第4話 ギルドと適性
あれだけ意気込んでおきながら、結果的に向かったのは下水で、門から直接入るのではなく、泥棒のようにこっそり入ることとなった。
三人とも鼻を抑え、カンテラで辺りを照らしながら進む。
「ごめんねぇ、キミにはまだ身分証とか無いからさぁ」
「ううん、こっちこそ……なんかごめんね」
二人はそう言うと、顔を見合わせながらへラリと笑い合う。ユキはそれを見ながらため息を吐き、たまに出てくるヘドロ状の魔物を一蹴していた。
「ほら、そろそろ地上に出るから一旦静かに」
その言葉の通り、梯子が見え始め、ユキはカンテラを腰に付けると先に上がり始める。
「この先はスラム街に繋がっていてな。先にユキが見に行ってくれてるんだ」
「スラム街?」
その言葉に、トワは少しだけ目をパチパチさせる。
「ならず者が集まる場所、って言えばいいのかな?或いは浮浪者とか?」
「じゃぁ治安が悪いってことなんだね」
「まぁそうだね。だから金目のものは隠すか持たないほうが無難かも」
トワはそう言いながらなおをじっと見る。ボロボロの制服や鞄をじっと見た上で、大丈夫だと判断したようだった。
そんなことを話していると、天井を塞いでいた何かを避ける音がする。見上げてみると光が差し込み始め、明るさのあまりに目を閉じてしまう。
「行こっか」
トワはそう言うと、先に梯子を登り始める。
なおもそれに続いて梯子を登りきると、外から見ていた白亜の城壁は遥か遠く、代わりに腐った木々で作ったかのような家が立ち並んでいた。
「ここがスラム街だよ、早く抜けよう」
トワはなおの手を引き、ずんずん歩き始める。
たまにぶつかられては舌打ちをされ、地べたに座り込んでいる者には睨みつけられていた。
「ここを抜けるとギルド街があるんだ。もうすぐ昼頃だから結構賑わってるだろうけど、あんまり気にしないで」
「気にしないでも何も、勝手に向こうが何かと構ってくるんだろ」
トワのその言葉にユキがそう反応する。
なおは何のことかはわからなかったが、取り敢えず頷くことにしておいた。
スラムを抜けると、一転して町並みが明るくなり、煉瓦でできた建物に、入り口はパカパカと揺れる木製のサルーンドアで出来ており、中を覗いてみると昼頃であるにも関わらず、店内はすでに酔いが回った人ばかり。
とある一角にある古い建物に入ると、明らかにガラの悪い人たちばかりでなおは思わず萎縮してしまう。
そんな中二人は何も気にせずカウンターの前に立つと、一枚の紙を差し出す。
カウンターの女性は少し驚いた顔をしながらも、それを受け取るとトワは何もない空間から何か取り出し、ドンっとそれを置く。
「これ、頼まれたものもついでに持ってきました!これで報酬、弾んでくれるんですよね?!」
キラキラとした瞳でそう尋ねると、女性は驚いた顔をしながらも中身を確かめる。
一つ取り出し、まじまじ見てみるとそれを中に戻し笑顔で
「はい!確かにゴーレムの心臓二十個、お受け取りいたしました!」
「やったぁ!」 と喜ぶトワと次の依頼を見に行くユキ。二人の周囲には酒で出来上がった男たちが絡み始める。
「またかぁ。新人の割にお前さんたちやるなぁ」
「そうだろそうだろ、なんと言ってもユキは最強だからな!」
トワのその言葉に、ギルド内は笑いで包まれる。
なおには少しばかり、覚えのある笑い方だった。
「と、言うわけで酒臭いから離れてほしい。苦手なんだ酒の臭い」
「そんなつれないこと言うなよぉ…って言いてぇが、お前さんまだガキだからな。店主、こいつにリンゴジュース、奢ってやってくれ!」
「いいの?!」
カウンターの奥から男性が出てくると、グラスに氷を入れ、少し濁った黄金色のジュースが出てくる。
トワはそれを嬉しそうに受け取ると、両手で包み込み一気に飲み始める。
「ねぇアイドさん、最近帝都で何か変わったこととかなかった?」
トワはカウンターの女性、アイドにそう声をかけると、なおの方をちらりと見遣り、コンコンとカウンターを鳴らす。
こちらに来い、ということだろう。
「うーんそうねぇ、特に聞かないわぁ。帝都での定例会議はもう少し先だし……あ!そうだわ! ここで一番大きいギルド! ナイトクロウとかいう痛々しい名前の! あそこがもぉ酷くて酷くて!」
途端、アイドは怒り始め、周囲の男たちも同調し始める。そんな中、マイペースにユキは依頼書を一枚カウンターに置くと、話を聞き始める。
「あの人たち、ギルド街ならそこら中で喧嘩するし、女の人にナンパするし……痴漢に近いことまでするのよ?! ほら! 私の腕!」
アイドはそう言うと、腕を見せる。そこには赤く、痛々しい跡が残っていた。
「こんなことが頻発してるの。この辺りを治めてる貴族にも言ったんだけど、取り合ってくれないの!」
思ったよりアクティブに動くなと思いつつも、それは由々しき事態なのでは? とも思う。
なおはまだ学生で、こういった世界のことはわからないが、常識や倫理的に問題があるはずだ。
「ギルド長には?」
ユキがそう問いかけると、アイドは少し頬を赤らめながら
「そのギルド長が少し……ううん、かなり乱れてて……風俗街から女の人すごい寄せ集めてるし……」
はぁ。と、重たいため息が流れる。
酒で酔っていた男たちも黙りこくってしまい、どうしたものかと頭を悩ませる。
「まぁ、あとは直談判するしかないかなぁ。」
「い、嫌よ! あそこのギルドめちゃくちゃ怖いし!」
アイドは顔を真っ青にし、手をパタパタとさせながら断る。その反応が面白かったのか、トワは愉快そうに笑う。
「そうだ、話は変わるけどこの人をギルドに加入させてほしいんだ」
「うちに? でも、金払いなら他所のほうが……」
「ここがいーの」
アイドは嬉しそうにニヨニヨしながらも、「仕方ないなぁ」と、奥に向かう。
そこから出てきたのは先程の店主で、手には一枚の紙と翡翠色の丸い石。
「面倒事になって申し訳ないけど、この人、身分証とかそういったの何もないんだ」
「えぇ……それ、身分証改竄になるんじゃ……」
店主は心底嫌そうな顔をしながら、石を置く。トワは再度ケタケタ笑い、ユキもまた嫌そうな顔をする。
「だからこそだよ、それに見合った依頼を引き受けるよ」
言うが早いか、一枚の白紙の紙を取り出し店主が使おうとしていたペンを奪い取ると、そこには“ナイトクロウ討伐”と書かれていた。
「あのなぁ、ナイトクロウは確かに品もないし、クソみたいな行動ばかり取っているけどあれでも傭兵上がりや元騎士、大武闘会本戦出場者なんかが集まってるんだぞ?」
「そういうのってほら、過去の栄光だろ? そんなものに縋る時点で格が下るし、どれもコネがあれば行けるものだよ」
店主は微妙な顔をし、アイドは目をキラキラさせる。
そしてユキはため息を吐くと
「取り敢えず、魔力適性なんかを見てほしい。登録する為と、今回の配置を決めたい」
そう言われ、店主は渋々頷くと先ほどの石を持ち、なおに手を置くよう促す。
『汝の適性、如何なりや』
店主がそう詠唱を唱えると、眩いほどに白く発光したかと思えば、しんっと音沙汰もなく消え去ってしまった。
なおは首を傾げ、トワは口をぽかんと開ける。そして他の者たちも。
「適性、なし」
しんっと静まり返ったギルド内に、その言葉だけが響く。
なおは冷たい沼底のような場所に落とされたような絶望感に襲われた。




