エピローグ
時は流れて——。
本土の大学へ進学した際に、弘と雪はこじんまりとしたアパートを借りてふたり暮らしを始め、大学卒業後すぐに結婚をした。
弘は卒業後大手ゲーム会社に入社した後に、自身のゲーム会社を立ち上げた。社長になった弘はゲーム雑誌に愛妻家としてゲームの話より惚気話ばかり語り、それが記事として掲載されている。
雪は弘のお弁当を4年間毎日作り続けた経験を活かして料理教室の先生になった。
美人な先生に寄ってくる男性が多く、焦った弘が牽制するためにも急いでした結婚だったが、それでも雪は幸せいっぱいだった。
そして元気な子供も授かり、以前の省エネはどこへやら、もっと弘は張り切るようになった。
ふたりは様々な傷を抱え、困難を乗り越え、それでも手を放さずに進んできたふたりの歩みは、こんなにも温かく幸福な家庭へと辿り着いていたのだ。
♢
赤音島ではない、どこかの街。
空一面が燃えるような朱色に染まる、穏やかな夕暮れ時。
小さな手と手が、ふたつの大きな手にしっかりと握られている。
「お父さん、今日ね、公園で大きな夕日を見たんだよ!」
「はは、そうか。今日も綺麗だなあ」
「ふふ、本当に。あの日……赤音島の夕空と、少し似ていますね」
幼い我が子を真ん中に挟み、歩幅を合わせて歩く弘と雪。
弘が横を向くと、愛おしそうに子供を見つめる雪の頬が、夕焼けの光に照らされてほんのり茜色に輝いていた。
「ねえ、お父さん、お母さん! お腹空いちゃった! 早く帰ろう?」
「はいはい。今日の晩ごはんは、お前の大好きなハンバーグだからね」
「わーい! やったぁ!」
元気良く跳ねる子供の声に、ふたりは顔を見合わせて優しく微笑み合う。
繋いだ手から伝わる確かな温もり。
重なり合うふたつの影と、小さなひとつの影。
特別なことがなくたっていい。
ただの日常を慈しんでいけばいい。
黄金色と茜色が溶け合う優しい光の中で、仲良く歩む家族の姿はどこまでもあたたかく包み込まれていった。




