18 開き直った廃人
壊れない武器というのは本当に良い物だ。
耐久値管理という面倒な作業に脳の思考リソースを割かなくていい。
さらに今の俺はスキルも制限されているからパッシブスキルの補正もない。だから純粋に火力が高い武器は大歓迎状態だ。
「ヒャッハー!!!お前の脳天かち割ってやるぜぇ」
今の俺の精神状態はまさに「頭はクールに心は熱く」、そして口は世紀末といった感じだ。
口が世紀末なのは、罵詈雑言を吐き出して少しでもストレスを発散する必要があるからだ。
ここまで何度も難所を乗り越えてきた最後の最後に、とびきり性格の悪いエリアをぶち込んできたから、温厚で有名だと自称しているリベルタさんでもプッツン来てますよ。
「オラオラ沼竜さんよ!お前が最後の砦なんだからよ!!気合入れろやオラぁ!」
なんとなく察していたのよ。這竜が来たのなら、残り二つの厄介な相手の階層が来ないはずがないと。
暗闇の次に何が来たと思う?嵐の渓谷で足元つるつるな状態で、風補正で加速している飛竜の群れだよ?
本当だったら暴風で「飛ぶのが難しい」って状況になるのが普通じゃん?だけど、飛竜は『風は友達だ!!』と言わんばかりに自由自在に飛んで来るんだよ。
こっちは強風にあおられて下手したら崖からノーロープバンジーかましそうになっているのに、向こうはバフ持ちかよ、ふざけているのかって。
おまけに隠れられるような場所はなかったし、向こうは安全圏からブレスを吐いてくるし、そんな中から接近戦を挑んでくる飛竜を厳選しないといけないし。
鬼畜だろ、馬鹿だろ、これクリアさせる気ないだろという相手の意思をモーニングスターで粉砕して、ついでに飛竜の階層の隠しアイテムを探してたら、隠し安全エリアを発見できたのは幸いだったよ。
隠しアイテムでも良かったけど、這竜の群れとガチンコ勝負した後に飛竜とも乱闘かまして心身ともにボロボロになった俺は、心の底から水が美味いと思った。
安全地帯で少し休んで飛竜の階層をクリアし、精神的に持ち直したと思ったら『水、飲みたかったんだろ?』と俺の癒やされた感情を察知したのか、相手の用意してくれた悪意増し増しな最後の階層が沼竜のエリアだ。
「オラァ!そこだろ!?俺が一匹に気を取られているうちに足元からガブリだろ!?わかってんだよ!!わからずにおれるか!?」
エリアの割合で言えば陸地1割、水場9割という水中戦闘前提のエリア。
水スキルが一切なければまず勝ち目がないと言われるエリアだが。
俺が何年FBOやってると思ってる。
水中では、水が抵抗になってまともにモーニングスターはフルスイングできない。
せめて刃物であれば突いたりして多少マシにダメージを与えられたかもしれない。
だからわずかに残った陸地を利用して戦うように立ち回る。
そう思うよな、普通ならそう思うよな?
「ハハハハハ!舐めるな!こちとら水中戦も想定しているスキル構成じゃい!」
だけどね、廃人舐めるなって話だ。
モグラたたきの要領で、飛び出してきた沼竜の頭を叩き続けること一時間、仕留めた数はたったの二匹。
そこからは警戒して水の中から一切出てこなくなった沼竜を屠る方法はただ一つ、水中戦だ。
邪魔になるボロボロのマントや上着を脱いで、コンプラの関係上で脱ぐわけにいかないパンツだけで、残りの装備をすべて陸地に残して、モーニングスター片手に水中にダイブ。
一体何をする気なのか、馬鹿なのかと言いたくなるのはわかるが、こっちも勝算あっての行動だ。
俺が水中に飛び込んだ瞬間に周囲から沼竜が殺到してくる。
普通に泳ぐとしたらモーニングスターの重みもあってまともに泳げないし、陸地に戻るには武器を捨てないといけない。
いかにEXBPをフルで獲得しているからといっても、沼竜以上の泳力を得られるかと言えば得られない。
ならなぜ死中にわざわざ入り込むかと言えば。
マジックエッジの応用でなんとかなるから。
大きく息を吸い込んだ状態で水中で全力で動けるのはせいぜいが三分。その三分のうち、水中から脱出する時間を考慮すれば戦闘可能時間はせいぜいが一分かそこら。
その一分間の戦闘の鍵となるのが、右足だけ覆ったマジックエッジ。
そして足の裏にあるマジックエッジに包まれた気泡、すなわち「空」。
たった十歩、されど十歩。
片足だけという制限はあれど、水中で踏ん張って殴れるのなら、沼竜であろうとも吹っ飛ばせる!
一歩目の空歩で横にサイドステップ。
沼竜の巨体で泳ぐという動きの欠点は急旋回ができないということ。
前に進むという泳力、つまり推力の関係上、真横に移動することはほぼ不可能。
なので、闘牛士のように正面から突っ込んでくる沼竜の噛みつきを横に躱してしまえば、目の前を頭が通り過ぎようとする。
二歩目の空歩で踏ん張って大上段からモーニングスターで沼竜の頭をぶっ叩く。
水の抵抗?そんな物、ステータスのごり押しでどうにかする。
多少勢いが削れようが、しっかりと踏ん張れる足場さえあれば、全力で振り下ろすことはできる。
水中でも響く巨大な打撃音を残した脳天への一撃は、確実に沼竜の命を削り、その動きを止めさせる。竜殺しの特攻ダメージを加算すれば、二撃目の攻撃で防御無視のクリティカルダメージに迫る。
叫ぶことはできないから全力で歯を食いしばって、俺は姿勢をひっくり返して、目の前の勢いが止まった瀕死の沼竜の顎の下にある急所の逆鱗を、モーニングスターで全力で砕く。
天地が逆転すると浮上するときに混乱するかもしれないが、持っているモーニングスターが沈む方向を確認すればその心配もない。
きっちり三発で沼竜を消し去ったら、浮上する。
空歩の回数的に余裕で水上に逃げることができるが、仲間を殺された沼竜たちは水中という絶対的有利条件を手放したくないがゆえに、俺を追いかけてくる。
だが、間に合わない。
水上に離脱、そのまま空歩で空中へ。
「いらっしゃい♪」
そして沼竜も自分の泳力をそのまま全力で駆使して、空中にいる俺を目がけて全力で噛みつきに来るが、残念だ。
ここはもうお前たちの得意な水中ではない。
きっと今の俺は凶悪な笑みを浮かべているのだろう。
なぜわかるかって?感情がないはずの沼竜の目に怯えが宿ったからだ。
今度は空中で響く打撃音。さっきと違うのは、しっかりと陸上に引きずり出すために横殴りで一気に陸地へと吹き飛ばしたことだ。
元のステータスならともかく、流石に今のステータスじゃホームランのように吹き飛ばすことはできないが、俺が陸地に向けて跳んでいるから、それを追撃してきた沼竜も相応に陸地に向かっての勢いがある。
それを利用してやれば陸地に落ちるように誘導することもできる。
ついでに我先にと水中から噛みついてきた沼竜を同じ要領で追加で二匹ほど陸地に打ち上げる。
『『『■■■■■■■■!!!』』』
ダメージを負わされてしまえば、こいつらは俺を殺すまで襲いかかることをやめはしない。
狭い陸地、それこそ体育館程度のスペースしかないような小島に上陸した沼竜は、我先にと着地した俺を目がけて襲いかかってくる。
巨体が迫る光景は見る者に恐怖を生み出すかもしれないが、陸地での戦闘なら俺はこいつらに負ける気はしない。
ニタァと笑みを浮かべて、モーニングスターを構えて迎撃する。
大きく口を開けば、俺のリーチでは口の中を殴るほかないが、口を閉じられたら不利になる。
サイドステップで大きく横に避けても、もう一頭が迫ってくる。
では上に逃げるかと思わせて。
「顎が砕けろや」
思いっきり上顎を、牙をへし折る形で殴りつける。
閉じる力を上回る打撃力で正面突破。そして少しでも俺の攻撃の勢いを殺したくて顔を逸らした際に見えた沼竜の右目を目がけて、モーニングスターをフルスイング。
グチャっと眼球が潰れる感触が手の先から伝わるが、気にしない。
『■■■■■■!!』
「お前の牙もへし折ってやらぁ!!」
モーニングスターという武器は振り回して吹き飛ばせば連続攻撃がしやすいが、一回埋もれると抜くのにわずかに時間がかかる。連続攻撃するには少し重量があって不向きだなと思いつつ、死にかけの味方ごと食いつこうとした沼竜の迎撃に移る。
こういう時は無理してトドメを刺すよりも、満遍なくダメージを蓄積させる方が良い。
引き抜く勢いを利用して、口に当たるようにスイング。口ごと顔が横に吹き飛んだら、筋肉を総動員して勢いを活かして旋回、そしてそのまま顎に叩き込み、骨を砕く。
「おい、何逃げてんだよ」
俺が別個体に気を取られているうちにダメージを負った沼竜が水中に逃げようとしたが、その尻尾をマジックエッジを生やした足で刺して地面に縫い付ける。
「逃がすわけ、ないよなぁ?」
FBOをやっていた時もこういう打撃武器は使っていた。
一番の理由は、こういう打撃武器を愛用しているプレイヤーの間合いや使い方を体に覚え込ませ、PvPに対応するためだ。
相手の強み、そして弱みを把握し、それに対応できるように情報として頭の中に持ち込む。
その過程でこうやってスムーズに武器を振るう技術が身につく。
だから、ネルやイングリット、そしてエスメラルダやアミナにすらたまに自分が普段使っている武器の理屈を教えている。
理屈を知っているか否かで、対応できる道筋の数が違う。
逃げようとしたが、尻尾に突き刺さった俺の足でその動きは一瞬だが止まる。
その一瞬があれば、マジックエッジを消して空歩で直上までジャンプする猶予はある。
空中で一回転、その回転力を込めたモーニングスターの一撃は、確実に沼竜の脳天を叩き潰す。
「さぁ、次はお前だ!」
ゲームではプレイヤーにしか意味のないこの雄叫びも、この世界に来てからやたらモンスターに効くようになった気がする。
ぎろりと睨めば、気圧され、沼竜の動きが一瞬鈍る。
まるで捕食者の殺気に当てられた獲物のような動き。それを見ても躊躇いはしない。
向こうも殺しに来ているのだ。
こっちも殺しに行っても支障はない。
打撃音が響き渡り、沼竜を仕留める。
地上からいなくなれば再び水中にもぐり、挑発して陸地に引き上げる。
それを繰り返すだけ。
そして十体目を倒したその瞬間、俺の立っている陸地から見える、遠くに高く伸びる光の柱が見えた。
「本当に、この試練を考えたやつは性格が悪いねぇ。こういうのって、クリアしたら目の前に脱出用のゲートが出るものじゃないのかね?」
まだ終わりじゃない、脱出するまでが試練だと言わんばかりの脱出ゲートの出現箇所。
「はいはい、わかりましたよ。さっさと行きますよ」
この試練を作った奴の性格を考えると、下手したら時間切れで脱出用のゲートが消失して、最初からやり直せと言われかねない。
妙に水中にいる沼竜たちが殺気立っているような気がするし、ここから脱出させないと言わんばかりにこっちに迫っている個体もいる。
そんな沼竜たちの行動に背を押され、俺は光の柱に向かって移動する。
「ハイ、邪魔」
流石の俺でもこのハードスケジュールをこなすのは大変だった。
だけど、時間的には三日ほどでクリアできたはず。
それなら、ネルたちが登山を始めたころで、もしかしたら温泉地付近で追いつけるかもしれない。
そうすればこの疲れも温泉で癒やせるはず。
適当に水中から飛び出してくる沼竜を踏みつけて足場にし、殴りつけて吹き飛ばしつつ、光の柱を目指す。
「・・・・・光の柱、減ってない?」
光の柱に向かってまっすぐと進んでいると、本当に徐々に光が上から順に削れているように見えた。
嘘だろと思いつつ、全力で最短距離を走るが、それを妨害するようにどんどん沼竜が現れる。
「マジか、マジか!?」
倒すことではなく妨害を意識した沼竜の動き。そして、何者かに誘導されたのかと思うような動き。
それを必死に掻い潜り、光の柱が生えている陸地が見えたころには、すでに光の柱は三分の一以下になっていた。俺がその陸地にたどり着く時には残りわずか。
「間に合え!!」
背中に沼竜の追跡を受けながら、俺は光の柱に飛び込み、慌ただしく試練を終えるのであった。




