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夕空の向こうで  作者: あさくらまひろ
坂上弘

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第2話

 学校が終わると、弘は寄り道することなく文字通り一目散に自宅へ帰宅した。


 弘の家はマンションだ。

 玄関のカギをガチャガチャと開けるとリビングに寄ることなく、玄関入ってすぐ左手にある自室に入る。ネクタイを緩めながら鞄を床に放り投げると、迷わずパソコンの電源を入れる。モニターが眩しい光を放ち、お気に入りのオンラインゲームのログイン画面が立ち上がった。そしてワールドを読み込んでいる間に制服を脱ぎ捨てて適当なシャツに着替える。


 弘のゲーム内でのプレイヤーネームは『ロム』。

 坂上弘の名前である「弘(ひろ)」の別の読み(ひろむ)をもじった名前が、いつも彼が使うハンドルネームだ。


 ヘッドセットを装着し、ボイスチャットとチャットウィンドウを開いて待機する。今日は、前にやっていたゲームからの付き合いであるネット友達と、この新作ゲームでパーティを組んで一緒に攻略する約束をしていた。


 事前にスマートフォンのアプリでフレンド登録しあっていたので、画面のフレンドリストに相手の名前がすでに表示されている。しかしまだログインしていないようで灰色になっていた。そしてフレンドリストを何度も更新していると、目的のIDが白く表示――オンラインに切り替わった。


『雫(シズク)』がログインしました。


 すかさずパーティ勧誘を送り、ボイスチャットを繋ぐ。


 相手もすぐに申請を承諾して弘のパーティに加入する。


 弘のゴツゴツした鎧を纏う騎士のアバターとは打って変わって、修道女の格好をした女の子のアバターが弘の前に現れる。


「遅かったなー! 待ちくたびれて先にチュートリアル終わらせちゃったぞ」


『ごめんなさい、ちょっと家の用事があって……お待たせしちゃいました』


 ヘッドセットのスピーカーから聞こえてきたのは、ボイスチェンジャーで加工された、落ち着いたトーンの声だった。


「いいっていいって。じゃあさっそく、昼間調べておいたダンジョン行くか! ギミックの予習はバッチリだから、俺についてきて!」


『ふふ、頼りにしてるね、ロム君』


 雫とはもう2年近く一緒に遊んでいる仲だが、弘が知っている雫の情報は弘同様に【高校生】ということくらいだった。

 ただ、雫は夜の決められた時間にしかログインせず、プレイ時間もいつも1〜2時間程度と極端に短い。そのため、弘は勝手に「本当は忙しい社会人で、高校生っていうのは嘘なんじゃないか?」と内心思っている。ネット相手のことを詮索するのはマナー違反なので詳しく聞いたことがないが、おそらく性別も男だろうと。こういうのをネカマプレイというのだと弘は知っていた。

 今日は雫も早く帰れるとのことだったので事前に遊ぶ約束していたのだ。


「よし、ボス戦突入! 雫、右の雑魚頼む!」


『了解!』


 弘の指示のもと、ふたりで手分けしてモブを倒していき、ギミックを解いていく。

 ギミックが解き終わるとまた次の部屋に向けて歩き出す。

 次の部屋にたどり着くまでも戦闘はあるものの、ギミックはないので雑談するにうってつけだ。

 こういうときは決まっていつも雫から弘に話を振る。


『……ねえ、ロム君。今日、学校で何かいいことあった?』


 ゲーム画面のキャラクターを操作しながら、いつもの流れで雫が話しかけてくる。


「え? うーん……特になんもないけど。あ、でも今日クラス替えがあってさ。隣の席が学園のマドンナ? みたいな奴になった」


『へえ……どんな人なの?』


「なんかみんなから『なでしこ様』とか呼ばれてる綺麗で上品な女子。俺にはよくわかんねえけど、まあ害はなさそうだから普通によろしく言っておいた」


『そっか。……仲良くなれるといいね』


「いやー、さすがに無理だなあ。俺なんかが仲良くなったらほかの男子に殺されちゃうよ。それに俺はここで雫とダンジョン潜ってる方が100倍楽しいわ」


『……うん。私も、ロム君とこうして遊んでる時間が一番好きだよ』


 ボイスチャット越しに、かすかに小さく息を吐くような音が聞こえた。


「よし、ショートカット開通! これであとは次のエリア解放だな。あ、そういえば雫、お前『雫』って名前、なんでそれにしたんだっけ?」


『え……? うーん、……スノードロップっていう花が好きで、そこから連想してつけたんだよ』


「へー、花の名前か。なんかお前らしくて似合ってんじゃん」


『ありがと。あ……じゃあ、そろそろ時間だから落ちるね』


「おう、おつかれー! また明日な!」


『うん、また明日ね、ロム君』


 ダンジョンを出て街に戻ると『雫』のステータスがログアウトに切り替わり、フレンドリストが灰色に変わる。

 時刻はまだ夜の9時過ぎ。ログイン時間が短い雫との通話を終え、弘は「さて、次はソロで素材集めでも行くか」と、一人で画面に向き直った。



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