第三話:彼女は俺を振り回し、俺は周りを振り回す(下)
登場する主要云々
トリス・プラス:三人編成チーム。一章四話初出時、全員でファイクルに嫌がらせをした。
バップ :男剣士。リーダー扱いされてないが資質はある。
ペイラー:女魔術師。
ラッター:男細工師。偵察や警戒、アイテム使用などの補助担当。
ダブルヘッド :十人編成チーム。ファイクルは兄貴分のように慕う。今回全員出撃している。
パイルブ:リーダー。
スピッツ:副リーダー。
乱舞シュート :六人編成チーム。遠距離攻撃専門。二章七話初出時は副リーダーのジャバーがファイクルに絡み、リーダーのポイルが抑える。
フロッド:今回初出。前回宿窓口にターナーとともに居合わせ、リーダー、副リーダーと共に今回出撃。
ターナー:今回初出。リーダー、副リーダーと共に今回出撃。
眠り姫たち :五人編成チーム。二章四話にメンバー初出でファイクルに絡む。
セイザー :別名姫。二章八話初出。既出の絡んだメンバーを諫める。
ニール :二章十二話初出時、セイザーと共に絡んだお詫びにミリアを女子会に誘う。
「到着した!早く四人を」
「スタン!」
呼びかけられて前を見る。そんなに時間はかかってないはずだ。そんな短時間で・・・・・・。
辛うじて立って四人相手に防戦一方のランス。その背中の方には傷だらけで横たわっている三人。
「彼らの力を奪い取りし傷を、彼らの元から……」
「消 え 去 れ ! 」
ひゅおわあぁぁぁぁぁぁ
一瞬頭の中で、消毒液を付けた時に泡が出る感触を思い出す。その時の感触がさらに緩やかになったような音が俺の体から発生する。
「間……にあった……か……」
「ミリア……やっぱ、役に立ってんな……」
「あ、りがとねっ……」
「っ! おかげで俺もまだ踏ん張れる!」
「ニール! 彼らの治癒は完璧じゃない!体力増強も一緒に治癒の追加! 失血した分の疲労はなかなか抜けないからな!」
「はいっ!」
「スピッツ! 依頼目的は撤退っつってたが、殲滅する方が早けりゃそっちに切り替えろ!」
「了解だ! 遠距離担当はこっから仕掛けろ!」
「魔術担当は全員の防御と速度強化だ!攻撃魔法は禁止!」
「魔術班了解だ!」
「……ポイル、聞いたか? 遠距離は俺らの得意だっての。手柄独り占め、いや、一チーム占めしちまうか」
「ジャバー、巻き沿い食らわせてケチつけられても困るから慎重にな」
「任せろ!フロッド! こっちにマークするやつチェックしろ! ターナーはリーダーの援護! 決めるぜ!」
「……了解」
「応!」
「やだねぇ、どいつもこいつも野蛮な奴ばかりで」
「撤退とあいつらの救護がメインっつってたよな?ペイラー」
「ならこのやり方、誰にも文句言わせないよ! ラッター! 随時あたしの魔力使用分追加! バップは警戒! いくよぉ!」
「このチーム、相変わらずリーダーを尊重しねぇなぁ。やれやれだ」
チームがいくつも大人数で入り混じって大丈夫なのか? だが一番最前線にいたランスとくっついていた黒装束が距離を取る。
「ランス、大丈夫?」
「あぁ、だが出撃前のようには……いかんようだ」
ほかの三人も立つのがようやく。奴らの殺気は実力が伴う。しかも問答無用で確実に仕留めにかかる。
「よく連れてこられたな。助かったよ。ミリア、スタン」
「だが報酬はそっちの言い値っつっちまった。大丈夫か?」
「問題ない。あれだけあれば町常駐全チームにも分けられるくらいだからな」
……どんだけだよ。全部見てみてぇ。
「ペイラーのやつ、なんか呪文唱えてやがんぞ」
「乱舞の副長さんよ、問題ねぇよ。どうせ手柄立てようが何もしなかろうが、ここにいる全員報酬もらえんだろ?」
「ただ働きしてた という評判は避けたいんだよ、ラッター」
「言わねーよ、ターナー。今回の作戦に限っては、ウチのペイラーに任せりゃノーダメージで確実達成だ」
黒装束の一人が急にふらついてやがる。何かあったか?
「……行けっ!」
「ペイラーの杖から何か出たぞ?なんだありゃ」
「ペイラーは移転魔法得意なんだよ。これでこの場所から黒装束は一人減るよ。スタン」
そうか。相手が撤退してくれりゃ問題ないわけだ。しかも無理やりさせる力があれば即座に戦闘は収まる。
「こんなもんさ。続けるか? 様子見? どっちにする? バップ」
「様子見だ。俺らに標準合わせられても困るしな。二発目出すまで時間かかるだろ? 向こうが撤退したら魔力無駄になっちまうし」
「顔覚えられるのはまずいな。ジャバー、こっちをじっと観察してそうなヤツから仕留めろ」
「了解だ、ポイル! ダブルヘッド! 動け! 止まってると覚えられるぞ!」
「わかった!全員目標を短時間で変えろ!」
「姫、うまくいきましたね」
「眠り姫の異名は伊達じゃないからね。でも私のおかげって気づいてくれる人少ないのよね。あら……?」
「他の三人撤退始めたわね。ミリアのところに行きましょうか」
「トウジ、これだけ大勢呼び出して、こりゃ一体どーゆーこった? 貸し、一つどころじゃ済まさねーぞ」
「全くだ。報酬付きとはいえ、凶悪な相手だぜ? 結果こっちは無傷だったけどよ。面子次第じゃこっちもやべぇ」
「やめろ、バップ。ジャバーも。ファイヤー全員疲労困憊のままだ。今は責めるときじゃない。連中が援軍連れてくる前に撤退だ」
「じゃ、帰りはあたしが魔法かけたげる。全員集まってー。宿の窓口でいいわよね?」
「済まない、ペイラー」
「あたしも二つくらい貸しかなぁ、スタン? フフ」
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何とか宿に戻れた。俺は全員から奇異の目で見られている。当然か。振り回す立場も悪くはない。だが今気にしなきゃいけないことは、そんなことよりもあの一戦だ。今回は元凶が悪すぎた。しかもまだ濁龍の姿は見ていない。
くそっ! それでも前に進んでいると信じたい。
「大丈夫だよ」
あ? 何がだよミリア!
「少しずつ、進んでるよ、きっと」




