第12話
隼人はボロボロになって泣きじゃくる美羽をどうにかして連れ帰り、治療のために家に入れることにした。舞花のほうも治療が必要そうではあったが、ふたりとも連れ帰って家で第2ラウンドが始まってはもう止められないと思い、もう彼女ではない舞花を放置して美羽だけを連れ帰ったのだった。
リビングのソファーに座らせ、濡らしたタオルと救急箱で美羽の頬や腕の傷を手当てする。
痛みに耐えながら手当てを受けていた美羽は、やがて隼人の手をキュッと強く握りしめ、濡れた瞳でまっすぐに見つめてきた。
「……先輩。私……ずっと、先輩のことが好きでした。あの人の代わりでも、可哀想だからでもありません。たとえこのまま足が動かなかったとしても、たとえ先輩に愛してもらえなくても……全部、私が愛してあげます。だから……私を選んでください」
血の滲む傷口と、熱を帯びた告白。
だが、隼人の首が縦に振られることはなかった。
あまりに怒濤の展開と、自分の心に開いた大きな穴の深さに、美羽の想いを受け止めるだけの余裕がどこにもなかったのだ。隼人はただ申し訳なさそうに視線を落とし、返事を曖昧に濁すことしかできなかった。
——それから、隼人はリハビリへ一切行かなくなった。
美羽の想いを拒んでしまったという罪悪感。
そして何より、「もしリハビリに行っても、美羽が待っていなかったらどうしよう」という猛烈な恐怖が胸を締め付けたからだ。
告白を振っておきながら、彼女の温もりに依存し、去られることを恐れている自分。そんな身勝手で惨めな自分自身に、強い嫌気がさしていた。
部屋のカーテンを閉め切り、布団にくるまってただ時間が過ぎるのを待つだけの毎日。
自分がどこへ向かっているのかも分からないまま、季節は秋から冬へ、そして年を越した。
新年を迎え、一月の半ば。
自暴自棄の停滞にいい加減限界を感じた隼人は、逃げるのをやめるように松葉杖を握りしめ、久しぶりに病院へと向かった。
数か月ぶりのリハビリは身体が鉛のように重く、膝には激痛が走ったが、それ以上に隼人の心は緊張で張り詰めていた。
リハビリを終えて病院の玄関を出た、その時だった。
「……あ、先輩」
冬の澄んだ空気の中。
マフラーに顔をうずめた美羽が鼻先を真っ赤にして、ベンチから立ち上がって嬉しそうに駆け寄ってきた。
告白を保留にされ、放置されていたはずなのに。
数か月前と全く変わらない笑顔と距離感で、彼女はそこに立っていたのだ。
「……お前、なんで……」
「なんでって、先輩を待ってたんですよー。今日来てくれてよかったです」
(今日、たまたまいただけ……? いやそんなわけ――)
美羽はずっと、自分が部屋に閉じこもっていた数か月間も、こうしてここで待ち続けていたのだと隼人は悟った。
振られても、拒まれても、この少女だけは自分を捨てず、ずっとここで待っていてくれた。
「……ふっ」
自虐でも諦めでもなく、隼人の口から自然と小さな笑みがこぼれた。
自分の滑滑稽さと、目の前の少女の狂おしいほどの愛おしさに、胸の奥が熱くなる。
「なんですかー? 人が寒さに耐えて待ってたのに、笑うなんて酷いですよー」
「いや……ごめん。……行こうか」
美羽は嬉しそうにすっと隼人の肘に手を回し、並んで歩き出す。
積もった雪がチラつく冬の帰り道。隼人の自宅の前までやってくると、美羽は名残惜しそうに「じゃあ、また明日ですね」と手を振ろうとした。
その時、隼人はなんの気まぐれか、自分でも思いがけない言葉を口にしていた。
「……俺の部屋、寄ってく?」
「……え?」
美羽の動作がピタリと止まった。
まさか隼人の口から自分の部屋へ誘う言葉が出てくるとは思っていなかった美羽は、大きな瞳をまん丸にして、絶句したまま隼人を見つめ返していた。




