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 少女の眠る部屋から出て話声がする方へ向かうと、リビングで三雲がゼリーを食べていた。スーパーで売っているようなものではなく、少し高そうなやつだ。贈り物だろうか。まだ余っているようで、菓子の名前が書かれた箱がリビングにも積んである。


「ふあ! 咲哉お帰りなふぁい!」

 スプーンを加えたまま三雲が言う。食べるか喋るかどっちかにしてもらいたい。

「お疲れ様です。辰海様もゼリーどうですか?」

 キッチンの方で何やら作業をしていた久木が声を聞きつけたようで出てきた。

「いえ遠慮しておきます」

 咲哉はやんわりと断った。

 三雲の座っている机に並べられた空の容器。確実にすべて三雲が食べたものだ。身内がここまで食べて「では自分も」という精神を持ち合わせてはいなかった。


「すいませんね、三雲がずいぶん食べたようで」

 そういうと久木は笑った。

「いえいえ、むしろ助かりましたよ。こんなにあっても腐らすだけですからね。食べてもらえるならそれが一番です」

「三雲が全部食べてあげるよー!」

「少しは遠慮しやがれ馬鹿が」

「ほげふ!」

 調子に乗っている三雲に制裁を加える。三雲は頭を抱えてうずくまった。


「ところで娘さんの件ですが」

 三雲のことは無視して、話を切り出した。

「え、あ、はい。娘は……大丈夫なんですか?」

 三雲が殴られたことにおろおろしていた久木だが、娘と聞いて咲哉の方を向く。

「今のところは。しかし、どうやら少々厄介な事態でしてね」

「……と言いますと?」

「どうやら娘さんは憑かれているのではなく、むしろ守られているようでして。最近あらわれたという妖の方を倒さなければ事態は解決しないようですね」

「つまり娘に憑いているのは悪いものではないと?」

「そうなりますね」

「やはりそうでしたか……」

「やはり?」

 うつむき加減に言う久木の言葉に聞き返す。

「ええ……娘は昔から憑かれることが多かったのです。それも異常なほどに。いえ、憑かれるというよりも、あれは体を貸していたと言うべきなのかもしれませんね。娘は昔から妖と仲良くするような子でしたから、同じ世界を見せてあげたいと思ったのでしょうね」

 久木の話を聞いて咲哉は驚いた。あの娘が自ら妖に身をささげるような人間だったとは。しかし、納得した。人間を助けることなどほとんどない妖が、しかも摺木が残り少ない力を使ってまで守ろうとしているのは、あの娘が理由なのだろう。

「ただ今回は何か違うと思い、辰海様をお呼びしたのですが……少し安心しました」

 ほっと息をつく久木に、咲哉は首を横に振った。

「いや、憑き物は悪いものではなくても、どうやら呪いの類にかかっているようで。のんびりとはしてられませんね」

「そんな……!」

 久木は口をあけて驚愕した。


「……少し仮眠をとって夜また来ます。妖の行動時間は基本深夜帯ですから。ほら、三雲も行くぞ」

 そう言って車に戻ろうとしたが、久木に引き留められた。

「でしたら、部屋を用意します。この近くに宿なんかありませんから……それにあの石段をまた上がってくるのは大変でしょう?」

 その言葉に反応したのは三雲だった。

「咲哉! 三雲は階段上りたくないからここにお泊りするよ! 咲哉が何て言っても、絶対にお泊りするからね!」

 石段のことを思い出したのか、三雲が叫ぶ。

 確かに三雲がいたのでは、石段に上るだけでも時間を浪費する。三雲をここに残して一人下に戻ってもいいが……保護者心というやつか、非常に心配だ。

 咲哉は大きくため息をついてコクコクと頷いた。

「分かりました……今回だけは好意に甘えさせてもらいます」

「ついでに三雲にも甘えていいんだよ?」

 ドヤ顔でそういう三雲を咲哉は獅子の如く睨み付けた。


かくして、咲哉一行は摺木神社に一泊することとなった。


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