8 トラブルをもってしてトラブルを制す
ついに!書籍第二巻とコミカライズ第一巻が発売です!!
皆様是非とも読んでください!
さて、新たに港町と、そこに歓楽街を作るという建設計画。
それ自体は必要性があるとして、この街フライハイトにも作るという話は前々からあった。
そしてそこがエンターテイナーたちの本拠地になり、外部から来る人間や住人の情報収集の場になるという計画もあり、必要性という点で言えば十分に説得力のある要素を兼ね備えていると言っても過言ではない。
だがその必要性と、それを受け入れることの住民の女性たちの感情面というのは、切り離すことは難しいデリケートな話であるというのもまた事実。
ハーゲッツという組織を迎え入れるにあたって、ついにその話を本格始動するということになったからには、そのデリケートな側面にも対処しないといけない日が来たと覚悟を決めて話し合いに臨む。
そしてまず必要になったのは、仮初の発案者という存在だ。
本来の発案者は俺なので、仮初と頭に文字が付く。
それは俺が発案者であることを表向きに否定するための方便だ。
仮に俺が発案者としてそのまま実行すると、街のトップが積極的に花街を作りたがっているという風評が流れる。
世間体的にそれはまずい。
それが、幹部陣の中の共通の認識になっている。
事実、町の有力者が風俗街に積極財政なんて、どう言えば住民に納得してもらえるか俺にもわからない。
ちなみに俺自身にも、性欲という物は肉体的に存在しているから、理解できないことはないというか、むしろ思春期真っ盛りの体になりつつあるから、その手の施設が男性にとって必要だと言われれば否定がしづらいのが困りものだ。
まぁ困らせる相手が俺にはいる、というのが問題なのだが。
複数の女性たちから好意を寄せられている身として、男の欲望を発散させるための歓楽街を作りたいと大々的に宣言するのはさすがにないとわかる。
仮にその好意を見なかったことにして俺が発案者ですと堂々と宣言すると、彼女たちからどういう対応を取られるかわかったものじゃない。
実際クローディアは仕方ないと割り切ってくれているようだけど、内心はどう思っているのかわからないし、イングリットは表情からは感情が読み取れないが、その反応からあまりいい印象を抱いていないのは察せる。
そうなってくるとこの話をネルとアミナ、そしてエスメラルダに持っていくとどうなるか想像ができないのだ。
なので、この話の流れに全乗っかりして、俺はあくまでフライハイトの統治者として、歓楽街の存在が街の発展に必要だと判断し承認するというスタンスに収まり、発案者が別にいるという体裁は必要不可欠なのだ。
椅子の背もたれに寄りかかり、話の流れを見守っているのはそのためだ。
「歓楽街の発案者はやはり一番必要だと思っている人間の提案にすべきだと、私は思うのですが、ジンク殿いかがか?」
「うん、それが筋だね。そうなってくると」
いま話しているのは、仮初の発案者を誰にするかということ。
バミューダがジンクさんに話を振り、その話の流れで誰がふさわしいかということで、ある方向に視線が集まった。
「俺たちのどっちかか?」
「というよりジュデス君が一番適任だぞ♪」
「だよなぁ」
そしてその流れのままだと仮初めの提案者を誰にすべきかはすぐに決まりそうだ。
エンターテイナーたちの本拠地となり、隠れ蓑にするのなら、当然だけどその責任者が一番必要性を認識する必要がある。
そして責任者というのは二人いて、どっちが提案しそうかと言えば、ジュデスの方だと満場一致の意見になる。
横一列から端の方に並んだ面々が一歩前に出て扇状の形に並び直し、顔を見やすくなった状態での話し合い。
視線はジュデスとシャリアに集まり、シャリアの笑顔で皆納得して改めてジュデスに集まる。
「確かにジュデスが妥当か? 作りたがっていると言いそうだからな」
「え? 俺ってそんなイメージなのか? それってかなりやばくね? 真剣に結婚相手を探したいのに彼女ができる未来が全力で走り去っていっているんだけど」
そして先日、神殿の巫女さんたちとの合コンを失敗したジュデスは、少し黄昏れるようにその役目を受け入れた。
「大丈夫だぞ、ジュデス殿。その分花街の女性にはモテるはず!」
「おう、そうだぞジュデス! 歓楽街のボス! その地位に寄ってくる女はごまんといるはずだ!」
「それ慰めてねぇよな!? むしろ悪化してるよな!? やっぱり別のやつにしないか!? というかシャリア! お前だって女が好きだろ!! その見た目で作ったようなかまととぶってんじゃねぇよ!!」
ように見えたけど、冷静になったらリスクが大きいことに気づき慌てて否定し始めた。
「私は止めてくれないかな。テレサに殺される」
「確かに既婚者のジンクさんはまずいよな」
その流れで別の発案者候補を考えるということになったが、真っ先にジンクさんが挙手し止めてくれと訴えた。
ジンクさんとテレサさんの仲は皆が知っている通り、円満だ。
その関係を壊しかねない提案を受け入れられない気持ちが痛いほどわかる。
流石に、既婚者の男が花街の設立の提案をしたら家庭内裁判待ったなしということになる。
世話になっているジンクさんにそんな不義理はできない。
なので、最有力候補であるジュデス以外に候補が上がるかどうかという流れからジンクさんを除外することに対して異を唱える人はいない。
「・・・・・では私も止めた方がよろしいかと。新参者がいきなり提案して良い内容でもないと思いますので」
次に挙手したのはバミューダだ。
真剣な顔で語る、発案者の候補から外れる理由は至極真っ当。
幹部としてこの場には参列しているが、発案者として名乗り上げるには経歴が浅すぎる。
この街に来て色々と仕事をしているが、それでも経歴は浅いし未だ街の中にはバミューダのことを懐疑的に見ている人もいなくはない。
なので、その点を考えると確かに候補から外れる。
ジュデスもジンクさんとは違いずるいという視線を送っているが、文句は言わない。そのあたりから、納得はしているということだ。
「既婚者という意味では拙者も同じなのでござるが」
「あー、警備の責任者が提案していい物でもないか?」
「申し訳ない」
「いや、ゲンジロウの言っていることも当然だ」
そして、その流れで次に挙手したのはゲンジロウだ。
彼もジンクさんと同じで既婚者、そして立場的には歓楽街の設立に関しては微妙な立場とも言える。
賛成にも反対にも回れないゲンジロウの立場、必要だとは理解しているし共感もできるが、積極的な発案者にはなれない。
その立場故に、発案者候補から外れる。
「残ったのはジュデスとシャリア、そしてドンとクローディア」
ここまでで三人が候補から外れる。
そして残った四人は心情的な理由以外は、候補として明確に外れる理由はない。
「私の場合は、どちらかと言えば提案者よりも賛同者の方がよろしいかと。私は花街の必要性について理解しています。納得もできますので、他の女性の説得する側に回るほうがよろしいかと」
「確かに、クローディア様が提案するのは何か違うと私も思うね」
「私もジンク殿に同意しますな」
「拙者もそう思いまする」
しかし、適正面という観点で言えばクローディアは提案者よりも賛同者の方が都合がいい。
「うん、俺もそう思う」
ジンクさん、バミューダ、ゲンジロウの三人の賛同と俺の納得でクローディアも発案者候補から外れる。
「・・・・・ワシは特に外れる理由はないの。作業場の人間としてその手の娯楽が必要なことを一番理解している立場ではある」
「それ言うと俺もそうなんだよね」
「僕もそうだね」
結局残ったのはジュデス、シャリア、ドンの三人になる。
納得の人選、この三人の内誰が発案者になってもおかしくはない。
「リベルタ、貴方は誰が良いと思いますか?」
その三人の内誰がやるか、その選定は責任者であり真の発案者である俺こそが意見を言うべきだ。
「歓楽街は組織の運営上、エンターテイナーたちの管理下に置くべきだ。ここでドンが発案者となると、その後の関係性でドンが組織の運営に関わらないといけなくなる。そうなるとエンターテイナーたちの組織運営に雑音が混ざる。それは避けたい」
なので、まずは真面目な方向で除外対象を1人出す。
一見発案者は幹部の誰でもいいと思われがちだが、組織の運営という観点から見れば、最初の話の通り後々の運営をする人物が好ましいというのは確かだ。
ジンクさんやゲンジロウであれば、経済面での提案としてあるいは警備面の提案として発案者っぽくできる。
だが、ドンの立場だと微妙だと俺は思った。
「となると結局俺たちのどっちかと」
「うーん、ここまで理由を並べると当然って感じになったね」
俺の意見も受け入れられ、そしてここまでの会話が悪あがきのように感じてしまうが、この対話の過程を経るか否かでジュデスとシャリアの納得度合いが変わるから無駄ではない。
話し合いをせずに頭ごなしに決めつけるのと、話し合ってこういう理由があってと着地させるのとでは、心理的に頭の整理のしやすさに差がでる。
「となると、どっちがなるか」
「そうだね、これは公平にじゃんけんで決める?」
「それが簡単か」
「勝った方にする? 負けた方にする?」
おかげで、ジュデスとシャリアもどっちかがやると覚悟を決めて、じゃんけんという公平な勝負で決めることとなった。
「リベルタ、決めてくれ」
「じゃぁ、勝った方で」
割と真剣な顔で、ジュデスから頼まれたからなんとなく負けた方に役割を押し付けるのは違うと思って、勝った方にした。
「わかった、シャリア恨むなよ」
「悪あがきしているジュデス君の方が運が悪くなっているはず、この勝負僕の勝ちだよ」
腰だめに互いが拳を隠し、一般人を逸脱したじゃんけんが今始まろうとしている。
「「最初は、グー!」」
皆が見守る中、気合と気迫を放つ2人は持ち得るステータスを駆使し、相手の手を読み、無駄にハイレベルなじゃんけんが始まり。
「「じゃんけん!」」
そして放たれた手は。
「「ポン!」」
どちらもグー。
「「あいこで、しょっ!」」
そしてチョキと重なり、さらに続き。
「これ、いつ終わるんだ?」
「互いの動体視力が拮抗しているので、相手の意表を突いた方の勝ちですね。出すまでに何度も手が変わってますが、なるほど、仲間だからこそ相手の癖が良くわかっているわけですか」
何度もあいこを繰り返す光景が生まれた。
時間にしてすでに三分以上続いている。
ジュデスもシャリアも全力でじゃんけんをしているから額に汗を流している。
「これ、負けた方にした方が良かったか?」
「そうですね。勝つ方にしたせいで、負けるための読み合いに思考がシフトしてしまい、なかなか決着がつかない事態になっています」
クローディアもあきれ顔でその光景を見ていて、どっちの集中力が切れるかの勝負になっていると判断したようだ。
周りも最初は真剣に見ていたが、だんだんと雑談を交すようになっている。
「ん?」
そんな「あいこ」の掛け声が響く執務室に向けて近づいてくる足音が聞こえる。
それも駆け足、緊急の要件でもあるのかという雰囲気を感じ取り、じゃんけんに集中しているジュデスとシャリア、そしてまだ周囲の変化に疎いバミューダを除く面々がその足音に気づき扉の方を見る。
「リベルタ! 大変ですわ!」
そして執務室の扉を勢いよく開けたのはエスメラルダだ。
バン!と大きな音を響かせて入ってきたエスメラルダは普段の冷静な表情が消え焦った様子。
何事かと、皆が見る中。
「あ、負けた」
「か、勝っちゃった」
一瞬意識が逸れたシャリアの手を読み切ったつもりのジュデスがグーを出し、シャリアが無意識にパーを出した。
何とも締まらない結果となったが、それよりも先に。
「何があった?」
トラブルの予感を感じ、そっちに対処するために意識を割くのであった。




