19 コングラチュレーション
最終階層の脱出ゲートに飛び込み、そのまま特殊部隊の突入みたいに体を操作して見事な着地を決めて辺りを見回す。
「ここは」
「おめでとう、リベルタ君」
警戒は厳にしていたはず。
それなのにも関わらず、その存在の気配を感じ取ることが出来ず。
拍手しながら登場してきた存在に目を向けることしかできなかった。
「これはどうも。ところでこの試練がとんでもない中身だったのは、あんた達、わざとだよな?」
「そう構えないでくれたまえ。あれは意図したものではあるが君への悪意があってしたことではないからね。それにこの体は仮初の肉体、壊されると君も私も少々困ることが起きるから勘弁してくれないかい?」
そこにいたのは白面ののっぺらぼう。
黒のタキシードに身を包み、シルクハットを被りステッキを携えた、紳士風の装いをしている。
特徴的なのは、シルクハットのさらに上に浮ぶ光の輪と純白の一対の翼。
その姿はFBOでも見たことがある。
「そういう言い方は、ずるくないか?なぁ、『天使』様」
「ハハハハハハ!確かに、中間管理職である私からしても、君に課されたあの試練はひどいの一言だよ。しかし、一つだけ言い訳をさせてくれ。あの試練のダンジョンを用意したのは確かに私たちだが、決して私たちの意思であの悪意に満ちた階層を選んだわけではない」
この場面で達成者を迎える天使と言う存在は、全て顔を白面で覆っている。
装いに関してはその天使によってさまざまだが、色々とバリエーションがある。
このタキシードの天使もFBOでは名前を語られないが、この試練を達成すると報酬を受け渡すために出現する天使の一人だったはず。
「だから、その竜を屠ってきたモーニングスターを握る握力を緩めてはくれないか?」
「天使様にはこの程度の攻撃なんて蚊に刺されたようなものでしょう?ましてや今の俺は非力なクラス3の子供ですよぉ?」
「怒ってます?」
「見えませんか?このさわやかな笑顔」
「そのさわやかな笑顔の背後からどす黒いオーラが見えているんですよ!?」
普段だったらもっと温厚に話し合うことができるはずだけど、今回ばかりはちょっと難しいかな。
温厚なリベルタさんでも今回の試練は堪忍袋の緒が切れるのに十分すぎる内容だった。
天使特攻はついていないけど、このトゲトゲな部分で顔面フルスイングしたらきっと痛いだろうなぁと思いつつ、天使のレベルを考えると当たらないだろうし、ダメージも通らないだろうね。
本来であれば、びくびくと怯える必要がないほど、今の俺のステータスと天使のステータスの差はあるはず。
感情任せに殴り掛からないのは負けるのがわかっているからだ。
しかし、せめてもの抵抗で、張り付けたような笑顔を見せつつ目は笑わず、そして背後に隠すようにだらりと下げた右手には、モーニングスターの柄を拳が白くなるほど全力で握っているのだ。
「しっかりと、説明願えるんですよね?あんな、鬼畜レベル通り越して、俺を恨んだ馬鹿が悪意を込めて作ったような試練の内容に」
「ええ、それに関して言えばしっかりと説明させていただきますよ」
俺の怒りに、天使様は冷や汗をかいたようでどこからともなくハンカチを取り出して汗を拭っている。
「理由を説明するにあたってまず最初に報酬の方を見せた方が早いかと思いますので」
そして一通り拭い終えた後に、パンパンと俺から見て左の方に向けて二回拍手をすると、一対の白い羽と頭に光輪を備えた少年少女たちが、台車を押しながら登場した。
「多くないですか?」
「多いですよ、歴代最多ですし、この先何千年更新されることはないと確信できるくらいの偉業をあなたは成し遂げましたよ」
その台車に乗っているのはこの試練を突破したことにより達成者に与えられる褒賞、神像を作るにあたって必須となる重要な物質。
〝神の欠片〟
本当に神の体の一部が封じ込められた結晶だ。
あからさまに力を感じることはないが、綺麗な蒼水晶の中で輝く光が神秘的に見える。
流石に指や耳とか、そういう肉体の一部ではなく、髪の毛と言うのが通説だけど、見た目だけで言えばただの光る蒼い水晶の結晶だ。
その神の欠片が次から次へと台座に乗った状態で運ばれてくる。
「おかしい、俺は四柱だけで良いと言ったはずなのに・・・・・」
そう止まらないのだ。
天使同士で連携しあって、運びまくってくる姿を見ているが、運ばれてきた台座がすでに三十を超えている。
それでも止まることを知らず、次々に運び込まれ、後続が途切れることはない。
「君は我々の用意し得る最難関の試練を歴代最速の時間で攻略して見せたんだ。その報酬を惜しむわけにはいかないという神々の御意思だ」
「・・・・・」
どんな大神殿を作ればいいんだよと頭の中で、建築予定の神殿の構造が大きく変更される。
「ちなみに、規定として武具や薬などへの転用は厳禁なのでよろしくお願いいたします」
「あんなに悪辣な試練を突破したのに?一個くらいだめですか?」
「・・・・・私には許可を出す権限がありませんので」
「残念」
神の欠片と言うだけあって、この欠片を使えればかなり高性能な武具や薬が作れるのではと考えられたことがFBOでもあったが、このアイテムは加工不可の素材。
神像に組み込むことしかできない一品だ。
現実世界となったこの世界ならワンチャンないかなと思ったがさすがに許可は取れなかったようだ。
「これで、全部ですね。総勢八十七柱分の神の欠片です」
「こんな数見たことがないぞ」
「私もです」
この試練の達成で得られる報酬は、神の欠片のみ。
試練の難易度に比例して神の欠片を得られる数が決まるが、FBOでの最多は二十二個。
システム上それ以上の数が得られることが無くて、与える神も完全にランダムだった。
神の欠片一個につき神像を一つ作れる。
神の欠片は売買してはならない。
神の欠片は他者に譲渡をしてはならない。
神像の作成以外には使ってはならない。と色々と使用には厳しい制限はかかるが、神の権能により当たりはずれは有りつつも、神のシステムを組み込んだ神殿を自分の陣地に構築できるというメリットがある。
「ちなみに、あの試練を考えた主犯はこの中にいますか?」
その構築できる神のシステムの種類を確認するには、台座に書かれている神の名を確認すればいい。
台座のプレートにその神の名が描かれている。
一台一台確認して、追随する形で天使も歩いている。
そこでふとちょっとした逆襲を考えて、足を止めて振り返る。
「・・・・・主犯ですか、できれば言い方を考慮してほしいのですが」
「じゃぁ、罪人」
「神罰を恐れないんですね」
「ハハハハ!なら同じ条件で、是非とも天使様にも試練を突破してほしいですな!クレームはその後に聞きますよ?」
その際の俺の目はきっと笑っていなかっただろう。
それでも表情だけはずっと笑顔のまま。
それを意識しないと、もっと口調が下品になる自信がある。
それくらいに心が荒んでいる自覚はある。
「・・・・・こちらの神々です」
天使でも無理だと思うような試練を突破してきた俺の言葉に、スッと天使は顔を逸らして案内を始めて、三柱の神々の台座の前で止まる。
「あー」
その台座を見ると、やらかしそうな神々であったため思わず納得してしまった。
『祭りの神デンデン』この神は、イベントごとが大好きで盛り上げるためなら何でもすると言われる神だ。
この神が関わると、イベントの難易度が上がるという現象に苛まれる。
『享楽の神ババベ』楽しむことを人生ならぬ神生の目標にしているこの神は、FBOでは迷惑な神として名を馳せている。
楽しければ何でも良し、そんな性格の神のため、良くも悪くも、難易度が変化してしまう。
『道化の神クラウ』、この神は楽しませることを是とする神のはずなのだが、他の神を煽って大惨事を引き起こすこともしばしば。
「混ぜるな危険の、三柱が関わったか・・・・・」
「はい、試練は神々の中でも人気番組ですから」
「俺の攻略がライブ配信されていたと?」
「ええ、まぁ。それで貴方があまりにもサクサクと攻略していくので、このままではあっという間に面白い番組が終わってしまうということで、こちらの三柱がもっと娯楽を楽しみたいとおっしゃって、他の神々を扇動しまして・・・・・」
「あんな、難易度になったと?」
その大惨事に巻き込まれたのが俺と言うわけだ。
祭事においては、本来なら有能な神々なのだが、今回ばかりは邪神認定を与えてもいいような気がする。
「・・・・・」
「止めろよ」
「止めましたよ!本当にこの難易度でいいのかと確認しましたよ!ですけど仕方ないじゃないですか!天使は神の使いっ走りでしかないんですから!」
本編の邪神を討伐するよりも先にこの神を討伐するかと内心で思いつつ、担当外の神の要求なんて現場の方で止めろよとクレームを入れると、無理ですと天使は全力で首を横に振った。
実際現場の天使たちは命令に従っただけなのだろう。
罪がないと言えば罪がないと言えるかもしれない。
逆らえる立場でもないだろうし、同情の余地はある。
「申し訳ないとは思いますけど。あれも私たちの仕事なもので」
そんな言いづらそうに説明する天使に向き直り、俺は優しく肩に手を置き。
「なら、俺のお願いを一つ聞いてくれたら許すよ」
「・・・・・この三柱を呼び出して顔面フルスイングしたいという願いは叶いませんよ?原則、神は下界の人間とは会えませんので。死後、魂が神界に招かれたという話はありますが」
少しでも怒りを鎮めるための手伝いで手を打つことにした。
俺も、神をぶん殴ることはできないことは理解した。
諦めることはしないし、いずれ神界にカチ込む方法を考えて挑もうと人生の目標に内心で加えつつ。
今は、せめてもの反撃と言うことで。
「そんなことをお願いしませんよ。ただちょっと、この神の欠片を『返品』してくれればいいですから」
「・・・・・なんですと?」
「ですから、ここからここまでの三柱の神の欠片を返品します。他の神々の方々にはしっかりと立派な神殿と神像をご用意しますのでご安心を」
「いや、さすがにそれはぁ」
「別にいいですよ?押し付けてくれても、ただぁ、俺は一回拒否しましたので、神像を作るのはいつになるかは保証しませんよ?一生、倉庫の片隅に保管される可能性も考えてくださいよ?」
受け取り拒否を発動します。
今回は俺が迷惑を被った身だ。
これくらいの反撃は許されるだろう。
小賢しい反撃だと思いたければ思え、俺にできるのは俺たちの開拓村に建立する、俺の知識をフル活用して荘厳に演出した世界一の神殿にこの三柱を出禁にすることくらいしか反撃の手段を思いつかなかったんだ。
俺の意図が見えた天使は、それも拒否しそうな様子を見せるが、俺はナチュラルに肩を組み顔を寄せる。
「大丈夫、今回は主犯だけで手を打ちますよ。本当だったら、その煽りに乗った他の神々に関しても思うところは有りますけど、いまならその主犯の三柱だけで我慢するって言っているんですよ?」
神に対して不敬と思うかもしれないが、今の俺は怒りで今回の試練を用意した神々を邪神認定している。
もし仮に、これで本当に押し付けてきたら。
形だけ豪華にした厳重な金庫にこの三柱の神の欠片を押し込み、永久封印する自信がある。
「いや、ですが」
「そうですか、拒否しますか」
「そういうつもりでは」
タジタジになって、どうするか必死に考える天使に向かって、俺は悪魔のささやきを仕掛ける。
「受けてくれたら、天使さんが困っているクエストを処理しようと思ってたんですけど」
「・・・ええ、任せてください。私が責任を持ってこの神の欠片を問題なく返品して見せます!」
そのささやきの効果はてき面。
白面で笑顔は見えないが、笑顔のような声色で返事をする天使と熱い握手を交わすのであった。




