第七話 新婚旅行?
勇次とかすみは安曇野村を後にして、点鉱山への道を進んでいた。
二人が村から出発する際、武者小路家から村外れの辻まで沿道にずらりと村民が並び、何故か日の丸の旗を振りながら盛大に二人の新婚旅行を見送った。
村の外れにあるアーチ状の入口に掲げられた、草花で華やかに縁取られた大きな看板の中には、
『祝! 武者小路家新婚旅行』
と大々的に銘打たれていた。
――いつからこの旅が新婚旅行になったんだ……?
真・閻魔を討伐して欲しいという観音菩薩の無茶な願いを断れず渋々了承して、ただでさえ最初からやる気が無かった勇次。
そこに追い打ちを掛けるように、この予想もしていなかったかすみとの結婚で初っ端から出鼻を挫かれ、やる気を完全に失っていた。
一方新婦のかすみは、終始笑顔が絶えることはなく、遠足にでも行くかのようにニコニコしながら沿道の村民に手を振りはしゃいでいた。
「勇ちゃん、新婚旅行って何をするのです?」
「しらねぇよ、俺も新婚旅行なんかしたことねぇんだ」
「では、一緒なのですね! かすみは妻として嬉しく思うのです」
「……あぁ、そうですかい」
勇次はこれまでどんな願いでも聞届けてきた。
『人刺しの勇次』とヤクザからも恐れられる程の極道だったため、気軽にお願いをしてくる者など殆ど居なかった。
話しかけただけでも刺し殺されそうな雰囲気の勇次に惚れて「抱いて」とお願いをする女は多かったが、「結婚して」という女性は現れなかった。心の中でそう願う女性は多かったようだが、勇次を目の前にしてそれを言い出せる勇気がある女性は居なかった。
しかし、目の前の少女はそれをいとも簡単にやって退けた。
――観音菩薩様ァ……。俺ににとっちゃぁ、ここは地獄より酷ぇ所なんじゃねぇんですかい……。
――――――――――――
村を出発してしばらく経ち、勇次がこれからの旅路をあれこれと思い悩んでいると、突然、道端の鬱蒼と茂る草むらから赤鬼と青鬼、そして緑の鬼が現れた。
赤と青の鬼は、まだ子供のような大きさで見た目こそ確かに鬼なのだが、威圧感もなく、いたずらっ子の様なはしゃいだ雰囲気の出立ちだった。彼らの中でボス的な立ち位置に見える緑の鬼は、大人をナメてる悪ガキといった風体で、チャラ付いていて勇次のキライなタイプだった。
「キャー式神です! 勇ちゃん式神です!」
「あぁ、そうだな――。な、かすみ、こいつらほっといて先に進むってのは無理なのか?」
「逃げるって事ですか?」
「逃げるってぇと聞こえが悪ぃが、無駄に戦って万が一怪我してもなぁ。それにアイツらも死にたくねぇだろし、どうせクソみたいに弱ぇんだろ?」と勇次がダルそうにかすみに言う。
「オイ、お前、何調子こいたこと言ってんだ? 干物にして明日の朝飯にするぞ?」
話を聞いていた緑の鬼がニヤニヤしながら勇次を挑発した。
勇次は挑発に簡単に乗るタイプだった。
「――あ”?」
カミソリのような鋭い視線を向けるのと同時に飛び出し、勇次の突き出した拳がその鬼の頬を捉えると、緑の鬼は後方にふっ飛ばされながらブシュっと潰れて消滅した。
――ヒエェェェ……。
それを見ていた赤鬼と青鬼は一目散に逃げ出した。
「――ったくカスが。調子に乗りやがって……」
勇次はパンパンとスーツの汚れを払い落とし、襟をきっちりと正す。
「流石かすみの旦那様です! 強いのです! 私は嬉しいのです。きっと強い子供が出来るのです!」
「子供だァ? ガキがガキ産んでどーすんだ。てか、まだ産めねぇだろ、その年で」
「まだ産めない……? どういうことですか? 結婚したら観音菩薩様が連れてきてくれるのですよ? 知らないのですか?」
真顔でかすみがそう言うので、勇次はそれ以上何かを言うのを諦めた。
――これだから子供は……。アレ? もしかしてこの世界はそんな事になってたりすんのか? ――あ、いやいや、こいつのカーチャンは『また作ればいい』って言ってたぞ――ってことは、マァそういうことだよな、ヨシヨシ……。
勇次は歩きながら頷いていた。
「何を頷いているのですか?」
「え? あぁ、何でもねぇよ。気にするな」
「そうですか……」
「それで、点鉱寺ってのはどんなとこなんだ?」
「点鉱寺ですか? かすみは行ったことはないのですが、変なおじーちゃんが住んでいるって聞いたことがあります」
「変なおじーちゃんだァ?」
「はい。ろりこんって言う不思議な呪術を使うとかって友達のあっちゃんが言ってたのです」
「ロリコンって……」
――そんな特殊性癖持ちのエロ和尚なのか……。そんなとこにこの子連れてって大丈夫なのかよ……。
「あ、勇ちゃん、早速のヤキモチなんですね! かすみは浮気しないので大丈夫です」
「いや、そういうことじゃなくてだな……」
「照れなくたっていいんですよ。かすみはちゃんと判ってますから安心してください!」
「……あぁ、そうですかい」
かすみは村を出てからずっとハイテンションのままだった。
初めて会った時は気づかなかったが、実は大人顔負けの巨乳で、今日は薄い水色の着物にピンク色の帯と少女らしい可愛い色使いだったが、胸元だけは完全に大人の女性だった。更に着物の丈がかなり短く脚は殆ど見えていて、そのアンバランスさは、極一部の人間が罪を犯す動機に充分足り得るものだと言えた。
「な、かすみ。その着物、長さが足りないんじゃねぇのか?」
「今年はこのミニ丈が流行っているのです。村の子はみんなこのスタイルですよ?」
「そうだとしてもだなァ、そのぉ、夜は寒いだろ? 寝間着なんかねぇし」
「それは旦那さまが温めてくれるので大丈夫ってママが言ってました!」
「……もう少し大人に……、早く大人になってくれ……」
「はい!」かすみは嬉しそうに返事をした。
「しかし、着物の丈もだが、お前まだ十二歳だろ? どうしてその……胸がそんなにでけぇんだ? この世界の子はみんなそうなのか?」
「勇ちゃんはそんなところばかり見てるんですか? ま、私は勇ちゃんのものなので、別に構わないのですが、胸が大きいのは私の個性なのです!」
「いや、別にそんなところばかり見てるわけじゃねぇんだが……」
――点鉱寺の和尚、なんつったっけな……あ、道玄和尚か。ロリコンだって話だが、こんな格好したかすみを連れてって大丈夫なんかなァ……?
勇次は一抹の不安を感じながら、張り裂けそうな胸とパンツが見えそうな短い丈の着物ではしゃぐかすみを見て頭を抱えたくなっていた。
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