14 早期修練
遅刻しました!!すみません(汗)
邪霊救済には、闇さんとパーシーに作ってもらっているアイテムが必須だ。
そのアイテムができるまで、俺たち実働部隊は今回のクエストで戦闘が起きた際のシミュレーションをする以外は、訓練くらいしかやることが無い。
その訓練も通常業務の範疇という具合で、そこまで厳しいことをする必要はない。
そんなちょうど暇になるタイミングで。
「よう、ボス。来たぜ」
「ようこそ、ヴェロッキオ。フライハイトは皆を歓迎するよ」
陸路で移動していたハーゲッツの面々が到着した。
「特に俺たちは盛大に歓迎するぜ!」
「そうだよ!よく来てくれた!!!」
行商人に扮したり、旅人になったり、冒険者になったりといろいろな格好に変装してフライハイトまで接近し、道中で合流したところをエンターテイナーの警戒網で発見。
そして、ジュデスとシャリアがまたしても偶然揃って街にいるタイミングだったから、護衛も兼ねて出迎えているんだけど。
横断幕で『歓迎!』って高々と掲げちゃってる。
「お、おう。ボス、この2人が俺たちの先輩ってことか?」
「うん、ちょっと最近忙しくてテンション高めになっちゃってる2人だよ」
その対応は日陰で生きてきた裏組織の人間からしたら考えられないような歓迎の仕方で、ヴェロッキオを含めハーゲッツの面々が若干引いている。
戸惑うのも無理ないよな。
邪霊ケラス救済ミッションに関して、作戦決行までにトラブルが起きないように現地周辺の偵察任務をお願いしたから最近は特に忙しいし。
俺も学習したよ。何かイベントが起きるとき、そのまま現地に行くから他の二重三重のトラブルが降って湧いてくるんだと。
古代都市マダルダでのレイニーデビル然り、神山での試練の際の神々の横槍と邪神教会の襲撃然りと、大丈夫だと高をくくって行動したからトラブルが来る。
だったら、事前に徹底調査して、周囲の安全を確保してから挑めばいいんだって。
「もうちょっとしたら連中も落ち着くと思うよ。夜には歓迎の宴もあるから、そこで互いの好みでも語り合えば明日にはブラザーさ」
「まぁ、そっちの方はわかりやすいな」
「うちの暗部は飲むよ? 潰れないように気を付けてくれ」
「はっ、生まれてこのかた酒で俺に勝てた奴はいねぇぜ」
「そいつは心強い」
そのおかげで、ただでさえ激務なのに仕事が重なって休む暇がさらに減った。
想定では、簡単な偵察で済むはずだったんだ。
周囲の偵察をして安全を確認するだけの簡単なお仕事で、激務になるなんてことはなかったはずなんだ。
この前のネルの鬼のようなドロップ率の反動が来たのか、はたまた本当に俺たちは持っているのか。
ジュデスたちが偵察先で見つけちゃったんだよ。
「とりあえず、施設の案内と今後の予定を説明するよ。ついて来て」
「おう」
天使様もきっと、この依頼を出すときは周囲の安全は確保されていると考えていたと思うんだ。
発見した仮設の建物群は明らかに建設したてで、向こうも準備段階だというのは明白。
できうる限り、森林で隠し、そして偽装工作も念入りにしていた。
だけど、うちのエンターテイナーたちは優秀で、そして見て見ぬふりはしなかった。
邪霊ケラスの封印地で活動する邪神教会の一派。
辺境の土地だから、人が寄り付かないことを良いことに大隊規模の人員を現地に送り付けていた。
人の出入りもかなりあって、周囲の警戒も厳にしており、何かを企んでいるのは明白。
それを放置することはできず、エンターテイナーたちの業務に監視が加わり、さらにその場から離れる人間への追跡業務が加わり、そして拠点の割り出し業務まで加わった。
その先は言わずもがな。
精霊たちにも動員をかけたが、彼らにできる範囲には限界がある。
結果的にはエンターテイナーたちの労働環境が悪化してしまった。
なので、可及的速やかな人員補充が急務となったわけだ。
「さてさて、これでフライハイトの施設説明は終わったし、業務の説明も終わった。そして、この後の研修内容も説明したけど」
ハーゲッツの面々が来たのは、まさにそんな修羅場の時期だ。そして今は一通りの案内を終えて、契約の神の神像の祀られた神殿に来ている。
「何か質問はある?」
「・・・・・聞きたいことは山ほどある。だがこれ以上はこれにサインしないと知れねぇってわけだ」
「答えられる範囲に差は出るね」
なので、歓迎はするけど、そのあとは激務になることをあらかじめ伝えたうえで、職場環境と報酬の話をして、現場投入の話をしている。
契約の神を仲介した契約は確かに強力だ。
しかし、欠点としてその契約は互いに心の底から納得し、同意しないと発動しない。
心のどこかで否定的な気持ちがあると、その契約は無効となり、契約は成立しない。
だからこそ、事前説明というのは重要で、そして納得が必要だ。
「ボス、これだけは聞きたい。あの言葉に嘘はないな?」
「それに関しては一切偽りはない。そこでニコニコと笑っているシャリアが指揮して現在進行形で計画を進行している。建設地の選定と建設する港町の設計、資材の確保は進んでいる。そして、契約の中にその点も盛り込んでいる」
そしてヴェロッキオたちハーゲッツの面々を納得させる手段はしっかりと用意している。
「実際の計画書と、この街の責任者である俺の印が押された決裁書だ。確認してくれ」
「見させてもらおう」
口約束なんてこの界隈じゃ信用できない。
なら実際の物を見ないと安心できない。
ヴェロッキオたちに見せたのは、正真正銘この街で使っている書式の正式な書類。
俺の決済印のほかに、企画発案者シャリアのサイン。
あの後住人たち、特に女性たちを説得して、なんとか納得と理解を得て、当初から俺のラフデザインにあった港町開発についての、エスメラルダ、バミューダとジンクさんの経営陣のサインも入った公式の書類だ。
「ふ、OKだ。ボス、今から俺たちはあんたの配下だ。夢のために俺たちを使ってくれ!」
それをじっくりと読み、問題ないと判断した後のヴェロッキオたちの行動は潔い。
ふっと笑った後に神官の用意したナイフで指先をサクッと軽く切って、契約書に血判を押しサインする。
それに続く形で、続々とハーゲッツの面々がサインをしていき。
「これで契約が完了だ。今日は歓迎会、明日は休暇、そして明後日から行動を起こす」
神殿で無事に契約が結ばれた。
この後のデスマーチのことを知る身としては、せめて今日明日はゆっくりと休んで欲しい。
ニッコリと笑ってヴェロッキオと肩を組むジュデス、そして笑顔で手を振るシャリアに案内されて宴会場に連れていかれる。
そこには豪華絢爛な食事と酒が用意されて、ハーゲッツの面々を歓迎する。
そして飲めや歌えやの大宴会の翌日は、旅の疲れを癒すためにジュデスたちが公衆浴場や食事処に案内するだろう。
マッサージとかして、心身共にリフレッシュした後に待っていること。
それはこのあとの出来事を迎えるための休息期間。
宴会と休息を隔て、時が過ぎたその日の朝は快晴だった。
「お前たちをこの一週間で立派なフライハイトの諜報員に仕上げる! 今この瞬間からお前たちは人ではない!! いいな!!」
そこに立つ2人の鬼教官が掲げるのはハートマン軍曹ばりにスパルタな早期訓練計画。
緑色のズボンにタンクトップ、そして帽子。
形から入るのはわかっているけど、ここまで目が血走り、そして気迫を放つジュデスを前に、ヴェロッキオを含め昨日までの優しさを知る身としては別人だと思わされる。
「お、おい、おい、兄弟、なんの冗談だ?」
「ふふふふ、兄弟。俺たちは兄弟さ。楽しいこともつらいことも分かち合う大事な、そう大事な兄弟さ」
強迫観念に憑りつかれたと言っても過言ではないほど、ジュデスとシャリアの目はイッている。
仕事を減らすには、人を増やすしかない。
今は寝ずに育てる時だと、覚悟が決まった目。
「安心してよ兄弟。僕たちは君たちを立派な諜報員に育てるよ。大丈夫、辛いのは最初だけさ。あとから、だんだんと慣れてくるからさ♪」
酒を飲み交わし、仲を深め、そして体調を癒すという名目でしっかりと身体能力を調べた。
ハーゲッツの面々の精神と肉体の限界の数値を見極め、最高効率でのパワーレベリングと厳選したスキルの獲得。
その二つを俺に計画させて、さらに精霊界への来訪の許可を取ってきた。
「逃げることは許さない。なにせ、今日からお前たちはエンターテイナーだ。これも仕事の1つだ」
「逃げてもいいよ? だけど、その代わり、わかっているね? 君たちの夢と希望は遠ざかるし、僕たちは全力で妨害する。忘れないように言っておくけど、君たちが少しでもさぼれば、夢を凍結させる権利を僕は持っている」
覚悟ガンギマリ。
その2人のやり口は、ヴェロッキオを含め裏社会ではおなじみのやり方。
最初は優しく、あとから搾り取る。
そんなやり口だ。
それを汚いとは、ヴェロッキオは言えない。
なにせ、そのやり方は彼らもやってきたこと。そして何より、しっかりと仕事をすれば約束を果たすと神の仲介の元で契約しているからだ。
「「さぁ、わかったらさっさと並べ」」
冷徹な無表情に戻ったジュデスとシャリアの2人を前にして、危険を感じたハーゲッツの面々は慌てて整列した。
引きつった表情のハーゲッツの面々。
なにが始まるのだと、戦々恐々しながら並んだ先。
「まずは神殿でレベルリセットから始めようか」
「そこでお金がもらえるけど、そのお金は訓練が終わるまでは僕たちが預かるから」
「さぁ、駆け足で神殿に向かうぞ!!」
ここから先は一切の手加減はないと告げるようにジュデスは指示を出した。
そしてジュデスが駆け出し、それに慌ててついていくハーゲッツの面々。
「それじゃ、僕も行ってくるね」
そしてその後をシャリアもついていく。
「・・・・・大丈夫かなぁ」
俺はここまでずっと見ているだけ。この先の行動管理はジュデスとシャリアに任せている。
本来であれば俺が育てた方が良いんだろうけど、俺は俺で色々とやるべきことがある。
実際、上司になるジュデスとシャリアが育てた方が、今後のエンターテイナーの組織運営を考えれば良いのは確かだ。
しかし今回の育成計画内容を思い返し、ちょっと心配になる部分が無いわけではない。
なにせ、俺が考えた育成方法は効率重視のFBO時代のガチ育成法。
ゲーマーだからこそできるような時間効率重視の方法で、そこに肉体的疲労のことは一切加味されていない。
そんな方法にハーゲッツの面々が耐えられるかと疑問を抱く。
「必要だからって、ジュデスたちにゴリ押されたけど、普通に考えてアウトだよなぁ」
走り去っていく面々を見送って、果たしてこれで良かったのか。
そんな思いのまま、成長した彼らがどうなるか。
「せめて、脱ぎ癖だけはつかないことだけを願っておくのと、帰ってきたときに労えるように達成祝いの準備だけはしておくか」
成功すれば強くなって帰ってくるのは確実。契約で縛っているから、この街の不利益になるようなことはしないことも確実だ。
賽は投げられた。
あとは結果がどうなるかという話だ。
死者と再起不能者だけは出すなと厳命しておいて、さらに御庭番衆からも助っ人を出してある。
万が一のことを考えて、回復用のポーションも大量に用意している。というか、効率重視になるとどうあがいてもアイテムの消費量は増える。
「・・・・・ポーションがぶ飲みでのレベリングか。ゲームなら普通だけど、冷静に考えると地獄絵図だよな」
ゲームなら回復アイテム連打でHPを回復したり、課金アイテムでスタミナ回復してクエストを高速周回してレベリングしたりするけれど、普通に現実でやると「正気か?」と問いかけられるような所業だ。
「さぁてと、俺も仕事に戻るか」
それをやらされるハーゲッツの面々に向けて一度だけ合掌して、俺はその場を去るのであった。




