表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/11

夜明け

 朝日を浴びて一番に出たのはため息だった。

 その美しさにため息が出た、なんてことであればよかっただろうが、単純に疲れただけだ。山々の間から覗く朝日は中々に絶景だったが、何も感じない。

 ギリギリの戦いでもなかったが、一度に術をあれこれ使うとさすがに疲れる。術を使うというのは案外神経を使うのだ。慣れない召喚術を使えばなおさらだった。


「辰海さああん!」

 家屋から久木が走ってくる。

 咲哉は額の汗をぬぐい、息を整え、何事もなかったように答える。

「どうかしましたか?」

「ええ、娘が、娘が目を覚ましたんです!」

「本当ですか、それは良かった」

 完全に犬神を倒したとは言えないが、無事に呪いは解けたようだ。少しほっとする。

「それで術者と話がしたいというものですから、おそらく辰海さんのことだろうと思って……」

「分かりました、すぐ行きましょう」

 素早く答えて久木の後を追う。


 娘が眠っていた部屋のふすまを開けると、布団の中で上半身を起こし、ぼおっと虚空を見つめている少女がいた。

 昨日見た姿は死んだようだったが、少し生気が戻ったようで、顔色がよくなっている。

 少女はこちらに気付くと目の焦点を咲哉に合わせた。

「あなたが……お呼び立てしてごめんなさい。呪いを解いていただいたお礼をしたくて」

 何日も眠っていたせいか声がかすれている。

「気にしないでくれ、仕事だ。体はもう平気なのか」

「はい、少しぼおっとするだけです。えへへ、しばらくは睡眠とらなくて大丈夫ですね」

「……そうか。だがあまり無理するな、まだ横になっていた方がいい」

 少女の冗談に一瞬困った表情を浮かべるがスルーすることを選び、体を寝かすように進める。

「いえ、私は大丈夫ですから……実は摺木ちゃんが、話がしたいって」

「摺木ちゃん……? ああ」

 この少女に憑いていた、というより守っていた山の守護者の摺木を思い出す。

「お父さんは部屋の外にいて。摺木ちゃん、あんまり人目に付きたくないみたいだから」

「ついでに三雲を起こしてもらえますか? たぶんぐっすり寝てて、すぐには起きないと思うんで」

「分かりました」

 久木が部屋を出て、ふすまを閉める。昨日とは違い、電気がついているので部屋は明るい。

「では今代わります」

 電話を替わるような気軽さで、少女がふと目を閉じる。瞬間、空気が変わったのが分かった。力が弱っていると言っても、元は位の高い妖だったということだ。咲哉は跪き、頭を下げる。


「よい、いまさら貴殿に頭を下げられても困る。それに頭を下げるのはこちらの方だ。貴殿の戦いぶり、見えずとも感じてはいた。あの侵入者共を蹴散らしてくれて感謝する」

「それが仕事だったからな。それに何匹か逃がしてしまった」

 咲哉は頭を上げ、腰を落として片足を上げて座る状態になる。

「そうだな……しばらくあれが来ることはないと思うが、もし来たとして我にはここを守る術はないだろう」

「もう力は戻らないのか?」

 咲哉が聞くと、摺木はふむ、と少し考える。

「どうだろうな。ないことはないが、この神社への信仰が廃れた今、力を取り戻す望みは少ない」

「つまり、信仰が戻ればいいのか?」

「簡単に言うが、貴殿も見ただろうあの長い石段を。この周辺は老人ばかり、あの石段を上ってくるものはもうほとんどいないのだよ」

「ああ……」

 摺木に言われて声を漏らす。老人だけでなく、若者もそうだろう。三雲が嘆いたのを思い出す。

「せめて正月だけでも、人が集まるような場所ならば良かったのだがな……」

「ん? それだけでいいのか?」

「いくらかはマシ、と言ったところか。少なくともあの犬神を威嚇するくらいはできるだろう」

 咲哉は少し考えて、口を開く。

「それくらいなら何とかなるかもしれないな」

「何、本当か!?」

 摺木は身を乗り出す勢いで、声を上げる。

「絶対とは言わないが、何とかしてみよう」

「……すまない、貴殿には迷惑をかける。礼を言う」

「勘違いするな、仕事だ。妖に狙われやすい場所をほっとくわけにもいかないからな」

 そっけなくいうと、摺木がフッと笑う。

「貴殿は素直ではないな。好意を素直に受け止めればいいものを」

「うるせえ。妖怪からの好意なんていらん」 

 眉をひそめてそう返した。




 再び眠りについた娘を部屋に残し、咲哉は帰り支度をするために借りていた部屋へと向かった。

 そして廊下で久木と、寝ぼけ眼をこする三雲と会う。

「ああ、辰海さん。娘はどうでしたか?」

「疲れたようで眠ってしまいましたが、まあ、数時間したらまた目を覚ますでしょう。安心してください」

「そうですか」

 ほっと息をつく久木。

「ところで辰海さん、朝食はどうなさいますか? 今から支度をしようと思うのですが……」

「いえ、もう帰ります。急いで帰らなければならない用事が出来たので……」

「そうですか? では、おにぎりを何個か準備しましょう。それくらいならすぐできますから」

「いえそんな――」

「三雲、お腹すいた……おにぎり食べる……」

 咲哉の言葉を遮り、ぼそぼそと三雲が呟く。

「ははは、これくらいさせて下さい。ほんのお礼ですから」

「……じゃあ、お願いします」

 三雲の言葉に負けた咲哉は頷く。


「そうだ、久木さん。少し話しておきたいことがあるので、後日連絡させていただきます」

「話ですか?」

「今後のことで少し。悪い話ではありませんので、安心してください」

「は、はい、分かりました」

 何の話だろうと首をかしげる久木に一礼して背を向け、部屋へと向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ