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異世界⇔異世界  作者: As
3/9

第3話 神名と縛り

「ほんっとうにごめんね……」

「……何とか無事だったから大丈夫だよ。でも、なんであんな事を?」


 そう問いかけると、二人はキョトンとした後、顔を見合わせる。


「キミの名前が神名だったからだよ」

「かみな……?」


 フと、昨夜の男にもそう言われたと思いだしていると、トワが


「なお」


 と呼ぶので、「ん?」 と返すと


『大きな声で、わんと鳴け』


 ほんの少し、意識がフワッと飛んだかと思うと


「わん!!!」


 と、自分でも無意識のうちにそう大きな声を上げていた。思わぬ自分の行動に、パニックで口に手を当てながら驚く。


「神名は神気を宿すことで魂を縛り、相手に隷属させるもの。自分のようにそういうのに敏感だとバレるから、気をつけないと本当にヤバイんだから、だめだよ」


 そう釘を刺されてしまい、なおは思わずズキズキと胸が痛む。そんなにまずいものだったのかと実感する。


 そして改めていろんな話を教えてくれた。

 

「無神族っていうのは、神に見放されてるとかそういうわけではなく、万物に神は宿る。だから日々を大切に生きなさいってものなんだ」


 なおは「へえ〜」と答える。──要は、八百万のようなものだ。

 

「昔は王都だったんだけど、今はこの国は帝国なんだ。それに、癖で王都って言ってるけど今から行く先はトルネラ帝都。王国は今三つある」


 のぼり坂をずっと行く。なおが走っていたときより急勾配で、疲労は凄まじいものだったが二人は止まりそうもないので、ただ置いて行かれてはいけないという、気合だけで乗り切るそんな中、トワは色々と話してくれる。


 どうやらなおの話を聞いて、“よくわからないけど、何か大変なんだな”と思ったらしく、色々と説明をしてくれていた。

 坂を登りきり、見下ろすと外壁に囲まれた都と中心には大きな城。

 城の周りには城壁がさらに二つほどあり、何かから逃れるかのように、厳重に守られていた。


「三つの王国はそれぞれ役割があってね、上を見てみて」


 そう言われ、なおは空を見上げると思わず目を見開く。宙に浮かぶ大きな大地があった。そして空飛ぶ馬車やバスのようなものまで。


「あそこは監視用の国、天空都市。大規模な災害や、人災が起きたときはあそこから警報が鳴り響くんだ。あと観光だね。特に貴族の人なんかが土地を買って、寒い時期に行く場所なんだ」


 なおは口を大きく開けたままその国を見る。初めての幻想的な様子に、胸の高鳴りが止められない。見えるのは岩肌くらいだが、それでも尚この風景にときめかずにはいられなかった。


「ここからは見えないけど、あと二つ、大きな国があるんだ」


「すごい……えっと……」


 なおは何と言っていいかわからず、思わず黙り込んでしまう。

 これまでろくにコミュニケーションを築くことができず、人との会話の仕方がわからないのだ。


「そしてそれらを纏めてるのが帝都で、そこから独立しているのが各神族だね。まぁその辺の細かいことはおいおいね!」


 何かを察したのか、トワはそう言うと、帝都に続く道へと歩き始める。ユキもまた、それに続くように歩き始め、なおは呼吸を一度整えると大地を一歩踏み出した。

 ──はずだった。


「動くな」


 ピタリと、三人の動きが止まる。なおの首元には冷たく光る何かが当てられ、何かが首を伝って流れていく気配がした。

 なおはスンっとそれを嗅ぐと、鉄の臭いで、首もとを流れる血にパニックを通り越して硬直してしまっていた。


 恐怖のあまり、ギュッと目を閉じる。


「金目のもの、食べ物、全部置いてけ。でないと、コロっ」


 耳元で、ドッという鈍い音が響き、首元に当てられていた鉄がゆっくりと離れる。

 そしてドサリと重い音が聞こえ、思わず振り返ると男が仰向けに寝転んでいた。


「ヒッ……!」


 なおは思わず声を漏らす。額には弓矢が刺さっており、血が滔々と流れていた。目は既に生気を失っており、恐怖でグラグラと視界が揺れ、暗くなるのを感じる。


「早くこっちに」


 冷静なその声にハッと我に返る。急ぎ振り返り、二人のもとに駆け寄ると、先程までいた場所にワラワラと男たちが集まり始める。


「ここから動くなよ」


 ユキはそう言うと、腰に手を当てる。すると、今まで見えていなかった刀が手品のようにすうっと現れ、なおは思わず瞠目してしまう。そして近くからは何か引き絞る音が聞こえ、そちらを見てみるとトワが弓を引いていた。


「行け! お前らぁ!」


 数十人の男たちの怒声と共に、数人の男たちは袈裟斬りでその場に伏せ、残り数人は額に矢が刺さり、仰向けに倒れる。そして残った者たちは戦意を失ったのか、或いは頭目を失ったのか。二人を見て情けない声を小さく上げる。


 矢で刺された者たちは即死してしまったが、残りの斬られた者たちは呼吸こそ浅いものの、まだギリギリの所で生きている。


「そいつらはいますぐ手当すれば間に合うはずだ。死にたくなければ消えろ」

「ひ、ひぃっ……!」


 再び情けない声を上げながら男たちはパタパタと去って行く。

 二人は男たちが完全に居なくなるのを見届けると、再度帝都に向かって歩き始めた。


「帝都になってから、盗賊が頻繁に現れるようになったんだ」

「その……それはなんで……?」


 なおがそう聞くと、トワは難しい顔をするので余程の理由かと思ったが


「何でだっけ?」


 と言うので思わず拍子抜けしてしまう。代わりにユキが微妙な顔をしながら


「税が一気に引き上がって、小さな村なんかは立ち行かなくなったんだ。特に農村は魔法使いや天空都市が手を出し始めたから、一般の農民じゃ意味がなくなった。

 天変地異や災害があったとき、勝ち残るのは金と力のある方だからな」


 ユキは、なおの方を見ることなくそう言い終えると、もう良いだろうとばかりに先を歩み始めてしまった。


「失敗したなぁ……」


 隣で小さくそう呟く声が聞こえ、仲良くなるように仕向けてくれたのだと気づいたがもう遅かった。


「えっと、二人はなんであんな所に?」


 パーカーのような軽装に茶色の外套、森を歩くにしては随分とラフな格好だと思い、問いかけてみる。


「依頼帰りだよ。あそこをもう少し奥に行ったら、ゴーレムが大量に出るんだ。そこで討伐依頼をちょっとね。それからこれ」


 そう言いながらトワは、何もない空間から一つの丸いものを取り出す


「これ、ドラゴンの卵」

「ド、ドラゴン?!」


 まるで焼いたかのように真っ黒で滑らかな球体で、よくよく見てみると、内側の赤黒い光が脈打っているのがわかる。サイズは五十センチほどで、トワが持つには少し重そうなくらいだ。

 触ってもいいとのことで触れてみると暖かく、指先にもドクドクと、生きているのがわかる感触が伝わる。


「ユキに『飼っていいか』って聞いたら好きにしろって言われたから連れてきたんだ」


 ルンルンと上機嫌に言うので、本当に楽しみなんだなというのがわかる。だがそれにしても気になることがある。


「ドラゴンって、何を食べるの?」

「ん、君がちゃんと質問するのは初めてだねぇ」


 ニヨニヨと、どこか嬉しそうに笑みを浮かべるトワに思わず苦笑いしてしまう。トワは卵を覗き込みながら


「子どもの頃の主食は血だね。魔獣、人間、動物。何でもいい。成長期に入ると肉を食べる。これも何でもいい。大人になると、属性にあったものを食べる。例えば、火属性なら火を。雷属性なら雷を。って感じだね」


 なおは思わず目を輝かせる。トワはドラゴンの卵を再度何もない空間に仕舞い込むと、ピョンっと跳ねながらユキの方に走り、なおを振り返る。


「ここが帝都、トルネラ。少し君のことを聞かせてほしいな」


 白亜の城壁に、その上からこちらを覗き込むかのように見える巨大な城。門の方は馬車など出入りしようとする人で溢れかえっており、今までいたところと何もかも違うんだなと、改めてなおは実感しながら一歩進んだ。

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