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褒美

「ところで咲哉ぁー」

不意に三雲が声を発した。

二人はリビングの椅子に机を挟み向かい合って座っている。三雲は暇そうにぐったりと机に突っ伏し、咲哉は腕と足を組んだ状態で何か考え事をしているようだった。

現在の時刻、午後四時前。

早めの夕食をとり仮眠をとった後、妖捜索を開始することにした。今は部屋の用意をしてくると言って出て行った久木を待っているところだ。


「何だ」

咲哉は不機嫌そうに答えた。いつものことだが。

「大人の階段って話はどうなったの?」

「……どうしてお前はどうでもいいことに関しては記憶力が一級品なんだ?」

素直に驚いた顔をして咲哉が言うと、三雲は頬を膨らませた。

「むー! 三雲にとってはどうでもいいことじゃないよ!」

 ついでに机をバンバンと叩く。


「じゃあ聞くが、お前は俺が言う大人の階段は具体的になんだと思ってるんだ?」

「そりゃ、男と女の――」

「すまん、質問した俺がバカだった」

危うく中学生からいけない単語が飛び出るところだった。

「む、それ以外に何があるの?」

「あのなあ、大人になるのがそれだけだったら少子化問題は解決してるっつの。待ってろ、ちょっと用意してくるから」

呆れ顔で席を立つ咲哉。


二十分後、咲哉は陶器のカップを二つ持って現れた。そのうちの一つを三雲に手渡す。

「ほらよ」

中には白い液体が入っている。冷たく、少しドロリとしている。おそらく牛乳ではなくどちらかと言えばヨーグルトに近い。

「これはもしや有名な謎の白い液た――」

そう言った三雲の脳天に拳骨をお見舞いする。

「殴るぞ」

「もう殴ってるよぉ……」

三雲は涙目に訴えた。

この中学生は姉に何を吹き込まれているのだろうか。本当に殴るべき相手は実姉かもしれない。

「じゃあ、一体何なの?」

「飲んでみればわかることだ」

咲哉にそういわれ、恐る恐る三雲は口に含んだ。一口飲んで、数秒後。


「何、これ?」

 口に合わなかったらしく、嫌そうな顔をして三雲は尋ねた。

「甘酒だ」

「甘酒ぇ?」

「ああ、大人の特権っていったら酒と煙草だろうが」

そういって咲哉も甘酒をぐいっと飲む。

「そうかなあ……」

「といっても甘酒はアルコール入ってないのが多いがな。まあ夏バテ予防になるし、今の時期ちょうどいいだろ。寺社には大抵あるからな。ここにもあってよかったよ」

「これがご褒美て言われても微妙だよ……結局お酒じゃないんでしょ?」

「そういうと思ったが、一応これはアルコール入ってるみたいだな」

「え」

「酒粕でつくるとアルコールが入ってたりするからな。まあ、少しだし別に問題ないだろ。これでお前も立派な大人だな」

にやりと笑みを浮かべる咲哉。


むむむ、と声を上げるが、敵わないことはもうわかっているので、三雲もぐっと甘酒を飲み干した。

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