7 緊急会議(男衆)+冷静な人
カウントダウン!
ついに明日、書籍第二巻とコミカライズ第一巻が発売です!!
すでに書店に並んでいるという情報を頂いていますが、是非ともよろしくお願いいたします!
ハーゲッツという諜報活動ができる即戦力集団を確保できた俺は転移のペンデュラムを使ってフライハイトに戻ってきた。
ヴェロッキオたちを迎え入れる準備をするためだ。
「おかえりなさいませ、リベルタ様。無事のご帰還、誠に喜ばしい限りです」
屋敷に帰って即座に出迎えてくれたのは、残像を残す勢いで素早く移動してきたイングリットだ。
置いてきぼりにして1人で出かけてしまったからか、あちこちと体を触って無事を確認してくるのには苦笑せざるを得ない。
実は毒を喰らっているとは口が裂けても言えないな。
「ただいま、イングリット。帰って早々だけど、ジュデスかシャリア、あとはクローディアとジンクさんに、パーシーはいいかな、ドンは呼んでもらって・・・・・そうだな、バミューダとゲンジロウも呼んでくれないか?今回の遠征の結果で相談したいことができたんだ」
「かしこまりました。すぐに招集をかけます」
そこに関して触れたら、イングリットが静かにキレてハーゲッツメンバーを撫で斬りにしそうだから黙っておく。
「ああ、俺の執務室に頼む」
「承知しました。二十分ほどお時間を頂いてもよろしいですか?」
「ああ、大丈夫だ」
表向きは何事もなく無事に戻ってきた俺だ。
そこら辺を教えるのは、二、三年後の酒の席の笑い話にする程度でいいだろう。
イングリットがメイドらしく歩いているように見えて、実は高速で移動している歩法で立ち去っていく後ろ姿を見送って、俺は自分の執務室に戻る。
執務室はイングリットが毎日掃除してくれているから塵ひとつなく綺麗で、この街の長になるのならと気合を入れてパーシーがこさえてくれた、高級感あふれる椅子に俺は身を預ける。
さてあとはどういう形で話をまとめようかなと、目を瞑り思考の海に身を投げ出そうとしたときに、執務室に向かって走る足音が聞こえた。
「リベルタ!どうだった!?」
「ジュデス、一応俺、この街の長だぞ。せめてノックくらいしろ」
「あ、ごめん。俺たちの休みがかかってると思うとつい」
「もう、ジュデス君。そんなに慌ててたら後でエスメラルダさんに怒られるぞ♪」
閉じていた目蓋を開けて、苦笑気味に執務室の机に頬杖をついて注意すると、ジュデスも頭を掻きながら謝ってきた。
そんなに勢いよく入ってくるほど期待してくれていたのだとわかるが、エンターテイナーたちのトップとしてはもう少し落ち着きを持っていて欲しい。
切実に人員不足に悩むジュデスとシャリアだから、この行動も仕方ないと言えば仕方ないのか。
「2人とも揃ってたのか。忙しいからどっちかがいたらラッキーだと思ってたけど」
「偶然だけど、報告に戻ってたんだよ。あと十分遅かったら俺は出てた」
「僕は今日は久しぶりの半休だぞ♪」
「なんかすまん」
二人の労働環境が少しでもマシになればいいかなと思って行動しているけど、シャリアの笑顔が直視できない。
せっかくの休みなのに呼び出してしまっているからだ。
「リベルタ君も僕ら以上に働いているんだからそこはいいんだけど、僕としても仲間が増えるかどうか、そこら辺のことは気になるしね♪」
「そうだ、それでどうなったんだ?」
「結果だけで言えば、即戦力は確保できた。元々情報収集を主として活動していた組織の人間だから、諜報活動のノウハウはある。性格に関しては癖はあるが義理堅い。レベリングと契約をすれば現場投入できる」
「うっしゃぁああああ!!休みが見えた!!」
「喜ぶのは早いよジュデス君。これで1人2人じゃ、焼け石に水だよ。それで人数の方は?」
「規模で言えば、百人は超える」
「やったああああああああ!これで久しぶりに連休が取れる!!」
そんな2人は、俺のスカウト結果を聞いてハイタッチを交わしている。
それだけ労働環境で無理をさせているのだから仕方ないといえば仕方ない。
「2人にはすまないが、研修とレベリングを任せることになる。レベリングの戦闘要員に関してはゲンジロウと相談して御庭番衆を出してもらうから前衛には困らないと思う」
「それはやる、絶対にやる。今の休みを削っても明日の休みを確保するために俺はやるぞ」
「そうだね、ここが正念場ってやつだよ」
その環境が変わると聞けば、2人も気合が入る。
「ずいぶんとジュデスさんたちの喜ぶ大きな声が響いていましたが、それだけ朗報ということですか?」
「ただいま、クローディア。ああ、軽くだけどスカウト結果を伝えていただけだよ」
そんな2人の歓声を聞きつつ部屋に入ってきたのはクローディア。
「おお!この2人が喜んでいるということは良い結果というわけですな!」
「まぁ、リベルタ君が早々に失敗するとは思えないけどね」
「確かに、その通りですな」
そしてその後に続いてゲンジロウ、ジンクさん、バミューダと入ってくる。
「皆も、留守中ありがとう。問題はなかったかな?」
「問題ありませんぞ!蟻の子一匹たりとも侵入を許しておりません!」
「そうだね、運営に関しては特にないかな。バミューダ君がいるおかげで仕事はむしろ早くなったよ」
「組織の基礎がしっかりしているからこその、この手際が出せるという物ですな」
イングリットの高速移動によって次々に人が集まる。
残ったのはドンだけ。
「おい!1人で歩けるって!?なんでワシだけこんな運び方になってんだ!?」
「申し訳ございませんが、作業場から離れようとしなかったため強制的に運ばせていただきました」
そして最後に集まってきたのが、ドン。
いや、集まってと言うよりは、イングリットが頭の上に掲げるように運んできたと言った方が正確か。
「お待たせしましたリベルタ様」
「おい!挨拶したいからワシも下ろしてくれ!?」
「はい」
「あー、ふぅ、待たせてしまって申し訳ない」
「うん、急な呼び出しをしてしまってごめんな」
これでひとまず呼び出した面々は揃った。
イングリットはシレッとそこが定位置だと言わんばかりに俺の背後に収まっている。
この後話すことを考えると、できれば背後は止めて欲しいんだけどな。
俺の執務室はそれなりに広い。それこそ、集まってくれた面々が全員入っても狭いと感じない程度には広さがある。
机の前に横一列に並べるって、冷静に考えればかなり広いってことだよな。
「それじゃぁ、呼び出した理由を話そうか」
そんなことをしみじみと考えている暇は彼らにはない。
雑談はここまでとパンと拍手を一回して、注目を集めたのちにハーゲッツのスカウトが成功したことを伝えた。
「いきなり全員来るってわけじゃないけど、今回のスカウトでエンターテイナーたちの負担は格段に減ると思う。そして俺たちの活動の幅も広がる」
「・・・・・スカウトが成功したことは確かに喜ばしい話です。事実ジュデスやシャリアにとってはなによりも嬉しい慶事でしょう。ですが、リベルタ。それだけの報告のためでは、私たちを集めた理由にはなりませんよね?」
その事自体は簡単に受け入れてくれたし、喜んでくれた。
だけど、クローディアの「この面々を急いで集める理由にはならない」という指摘で、俺はつい顔を横に逸らしてしまった。
典型的な、気まずいと白状するような態度。
「何かあるのですね」
その態度があからさまで、一見すればわざとのようにも見えるが、それでも指摘せざるを得ないとため息を吐きつつクローディアが追及することで話は進む。
「スカウトする条件で、とある施設を作ることを約束した」
なので俺は視線を戻して、ゲン〇ウポーズで答える。
「とある施設?酒場とか?」
「そのようなありきたりな施設でスカウトできる組織ではないですな。となれば利益が見込める施設・・・・・賭博場などが想像できますが」
「いやいや、ここじゃ賭博場を開いても儲からん。それに賭博場を開くならエスメラルダの嬢ちゃんをここに呼ばない理由はないぞ」
その施設の名を言う前に、ジュデスが予想を口にし、バミューダがそれを想定し、さらにそれをドンが否定するという流れになり。
「そうだね。ここに呼び出した人員は責任者ばかりだけど、なにか偏りがあるような気がするよ」
「そうだよねぇ、普段のリベルタ君だったらあっさりとこういうことは言うのに、濁すのも怪しい」
その話で呼び出した人員編成に違和感を覚えたジンクさんと、俺がはっきりと明言しないことに怪しむシャリア。
「うむ!考えてもわかりませんな!御屋形様、どのような施設を作ると約束したので?」
そして少し考えても想像すらつかなかったゲンジロウの裏表のない言葉によって、俺は言わざるを得ない状況に追い込まれた。
だれか、言い当ててくれて「それだ」と言う流れが欲しかった。
けれど、これ以上引っ張るのもダメだと思った俺は、少しでも真剣な表情を作り。
「港町の歓楽街、いや、もっと正確に言えば花街だな」
「「「「「・・・・・なるほど」」」」」」
「・・・・・だからこのメンバーなのですね」
堂々と言えば、男衆は数瞬の間をおいて納得したように同時に頷き、クローディアは頭痛を堪えるように額を抑えながらため息を吐く。
「・・・・・」
そして背後から、イングリットの冷たい目線が投げかけられる。
「・・・・・」
こういう反応があるから、男衆とクローディアだけで話したかったんだよ。
「あなたが何も考えずそういうことを話すとは思えませんので、ひとまず話を聞きましょう。詳細を」
「あ、うん」
そして、この場にいる人間の大半が男であるので、俺の話を弾劾するような流れにならず、一安心。
クローディアの言葉に頷き、俺は港町に花街を作る理由を説明し、それによってハーゲッツを味方に引き入れたという経緯を話した。
「裸になりたがる俺たちが言うのもなんだけど」
「リベルタ君が集める暗部って、変わった人しかダメな理由でもあるの?」
「ない、とは言えない。だけど、優秀で信頼が出来そうな人材を集めた結果がこれだと言い訳はしておく」
その反応は様々だ。
同僚になるであろうジュデスとシャリアは、その性癖に呆れ。
「これは、どう説得しようかね」
「治安バランスを取るために歓楽街を作ることは効果的ですな。その点を踏まえ論理的に話す方がよろしいでしょうな」
ジンクさんとバミューダはその必要性を理解しているがゆえに、すぐに対処法を考え始める。
「まぁ、ワシたちも酒を飲んだらそんな気分になるからよ、同族がいる店はありがたいわな」
「御庭番衆の若い衆にも、そういう発散の場を与えるのは良いと思いますぞ」
ドンとゲンジロウは、純粋にできたらうれしいという感想を漏らした。
肉体労働をしている2人からしたら、その手の店でストレスを発散する必要性を理解しているということだ。
「ジンクさんとバミューダはわかっていると思うけど、必要だから作るって言っても、そう簡単にはいかないのはわかってるよね?ということで、この場にいるみんなで住人である女性陣を説得する方法を考えよう」
雰囲気は悪くない。
なので、その流れで俺はここに呼び出した本当の理由を話す。
「あー、そういうことか」
「こういうのって、むしろリベルタ君が『作る』って言っちゃダメなやつだね」
それでようやくこの面子がここに集まった理由を察したジュデスとシャリア。
「形としては、この場にいる誰かが提案して、話し合ってリベルタ君が必要だと判断した、っていうのが理想の流れかな?」
「そこら辺が落としどころですな」
どんなに言い訳を重ねようとも、玄人の女性が酒場で女を売る歓楽街という施設を作るのは、住民の女性たちから悪感情が向けられやすい。
それによってこの街の雰囲気を壊さぬよう、この後じっくりと話し合いがされるのであった。




