第5話
母親にバレないようにこっそり弘は家から出ると、エレベーターを待っている間にコンビニの新作アイスを検索する。昔人気のあったアイスの復刻シリーズがまた出ているらしい。エレベーターの到着を確認した弘は、懐かしみながらスマートフォンをポケットに仕舞ってエレベーターに乗る。
マンションを出ると、外は夜のひんやりとした空気で満ちていた。夜にしか感じられない涼し気な空気を吸い込みながらコンビニへと足を向ける。
街灯がぽつぽつと照らす住宅街の道は静まり返っていたが、少し先から妙に賑やかな声が聞こえてきた。
目を凝らすと、コンビニへ向かういつもの街灯の下に、見覚えのある女子三人の姿があった。
泉早紀、渡辺春香、寺崎ゆうみ(てらさきゆうみ)。
新学期が始まってまだ数日だが、教室でかたまっていつも大きな声で騒いでいる三人組だ。
彼女たちは周囲の目も気にする様子もなく、何やら怒りを露わにして盛り上がっていた。
「あいつマジでむかつくんだけど! 明日シメちゃわね?」
「ほんといい気になりやがってさー!」
「わかる! あいつ、うちの彼氏に色目使ってんだけど! うざすぎ!」
夜の住宅街に響く粗暴な言葉遣い。
コンビニまではそのまま直進した方が圧倒的に早く着く。だが、関わり合いになって面倒なことに巻き込まれるのは御免だった。
(うわ……最悪なタイミングで出くわしたな……)
弘は足音を立てないように自然な動作で右の路地へと折れ、少し遠回りになるコースへルートを変更した。
角を曲がり、壁一枚を隔てた暗がりで息を潜める。
そのまま背後を通り過ぎていく三人組の足音と声。
「てかさ、一回ボコって脱がして写真撮らね?」
「ウケる! それ絶対泣くじゃん!」
ギャハハ、と無邪気な悪意に満ちた高笑いが、夜の闇に溶けて遠ざかっていく。
(……マジかよ)
背中越しに聞こえてきたあまりにも穏やかじゃない内容に、弘は思わずゾッと背筋が凍るのを感じた。
一体誰の話をしていたのかは分からない。だが、普段教室でキャッキャと笑っている女子たちの裏に潜むいじめの陰湿さと凶暴さに、弘は寒気を覚えながら、ただ静かに彼女たちが立ち去るのをやり過ごす。
そして逃げ込むようにコンビニに飛び込むと、アイスとジュースをレジに持っていく。
買い物を済ませて出ると、ポケットの中でスマートフォンが振動した。
黙って夜に出歩いていることがバレたか? と内心ハラハラしてスマートフォンを起動すると、ゲームの外部アプリに通知が来ていた。タップすると、雫からのメッセージだった。
『しばらくログインできそうにないかもしれません』
シンプルにそれだけ書いてあった。
仕事で何かあったのかもしれない。が、深く詮索するわけにもいかないので、了解とだけスタンプで返事をする。
これからしばらくひとりでゲームをする寂しさが弘の心にじんわり広がった。
その後、帰宅した弘が、こっそり外出したことを母親にバレて怒られたのは言うまでもなかった。




