25 怒れる精霊
とりあえず、貴重な情報源ゲット。
このままヘリエルを雨ざらしで地べたに放置すると、下手すれば死ぬかもしれないので、ささっと手足も拘束して肩に担いで移動する。
「俺もこの世界に慣れたってことかね」
自分で色々とやっておいてなんだが、辺り一帯の惨状を見て少し嫌悪感を抱く程度で済んでいる。
自分でやったことだし、こいつらにやられたこと、そしてやっていたことを考えれば、この世界では当然の制裁だ。
「しかしまぁ、次女さん荒れてるなぁ」
そんな辺りの惨状が可愛く感じるほど、あちらの戦場では次女さんの攻撃が激しい。
ゴーレムという巨大な盾役が子供たちを雷から守り、そしてその前に立つ少女二人。
そんな存在がいきなり現れて、何が起きているのかと目を見開き混乱している子供たちを皮切りに、目の前で雷が暴れている。
そう、文字通り雷が暴れているのだ。
この大陸のラスボスと名高かったアジダハーカとの戦いでは、雷の上位精霊である彼女は終始押されていたが、それは相性の問題もあったし、レベル差もあった。
そんな彼女は基本的に生産職。
純粋に戦闘力の高い上位精霊と比べれば、戦闘能力は一段劣る。
今も暴れていると言ったのは、その体内に宿す魔力の奔流を外に放出して乱暴に力を振り回しているからだ。
ようは、地上に降臨した自然災害の雷そのものとなったわけで。
そんな物が目の前に現れた邪神教会の面々は、次から次へと感電して地面に倒れていく。
黒く焦げた邪神教会の信徒の一人に近づくと、なんとかろうじて生きていた。
「な、なぜ、精霊が」
肩にヘリエルを担ぎながら、その男に近づくと、こんなところに精霊がいる理由がわからないと疑問を口にしている。
「子供のぬいぐるみを捨てたから、かな?」
聞こえていないだろうし、誰かに問い掛けたわけでもない。
しかし、なんとなく答えておこうと思ってそうつぶやくと、それを最後に男は気を失った。
「このペースで行けば、もうすぐ終わるかね」
そんな邪神教会の男を見ている間にも、次女さんによる邪神教会の殲滅は続く。
森を燃やして山火事を起こさないように配慮しているゆえに、ある程度の手加減をしているが、それでも雷の速度は常人をはるかに上回る。
そんな精霊相手になりふり構わず反撃をしている邪神教会員たちの抵抗を躱し、そして攻撃してきた相手を放電で撃つだけで、1人、また1人と無力化されていく。
戦闘なんて言えるものではない。
これは一方的な蹂躙だ。
仲間が次々と倒れ、一人の邪神教会の信徒が逃げ出そうとするも回り込んだ雷に打たれて倒される光景は、逃げられないシチュエーションで『にげる』というコマンドを選び、しかし回り込まれたと表示されたRPGを思い出す。
「これが、本当にあっという間に終わる戦闘ってやつか」
『・・・・・そこまで、早くはないわよ』
そして眺めている間に、邪神教会側は全員地面に倒れることになった。
しばらく一ヵ所で待機し、そして敵がすべて倒されたことを確認した次女さんは放電を解除。
いつもの姿に戻った。
『この程度の相手だったのなら、べつに待つ必要なかったんじゃないの?』
「いやいや、そういう油断がピンチを招くんだって。感情任せに助けに入って『もう大丈夫だ!』って格好つけているタイミングで子供を人質に取られて、こっちが卑怯だ!って言うのがピンチになるときのお約束だ」
あまりにもあっけない戦闘の終わり。
肩にのっけているヘリエルからしたら、自然災害が目の前にあったようなものだ。
痛みでくぐもった声を漏らしながらも、その自然災害を目にして恐怖を抱いているのがわかる。
邪神教会の戦闘は基本的に奇襲からの一方的な蹂躙が流れだ。
そこに正々堂々という意識はなく、相手は異教徒ゆえに真面目に戦う必要が無いという思想がしみ込んでいる。
そこから察せる通り、こいつらの常識は他とは違う。
「実際、ここまで次女さんが荒れていたってことは、それっぽいことがあったんでしょ?」
『・・・・・別に、私を見て子供たちの生贄で怒りを鎮めてくれって懇願する馬鹿がいただけよ』
本来であれば、ここまで次女さんが暴れまわる必要などないはずだ。
ネルが手を出す必要もないくらいに最前線で暴れる。
雷の放電もそうだが、怒りがかなり込められている行動に何かあったか、いや、こいつらが何かやらかしたかとすぐに察しが付く。
「・・・・・精霊に生贄って、最悪の組み合わせだな」
『本当にそれよ』
案の定、邪神教会はしっかりと、精霊にとっての禁忌に触れていたようだ。
精霊に生贄を捧げ、怒りを鎮める。
文面だけ見ればありそうなことであるが、これは一つ大きな見落としがある。
この対処法は、堕ちた精霊。
自然を破壊する側に回っている精霊の怒りを鎮める方法だ。
元来、世界という環境から魔力を供給され続けている精霊に生贄など必要ない。
しかし、環境を維持する者から環境を破壊する者へと変貌した精霊は邪霊となり、精霊界から追放され、世界からの魔力供給が止まる。
そうなってくるとどうなるか。自分の命イコール魔力というリソースを確保するために、さらに暴れるという悪循環が発生する。
段々と失われる命に焦り、理性と倫理を喪失させる精霊が邪霊になっていく様は、精霊にとって見るに堪えない光景だ。
そんな存在のエネルギー補給方法の一つが生贄というわけで、それを捧げられるということは、次女さんは邪霊と間違われたということか、あるいは精霊は全てそうだと認識しているかの二択。
俺の予想は後者だと思う。
それで次女さんの逆鱗に触れていたら世話ないが。
「そんな阿呆どもは放っておいて、とりあえず、子供たちの方に行きますか」
『私は止めておくわ。怖がられているし』
「大丈夫、大丈夫。どっちかというと、ボロボロの女を背負っている俺の方が怖がられていますって」
『どっちにしろダメじゃない』
ひとまずは、殲滅終了を確認して子供たちの方に行くかと指さすが、どう見ても怯えている目を向けられている。
その理由を、次女さんが大暴れしたからという理由に上げたが、どちらかというと、色々とダメな方向に壊した女性を肩に担いでいる覆面姿の俺が悪役過ぎることに問題があると思われる。
世の中見た目が大事ということだ。
美女の次女さんと、足や手が曲がってはいけない方向に曲がって猿轡をかまされた女性を担いでいる覆面の男。
どっちが恐怖の対象か、考えるまでもない。
「ダメか?」
『ダメよ。見てみなさい』
「覆面取ったらワンチャン」
『ないわよ。それに、そこで睨む女に素顔見られたいの?』
「ダメかぁ」
そうなってくると、ここでジッとしているのが正解だと言える。
ひとまず、子供たちの安全は確保できた。
次女さんの干渉が無くなったから、しばらくすれば雨も止むだろう。
なら、あとはシャリアたちが来るのを待つだけなのだが。
「リベルタ君」
「アミナ、どうかしたか?」
「そのね、みんなお腹空いているみたいだからスープでも作ろうと思うんだけど」
「食べれるか?」
「うん、消化に良い物だったら大丈夫だと思う」
その前に子供たちの体調を少しでも回復させるために、食事をとらせる必要があるか。
なにせ、邪神教会の奴らが必要最小限の食事しか与えていない上に、この夜間の森林行軍だ。
普通に考えて、カロリーが不足している。
幸いにして、こいつらが運んでいた食料があるし、調理器具もある。
「なら、俺たちの方で警戒しておくから、ネルと2人で料理を作ってくれ」
「わかった!」
「一応言っておくが、子供相手でも警戒は解くなよ。邪神教会の信徒が紛れている可能性もあるから、精霊を常に側に置いておけ」
「はーい」
それを使えば、時間はかかるだろうが簡単なスープくらいは作れるだろう。
「それじゃ。俺たちは周囲の警戒をしますかね」
『それを持って?』
「・・・・・近くの木に縛り付けておくか」
『気絶させる?』
「させておくか」
その間はここら辺の警戒をしておこうと歩み出すが、肩に担いでいる存在のことを指摘されて、近くの木に縛り付けて、ついでに次女さんに電気ショックを放ってもらい眠らせる。
これで一安心ということで、ゴソゴソと食料を漁り始めるネルとアミナを横目に、俺は俺でかろうじて生きている邪神教会の面々を一ヵ所に集めて縛っていく。
うめき声を上げて、誰も目覚めそうにはないが、それでも念入りに縛っておいて、あとで神殿にでも引き渡すつもりだ。
『何してるの?』
「情報集め」
そのついでに、身分が高そうな男を見つけたので、その手荷物を物色する。
鞄の中身は、雷に打たれて少し焦げているが、中身すべてがそうというわけではない。
「あった、手紙だ」
『なんて書いてあるの?』
「これは指示書だな。内容は人身売買で手に入れた子供たちの移送先だな」
比較的綺麗な紙が出てきて、それを広げると、さらに上の人間からの指示が書かれた内容が出て来た。
「げ」
そしてその指示を出している移送先はどこかと調べていくと。
『どうしたのよ』
「あっぶねぇ、元から助けるつもりだったけど、助けて本当に良かった」
『一人で納得していないで、教えなさいよ』
「こいつらが子供たちを連れていこうとした場所、ズルンベ渓谷」
『え』
本当に邪神教会は碌なことをする組織ではないということが判明した。
『うそでしょ』
「ガチ、ほら」
ズルンベ渓谷というのは、この南の大陸では人が近寄らないことで有名な場所だ。
その理由は何か、そこがこの世界でも有数のアンデッド系のモンスターが発生する場所だからだ。
『あんな場所に子供たちを連れて行くなんて、何を考えているのよ』
「そこに隠れ家があるのか、それとも別の目的があるのか」
この森とは比べ物にならないほどモンスターとの接敵率が高いエリアで、尚且つ、状態異常を振りまくモンスターが多い。
おまけに、その森は瘴気が漂っているから、普通に入るだけでダメージを負う。
神殿の方で結界を張ってそのエリアの拡大を防いでいるが、それでも中まで完全に浄化できているわけでもない。
土地も広大で、探索しきれているわけでもないのだ。
「少なくとも子連れで入り込むのは正気を疑うな」
『正気じゃないのが普通なんでしょ』
「そうだった」
そんな場所に子供を連れていく、その理由は邪神教会というだけでいくつか心当たりがあるが、確信は持てない。
「うーん、この情報でわかるのは、今回のこれは信者を増やすっていう理由じゃないってことだな」
代わりに、今回の人身売買は仲間を増やすという理由で子供を集めたというわけではないのが確定した。
あの土地は特性上、邪神教会であっても拠点を作るのには適していない。
隠れ家くらいなら作れるし、そこで何かをすることはできるが、大人数で生活するには生活環境にマイナス要素が多すぎる。
『そうね、そんな危ない場所で子供たちが生き残れるわけがないわ』
「そう思わせて、実は生活できる環境が整っている可能性も・・・・・ないな」
その環境は、プレイヤーがガチで環境改善クエストに乗り出しても発狂するレベルで大地が汚染されている。
モンスターを全て封印しても、土地は改善しない。
常に瘴気を放ち続ける土地をまともな土地に戻す。それは俺が諦めたレベルだ。
そのレベルでヤバい環境は、いかに邪神教会であっても隠れ潜む場所の選考対象に入るとは思えない。
「・・・・・でもまぁ、調べないで断定するのも無しか」
しかしそれはあくまで俺の知識での話だ。
もしかして、俺の知らない可能性があるかもしれない。
その可能性の芽を摘むために、行かないといけないのかと俺は溜息を吐き、次女さんに肩を叩かれるのであった。




