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18 ダブルブッキング

 

 侵入作戦はいたってシンプル。

 エンターテイナーたちの援護がないから、細かい作戦を立てて実行できる余裕がないとも言える。

 

 バーゼの母親の出身は知っているし、どこに捕まっているかもおおよそ見当がつく。

 なにせ、バーゼのクエストを進めれば自然とそういう場所に連れていかれるからだ。

 

 バーゼのクエストということは、プレイヤーは当然邪神教会側についているから、その領地を襲撃しているのだけど、その襲撃が完了した後にバーゼの案内の元、少し壊れた貴族の屋敷に連れていかれる。

 

 その敷地の中の離れの一室。

 そこが今回の目的地だ。

 

「よし、こんなもんだな」

「わぁ、ネルの髪が茶色になった」

「アミナの髪も綺麗な黒髪ね」

「そして俺の髪の色は少しくすんだ金色……っと」

 

 この世界の道具は時に俺の知る日本の技術を上回る物があるから驚く。

 

 この髪の染料も魔道具の一種で、時間経過で元に戻る代物だ。

 

『それで、ここまで送ったのは良いけど、私たちは何をすればいいの?』

『地方って言っても、精霊の私たちが入ったら目立つわよね』

『それも三人も』

 

 服装は古着で統一し、俺たちは一見すれば町の子供のように見えるだろう。

 

 そんな俺たちの側にいる雷三姉妹はこの後の予定を聞く。

 彼女たちの格好は精霊界での恰好そのままだから、町から少し離れた森の中とはいえ非常に目立つ。

 

「ちょっと天気を操作していて欲しい。合図したら雷をドッカンって降らせて注意を逸らしてほしいから」

『それなら私だけでいいわね』

「あとは逃げ出すための精霊回廊の維持をしてくれると助かる」

『それは私がやるわ』

 

 そんな彼女たちを連れていくわけにもいかないが、それでも役割がある。

 

 騒ぎを起こして注目を別の場所に集めて、その隙に館の中に侵入という計画だ。

 

 その陽動役に長女さんが立候補、逃走経路の確保に三女さんが立候補。

 

『それじゃ、私は?』

 

 残った次女さんは自分を指さして困っている。

 その背後にニヤニヤと笑っている姉と妹が居ることに気づかず、俺が苦笑して。

 

「それじゃ、ちょっと失礼しますね。ここに座ってください」

 

 布を敷いて、そこに座るように促す。

 

『わかったわ』

 

 子供だけで動いていると非常に目立つ。

 ということで仮でも保護者が必要だ。

 

 恐る恐る布の上に座り込んだ彼女の背後に立って、持ってきたメイク道具をひろげる。

 

「髪の色変えますけど、問題ないですよね?」

『ええ、闇が作ったやつでしょ?それなら大丈夫よ』

「では」

 

 そして始まるメイクアップ。

 精霊という半ば霊的な存在の外見を一般人にまで寄せるのは中々大変であるが、できなくはない。

 

 綺麗な金色の髪を濃いブラウンに染めて、眉毛や瞳も魔道具で色を合わせていく。

 ファンデーションで色白の肌を少し暗めにして、素朴な雰囲気に寄せる。

 

 目元に泣きボクロを付けて、さらにちょっとナチュラルメイクで大人っぽい化粧を施す。

 

 髪を三つ編みにして、さらに用意した頭巾を被せたら。

 

「ふぅ、こんなものか」

『すごいわね。魔力で感知しないと精霊だってわからないわよ』

『うん、会長やっぱりすごい』

 

 母親っぽいメイクをした次女さんの完成だ。

 

『これが、私?』

「変装用のメイクですよ。本当だったら綺麗系のメイクとかの方が次女さんには似合うんですけどね」

 

 メイク道具の中にある手鏡を次女さんに渡すと、自分の顔の変化に目を見開き驚いている。

 

「あとは、この服に着替えてください。それで、侵入の準備は完了です」

 

 少し勝気な印象が残るけど、母親だと言われてもおかしくはない見た目になった次女さんがしきりに鏡を見る姿を横目に、あらかじめ聞いておいたサイズの古着を次女さんに渡す。

 

『わ、わかったわ』

 

 それを受け取って姉妹で茂みの向こうに消えていき、数分後出てくる。

 

「街にいそうね」

「うん、いそう」

『ど、どうかしら?』

「似合ってますよ」

 

 女行商人風の次女さんがそこに現れた。

 服装を何度も確認する次女さんは、心配そうに俺を見てきたが、素直に頷き大丈夫だと言えば彼女はホッと安堵のため息を吐く。

 

 これで保護者役も確保できて、侵入する準備ができた。

 夜闇に紛れてそのまま館に侵入するっていう方法も考えたけど、まずは情報収集から入らないといけないのだ。

 

『それじゃ、町の中に精霊回廊を繋げるわ。姉さんたちあとはよろしく』

『はいはい、楽しんできなさい』

『いってらっしゃい』

 

 遠目に見える町は、フライハイトほどの城壁はないが、それでも周囲のモンスターから町を守れる程度の城壁はある。

 

 その城壁の城門から入るのは少し目立つので、あらかじめアミナと次女さんに空から偵察して来てもらって町の構造を把握。

 

 精霊回廊を通って、人通りの少ない場所に出る。

 スラムに出るっていう手段も考えたけど、さすがにこの面々でスラムに出ると面倒事が起きるからそれは無し。

 

「よし、誰もいないな」

 

 主要街路から少しそれた場所の路地裏に、精霊回廊の入り口が発生してそこから顔をだして左右を見回し、だれもいないことを確認してからそっと出る。

 

 全員が出たのを確認して、無事に町に侵入することができた。

 

「それじゃ、予定通り市場の方に向かうよ」

「ええ」

「わかった!」

『いいわよ、私が先導すればいいのよね?』

「お願いします。俺たちはあくまであなたについている子供ですから」

『子供、ね。あなたみたいな子供がもっといたら世界はもっと面白いことになっているでしょうね』

 

 普通じゃない子供である自覚がある、俺の言葉に次女さんは苦笑して町を歩き始める。

 商人ならいてもおかしくない、子連れの女商人の扮装で市場に向かって進む次女さんの足取りは軽い。

 

 各々商人らしい荷物を持っての移動。

 行商という体を守っての潜入工作。

 

「活気がないわね」

「東の領地は色々と規制が多いですから当然と言えば当然ですけど、ここまで活気が無いとは」

 

 露店の数はまばらで、買い物している客も少ない。

 客と店主の会話も少なく、俺たちの方に注意を払う輩も少ない。

 

 市場の活気は町の活力のバロメーターだ。

 ここまで商人の流入が少ないのは中々まずいと思うのだが、この町を管理する代官はなにも思わないのか。

 

「・・・・・商品も良いモノがないわ。物が入ってきていないのかも」

 

 露店を通り過ぎる度に商品を見るが、商人であるネルから見ても良い物があるように見えていない。

 

「となると、下手に売るのは危険か」

「買うなら、アクセサリーみたいな物が良いと思う。東の方だと鉱石が有名だからそういう物を買い付けしている商人っていう風にすれば問題ないと思う」

「となると、露店よりも店の方が良いか?」

「露店でもいくつか扱ってる店もあるみたいね。〝お姉さん〟あそこに見える露店に立ち寄って」

『わかったわ』

 

 となれば、東の領地での特産品である鉱物関連の品に狙いを定めるのがベストと判断し、露店で売っているアクセサリーを見るために立ち止まる。

 

『見ていいかしら?』

「手に取るなよ」

『わかってるわよ』

 

 店員の態度も赤点だ。

 ジッとこっちを見て、子供の俺たちにも目を光らせている。

 

 アクセサリーという分野は次女さんにとってはホームグラウンドのようなものだ。

 この町で売っているということは、この町の職人の作品なのかもしれない。

 

『他に良い物ないの?』

「あんたの目は節穴か?ここにある商品はどれもこの町の職人たちが作った上物ばかりだ。鉱石は鉱山から直接仕入れたものを使ってる。他の領地じゃお目にかかるのも苦労する代物ばかりだぜ?」

 

 そんな品を数秒見て、価値無しと判断した次女さんはもっと良い物を出せと言ったが店主は本気で、この店の品揃えに自信があるのか次女さんを目利きのできない商人だと判断した。

 

 鼻で笑い、そして嘲るように見下す目線に、次女さんは大きくため息を吐き。

 

『ふーん、これ、メッキが剝がれてるわよ。金細工に見せたいならもう少ししっかりとした物を置くのね。こっちの品はガラスね。あとそっちのは』

「ちょちょちょっと待ってくれ!?」

 

 次々に、アクセサリーの欠点を指摘していく。

 次女さん相手に、その反応はダメだよと俺たちは呆れた目線を店主に送っているが、慌てていて俺たちの視線には気づいていない。

 

『それで?どこの、誰の目が節穴だって?ここにあるのは鉱山から直接仕入れた上物ばかりなのよね?』

「うっ」

 

 想像以上の鑑定眼に、冷や汗を掻く店主。

 

『はぁ、こっちに来ればいい品が買えると聞いて来たんだけど、もっと東に行かないとダメかしら』

「・・・・・仕方ないだろ。あんたも知っての通りこの町の領主が町に入るための税金を上げたせいで商人たちが入ってこねぇんだよ。俺たちだって好きでこんなものを売ってねぇよ」

 

 呆れたため息を次女さんが吐くと、店主は決まりが悪そうに顔を逸らしてそっちもため息を吐く。

 

「こんなに活気がない市場も珍しいわよね」

「昔はこんな感じじゃなかったんだよ。商人たちも出入りがあったし、もっと活気があったんだ。だけど、領主の娘がポッと出の吟遊詩人と駆け落ちしてから変わっちまった。駆け落ちした娘を探すために税金を上げて、冒険者を雇って、国中を探し回って。余計な金がかかって税金が上がれば商人も寄り付かなくなるっていうのによ」

 

 店主には店主の理由があると事情を話し始めて聞いていると、俺たちが聞きたい情報が出て来た。

 

 店主からしたら愚痴なのだろうが、俺たちにとってはちょうどいい話題だ。

 

『ふーん、それで娘は見つかったの?』

「ああ、十年かかったが見つかったってよ。今は領主の館にいるって聞くぜ?」

『そう、それで?税金は安くなった?』

「安くなってたらもうちっとこの市場は活気づいていただろうさ」

 

 次女さんがちらりと俺を見て確認してきたので、俺は頷いて話を聞くように頼むと次女さんが話を繋げる。

 

『どういうこと?』

「借金さ。娘を探すためにいろいろなところで金を借りて、首が回らなくなってるんだとよ。だから税金が下げれないんだよ」

 

 ここでもバーゼの父親のやらかしが響いているのか。

 これは下手に誘拐したらこの町が終わるパターンか?

 

『ふーん』

「な、だからな?何か買ってってくれよ」

『割高のアクセサリーを買う気はないわよ』

「そう言わないでな?な?」

『残念だけど、私の目は節穴なの』

「さっき言ったことは謝るからな、な?な?正直、このままこの町にいるのもきついんだよ。でも、やっぱり町の外に出るにも支度金が必要でよ」

 

 最初はこっそりとバーゼの母親を連れ去ろうと思ったが、連れ去ったらさらに税金が重くなる未来が待っている。

 町の人に迷惑をかけない方法でバーゼの母親を連れ出す方法を考えないといけなくなったなこれは。

 

『外に出るって、何かあったの?』

「いや、噂だけどよ。領主の娘と駆け落ちした野郎が町に入ったって聞いてよ。領主の方もピリピリしてんだ。また駆け落ちしようものなら何が起きてもおかしくねぇ。だからそれよりも先に脱出したいんだよ」

 

 おまけに時間制限もついたのかよ。

 ギリギリ間に合ったと言えばいいのかもしれないが、こういうタイミングばかりに出会う俺の運ってどういうことだよ。

 

「あ、あいつだ。あいつ。変な奴らと一緒だからすぐにわかるぜ」

 

 まだ、安全に連れ出す方法を考えていないのにと思っていると、店主が次女さんに顔を寄せてこっそりと指さした。その方向を俺たちは見ると、そこには黒いローブを羽織った男が2人いた。

 

 片方は顔がちらりと見えてバーゼの父親だというのがわかった。

 

 うん、どの面下げてここにいるのだと思ったのは仕方ないよね?

楽しんでいただけたのなら幸いです。


そして誤字の指摘ありがとうございます。


もしよろしければ、ブックマークと評価の方もよろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
バーゼの親父、終了のお知らせになります。終了のお知らせになりますぅ
黒フードは邪神教会か? ギリセーフのタイミングだったね
ウルトラ穀潰しの父親、ダメンズウォーカーの母親、領主適正✘の祖父。 地獄かな?
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