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19 迅速果断

予約ができておりませんでした。申し訳ございません。

 

 もうすでに、邪神教会と接触してこの町に到着していたか。


「リベルタ、どうするの?」

「時間は向こうの味方だな。母親は父親が説得し、貴族は邪神教会側が色々と手を回して説得するだろうな。となると借金や母親を見つけたことも向こうの計画だな」


 時間があまりないな。

 そう判断できるだけの要素があの二人組にはある。

 小声で会話をしつつ、視線はあの2人に。


「行動する」

『わかったわ。店主さんいい情報ありがとう』

「お、おう」


 こっちには気づいていないのが好機、次女さんが銀貨を一枚店主に向けて指ではじいて投げ渡して店を後にする。


「どうするの?」

「とりあえず、向こうの話が進むより先にこっちが先に接触する」


 歩いている最中にバーゼの父親の顔をちらりと見れば、随分と痩せこけているようで目が虚ろだ。

 あれは完全に邪神教会の洗脳に嵌っている証左。


 もはや俺たちが何を言っても聞かないことが確定した。彼らの進路はこの町の領主の館の方に向いている。


 目的は当然、バーゼの母親だろう。


「・・・・・でも、なんでバーゼのお母さんにこだわるの?貴族の娘って言っても、駆け落ちしてて貴族社会では蔑まれてるだろうし、家の収入を支える町もこんなに寂れちゃってるわよ?」


 邪神教会が動くということは何らかの行動理由があるとネルは思っているようだ。

 事実それは間違っていないし、正解だろう。


「今回の場合は、その外聞の悪さと領地の町が寂れているっていう環境が邪神教会側からしたら都合がいいんだ」


 俺は今回の騒動に関しては裏事情を知っているから、なぜ邪神教会がこの町に目を付けたかという理由を説明できる。


 歩きながらの説明になるが、俺は周囲に注意を払いながら、1つと指を立てて最初の理由を話し始める。


「どういうこと?」


 少し歩調を速くして隣に並んできたアミナ、反対側にはネル、前を歩く次女さんもちらりと一回だけ背後を振り返ってから前を見ているが俺の言葉に耳を傾けているようだ。


「奴らの基本行動は暗躍、目立ってはいけないんだ。そんな奴らからしたらこの場所は絶好の潜伏場所と言える。他所の土地から注目されるような栄え方をせず、かといって国に目を付けられるような過酷な寂れ方もしていない」


 邪神教会の目的は、前の神山での損失を補填するための新規信徒の確保だろう。

 そういう勧誘をするためにはやはり人が集まる環境、町が必要になる。


 しかし、人の多い都市部でそれをやれば神殿やその土地の領主、或いは国が黙っていない。


「そして、明確に脅威になるような武力もないし、今この町の領主は借金で苦労している。つけこめる隙はいくらでもあるわけだ」


 加えて、こういうそこそこ大きい町には神殿はあるが、神殿の機能はない。

 祈ることはできるが、契約神の契約とか、商売の神とかの売買といった神の機能がない。

 そうなると神殿の職員も必要最小限に落ち着く。


 神殿と言えど、万能ではない。

 使える人材には限りがあるし、重要な拠点の方がやはり配置する人数は増える。


「奴らだって馬鹿じゃない、目立てば敵対勢力が集まってくるのは理解している。だが信徒は欲しい。となれば拠点が欲しい。そう、ほどほどに人が集まって、ほどほどに流動性がある都合のいい場所の拠点がな」


 神殿側の監視の目として、地域巡回はしているがそれでも完全に見つけることはできない。


「おまけにこの町の立地は主要街道からほんの少し逸れていて、領界線から少し内側に入り込んでいる。程よく首都から遠い、目が届きにくい位置にあるし、国から見た町の価値も低い」


 その事も考慮すると、この町というのは邪神教会にとって格好の獲物というわけだ。


「将来的には、この領主の息子が跡を継ぐんだろうけど、そこに貴族界隈では傷物と称される女性がいると来ればさらに奴らにとっては都合がいい。なにせ、その女性を貴族界隈に知られず引き取り、対価で利益を出せばこの土地の領主は感謝こそすれ、無碍にはできないからな」


 状況証拠しかないが、外れているとは思えない程度には確信がある。


「でも、それだったらなんであの男の人を連れているの?リベルタのいうことをしようとするなら、あの人っているの?」

「いるさ。なにせ、バーゼの母親からしたら約束を守ろうと帰ってきた男だ。疑いはあるけど、わずかでも信じたいっていう気持ちが残っている。そこにつけ込むのが邪神教会っていう組織だよ」


 このまま放置すれば、ここは邪神教会の新規信者を確保するための拠点と化す。

 そうなるのを防ぐ方法はいたって単純。


 俺が神殿に通報すればいい。


 そうすれば、今、絶賛邪神教会討伐キャンペーンを実施している神殿は飛んで駆けつけてくれる。


「それじゃぁ、僕たちがその野望を打ち砕くの?」

「それは本職のお仕事、神山で活躍した俺の名前で神殿に通報すれば一発アウト。あとは本職がやってくれるから俺はノータッチ」


 なので事後処理に関しては問題ない。

 さすがのマーチアス公爵も神殿の動きに関しては抑えないだろうし、表向きは膿を出してくれていることだ。


 この町の領主を罰することはあっても、それ以上のことはしないだろう。


「でも、そのゴタゴタが起きちゃうとバーゼの母親を連れ出す機会がなくなる可能性が高いから、その前にとっとと連れていこうっていう魂胆だ」

「でも、誘拐したらこの町の人たちに迷惑が掛かるわよね?」

「誘拐はしない、誘拐は」


 そんな流れの中で、俺たちはどう動けばいいか。


「リベルタ、ちょっと悪い笑顔になってるわよ」

「んー、ちょっと神山での復讐ができると思うとワクワクしちゃってるなぁ」


 結論、冤罪を吹っ掛ける。

 都合がいいことに、それをやりそうな輩が自分から足を運んでこの町にいるわけで、バッチリと証拠を残して罪をそいつらに押し付けよう。


「そのためには、まずはバーゼの母親を確保するところからスタートだ。頼むぞアミナ」

「はーい」


 にやけている頬を抑え込んで、元の表情に戻ったころに領主の館の側の路地裏に着く。

 そっと顔だけを覗かせて、裏門の方を見ればそこには兵士が1人立っている。


 使い込んでいる皮の鎧に鉄で補強した木の盾、長槍というオーソドックスな装備。


 そこに真剣な表情で警戒していると来れば、まだマシだが、1人立っていると称した通り、1人だけが立っていて相方の方はしゃがんでだらけ切っている。


「お願い、フーちゃん」

『まかせて!』


 見るからにやる気がないしゃがみ込んでいる兵士もそうだが、立って一応体裁を保っている兵士にやる気があるかといえばそうでもない。

 遠くから見てもわかるくらいの見張りの兵士のやる気の無さ。

 あくびをして、早く仕事が終わらないかと切実に願っている表情はこっちに気づかないのを確信させるほど。


 当然、あらかじめ用意していた手紙を足に掴んで飛んでいく緑色の小鳥など気にも留めずジッと前だけを見ている。


 不自然なほどまっすぐに、館の離れにある縦長の建物の方に跳んでいく小鳥。


「いたよ」


 精霊と契約しているアミナは、風の精霊のフーちゃんと視覚共有して見た景色に俺が教えていた特徴の女性を発見したようだ。


「よし、手紙を渡してくれ」

「はーい、フーちゃんお願い」


 コンコンと小鳥の姿のフーちゃんが嘴で窓を叩く、窓の外には鉄格子があり人が出ることはできないが小鳥が入り込む程度の隙間はある。


 何度も何度もつつくことで音に気付いたバーゼの母親が窓を開けたのが遠目で見える。


「中に入って、手紙を差し出してくれ」

「うん、フーちゃん。教えたとおりにお願い」


 そして中に入ったのを確認して、俺たちは一旦、路地の奥に引っ込む。


「あとは手紙を読んで、返事を待つだけか」

『でも、手紙だけで私たちを信用するかしら?人間って疑り深いんでしょ?』

「そこは大丈夫ですよ。しっかりと信用できる物を手紙の中に入れておいたので」


 手紙を読む時間もあるだろうし、そして手紙を信じるのにも時間がかかる。


『あの絵のことね』

「絵、じゃなくて写真って言うんだけど。まぁ、それを添えてバーゼ君にも手紙を書いてもらったから信用はしてもらえると思いますよ」


 壁に寄りかかり、館の方に視線を向ける次女さんはこんなことで上手くいくのかと思っているようだが、上手くいくと俺は思っている。


 父親の方はともかく、母親の方は本当に子供のために援助してもらおうと実家を頼ってきたのだ。

 愛情はもちろんある。


 その子供の絵と手紙を携えた小鳥、不思議に思うかもしれないが俺が書いた手紙の方に子供を保護していることと、一緒に暮らさないかという誘いを書いている。


「アミナ、実際はどう?リベルタのいう通りになっている?」

「うん、手紙を読んでから何度もフーちゃんに確認を取ってる。すっごく子供のことを心配しているみたい」


 遠目で見た限りだが、バーゼと同じ青銀色の髪、そしておっとりとした表情。

 見るからに押しに弱そうな、優し気な女性。


「答えられることには答えているけど、返事がもらえないよ」

「それじゃ、手紙の方を示してくれ。その後窓をつつけばたぶん行ける」

「わかった」


 邪神教会側の勢力にいるときに進めたバーゼとの交流クエストでよく聞くのは、母親が作ってくれたクルミパンが美味しかったこと。

 実際はクルミに似た木の実を使っただけの不器用なパンだが、それでも母親の味として覚えている。


 そして幼かったバーゼを優しく寝かしつけてくれた時に聞いた子守歌のこと。


 そこに感じた愛情を語る時だけ、バーゼは正気に戻っていた。


 子供のころの記憶というのは薄れてろくに覚えていないだろうけど、それだけはバーゼは忘れなかった。

 それと反比例するように父親のことは、どんどん記憶から消していったけど。


「あ、気づいてくれたみたい。手紙をしっかりと折って確認してる」

「やっぱり、筆記用具は部屋にはなかったみたいだな。問題なかったら、咥えて外に出て来てくれ」

「うん、大丈夫」


 そんなことを思い出している間に、返事をする準備が整ったみたいだ。

 軟禁されている部屋に筆記用具がないことを予測した対応が功を成し、手紙を折り方を変えることで相手の意思を確認した。


 窓が開かれそこから手紙を咥えた小鳥が飛び立ち、それをジッと見るバーゼの母親の姿を見つつ遠回りをしてこっちに戻ってきてもらう。


「返事は、『あそこから脱出し子供に会いたい』か」


 三角形に折られた手紙を、受け取り、相手の意思を確認した。


「姉から連絡が来けど、表の方からあの2人が館の中に入っていったみたいね。領主と面会できるってことは何回か訪問しているってことよね?」

「そうだな。たぶん同行している男が仲介役なんだろうな。金の話もあるだろうし、そうなると、本当にギリギリ間に合ったって感じだな。手紙で忠告しておいたから今日は会わないだろうから、猶予はできた。余裕は無いけどな」


 なれば、あとは夜までに色々と下準備をしておくか。

 さてさて、邪神教会さんよ、神山で世話になった分をここでしっかりと返させてもらうぞ。


「さてさて、楽しい楽しい、報復の時間だ」

『ねぇ、大丈夫なの?人様に見せられないような怖い笑顔だけど』

「前に、あいつらにちょっと嫌なことをされたのよ。そっとしておきましょう」

「うん、大丈夫だと思うよ?少なくとも僕たちには被害はないと思うよ」


『クカカカカ』と怪しげな笑みの声が漏れそうになるのを口を押さえることで防ぎ、俺は頭の中で計画を組み立てるのであった。










楽しんでいただけたのなら幸いです。


そして誤字の指摘ありがとうございます。


もしよろしければ、ブックマークと評価の方もよろしくお願いいたします。


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