16 アイヤ!?双子!?
OK、まずは深呼吸だ。
あまりに非現実的な現実というか、物語ではないこの世界に、いるかいないかわからない人物が急に現れたせいで、俺の脳が一瞬パニックを引き起こした。
双眼鏡から目を離し、大きく深呼吸。
「リベルタ、どうしたの?顔が真っ青だよ?」
「いや、うん、ちょっとな」
見てはいけないものを見た気持ちとはまさにこのことか。
この世界がゲームの世界ではなく、限りなくFBOに近い現実だと考えていたからこそ、驚いてしまっただけだ。
きっと、さっき見た人物も他人の空似だ。
ネルが心配して、顔を覗き込んできたので笑顔で大丈夫だと言いつつ、もう一度双眼鏡で商隊の様子を見る。
そして同じ位置に焦点を合わせると、藍色の髪を刈り上げにした筋肉質の少し目つきが悪い少年が見える。
うん間違いない、主人公だ。
何度もニューゲームでキャラデザするたびに、デフォルトとして表示された姿を俺が見間違うはずがない。
「・・・・・ん?もう1人、馬車から出てきて・・・・・は?」
この世界の主人公は男だったかと、ようやく現実を受け入れようとした矢先、馬車から降りた1人の少女が主人公だと思わしき少年に近づき、被っていたフードを下げたのでその顔が顕わになった。
その瞬間、自分でも目を見開いたのがわかるほどに心臓の鼓動が早くなった。
「すぅ」
再度、現実を受け入れるために大きく息を吸って、吐き出す。
そしてもう一度大きく息を吸って、吐き出す。
深呼吸を二度行って、もう一度目の前の現実に向き合うと、少年の傍らに同じ髪色の長い髪をポニーテールにしている、よく似た顔立ちの少女がいた。
「そうかぁ、そのパターンかぁ」
その容姿も見間違うはずがない。
性別選択で、主人公を女性にすると出てくるデフォルトデザインのままの容姿。
間違いなく、彼女は女性主人公だ。
「なにが、そのパターンなの?」
主人公が2人いる。
この現実とどう向き合えばいいのだ?いや、この世界は現実なのだからそういうこともあるかと、思考が散らかっていたがゆえについ俺の口からこぼれてしまった言葉。
それをアミナが拾い、ネルとは反対方向から言葉を返してきた。
「ちょっとな」
「もう、さっきからそればっかりよ」
「秘密が多いよ!」
「すまん。俺も確証が無くてな」
そもそも、彼らが主人公であるとは限らない。
もし仮に主人公であるならば、デフォルトネームが男ならアステル、女ならステラであったはず。
「イングリット、神殿からあの商隊について何か聞けたか?」
「はい、第二陣の一隊であることは間違いないとのことです」
「伝えていなかったのは?」
「報告漏れだったようです。担当した者が別件でフライハイトを離れる必要があったらしく、その際に引継ぎができていなかったようで」
「・・・・・次からはこんなことが起きないように徹底してくれるよう伝えてくれ」
「承知しました」
そこまで一致したらさすがに、受け入れる他ないのだが。
今はそれよりも、あの商隊の正体を知る方が先決だ。
神殿から事前通達が無かったのはヒューマンエラーというシンプルな答えだ。
俺も失敗するからそこをとやかく言うつもりはない。
次回以降気を付けてくれと注意を飛ばしつつ、目の前の問題解決に取り掛かる。
「ゲンジロウ、商隊が城門に着く前に臨検を行ってくれ。イングリット、ネル、御庭番衆について行って臨検の補助をしてくれ。身体検査と手荷物検査、特に入れ墨には注意してくれ。怪我とか理由を付けて包帯を取るのを拒むのならポーションを使ってでも傷を見せるように」
「承知!」
「わかったわ」
「承りました」
あの商隊が本当に神殿の代行なのか確認が必要だ。
城門前に行かれる前に、臨検して、その素性を確認する必要がある。
イングリットとネルを向かわせるのは、あの馬車に女性がいた場合の身体検査の対応がゲンジロウたち男衆では難しいからだ。
指示を出して、ゲンジロウとイングリット、そしてネルが城壁から飛び降り、そしてその後に御庭番衆の一個分隊が続いていくのを見てから大きくため息を吐く。
「大変なことが起きてるの?」
「起きるかもしれない、というのが現状だな」
ゲームでは主人公とはこの世界の趨勢を左右するほどの影響力を持った存在だ。
主人公の行動ひとつで世界の情勢が変わり、事件が起き、それを解決することでゲームが進行してゆく。
ゲームの主人公なのだから当然と言えば当然だ。
だが、そんなバタフライエフェクトの完全上位互換のような存在が目の前にやってくると考えると心中穏やかではいられない。
「精霊さんたちにも待機してもらう?」
「いいや、今は家から出ないように頼んでくれ。ピーちゃんたちに伝令を頼んで一時的な外出禁止令を。学園の方にも警戒の通達を出してくれ」
「わかった」
何が起きるかわからないのが主人公という存在だ。
隣ではアミナがピーちゃんたちを召喚して、フライハイトにいる精霊たちに注意喚起をしに飛び立っているのが見える。
それを横目に、ひとまず心を落ち着けるために、左胸に手を置いてもう一度深呼吸する。
心臓の鼓動がいつもよりも早い気がする。
これが、主人公と相対するときの緊張感だと心の中で冗談を言いつつ、その緊張で思考が凝り固まらないように頭をフル回転させる。
多角的な視点を維持し、思考の幅を広げることを意識する。
情報を精査し、相手の状況をこの距離で観測できる範囲で把握する。
装備を見る限り、そこまでレベリングはしていないと思う。
駆け出し、それも序盤くらいの装備と実力だと想定。
そうなるとおそらく戦闘能力はそこまで高くはない。
スキルもそこまで身に着けていない。
そして、一緒に同行している冒険者の中にネームドは・・・・・ん?
「あれは」
二度あることは三度あると言うが、再び双眼鏡を覗いてみるとまたもや顔見知りを発見する。
あのくたびれたような顔、忘れもしない。
「どうしたの?」
「デントさんがいる」
「え!?どこどこ!?」
馬車の陰になっていて見えなかったが、曲り道に入った時に影から姿を現して周囲を警戒している冒険者がいて、その顔を見たらなんとも懐かしい人物が見えた。
「ピッドさんとマイルさんはさすがにいないか」
となれば、他の顔見知りの2人もいるかと思って見回すが、さすがにこれ以上の知り合いは現れなかった。
手を額にかざしてどうにか遠くを見ようとしているアミナに双眼鏡を渡してみれば、驚いた声を上げる。
「ほんとだ!!元気そうだね!」
「元気そうか?なんか疲れているように見えたけど」
不幸中の幸いとはこのことか。安心要素という点で知り合いがいるのは大きい。
これで情報収集がしやすくなった。
いきなり主人公に接触するのは心の準備が整っていないから、デントさんでワンクッションおけるのもいいし、冒険者ギルドのこっちに対する印象を確認もしたい。
多分だけど、今回の商隊の護衛に冒険者が関わっているのは、こっちとの関係の試金石になっているはずだ。
そうなると、あの馬車の中に冒険者ギルドのお偉いさんが乗っている可能性もあるか。
と言っても、いきなりギルドマスターとかが来るのではなく、手紙を持ったメッセンジャーで、それなりの地位を持った人がアポを取りに来たという感じか。
失礼の無いように、地位のある人物が手紙を届ける。
この世界の礼儀ではごくありふれた方法だ。
冒険者ギルドというのは、俺からしたら使い方さえ間違えなければそれなりに有用な組織だと思う。
ただ、所属する冒険者の技量に関してはピンキリで、さらに信用できるかどうかもピンキリになる。
質より量という仕事向きの組織だ。
各大陸の主要都市に支部を持つ巨大組織ゆえの情報収集力や、王侯貴族から一般の住民までを顧客に持つ横つながりから様々な話題の入ってくる情報網は馬鹿にできず、そういった方面での利用が主になるが、繋がりを持っておいて損はない。
現地の新鮮な情報を集めたり、そして土地勘を持った人物と繋がりを持つには冒険者ギルドはうってつけの組織だ。
あとは人探しをするのにもいいかもしれない。
特にアングラなところに潜むネームドキャラを探すなら冒険者ギルドとのつながりはあった方が良いと言える。
「ええ?そうかなぁ?」
「会ってみればわかる。ネルを派遣したからデントさんの方も気づくだろうし」
デメリットは、やはり仕事を頼める相手が不特定多数になるから情報管理の問題に直結するし、なにより、規模で言えば向こうの方が大組織だ。
こっちが必要としている情報が拡散されるのはあまりよろしくない。
「そうだね」
なので、向こうの出方次第と。どういう距離感に落ち着くか。
可能なら敵対はしたくないが、こっちを下に見るようなら交流は遠慮してもらおうと思う。
「あ!ネルがデントさんに気づいた!」
「向こうも気づいたみたいだな」
こちらは城壁の上では、何をするにしても待つしかない。
ひとまず、御庭番衆が商隊に接触したのが遠目に見えて、商隊が止まったのも見えた。
双眼鏡でアミナが見ている先には、きっと驚いてデントさんを名前を呼ぶネルの姿が見えたのだろう。
豆粒ほどにしか見えない人物のなかで何とかネルを見つけ、それに近づく人物がデントさんと仮定する。
と言っても、できたのはそこまで、ここから会話が聞こえるわけでもなく。
読唇術で会話を読み取れるわけでもなく。
「臨検が始まったな。グランセ、悪いけどジンクさんを呼んできてくれるか?」
「わかりました」
なので、こっちでできることを済ませておく。
デントさんがいるならジンクさんを呼んだ方が話が早い。
「エスメラルダ、冒険者ギルドの方の動きが気になる。イリスさんとカティア様に接触して情報の確認を。公爵家と王家の方に情報が回ってなかったら、たぶん冒険者ギルドの方で独自に動いていると思う。公爵家の方から確認を取ってもらえるか」
「わかりましたわ」
次にやるのは向こうの情報収集だ。
エスメラルダに頼んで、留学しているイリス嬢とカティア姫の方に裏を取ってもらう。
その2人が知らないのなら、公爵家の方の情報を買わせてもらう。
グランセとエスメラルダが走っていくのを見届ける。
「それで、どうするの?」
「あとは待つだけだな。何か起きたら、ここから援護してネルたちの撤退を支援する。最悪は俺が打って出て救出に向かう。その時はアミナに歌ってもらうから助けてくれ」
「任せて!!」
出せる指示は全て出した。
ここまでやれば後は、ジッと待つだけなんだが、どうも手持無沙汰は心情的によろしくない。
何かできることはないかとあたりを見回すが、警戒はエンターテイナーたちと御庭番衆がやってくれている。
ここで俺が何かすると彼らの仕事を奪うことになる。
それはどうなのかと思う。
「・・・・・」
大将が慌ただしく動くことは、組織的にはよろしくない。
時にはどっしりと構えて、待つこともまた仕事か。
「アミナ、双眼鏡貸して」
「うん、いいよ」
しかし、それでも様子が気になる。
臨検の様子でも見るかと思い、アミナから双眼鏡を受け取ると馬車に乗っていた人が降りて並んでいるのが見えた。
その中にネームドでもいないかなと思ってみていると、ひときわ目立つ少女が2人いた。
「んー?」
金色の髪の少女と、亜麻色の髪の少女。
2人仲良く隣り合って立ち、そして顔立ちもどことなく似ている。
双眼鏡越しではっきりとは見えないが、それでも一目でわかるくらいにモブではないと判断できる印象的な顔立ちはしている。
ネームドかと一瞬思ったが、心当たりはない。
これは怪しいぞと思いつつ、その2人を見て嫌な予感を感じるのであった。




