22 見つけちゃったよ
「さすが長女さん、バッチリのタイミング」
計画通り夜中に騒ぎが起きたことを確認し、夜中の来訪だというのにしっかりと外に出るための格好、それもドレスではなく旅で動きやすい格好となった女性と向き合う。
「・・・・・本当に息子に会わせてくれるのですか?」
「しっかりと会わせますよ。代わりに、ここにはもう二度と戻ってこれませんけど」
遠くでの稲光。
そして直後に聞こえる雷の音。数瞬の後に上がる火事の炎。
それを高い位置のこの窓から見ているということはつまり、バーゼの母親の部屋にいるということだ。
「・・・・・もとよりこの家に戻る気は有りませんでした。息子の居るところに連れて行ってください」
バーゼ君の年齢は十歳前後、そしてこの母親の見た目はどう見ても二十代中頃、バーゼと同じ蒼銀色の髪。
少し癖毛で、ウェーブしているが、それがだらしなく見えることはない。
女性にしては身長が高い、170センチはあるのかと思う。
それに反して、とある箇所は小山だ。
体が細く、モデルさんにいそうな感じだ。
「了解、次女さん」
『準備はできてるわよ。さっさと逃げるわよ』
そんな女性こと、ペーネさんはアミナの精霊の再訪から俺たちをこの部屋に招き入れてくれた。
招き入れてくれたと言っても窓を開けただけ。外にあった鉄格子は俺がマジックエッジで切断して、今はこの部屋の床に転がっている。
ここ数日の間にアミナに頼んで、この屋敷の警備パターンを調べてもらった。
やり方としては、彼女の契約精霊が小動物に変身しての調査だ。
そして探り出したパターンによって、兵士の巡回が一時的に止まる時間帯を把握。
その間に街のあちこちで色々とやんちゃはしたが、それは後で神殿騎士がこの町に来ればあっという間になかったことになる。
「それじゃ、行きましょう」
「はい」
ペーネさんの手を取り、次女さんの精霊回廊に入る。
『変なところを触らないでね。私の回廊にある石は雷を帯びているから』
「!はい」
キョロキョロとあたりを見回して、興味を抱くペーネさんに鋭く注意を促す次女さん。
次女さんの精霊石は黄色く発光しているから、見方によっては黄金と見間違うこともある。
だから、ちょっと興味を持って手を伸ばしていたペーネさんはすぐに手を引いて身を縮めた。
『さ、行くわよ。出口付近は私の姉妹とネルちゃんとアミナちゃんが守ってるから大丈夫だとは思うけど、早めにこの町から離れるに越したことはないわよ』
「ああ」
それを確認して、次女さんは髪を結んでいた紐をほどき、そして自分の髪を解放するタイミングで髪の色と目の色が元に戻る。
その際に化粧も落としている。
首元に描いた偽のタトゥーは、用事が済んだ段階で真っ先に消した。
あれは縁起が悪いのでできれば描きたくなかったが、次女さんも『貸し一回ね』ということでしぶしぶ了承してくれたのだ。
「精霊様?」
「そうそう、うちの頼れる雷の精霊様だよ」
『誰でも頼っていいわけじゃないわよ。あなたの頼みだから聞いてあげてるの、そこら辺わかってるわよね?』
一気に雰囲気が変わり、その正体に気づいたペーネは目を見開いている。
「いつも助かっていますよ。帰ったらお礼するから」
『そう、それならいいわ。期待しているわ』
そんな彼女のことなど気にせず、次女さんは一回頷いたらそのまま進み始める。
精霊の導き無くして、精霊回廊を歩いたら間違いなく迷う。
一見すれば一直線に見える通路であっても、精霊回廊の主が操作すると瞬く間に迷宮と化す。
なので、俺たちは黙って次女さんの後をついていく。
ペーネさんからすれば見知らぬ二人に引き連れられ、どこに行くのかという話になるのだが、そこは不安を我慢してついて来てもらうほかない。
というか、よく初対面の俺を信用してついていく気になったな。
「?」
ちらりと振り返ってしっかりとついて来ているのを確認したら、目が合って首を傾げられた。
あの父親と駆け落ちした段階で、人を見る目があるとは思えないんだけど、よく俺を信用したものだ。
すぐに前に視線を向けて、背後から必死について来ようとしている気配を感じる。
『出口よ』
そして十分ほど歩いた先に出口が顕現し、その出口から次女さんに続いて外に出る。
「来たわね」
「無事で良かったよ!」
「待たせたな」
そこには、ネルとアミナのほかに退路を確保している三女さんと、ついさっき雷を落としてくれた長女さんもいた。
「これで目的は達成よね?」
「ああ、あとはフライハイトに戻って親子の再会をすれば今回の件は、すべて解決・・・・・って行きたいところなんだけど」
ひとまず当初の目的は達成している。
本当だったらこの後親子の再会で感動して、「やってよかった」と頷いてクエストのハッピーエンドのエンドロールが流れるはずなのに、ペーネさん以外は終わった空気になっていない。
「これがあるのよね」
「ああ、それがあるんだよなぁ」
問題は問題を呼ぶ。
嫌がらせを全力でやりきった所為で、その過程で少々厄介な代物を見つけてしまった。
ネルとアミナを先に脱出させたのは、その資料を確保してほしかったからだ。
ネルが大事そうに、鞄を抱えている。
クラス8になっているネルが必死に守ろうとしているその中身が、今回の事情以上に大事なモノだということだ。
「長女さん、頼みたいことがあるんだけど」
『彼女をフライハイトに連れ帰ればいいのね?』
「ああ。それとネル、長女さんに鞄を渡してくれ」
「わかったわ」
その大事に抱えていた鞄を、今度は上位精霊の長女さんに渡す。
「あとこれも」
それをしっかりと肩から紐をかけ、身に着けたことを見届けると、俺は走り書きの手紙を一通追加で渡す。
「これとその鞄をエスメラルダに渡してくれ。手紙には彼女の処遇と、その鞄の中身を使って街でどう動いてほしいか指示を書いてあるから」
『ええ、任せて』
この手紙と鞄が、本来の予定を捻じ曲げて寄り道をすることになった要因だ。
内心では、一旦帰って諸々準備をする必要があるような案件だが、一刻の猶予もない。
まさか、脱出する手前でこんな代物を手に入れることになるとは誰が考えただろうか。
嫌がらせも兼ねて、最後の仕上げに違法薬物を燃やそうと思ったが、その管理をしている事務所の中を漁っているときに見つけたのだ。
「三女さんは、この手紙をクローディアに届けてくれ。彼女の力が必要だ。現場で忙しいとは思うが、側にいるはずのジュデスとシャリアも連れて応援に来てくれ」
『わかったわ』
真剣な眼差しで頼む俺に、雷姉妹は快諾してくれる。
これで、ここでできることはした。
「それじゃ、頼む」
『『任せて』』
長女さんと三女さんは、それぞれ行動を起こす。
ペーネさんとはこれでお別れだ。不安そうにしているが「大丈夫だ」と頷けば、彼女はしぶしぶと納得し精霊回廊の先に消えた。
「それじゃ、次女さん頼む」
『本当に、貴方は争いごとに愛されているわね。騒動の神の使徒じゃないの?』
「・・・・・勘弁してくれ。ガチでその騒動の神の神像があの神殿に安置されているんだから」
ここに残ったのは、ネルとアミナ、そして次女さんと俺。
本来の予定から外れた目的を消化するために、頭を掻きながら次女さんが新たに作った精霊回廊に入る。
「騒動の神様って、普通に聞くと神殿に安置していいかわからない神様よね」
「名前だけ聞くと騒動を引き起こすような神様だと思われがちだけど、逆に騒動を払いのけることもできる神様なんだ。だから、ある意味で平穏を祈る安全祈願向きの神様でもあるから一定数の信者もいるのもまた事実なんだよな」
次女さんの冗談に苦笑しながら対応し、精霊回廊に入り込んだら、さっきペーネさんを引き連れていたときとは打って変わり、今度は次女さんが猛スピードで移動を始める。
そのスピードに俺たちは平気な顔でついていく。
「じゃあ、今回のそれも騒動の神様が騒動を収めるために僕たちにお願いしてきたのかな?」
「子供たちの命がかかってる大騒動だからなぁ。否定はできない」
この世界で神は人と一定の距離を取っている。
FBOの時でもその距離感は変わりない。
だが、俺たちが知らぬ間に神の権能の及ぶ範囲に何か影響を与えているとしたら、神からのアクションが何かあるのかもしれないという可能性は否定できない。
「大量の孤児の人身売買、貧しい家にいる家族から子供を買う。領境の近い北部の旧ボルドリンデ領で買いあさっている子供の輸送計画。本当にあいつらは碌なことしないな」
ネルが抱えていた鞄の中に入っていた資料は、孤児となった子供の人身売買の証拠と、その護送計画の一部。
資料の情報から、その護送集団があの街で大量の食糧を仕入れて運び出していることが判明している。
その補給が終わったのが、二日ほど前。
邪神教会の本来の行動であれば、もうすでに現場を離れて姿をくらませているはずだが、子供という体力のない荷物を大量に抱えている状況であれば、動きも遅く痕跡を完全に消すことも難しい。
しかし、その痕跡も時間が経てば経つほど消えてしまう。
本当だったらエンターテイナーを呼んでから行動を起こした方が良いのだろうし、対処は神殿騎士に任せるのが妥当だ。
けれど、時間的に追跡できるかできないかのリミットは近い。
幸い天候はここ数日は晴れているから、痕跡が残っている可能性はある。
『・・・・・そろそろ目的地よ』
「了解。精霊回廊の出口を目立たない場所に出すことはできるか?」
『やってみるわ』
時間は邪神教会の味方だ。
今回ばかりは迅速に行動するべきと判断し先行した。
その移動先は、森の奥地だ。
「・・・・・焚火の跡」
「こっちは馬車の跡があったわ」
「これ、何かの箱が置いてあった跡だよね」
精霊回廊で移動したのは、資料にあった補給物資の引き渡し場所。
おそらく中継基地のような臨時の拠点だったのだろう。
森を一時的に切り開き、大勢の人間がここにいたという痕跡が確かに残っている。
「そっちの馬車の跡はカモフラージュだ。そっちを追跡しても奴らにはたどり着けない」
ネルが見つけたのは森の外に続く、馬車の跡。
目標としては、どこかの街道に出ると思われる痕跡だ。
ご丁寧に、町から運んできたと思われる痕跡と街に戻る痕跡、そしてそれとは別方向に移動する痕跡が用意されている。
「そうなの?」
「大量の子供を乗せた馬車を白昼堂々と移送できないし、そもそもあいつらは基本的に街道を使わない」
それは追跡者を警戒した、偽装工作だと俺は判断する。
ネルが首を傾げてしまうほど、その痕跡は自然な物だ。
「アミナ、そっちの方で何かないか?」
「うーん、あっちこっちに足跡があるからわからないよ」
普通なら街道に向かう馬車の跡を追跡したくなるのだろうけど、生憎とこの世界はレベルさえ上げてしまえば徒歩でも馬並みの移動速度を出すことができる。
奴らの物資の輸送手段はただ一つ、人海戦術による徒歩での運搬。森の中を物資を抱えて運ぶという脳筋戦法だ。
だが、森の中にはモンスターもいるから痕跡を紛らわせることができ、追跡を警戒している邪神教会からしたら都合がいい。
『どうするの?私が空から探す?』
「次女さんだと目立つからな、いざという時はお願いするよ」
『わかったわ』
拠点の痕跡はあれど、森に深く入った形跡は見当たらない。
ますます邪神教会らしい痕跡の消し方だ。
「俺の勘だと・・・・・」
トントンと腕を組み、指で腕を叩き考えること数秒。
消えた奴らの行動を予測して、頭の中に描いた地図から照合。あり得る可能性の中で、一番「ありそうにない」中途半端な場所を算定する。
「こっちだな」
「え、そっち?」
森の中に完全に入り込むのではなく、山の方向に進むわけでもない。
斜めに森へと段々と入り込んでいくルートに俺が踏み込んでいく姿に、アミナは驚きつつもついてくる。
夜中ということもあって森の中は真っ暗。灯りの魔道具だけが光源だ。
俺が先頭を歩き、アミナ、ネル、次女さんが続き、歩くこと五分後。
「ビンゴ」
俺が灯りを地面に向けると、そこには大勢に踏み荒らされた場所を見つけるのであった。




