15 アイヤ!?主人公!?
またもや遅刻(汗)
すみません!!
着々と進む邪霊ケラス救済ミッションの準備。
現場の人間も、裏方の人間も、そしてフライハイトで通常業務をこなす人たちもせっせと働く毎日。
「ふぅむ」
そして俺はと言えば、今日は執務室で書類仕事だ。
オフはFBOの界隈で少しは知られた廃ゲーマーだった俺は、普段はただの会社員でしかなかった。
そんな俺がこうやって企業経営者のようにせっせと書類の確認をしているのを、過去の自分が知ったらなんて思うだろうか。
「よし、こっちはOKで、こっちは予算を見直して。こっちはダメッと」
パソコンが無いし、メールなんて便利機能も存在しない。
いずれはそれらも作りたいけど、ただでさえ職人勢には苦労をかけているから、今はそっちまで手が回らない。
なので、書類仕事を速くやるとしたらこうやってステータスでごり押しだ。
ステータスで爆上がりした動体視力で速読を無理やり達成して、判子押しも機械並みに正確で速くするだけで、サクサクと仕事は進む。
「ふぅ、これで今日の分のお仕事終了っと!」
やることは多いが、長くとも午前中には仕事は終わる。
すべては、エスメラルダやジンクさん、そして最近加入したバミューダが必要なことだけを仕分けして俺の方に書類を回してくれているからこの程度で終わる。
「お疲れ様ですリベルタ様」
「ありがとう」
ただまぁ、それでも書類は多いらしいけど、こっちは公爵家でも活躍している文官衆を増産できるのだ。
文官育成のノウハウはしっかりとあるから経営業務に支障は滅多に出ない。
秘書として側にいるのが当たり前になったイングリットからタイミングよくお茶が差し出され、それを受け取りつつ、書類を決裁箱に振り分けて、業務はいたって順調。
「学校業務も順調で、この数カ月で文字の読み書きが満足にできる子が出てきて、計算も足し算と引き算はおおよそできるようになっている。この調子でいけば、年内には次のステップに行けるかもな」
報告書の方も読んだが、特に学校教育の成果が著しい。
バーゼを筆頭に、やる気がある子供が現場に引き抜かれたのがいい刺激になったのか。
成果を出せば認められるという評判が広まり、より一層全体のやる気を上げている。
ガトウからの報告で、さらに高度な学習ができる上級クラスか専門技能を学ぶクラスを作る計画が上がってきている。
この段階まで来たかと、しみじみと感じつつ。
「問題はこっちだよなぁ」
内は良くても、外に問題がゴロゴロと転がっている。
見たくはないが、見なければならないのが街の責任者というわけで、さっきも見たけどもう一度確認するためにエンターテイナーたちから上がってきている報告書を見る。
「森の中を要塞化か。どうやら向こうは腰を据えて邪霊の封印を解く気か……。あの辺りの土地の領主も気づいていないな」
「神殿の皆様はリベルタ様が引き渡した邪神教会の生き残りから得た情報で他の地方に手を取られ、対処できないとのことでしたね」
「そう、どうせならこっちも潰してもらおうかなって思ったけど、さすがに神殿の戦力も手が足りなくなってきているみたいだな」
それは発見してしまった邪神教会の開拓地。いまだ森の中に隠れ住むように生活しているが、その環境は人を割いている分もあって劇的に変わってきている。
地面を掘り、地下に住居区画を設置したり、大きな木の上に監視小屋を作ったり、森の中に罠を設置したりと好き勝手にやっている。
ここで妨害工作の1つでもできればいいんだけど、それをやるとこいつらはあっという間に消えて、姿をくらます。
手を出すなら一撃で一網打尽にできるようにしないといけない。
「まさか、前に神殿に引き渡したピンク頭からの情報で神殿の戦力が底を突くとは」
それができる勢力が今のところ俺たちしかいないという。
その理由というか、原因が俺がこの前捕まえた邪神教会の幹部ヘリエルなのだから笑えない話だ。
後で聞いたけど、中々有能なカナリアだったらしく。
あっちこっちに拠点があると白状し、それの裏付けが取れて、そこを連日襲撃してかなりの数の拠点を落としているとのこと。
なので、神殿騎士たちは絶賛繁忙期の最中。
嬉しい悲鳴と悲しい事情ゆえに、この新しい拠点にまで人手を割く余裕がないのだ。
「だからと言って、私たちもそこまで余裕があるというわけではありませんのよ?」
「絶賛人手不足に嘆いているのは俺たちもってことか。まぁ、殲滅するだけなら俺が闇夜に紛れて暗殺祭りすれば一晩でおわるけど」
同じ執務室で作業していたエスメラルダが書類を整理し終えたのか、会話に入ってきた。
書類をトントンと叩き整頓したら、決裁箱に入れて席から立ち上がる。
そして、俺の背後に回り込んだかと思うと。
「んー、それですと事後処理が大変ですわ」
「もう、なんだか、みんな俺に抱き着くことに躊躇いは無くなってきたよな」
イングリットしかいないせいか、背後から俺に抱き着いてきた。
「一回目は少し恥ずかしかったですけど、やってみると、なんだかはしたないと思っていたことがもったいないと思うくらいに落ち着きますの」
「やっぱり、俺、なんか変なフェロモンとか出してない?」
仕事の疲れを癒す作業だと言って、ここ最近よくやるようになっている。
背中に当たる柔らかい感触と女性らしい香り、そして首元で深呼吸されると思春期の俺が反応しそうになるから大変だ。
「出していても問題ありませんわ。こうやって癒されているのは事実ですの」
「残るはクローディア様だけですね」
「いや、さすがにクローディアはやらないだろ?」
「そうですの? 私は時間の問題だと思いますわ」
「私もそう思います」
「ええ?」
イングリットから始まり、ネルとアミナが続き、そしてエスメラルダも抱き着くようになった。
流石に妹であるイリス嬢や今留学中のお姫様の前ではやらないけど、こうやって人の視線が少ない場所では割と積極的になっている。
イングリットに至っては、人目があろうがなかろうが、隙あらば抱き着いてくるけど。
そんな流れにクローディアも加わると言われて、キャラじゃないだろ?と思ってしまうのも仕方ない。
疑問を浮かべて、首を傾げてしまうのも無理はない。
「どれくらいかかると思います?」
「最近は、神殿関連でお忙しそうなので、近日とまでは言いませんがそのあとくらいが頃合いかと」
「そうですわね。私もそう思いますわ」
しかし、そんな俺の思いとは裏腹に、女性陣の方ではすでにカウントダウンが始まっているかのような口ぶりだ。
「その時は受け入れてあげてくださいね」
「はい、少しでも戸惑いますとクローディア様は遠慮してしまいますから」
「あれ? 俺から積極的に抱きしめないといけない流れ?」
「お嫌ですの?」
「嫌というか、拒否されたときのダメージを想像したら積極的にはやりたくないなぁ」
そして流れ的に、クローディアが抱き着いてくるのではなく、俺の方が抱き着くというまさかの流れだ。
受け入れること自体は問題ないのだけど、こっちからやるのには些か抵抗がある。
「クローディア様でしたら、今でも抱きしめていいかとリベルタに言われたら笑って受け入れてくれますわ」
「そうですね。他の方は存じ上げませんが、リベルタ様なら」
「・・・・・冗談に聞こえないんだよな」
「本気ですわよ」
「はい、正気です」
普通にハードルが高いと思っていたが、2人から見るとだいぶ低いらしい。
必要性がないから放置しているが、だんだんと流れ的にやるべきかと思い始め、反対方向に首を傾げたタイミングで、執務室がノックされた。
スッとエスメラルダは俺の体から離れ、俺の背後に立ち、イングリットが扉の前に立つ。
『グランセです。急ぎの報告があり参りました』
「入りなさい」
『はい』
そしてイングリットが扉を開き中に入ってきたのは、エンターテイナーの一人だ。
「リベルタ様、少し厄介なことになりました」
「厄介ごと? 邪神教会関連?」
「いいえ、そっちはまだ。警備の監視がフライハイトに向かう一団を発見しました」
「どこかの軍隊でもやってきた?」
「いいえ、冒険者が商人を護衛しているみたいで」
普段の簡単な報告であれば、バミューダやジンクさんに言付けを頼んで帰っていくのに、直接聞きに来るということは判断に困っているということ。
「商人なら、ジンクさんの担当だと思うし、商売はやっていないって追い返して問題ないと思うんだけど」
「はい、いつも通り接触し引き返すように言ったのですが、その商隊の責任者から神殿からの委任状を見せられまして、孤児の輸送を引き受けたと言ってます。確認しましたが、孤児がいるのは確かです」
そして、確かに判断に困る内容だった。
孤児を受け入れるのは確かにやっている。
現在進行形でやっているのだから、次が来るのもわかる。
だが。
「イングリット、神殿に使いを出して確認して。エスメラルダはゲンジロウに連絡して警戒態勢を上げるように」
事前連絡が無いのだ。
神殿が忙しいと言えど、いつ頃出発して、いつ頃着くという報告があるはず。
「クローディアが留守のタイミングがきついな」
「神殿の方から助力を請われたら断れませんわよ」
第二陣の話ならばなおのこと、あってもおかしくない。
本来であれば、その神殿関連の仲介役でクローディアがいるのだが、今は神殿の方から助力を求められて一つの邪神教会の拠点を潰しに出かけている。
なので報連相の伝達ミスがあったかもしれない。
エスメラルダの言葉に苦笑しつつ、それを嘆いている場合ではない。
「そうだな、とりあえず二人はさっきの指示を達成したら俺と合流してくれ」
「わかりました」
「承知しましたわ」
なりすましの可能性、このタイミングだと邪神教会の破壊工作員の可能性もある。
神殿の委任状を偽造することは、神罰の対象にはならないが、それでもこの世界では神を恐れぬ大罪に等しい行為だ。
普通の山賊などの犯罪者は手を出さないが、それでもやろうとする組織は存在する。
「グランセ、相手の位置は把握している?」
「城門から距離10キロくらいのところで野営させています」
「わかった、待機しているエンターテイナーにも招集をかけてくれ。監視を厳にして周囲を警戒。陽動をしかけて城壁を超える可能性がある」
その筆頭と現在進行形で揉めている身としては本当に面倒だなと思いつつ対処の指示を出す。
「ゲンジロウに城門に御庭番衆を二分隊集めさせて、俺も城壁に行く。グランセは商隊と合流して、こっちに誘導を。少しでも変な動きがあったら知らせてくれ」
「わかりました」
一気に慌ただしくなり、全員が出ていくのを見送ってから執務室の隣の部屋に常時用意している武装を身に着け、執務室の前に待機している御庭番衆を引き連れ城門に向かう。
「御屋形様!」
「状況は?」
「はっ! こちらに向かっている最中とのこと」
そして城壁の見張り台に行けば、すでにそこにはゲンジロウがいる。
フル装備で万全の体勢。
緊急事態と聞き、すぐに厳戒態勢に移ってくれるのは頼もしい。
「バーゼもご苦労様。緊張しすぎには注意してくれ」
「は、はい!!」
その分隊には見習いとしてバーゼが参加している。
現場の空気を体験させるためにゲンジロウが連れて来たのだろう。
背筋を伸ばし、警戒に従事するその姿は、がちがちに緊張しているのが見え見えだ。
しばらくはこのまま待機なのに大丈夫かなと思ってしまう。
「バーゼ! もっと肩の力を抜かんか!!」
「す、すみません!!」
案の定、ゲンジロウから肩を叩かれて、その緊張を指摘されている。
ま、こういうのは慣れだよなと思いつつ、俺も見張り台の窓際に立ち一団が来るのを待つ。
そしてしばらく待ち、エスメラルダとイングリットが合流し、さらに武装したネルとアミナも来たタイミングで一団が見え。
「さてさて、誰が来たか・・・・・ん?」
知っている人物がいればいいなと思い、双眼鏡で覗き込むと、最初に見えたのは護衛の冒険者。
まぁ、それはいい。
問題なのが、その顔が非常に見覚えのある人物だということ。
冷やりと流れる冷や汗。
あれって主人公じゃね?




