簡単にはいかないかとため息を吐いたステラが説明している。
「そこら辺を踏まえて、冒険者ギルドの設置について話し合って交渉するのが妥当か」
「そうしてくれ。無理やりって言うのは手っ取り早いがその分荒れる。後腐れなく行きたいっていうなら慎重に動いてくれや」
ここは一つ、人員確保クエストということで、手順を踏むのが良いかと判断した俺はここでのスカウトは一旦諦める。
「そうします」
となれば、まずは謝るべきだ。
「さっきはゴメン、二人の本気を見たくて挑発した」
俺は走り寄ってきた二人に向き直り、まずは頭を下げる。
「いえ、ここまでの技量の差を示すのであればあの提案は必要だったのでしょう。こちらこそ、未熟な技を評価してくださり感謝します」
興奮を一旦落ち着け、そして冒険者らしからぬ礼儀作法で返礼をするステラ。
その隣では、無言で頭を下げるアステルもいる。
「戦いの途中に聞こえた、貴方の評価、そして先ほどの言葉が本心であること、それだけでこの戦いに挑めた価値があります。私たちには先があると、もっと高みに挑めるのだと知ることができました」
戦いに負けたことへの悔しさがある、されど、それ以上に自分たちがまだまだ上に行けるという確信を得られたことが何よりもうれしいのだと言われて。
「デントさん」
「交渉しろ」
やっぱり、この二人が欲しいと思ってしまって、再びデントさんの方に顔を向けてため息を吐かれた。
その瞳、その気迫、その姿勢。
この二人を育てたらどうなるのか、それが見たいと思うのはいつ以来か。
こりゃ、本気で冒険者ギルドと交渉するのもありかもしれない。
素材の提供とかで、解決するかもしれないが、それだとステラたちは素材で売られた存在となってしまう。
それは避けたい。
ならどうするかと考える。
「そうですよねぇ、とりあえず冒険者ギルドのご機嫌取りに冒険者ギルド支部の設置を確定させてみますかね」
「おいおい、お前、それは話し合って決めるって言ってたじゃないか。いいのか?勝手に決めちまって」
下手にはでない、されど譲れる線は譲らないといけない。
不特定多数を招くことになる冒険者ギルドを設置するのは、正直に言えばメリットはそこまで多くはない。
「んー、良くはないですよ?でも、ここで明言はしていますけど結局説得すればいいだけですから。少し手間がかかるだけです」
されど、メリットが小さいというわけでもない。
こちらが得られることもあるし、何より入ってくる情報の幅が大きく広がる。
それに、エンターテイナーたちの活動範囲も広がるし、うちの商店街一同の街の外への商売を開始することもできる。
今までは、御庭番衆やエンターテイナーたちの人員不足故に外へ販路を広げることは難しかったが、ハーゲッツの面々が増え、さらに冒険者ギルドで護衛を雇えるというのなら行動に幅を増やしても良いと判断できる。
「当然ですけど、こっちも条件つけてそれを了承してもらうことになりますけど」
「まぁ、それはいいけどよ。お前が条件というと恐ろしいんだが、何を求めるつもりだ?」
「最低条件としては、こっちが指名する人物にフライハイト冒険者ギルドのギルドマスターになってもらうことですかね」
「おいおい、人事権に口出しするのかよ」
「はい、下手な人を寄越されても困りますし」
それはあくまで表向きの理由だ。
裏向きで言うなら今のうちに、冒険者ギルドへ影響力を増やしておくという判断もある。
取り込む気はないが、それでも色々と発言力を高めて冒険者ギルドを動かせるようにはしておきたい。
「まぁ、気持ちはわかるけどよ。ちなみに誰を指名するつもりだ?」
「デントさんですけど」
「ああ、はい、デントさん・・・・・って、どこのどいつだよ! 俺か!?」
「おお、見事な一人ボケツッコミ」
なので、その起点となるこのフライハイトの冒険者ギルドに就けるべきギルドマスターは知り合いがベスト。
もっと言うなら、こっちと繋がりを持ちやすい人物がマスト。
自分が指名されるとは思っていなかったデントさんが、自分の記憶を掘り起こして探ろうとしたが、すぐに自分と同じ名前で有力な冒険者が他にいないことに気づき、慌てて自分を指さして俺に確認してきたので俺はにっこりと笑ってそれを肯定する。
「んなことできるわけねぇだろ!?俺はただのBランク冒険者だぞ!!もっと格上のそれこそベテランのAランク冒険者たちの頭を押さえないといけないのがギルドマスターだ!!あんな奴らの手綱を握れって?冗談じゃねぇ!!」
しかし、笑ったと言えど、それを受けるかどうかは話は別。
あまりにも非現実的な発言であるが、俺ならできてしまうと身の危険を感じたデントさんが後ずさり、死んでも御免だと首を横に振って拒否してきた。
まぁ、ネームドの冒険者を思い出すとどれもこれも癖のある人物ばかり。
デントさんがその曲者たちを取りまとめる立場に収まることを拒否する理由は納得できるくらいには、個性豊かな面々が揃っている。
あのシャリアが常識枠に収まるほどだ。
それくらい個性的でないと、Aランクにはたどり着けないという証左でもある。
「大丈夫ですよ。俺がしっかりとデントさんを鍛え上げて、誰にも文句が言えないくらいに立派なギルドマスターにしてあげますから」
「怖えよ!?なんだよその笑み!俺をどうする気だ!?」
そんな個性的な面々に負けないくらいにデントさんを魔改造すればいいだけのことなので、俺にとっては障害にもなりはしない。
ニッコリと安心感を与えるように優しい笑みを浮かべたつもりだったが、どうやらデントさんには別の笑みに見えたようだ。
「そうですね・・・・・とりあえず、軽くSランク冒険者の称号でも取ってみます?」
「いらねぇよ!!あんなの厄介ごとを引き受けるためだけの立場だろうが!?金回りはいいかもしれないが、国の厄介ごとも引き受ける羽目になる。Bランクでも面倒なのに、これ以上上げてたまるか!!」
「ええー、それだとデントさんがギルドマスターになれないじゃないですか」
「なりたくないって言ってんだよ!!」
なので、そのノリで魔改造計画の一端を開示してみたが、反射的にデントさんは腕でバツ印を作って拒否の姿勢を見せた。
勘弁してくれと心の底から思っているデントさん。
「はいはいはい!!でしたら不肖私がこの街のギルドマスターになります!それでアステルを副ギルドマスターにしてもらえれば!!」
そんな空気の中で挙手ができる人物がいるとしたら、それは空気を読まないか、あるいは計算してタイミングを見計らっていたか、だ。
「お前何言って」
ステラが自己主張を激しめに、挙手をしてギルドマスターの席に立候補してきた。
その案は、Dランク冒険者がするには荒唐無稽すぎる提案。
立場をわきまえろと言われても仕方ない提案であるが。
「・・・・・有りだな」
「おい、リベルタ!?」
俺からしたら、この二人がフライハイトの冒険者ギルドの責任者になってくれるのは有りかもしれない。
育てて、実力者になれば協力体制を敷けるし、なによりこの二人は受けた恩は忘れないと思う。
戦ってわかったが、人格的にはまだ錬れていない。
その点はどうにか今後の教育で解決していく必要はあるが、それでも候補としては良いと思わせる要素はこの模擬戦で感じ取ることはできた。
「こいつらはまだ駆け出しのDランク冒険者だぞ!?そんなことできるわけがないだろ」
「実績と、結果、それを示せれば上に行けるのが冒険者ギルドですよね?なら、俺が鍛えて、彼らにギルド本部が納得する実績を与えてやればいいだけのことですよね?」
「どんだけ気に入ったんだよ!!」
「この二人の将来が見たいと思うくらいには」
なればこそ、ここで繋がりを得るために手間をかけることくらいはしても良い。
「だがよ、ギルドマスターになれるほどの実績がそう簡単にあるとは思えないぞ?ギルドマスターになるには強いモンスターを倒せばいいってわけじゃない。しっかりと国に貢献したと評価されるような事件を解決したり、ギルドに貢献しないといけないんだ」
その手順の困難さの認識はデントさんの方がこの世界の常識に沿っていると思う。
成り上がりのような展開もなくはないが、それでも実例は少ない。
だけど、都合よく俺の手元にその貢献度に見合うようなクエストが転がっているんだよなぁ。
「そんな実績を作れる機会、お前でもさすがにないだろ?」
「例えば、神殿が感謝して大司教猊下が直接冒険者ギルドに感謝を伝えるために足を運ぶような実績があればどうなりますかね?」
「そりゃ、かなりの実績になるが・・・・・おまえ、まさか」
タイミングが良かったよ。
邪神教会の連中も、たまには役に立つもんだ。
何かあるのかと口元を引きつらせるデントさんに向けて、俺は再び笑みを浮かべるのであった。




