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20 歴代記録

 

「それでは、私たちの依頼の方に関しましては後日お送りしますので、是非とも、なにとぞ、本気でお願いしますよ!」

「報酬の方を弾んでくれれば、割と真面目に受けますんで」

「ええ!払える分はしっかりと!」

 

 試練を突破すれば、ふざけた神にちょっとした仕返しをしつつ、あとはこの神の欠片を持ち帰るだけ。

 

 と言っても、今いる空間は報酬を確認するためだけの空間だから、確認が終わればこのまま転送されて神山の頂上にある特殊な広間に移動するだけのこと。

 

 天使からのクエストと言う、俺にとっては美味しい追加報酬が得られる機会を得られて、これだけでも試練を受けた甲斐はあったかなと納得した俺は、顔形も分からない白面なのにニッコニコと笑っているであろう雰囲気を醸し出す天使と握手を交わし、これで試練は終了となる。

 

「それでは、神山の方にお送りします。今回は本当にお疲れさまでした」

「まぁ、二度とやりたくはないですけど。楽しくはありましたよ」

「そう言える方だからこそ、ケフェリ様は貴方を選んだのでしょうね」

「ああ、そういえばあなたは神様たちに会えるんでしたっけ」

「そう簡単には会うことは叶いませんが、そうですね。機会はありますよ」

 

 そうなってくるとお互い肩の荷が下りて、緊張感が緩み程よい疲労感が体を包みはじめる。

 

「それでしたら、伝言を頼んでも?」

「本来でしたら、伝言を伝えるというのも規則的にはグレーゾーンなのですが、一部の神がやらかしたこの試練の件もあります。内容次第になりますが、他の神々も目をつむるでしょうね」

 

 天使というこの世界と天界を繋ぐ役割を持つ存在に出会うことができた。これはいい機会だ。

 祈りで伝わっているかもしれないが、それでも直接伝えることができるのなら伝えたい。

 

「この世界に連れて来てくれてありがとうと。まぁ、最初のスタートの仕方に関してはマイナス点ですけど、それでもこの世界は憧れでしたから」

 

 今さらかもしれないが、苦笑交じりに本心を伝えたら、天使からは驚いた雰囲気が伝わってくる。

 

「必ず、ケフェリ様にお伝えします。いえ、もしかしたらもう伝わっているかもしれませんね」

「それなら、ついでに鰻の感想聞いておいてくださいよ。あれ、結局送っていいのかわからなかったんですから」

「そちらに関しては、お約束できませんが、規則に問題ないようでしたらお返事させていただきます」

 

 天使が驚くようなことを言ったか?と内心で首を傾げつつ一歩下がる。

 そうすることで、広間が光に包まれる。

 

 台座が次から次へと転移され、そして最後に俺が転移される直前。

 

「それでは、また、ご縁があれば」

 

 天使がぺこりと頭を下げて俺を見送ってくれた。

 

 そうして視界がまばゆい白色の光に包まれ、思わず目をつむると、わずかな浮遊感を味わった後に足の裏に地面の感触を感じて目を開く。

 

「ふぅ、無事に帰ってきたな」

 

 目を開けば、そこはこの試練を始めるための入り口と似た雰囲気の空間が広がっていた。

 違いは、入り口と違って広さが圧倒的、そして周囲の壁に明かりの魔道具が設置されず、天井のステンドグラスから光が差し込んできている。

 

「そう言えば、出迎えがないな。FBOなら試練を突破したら予見しているみたいに神官が待っているんだけど・・・・・」

 

 とりあえず、喧嘩を売ってきた神と戦わずに済んだと一息ついて近くの台座にモーニングスターを立てかけて、体を伸ばす。

 

「ああ、体が軽い。やっぱりレベル制限はしんどかったなぁ・・・・・いや、そもそもの試練の内容が頭おかしかっただけか」

 

 疲労困憊だった肉体も、元のレベルに戻ったら疲労も解消されてこれぞ正しく羽のように軽いというやつだ。

 

 ラジオ体操で体をほぐしながら出迎えを待っていると、駆け足でこの広間を目指してくる足音が聞こえる。

 

「どうも、お勤めお疲れ様です」

 

 そして慌ただしく開かれた扉に向かって、ラジオ体操をやめた俺はひとまず挨拶をする。

 

「り、リベルタ殿ですか?」

 

 入ってきたのは、神山の頂上にある神殿の責任者だ。

 大司教ではないが、大神殿の司教の地位を持つ初老の男性。

 

 ふもとから連絡があったのだろう。

 試練を受けた俺の存在はわかっていたようだ。

 

「はい、リベルタさんです」

 

 しかし、現実的に考えてこんなに早く試練を攻略するとは思っていなかったのか、唖然とした表情で確認を取ってくるので俺は素直に頷き、自己紹介をする。

 

「こんな短時間で試練を突破したのですか?」

 

 自己紹介したにも拘らず、司教は夢か幻かと戸惑い、そっと頬に手を伸ばし摘まんでしまっている。

 日頃の行いのせいで驚かれることには慣れ始めているが、このリアクションは新鮮だな。

 

「証拠もありますよ?」

 

 しかし、ここで信じてもらわねば、この司教を通して神殿お抱えの石工に持ち帰った神の欠片を託さないと、神像ができない。

 

 なので、手を広げるように周りを見てくれと示すと、俺にばかり視線が向いていた司教が周りを見回してさらに驚く。

 

「こ、これがすべて神の欠片」

「ええ、頑張りました」

「頑張ったって」

 

 視野狭窄になっている司教の視界を広げてみたが、逆に衝撃が強すぎて礼儀が吹き飛んでしまったようだ。

 神に仕える神官たちが皆、礼儀正しいというわけではないが、司教にまで上り詰めるとなると相応の礼儀作法は身についている。

 

 まぁ、中にはハチャメチャな司教もいるにはいるが、彼は一般的な司教だろう。

 

「し、失礼しました。あまりにも見たことのない光景だったので取り乱しました」

 

 胸を張って、自慢すること数秒後。

 司教も復活出来て、現実に復帰した。

 

「それならよかった。これで、試練は終わりですよね?」

「は、はい、確かに試練の突破を確認しました。神の欠片は私共が責任を持ってお預かりします」

「よかったぁ。じゃぁ、帰りに温泉でも入って帰ろうかな」

「それに関しましてですが、お帰りいただくのは少しお待ちいただくことはできますか?」

 

 そうなれば後は事務手続きだけだ。

 どの神の欠片を貰ったか手早く書き留め、記録を残すのだが、なにぶん数が多い。

 この広間に入れる資格を持つ神官が限られているがゆえに、司教本人がせっせと台座の神名を確認し記しているのを眺めつつ、あとの予定を考えていると作業を中断して司教が話しかけてきた。

 

「なんでですか?」

「これほどの数の神の欠片をお持ち帰りになられたこともそうですが、歴代の記録を大きく上回る記録で試練を突破なされました。それにつきまして、大神殿としては是非とも式典の方を催したく」

「あ、そういうのは良いです」

「何故です!?誰もが認める偉業なのですぞ!?」

 

 それは式典の誘い。

 神殿は世俗とは距離をおいた公平な組織であっても、祭事とか式典とかはある。

 その中で試練を突破した者を祝福するというのは通例の式典だ。

 

 だけど、俺からしたら貰えるものは貰ったし、わざわざこの出来事を喧伝する必要性を全く感じない。

 むしろ神殿の歴史の闇に葬ってくれても構わないと思うレベルだ。

 

 神のふざけた横槍でファンブルにファンブルを重ねてしまったからとはいえ、三日も時間がかかってしまったのだ。

 もとFBOプレイヤーの最前線を走っていた身としては、時間かけすぎて恥ずかしくて記録になど残したくない。

 

「いや、本当だったら一日で終わらす予定だったのに、三日もかかってしまって」

「一日!?」

 

 FBOガチ勢の中では一番簡単なパターンを引き寄せるまで挑戦して、最速タイムは一時間を切ったなんてこともある。

 

 そんなことを考えると俺の記録は七十二倍ほどかかっている。

 そう考えると記録に残すのはちょっとと遠慮してしまうのだ。

 

「じょ、冗談ですよね?」

「いや、割とマジです。試練の引きが悪すぎて三日もかかってしまったんですよ。ハハハハ!神様も意地悪ですよね」

「ひ、引きが悪くて三日?すみません、ちょっと聞き間違えたようで。引きが良かったんですよね?」

「いえいえいえ、あれを引きが良かったなんて口が裂けても言えませんよ。それに自分、運は悪い方で」

 

 記録更新をしようとするとまた別の神に邪魔されそうな気がするから二度とやる気はないけど。

 

「ということで、記録とか残さなくていいですから。むしろ残さないで欲しいというか」

「無理です!絶対に無理です!この偉業を残さないとかありえないです!!」

 

 なので、普通に神像の制作に取り掛かってもらって後日届けてもらえるように手配してくれれば満足だと言っても、ブンブンと大きく音を響かせるほど司教は首を横に振る。

 

「いや、当人が残さないでくれって希望しているんですから、そこは尊重してくださいよ」

「あなたが何を成し遂げたか理解していないんですか!?」

「理解していますよ。試練を突破したんですよ」

「最難関の試練の突破記録を大幅に更新したんです!!」

 

 コミカルな司教だな。

 偉業なのはわかるけど、式典で祝福されるメリットがそこまでないのだ。

 神殿関係のネームドと仲良くなれる可能性もあるけど、神殿関連の勧誘は手間が多いんだよね。

 

「んー、やっぱりいいです」

「ああ!もう!待っててくださいね!いま、大神殿の方に通達しますから!」

 

 やる気が起きず、消極的な態度を取り続けていると、司教が広間から全力ダッシュで出ていこうとした。

 

「絶対にこの広間から出ないでくださいね!」

 

 出る直前に立ち止まり、念押しでここにいるように言って全力ダッシュで出て行った。

 

「・・・・・さすがに出ていくわけにいかないよなぁ」

 

 一瞬、コントとかの振りかとも思ったがあの顔はマジなのでさすがにここで消えるわけにはいかないか。

 豪華なパーティーとか荘厳な式典とか本当に勘弁してほしい。

 

 このままだと、なんか豪華な衣装とか着せられて儀式めいたことをさせられる。

 

「そう考えると途端に逃げたくなってきた」

 

 想像しただけで、面倒くさいという感情が沸き立ち、ため息が出る。

 精神的に疲れたのに、これはないよと思っていると遠くからまた駆け足で走り寄ってくる足音が聞こえる。

 

 そこまで時間が経っていないのに早いなと思って入り口の方を見ると。

 

「・・・・・」

「えっと、どなた?」

「君こそ誰?ここは特別な人しか入っちゃダメな場所だよ?」

 

 見知らぬ少女が、広間を覗き込んでいた。

 小人族の可能性はあるが、見た目は俺よりも年下の少女。

 幼さの残っている顔立ち、翡翠色の瞳にプラチナピンクの髪。

 

 神官服ではなく、純白の衣装を着こんでいるのが特徴的で、首からかけるロザリオは純金製だ。

 

 神山の神殿は特別な教育課程を履修した神官しか配置されないはず。

 こんな幼い少女が配置されるとなれば、FBOでも話題になっているはず。

 ネームドキャラになってもおかしくない見た目だが、俺の記憶には彼女はいない。

 

「俺はリベルタ、試練を突破したからここにいる」

「私はミモザ、このお山の結界を守ってるの」

「結界・・・・・神山の大結界、もしかして結界の巫女!?」

「うん!私が結界の巫女ミモザ!トレードが私の勉強中だっていうのに飛び出しちゃったの、勉強中はちゃんと教えてくれないとダメなのにもう、トレードどこに行ったか知らない?」

 

 しかし、その立場には記憶がある。

 結界の巫女はこの神山を守る要の大結界を維持する存在。

 

 と言っても人身御供みたいに生贄にされるというわけではなく、結界のスペシャリストみたいな才能あふれる人材が交代制で結界の維持をしていたはず。

 

 その中の1人が彼女と言うわけか。

 そこの段階で俺は一つの記憶を思い出す。

 

 たしか、原作前の過去エピソードで、結界の巫女を邪神教会が襲撃するという事件があったはず。

 FBOでは過去の記録で、事件概要しか語られなかったが、大神殿の重要人物が襲撃されたのだからかなりの大事件だったはず。

 

 もしかして、邪神教会の狙いはこの子?


楽しんでいただけたのなら幸いです。


そして誤字の指摘ありがとうございます。


もしよろしければ、ブックマークと評価の方もよろしくお願いいたします。


コミックスがついに発売日決定!!

さらに第2巻のカバーイラストも公開!

絵師であるもきゅ様に描いていただきました!!


今回はエスメラルダと背景に這竜を描いてもらいました!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
そうそう。まだ原作のスタート地点に立ってないんですよね。時間軸
まーた女の子ひっかけてるよ⋯⋯この転生者は
チョロインがまた生えた(笑)
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