24 情報源
人身売買。これは人の歴史の中ではどこの国でもどの時代でも、存在するのが悲しい現実だ。
FBOでは、倫理観にうるさいご時世だというのにその点に結構ガチで触れていた。
プレイヤーにはできないようにはしていたけど、NPCとの物語でそういう展開になるのは結構あった。
その人身売買の現場に追いつき、いざ突入って言うタイミングで別動隊が邪神教会の集団に合流してきた。
「あれが、主力か」
俺たちが捕捉した集団の中には実力者と呼べるような存在がいなかった。
邪神教会にとっては貴重なはずの、人員補給の機会にしては戦力が少ないかと思っていたが、色々と戦利品を担ぐ荷物運び役と一緒に、他の邪神教会の連中とは一線を画すような装備を身に纏った集団が現れたのなら、驚きよりもむしろやはりなと俺は納得した。
「進行ルートの安全を確保していたみたいね」
「そうだな。子供たちの監視は下に任せて、実力者が進路を確保。なるほど、理にかなってる」
俺たちは高速で移動できる故にモンスターを全て無視して移動出来た。
だが、足が遅くさらに力も弱い子供が同道するとなれば話は変わる。
モンスターは常に人を狙う。
大して力のない人間が集団で移動しているなら、彼らの縄張りに入り込んだ獲物を目の敵にして執拗に狙う。
そこに足手まといがいれば、当然のように弱い存在から狙っていく。
表街道を普通の人が使うのは、モンスターの縄張りから離れているからモンスターに襲撃される頻度が少なく、尚且つ出現してもモンスターの質が低いからだ。
故に、一定の安全が確保されている。
だからこそ、そこには人目がある。
それを避けるように移動し、目立たないようにするのならこういった誰も通らない森の中や山の中を進むほかない。
そうなると、当然モンスターという障害が立ちはだかる。
その障害を排除し、間引きすれば一定の時間は安全が確保できる。
ネルの言う通り、進行ルート上のモンスターを排除するメンバーがいたわけだ。
「タンク役が3人、斥候ができそうな弓使いが1人、短剣使いが1人、魔法使い風の姿のやつが2人、剣士風のやつが3人、回復役みたいなやつが2人」
人数的に見れば、2パーティ分の主戦力が戻って来て、その背後には五人の荷物運びが続く。
モンスターの戦利品は邪神教会からしても貴重な素材で有り、収入源だ。
ボロボロの荷物運びとは違って、主戦力は随分と陽気に戦闘の興奮を維持している。
さっきまで子供たちに威張り散らしていた監視役たちも、このパーティーが戻ってきた途端に大人しくなっている。
どっちが上かというのは明白。
敵の戦力が増えたこと自体は、大したことではない。
「あー面倒なのがいるな」
タンクも魔法使いも、弓使いも、短剣使いも、そして回復役も処理しようと思えばいつでも処理できるとわかる程度の実力と装備だ。
しかし、1人だけ面倒な奴がいる。
桃色の髪の女性はFBOではトラブルメイカーというのがお約束だ。
その象徴をいじっている、1人の女性。
「強いの?」
「直接戦闘能力で言えば問題ない。面倒なのはあいつの戦闘スタイルと」
邪神教会に属するネームドで、桃色の髪をツインテールにして、気だるげな表情を見せる地雷系ファッションを身に纏う少女。
「性格だ」
「性格?」
名を、ヘリエル。
FBOでも指折りどころかベストスリーで頂点争いができるほどのヤンデレキャラ。
こいつの何が厄介かと言えば、こいつに勝つと途端にストーカー化する。
恋は盲目とはよく言うが、こいつの場合は盲目通り越して幻覚を見ていると思うくらいに妄想が激しい。
「戦闘スタイルは毒を使ってのデバフ担当。神経毒、出血毒を愛用している。後は隠密スキルも持っていて隠れるのうまい。一度見失ったら周囲を警戒しろ。投擲術も優れていて夜の闇に合わせて黒塗りのダガーナイフを投げてくるから注意しろ」
「リベルタみたいに足音もしないの?」
「ああ、斥候はしないが背後にこっそり回り込むのは得意だ」
自分より強い存在かあるいは純粋に好みの男に出会うと、それを運命と勘違いして執拗に追い回す。
そして愛したら最後、全て思い通りにならないと気が済まないほど束縛し、自分の理想を押し付けてくる。
「じゃぁ、最初の一撃で仕留めるのがいいのね」
「・・・・・いや、あいつは捕まえる」
「すっごく嫌だけどって顔に書いているわよ」
「実際、本当に嫌だからな」
「じゃぁ、捕まえなければいいのに」
「でも、あいつ邪神教会の本部の情報持っているんだよなぁ」
初心者でこのキャラにストーカーされたことのないプレイヤーはいないと断言できる。
一見すれば美少女で、ほいほいと声をかけたら最後、その地雷は瞬く間に爆発する。
初見で毒を叩き込まれて死んだパターンもあれば、作り込んだキャラが彼女のストライクゾーンに入り、そのままストーカーとなって、夜中に背後から刺されたりと、ヘリエルによってゲームオーバーになる死に方には偏りがある。
どうやって接しようと、自分の理想を押し付けてくるからこのキャラと出会ったら最後、殺し愛が始まってしまうのだ。
なので、FBOのプレイヤーの中ではヘリエルを見つけたら最後、一つの理由以外は、見敵必殺がデフォになっている。
しかし、彼女はそのデメリットを補えるだけの情報、邪神教会の本部の情報を持っている。
付き合い方がクッソ難しいが、それでも捕まえる価値は今の状況だとあるのだ。
なので、仕方ないと割り切って顔を見られないように覆面を装着。
それを見て、ネルも装着し始めたのを見てから空を見上げ、夜闇に紛れて飛ぶアミナの姿を探す。
向こうの斥候には、ステータスでゴリ押ししてはるか上空まで自力で上昇し、そのクラス8の身体能力で視力をどこぞの部族並みに上げて地上を監視するアミナを見つけることはできない。
出来たとしても、夜に飛ぶ珍しい鳥がいるとでも思っているくらいだろう。
そんなアミナは俺たちを常に見ている。
なので、俺がハンドサインで戻って来いと合図すれば。
「呼んだ?」
向こうに気づかれないように、かつ迅速に空から降りて来てくれる。
「ここ以外に敵はいたか?」
「いなかったよ。モンスターは少しいたけど。人はいないみたい」
空中偵察のおかげでここら一帯には、あいつら以外の邪神教会はいないということが判明。
そうなるとますますヘリエルの価値が高くなる。
『準備できたわよ』
そのタイミングで雨が降り始める。
最初は小雨、そして徐々に雨脚が強くなっていく。
そんないきなりの天候の変化に向こうは慌てている様子が見える。
山の中で雨はかなり問題になる。
ただでさえ食事を抜き、体力が削られている子供に追い打ちをかけるような雨だ。
必死に子供たちも進もうとするが、どんどん足元がぬかるみ思い通りに動けなくなっている。
それは周囲の監視も一緒。
このままいけば、体が冷えて身動きが取れなくなる。
それを理解して、ヘリエルがいるパーティーの中で一番大柄な男が指示を出して、雨を凌げるようにこの場で野営の指示を出した。
子供に何かやらせても、時間がかかるだけ。
今は一刻も早くテントを設営して、子供たちを一ヵ所に寄せて監視することで監視の人員は最小限にして、自分たちは雨風をしのいで暖を取るために邪神教会の連中は行動を開始した。
子供を一ヵ所に集めさせる。
こっちが少数の状況では、この条件が必須だ。
雨がかろうじて凌げそうな枝を広げた巨大な木の下に子供たちが集められ、その周囲を雨に打たれながら監視する邪神教会の下っ端。
そして、周囲を監視する目を戦闘パーティーに任せて、残りの面々は野営の準備を始めている。
急な天候の変化に対応するために、注意を散らしてしまった。
それは、俺みたいなFBOガチ勢には致命的な隙となる。
「それじゃ、あのパーティーは俺が片付ける。俺が突撃してからネルと次女さんで子供たちの監視を撃破、アミナのゴーレムで防衛網の構築。OK?」
「わかったわ」
『任せなさい』
「はーい!」
ネル、次女さん、アミナの確認を終えて頷き合い。
俺は影纏いを発動し、サイレントウォークを発動させ闇夜に消える。
「そっちのロープもっと引っ張れ!」
「クソ、なんで雨が降るんだよ!」
「薪を集めろ!」
騒がしい邪神教会の面々はスルーして、作業の脇を通り抜けて木の下で雨宿りをして戦闘の疲れを癒している戦闘班に近づく。
同じ邪神教会だといっても、和気あいあいというわけではなさそうな雰囲気。
斥候役の2人に見張りを任せて、無言で立つタンクの2人。
リーダー格の男は、魔法使いのような格好をした1人の女性を抱きかかえて体をまさぐっている。
顔に描かれているキメラのタトゥー。
タンク役の男もそうだが前衛の男たち全員がベンド派から派遣された戦闘員ということか。
実力者揃いだからこそ、他の教団員にも大きな顔ができるし、こんなことをしていても文句も言われないということか。
俺からすればこんな場所で何やっているんだとため息を吐きたくなる気持ちを抱かざるを得ないが、我慢して、そっと背後に近寄り。
「え、カハ!?」
女の目の前で男の首を狩り取り、返す刃で女も仕留める。
リーダーの男はなにをされたか気づかずこの世を去り、女魔法使いは驚いて目を見開いたまま果てる。
こんな人身売買に協力するようなやつに容赦する気持ちなどなく、綺麗に効率よく気づかせず倒したからまだ周囲は異常に気付いていない。
足音を消し、そっと移動すれば回復役の2人の背後に俺は立っている。
空歩を使えば死角を通って殺しの間合いに入るのは容易。
マジックエッジの刃を再び振るえば、回復役の女性の首が飛び、返す刃でもう一人の男の首が飛ぶ。
静かに俺は再度移動を開始、斥候が見張っているという油断、そして享楽に沈んでいた思考を戦闘に戻すまでにラグがある。
最初の2人の身に何かが起きたことにすらまだ気づかず。
それを認識するまでにかかった時間であくびをしていたタンクの男の喉を切り裂き、そして返す刃でもう一人のタンクの男の心臓を潰す。
すでに半数が死んでいるのに、まだ奴らは気づかない。
「ひっ!?なんだ!?」
そして、また気配を消して隠密で行動していると子供たちが集められている方向で雷鳴が轟く。
一瞬だけ、森の中がまばゆい閃光で照らされる。
それによって意識が俺以外の物に惹きつけられ、驚き隙だらけになった魔法使いの男の首を狩る。
そして流れるように移動し、雷の方向を見ていた、斥候の弓使いを狩り、さらに弓使いが倒れたことに驚いた短剣使いを狩りと、順番に数を減らしていく。
「ちょ、なんかヤバくね?ヘリエルちゃん」
それから距離を離して、剣士風の男がヘリエルにちょっかいをかけているのが見えた。
しつこいナンパの男は嫌われるぞという典型例のような仕草の男は少し怯えた顔でヘリエルに縋っている。
「雷が落ちた?違う、これは」
ふわっと男の背後に回り込んだ俺は何かに気づいた様子のヘリエルの脇で怯えている男の首を静かに落とす。
クラス8のステータスも重なり、豆腐を切るよりも抵抗なく男の首は切り飛ばされ宙を舞う。
「え?」
その段階で、俺をようやく認識した。
仲間が目の前で殺されればさすがに気づくか。
「・・・・・なに、あんた」
武闘派が聞いてあきれる。
ここまでしてようやく俺という敵を認識し武器を手にしようとしている。
「遅い」
そんなヘリエルが準備し終える前に石突きで右ひざを砕く。
「いっ!?なにすんのよ!?」
その痛みを堪えて、反撃したのは大したものだが、そこには俺はいない。
「なんなのよ、あんた!?私にこんなことしてただで済むと思ってんの!?」
攻撃している隙に反対の足の膝を砕く。
「いたい!?なんで、なんでこんなことするのよ!?私が何かしたの!?」
その段階で威勢が無くなり、鳴き声に変わる。
返事はしない。
「・・・・・」
「答えて!ねぇ答えてよ!!」
無言で肩を砕き攻撃を奪い、残った片方の肩も壊して動きを封じる。
「むぅ!?」
そして最後に舌を噛んで死なないように布で口を縛って拘束終了。
その間も雷鳴は響き続けていたのであった。




