9 天使からの依頼
書籍とコミカライズ好評発売中!!
是非是非!!お手に!
「どうかされましたの?」
「いや、ちょっとタイミングが悪かっただけだ。それで、何があったんだ?」
少し変な空気の空間に突入して来て、視線を一身に浴びることになったエスメラルダは困惑した様子だったが、俺が聞きなおすことで気を取り直した。
その間に、この場にいた面々が左右に道を開けて、居住まいを正してエスメラルダを俺の正面に迎え入れる形をとった。
「神殿より遣いが参りましたわ。内容は天使様からの試練が告げられたと」
「「「「!?」」」」
そしてはっきりと告げられた内容に、動揺が走る。
「あ、良かった。変なトラブルじゃなくて」
ただ俺は天使からのクエストが来たと聞いて、ホッと胸をなでおろした。
「いやいや、お前の感性はどうなってるんだよ!?天使様からの試練だぞ!?普通驚くだろ!?天使様だぞ!」
「いや、アジダハーカ討伐とか、この前のランナーランナーよりはマシだろ?それに邪神教会とか貴族のトラブルとか」
「比べる対象がそもそもおかしいんだよ!!」
これでどこぞの阿呆貴族が何かやらかしたとか、邪神教会が動いたとかそこら辺だったら大きくため息を吐くのだけど、天使からのクエストであれば諸手を上げて大歓迎と横断幕を掲げてもいい。
皆が動揺する中、冷静に対処している俺がおかしいとジュデスは言うが、前に試練の間で天使にクエストを受けていいと言っているから、いずれ来るとは思っていた。
なので、心構えはできていたし、このタイミングで来たかと思うだけで、それ以外に気負うようなことはないということだ。
「そうかもな。エスメラルダ、神殿からの使者は応接室に?」
「ええ、そちらで待ってもらっていますわ」
「わかった。クローディア一緒に来てくれるか?」
「わかりました」
未定の予定がやってきただけのこと、あとはどれくらいの難易度のクエストが来たか、それだけの話だ。
神殿関係者ということなら、クローディアにも一緒に来てもらうのがいいだろうと、視線を向けて頼むと、さっきまでの花街の話よりも気が楽なのか、表情が柔らかくなり気軽に頷いている。
「ジンクさんとバミューダで、シャリアを中心にその話は進めておいて、予算とどういう話で伝達するか草案が出来たら持ってきて」
「わかったよ」
「承知しました」
「あははは、できれば忘れて欲しかった」
天使のクエストという名の儲け話と認識している俺は、特に気負わず立ち上がって話を聞くために部屋を出る準備をする。
神殿の使者と会うとなれば、相応の格好をする必要がある。
さすがに遠出の外出から帰ってきた格好のまま会うわけにはいかないから、ひとまずスーツに着替える。
その際にしっかりと、港町と歓楽街の建設の話を進めるように指示を出しておく。
ジンクさんとバミューダに任せれば概ね問題ないだろう。
神殿や学園の立地から逆算して、都合のいい立地を建設地としてさらに規模の選定もしっかりとしてくれるはず。
気負わず頷いてくれる二人に対して、責任者という名の発案者になったシャリアの表情は微妙の一言。
隣で苦笑しているシャリアの肩を良い笑顔で叩くジュデスの表情はとても晴れやかな笑顔だった。
「他は通常業務に戻ってくれ、さっきの話で意見を聞くかもしれないからその時にまたよろしく」
「承知しましたぞ!」
「おう、わかった。若い衆にも聞いておく」
そんな2人の横を通りゲンジロウとドンが現場に戻っていく。
「では、私たちも戻ろうか」
「そうですな」
「俺は、そろそろ任務に出てくる。頑張れよシャリア」
「うっさい!はぁ、とんだ休みだよ」
それに続いて、ジンクさんとバミューダも仕事場に戻り、ジュデスも少し遠慮がちながら足取り軽く部屋を出ていく。
唯一足が重いのはシャリアだけで、今日は自棄酒だと呟きながら残った休日を消化しに部屋から出ていく。
「リベルタ様、天使様とはお知り合いのようですが、どちらで会われたのでしょうか?」
そんな皆を見送った後に、イングリットが用意してくれたスーツに着替える。
最早、彼女に服の着替えを手伝ってもらうことに違和感を感じず。
「そうですわね。驚いている様子もなく。むしろ、ようやく来たかと言わんばかりに受け入れていましたわ」
カーテン越しにエスメラルダがいることにも違和感を感じず、着替え終えてカーテンを開けられ、服装をチェックされる。
「リベルタなら、元々知り合いという可能性もありますね」
日本にいたころの俺なら、自前で鏡でチェックしOKなら即出社という流れだった。
されど、やはり人に確認してもらった方が安心だ。
執務室の入り口付近に立ち、遠目だが俺の服装を確認したクローディアは問題ないと頷きつつ、俺ならやりかねんという視線を向けてくる。
「さすがにそれはない。前に神山で試練を受けた時だな。神像作りに必要な神の欠片を貰う際にちょっと話す機会があってな。そこで繋がりを得た」
「リベルタ、そんな気楽に天使様と交友関係を持ったみたいな言い草は・・・・・」
「さすがリベルタ様です」
「普通は、天使様と知り合いなんて言葉は出ないはずですが・・・・・リベルタですから仕方ありませんね」
俺もこの生活に慣れたなぁと思いつつ、服装にOKを貰い、ため息を堪えるエスメラルダとクローディア、そして俺を称賛するイングリットを引き連れて応接室に向かう。
「ん?」
道中は何ら問題なかった。
されど、途中からなにやら妙な気配を感じるようになった。
魔力とは違う、神々しいような雰囲気が廊下を漂い始め、そしてそれは目的地である応接室に向かえば向かうほど濃くなっている。
「エスメラルダ、来たのは神殿からの使者だよね?」
「はい、そのはずですが」
その異変に気付いたのは俺だけではなく、エスメラルダとイングリットも気づいた。
こんな雰囲気を醸し出す神殿の使者なんているはずがない。
「クローディア、フライハイトに派遣されている神殿関係者に神降ろしなんてスキルを持った人っていたっけ?」
「私が記憶する限りではいません。そしてそのようなスキルを持った者もいなかったはずです」
神殿からの使者に応対したエスメラルダと神殿関係者であるクローディアに確認をすれば、2人は予想通りの返事をしてくれる。
応接室の前に着けば緊張で背筋を伸ばしている御庭番衆の護衛がいる。
それを見てああ、なるほどと納得した。
これはいる。
そしてどうしているのかと考えれば。
「もしかして、割と面倒なクエスト?」
緊急性が高く、伝言形式では時間がかかると踏んだか。
「リベルタ様」
「ああ、わかってる。護衛ご苦労様。申し訳ないけど、もう少しの間頼むよ」
「はっ!」
どちらにしろ急な訪問は勘弁願いたいのだが、来てしまったものは仕方ない。
扉の前にいた御庭番衆によって、扉がノックされ中から返事が聞こえる。
『どうぞ』
その声に聞き覚えがあるから、俺は苦笑し、御庭番衆によって開かれた応接室の扉をくぐる。
窓際に立つ純白の翼を背に背負ったタキシードの男。
そしてその隣に、冷や汗を流しながら立つ神官の男。
「やぁ、リベルタ君」
「どうも、天使様」
部屋の中が浄化され、ここが応接室ではなく神殿なのではと感じるくらいに聖なるなにかを感じ取れる空間になっている。
「素晴らしい街ですね。完成すれば、世界でも屈指の大都市になるのが目に浮かぶほどです」
「天使様にお褒めに預かり光栄です。完成した暁には是非ともご来場を、街の住人総出でお出迎えしますよ」
「それは楽しみです。同僚にも声をかけておきましょう」
そんな場所に踏み込み、本来であれば跪き頭を垂れるべき相手に対して、向こうが気軽にヨッと片手を上げて挨拶してきたので、俺も軽く片手を上げてヨッと挨拶を返す。
「天使様たちにご来賓いただけるとは楽しみですね。そしてお久しぶりです、試練以来ですか、仕事は少しは減りましたか?」
「あはははは。その仕事を減らすためにここに来たのですよ」
俺の少しブラック寄りのジョークに対して、のっぺらぼうの顔を振り向かせ、どこから発声しているのかわからない状態で笑う天使はゆっくりと俺の方に歩み寄る。
俺もそれに合わせて、歩み寄ってグッと握手を交わす。
「美味しい話ですか?」
「あなたにとっては。他方はわかりませんが」
そして俺がニヤッと笑って質問すれば、天使様も雰囲気で笑って教えてくれる。
「それぞれの大陸に同じ内容が送られています。発生場所や条件次第ですが、やろうと思えばすべて受けることもできますよ」
「うーん、まずは近場のところから終わらせておきたいですね」
グッと一回握り合って、解いた後に優雅に天使様はソファーに座り、俺も向かい側に座る。
天使の翼を消し、のっぺらぼうの姿のまま座ると他の生き物に見えそうだが、頭の上の光輪が天使の証明になっている。
「そうなるでしょうね。私もそうなると踏んで、それぞれの大陸に仕事を割り振りました。難易度は平等にしたつもりですので」
「いくつ出しました?」
「全部で五つですね」
「東西南北の英雄と、愛の英雄の分というわけですか」
「ええ、早い者勝ちということになっていますが、一応数は揃えました」
そんな天使様自ら、依頼を持ってくることは稀有なことなのだろう。
天使様の背後に控えている神官の顔からは滝のような汗が流れ落ち続け、エスメラルダたちも無言を貫いている。
「そして、早めに依頼が終わるようでしたら追加の依頼も検討していただければと」
「なるほど、なるほど、これから定期的に依頼が飛んで来ると?」
「そこまで高頻度ではないですが、お願いしたい依頼はいくつもありますので」
「こちらとしては、しっかりと支払ってもらえるなら喜んでとだけ」
「わかっております。こちらとしても、その辺はしっかりと支払います」
神の使徒である天使とこんな下世話なやり取りするのは本来ならダメな気もするが、FBOでは割とこの手の会話は普通だった。
一言一句聞き逃さないようにしている神官殿からすれば、天使様から告げられる言葉の前には、すべてイエスマンでいるのが普通だと思うだろう。
こんな交渉事を持ち込むこと自体が異常事態。
さっきから、俺が一言発するたびに、胸を押さえて動悸を堪えるような仕草をしている。
「なら結構、最優先事項として対応させていただきますよ」
「その言葉が聞けて何よりです。それで、こちらが我ら天使からあなた方への依頼です」
それを無視するあたり、天使様も中々人が悪い。
いや、天使だから人ではないか?
別空間に保存していたと言わんばかりに空中に手を伸ばし、そして異空間に手を差し込んだと思うと、そこから紙の束を取り出す。
「拝見します」
それをそのまま俺に渡してきたので、それを受け取り中身を見ると。
「ふむ、邪霊の討伐と」
なかなか、面白い存在の討伐依頼が目に入ってきた。
「今は害は有りませんが、いずれこの世界に牙をむくのは間違いない存在です。精霊が堕ち、この世界を蝕む存在と化してしまったこと、私としても嘆かわしい限りです」
「なるほど」
ペラリとめくってみれば、どこにいるかも詳細に書かれていて、一見すればただ倒すだけのようなクエストにも見える。
「・・・・・救った方が都合が良かったりします?」
「・・・・・そのようなことができれば、追加で報酬が出るよう神に懸け合います」
「・・・・・ではその方針で」
しかし、物事には裏がある。
ここで1つ、FBOでの格言を教えよう。
天使のクエストには裏があると思え。
これ、FBOでは常識なのだ。
ベターな攻略よりもベストな攻略を。
それを伝えるように俺は笑顔を浮かべるのであった。




