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神社の石段

 次の日。


 また姉に車を借り、依頼者のもとへと向かった。

 助手席には三雲がいる。数日かけての仕事になりそうなので、連れて行くことにした。決して、連れて行かなかったら後々面倒なことになるからではない。本当に。

 昨日と同じく二時間ほど車を走らせた後、依頼主がいる摺木神社についた。車では山の麓までしか行けず、専用の駐車場で降りる。遠方からの参拝客はいないようで、車は一台もなかった。


「これは……」


 鳥居をくぐったところで、咲哉はつぶやいた。

 どうやら本殿は相当高い場所にあるようで、石段がかなり長い。これは参拝客が来ないはずだ。普通の人なら音をあげる。例えば後ろの三雲のように。


「さ、咲哉! 三雲嫌だよ、この階段上るの!」

 一段も上っていないのに、早くもギブアップという感じだ。流石に値を上げるのは早すぎると思うが。

「言ってろ。先に行くぞ」

 しかしわがままを言うのはいつものことだ。気にする様子もなく、さっさと本殿へと向かおうとする咲哉を大声で呼び止める。


「ちょっと待ってよ咲哉! 三雲無理だってば!」

「ああ? じゃあ車で待ってるか、数日間。一人で」

「う……うう……」

 言い返す言葉がないのか、黙ってしまった。

 車の中にいても、エンジンはかけたままにしておけないので、当然エアコンはつかない。車内は瞬く間に地獄と化すだろう。そんな中に数日間いたら確実に死ねる。半日だけでも死ねる。

 そのことは頭の弱い三雲でも当然わかっているだろう。素直についてくる……と思ったら今日は違った。


「咲哉がおんぶしてくれるなら、いいよ?」

「なんで俺がそんなこと……」

「してくれないなら、三雲、車に残るよ。三雲が車の中に一人でいたら、咲哉だって困るでしょ?」

「………………ちっ」

 珍しく言い返されてしまった。誰に入れ知恵されたのか――は考えるまでもなく実姉だろう。余計なことをしてくれる。

 こうなったら三雲は動かない。変なところで意地を張って頑固になる。咲哉がこのままいけば、三雲はずっとここにいるだろう。オートロック式なので車には入れないが、鳥居付近に居座るかもしれない。もし熱中症で倒れたり、偶々通りかかった人にホイホイついて行って誘拐事件になったりしたら……面倒だ。

 さてどうやって説得しようか。もちろん、おんぶするなんてことは絶対にしない。ここで頼みを聞いてしまったら、三雲が付け上がる。……本音は重いものを抱えて階段など上りたくないだけだが。

 しばらく考え、咲哉はふと思いついた。


「おい三雲、頑張って上り切ったら、いいことをしてやろう」

「いいこと?」

 案の定、三雲は食いついてきた。

「ああ、階段だけに、大人の階段を上らせてやろう。どうだ?」

「大人の……階段?」

 姉貴に日ごろから色々と吹き込まれている様子の三雲が何を想像したのかは知らないが、まるで花でも咲いたように笑顔になった。


「本当に? 嘘じゃないよね?」

「ああ、俺はお前に嘘ついたことなんてないだろうが」

 これがすでに嘘だが、過去に嘘をつかれたことなど覚えていないようだ。

「うん、そうだね! 三雲頑張る!」

 今までのやる気のなさが嘘のように、三雲は階段を駆け上がっていった。

 過去を振り向かないというか、単純というか、馬鹿というか。

「まったく、面倒な奴だ」

 絶対に途中でペースが落ちるだろう三雲を、ゆっくりと追いかけながらそうつぶやいた。


 咲哉の予想通り、三雲がまたしても音を上げるのは、それから五分後のことであった。


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