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辰海家

 久木の手料理を御馳走になり、好意で風呂まで用意してもらうと、時計は十九時を回っていた。

 日が落ちるのが遅い夏のせいか外はまだ明るい。久木に用意してもらった部屋にも、日の光が漏れていた。

 三雲とは別の部屋にしてもらっている。一応義兄妹となっているが、同じ部屋で寝るわけにもいかない。何より咲哉が個人的に嫌だった。

 いつもならそこで三雲がうるさいくらいに反論してくるのだろうが、当の三雲は風呂に入った後から船を漕ぎ、咲哉が風呂から上がった時にはソファーの上で眠っていた。当然それを運んだ咲哉はなにかと悪態をついていたが、また別の話だ。


 布団に寝転がり、じっと天井を見つめた。

 風に木々が揺れ、山の中だからか、夏真っ盛りだというのにひぐらしが鳴いている。

 この和風な外観からか。咲哉は何となく、実家を思い出した。


 ――辰海家と言えば陰陽師の血筋として、その筋でかなり有名な家だった。そこの四人目の子、三男坊として生まれた咲哉は、跡取りに選ばれる可能性はないに等しかった。特に跡取りになりたかったわけでもないし、兄の方がふさわしいと思っている。

 ただ、父親のことは嫌いだった。

 昔からの規律ばかりを重んじ、家の名を過度に大切にしていた。

 そんな父親に、何をしても叱られてばかりだった。

 常に『辰海家の人間なのだから』が合言葉だった。

 どうせこの家を継ぐわけでもないのにと、不満ばかりを募らせていた。

 ついに三年前、高校を卒業と同時に半ば家出のように飛び出し、すでに家を出ていた姉のところで世話になった。

 しかし、十八年間で覚えさせられた術だけは捨てることができず、事務所を作った。

 結局、ほかにできることがなかった。

 辰海家を出たくせに、辰海家の術に頼るしか生きていけないのだ。


「いや……生きてるのもギリギリか……」

 おそらく比賀がいなければ仕事もろくに入ってこず、今もやっと姉の支援でどうにかやっている状態だ。

 むしろ姉がいなければ、家を出た時点でのたれ死んでいたところだろう。

 

 ――そうすれば、三雲を助けられなかったのだろうか?

 一年前の三雲の姿がフラッシュバックする。

 咲哉はあわてて首を横に振り、雑念を払った。

 もしものことを考えるのはやめよう。

 珍しく弱気になってしまった咲哉はギュッと目をつぶった。

 早く寝よう、寝てしまえば忘れる。


 そして数分後、かすかな寝息を立てた。

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