嵐を越えて
『神の島』には島を絶えず周回する海流が流れており、近づけば船は押し戻される。
無理やり侵入しても、その後に吹き荒れる嵐によって難破の危険に晒される。
そして運よく、そのいずれの障壁をも乗り越えたとしても、最後には三十年前、ヨルゴスたちを襲った『何か』の存在がある。
あの島にたどり着く方法は、大きく二つであるとヨルゴスは語る。
まず海流についてだが、ヨルゴスは長年にわたる挑戦で海流が弱まる「隙間」を特定していた。
その一点を、流される前に通り抜けることで海流自体については問題はない。
そして二つ目が「船」である。
仮に海流の障壁を越えたとしても、普通の漁船では嵐に耐え切れず、海の藻屑となる。
だが、ヨルゴスにはとっておきの船があった。
三十年前、かの海域に挑んだ船。
アテン近海にて、当時この海域を荒らし回っていた海賊を打ち取り、強奪した大型帆船。
本来は【豊穣祭】にて島へ向かう際に使用されている船である。
コスタス村長は島に向かうために、特別に使用を許可してくれた。
流石に三十年の歳月が流れているため、各所の作りに古さを感じるが、それでもなお、この近隣では最大の船である。
海を踏破するための準備は整っている。
残る最後の懸案、ヨルゴス達を襲った『何か』についてである。
これの正体については、セルゲイはなんとなくだが想像がついていた。
ゆえに、その対策も万事抜かりない。
出港は、明朝。
今回、同行する乗組員は、いずれもヨルゴスの下で働いていた古参の船乗りと、村の腕利き達。
そして志願した、とある二名だった。
セルゲイが、あの島に行くための船員を探していると言ったら、村を救ったセルゲイに恩を返せるならと、多くの腕利きたちが志願してきた。
だが、今回は若い集は外した。
この航海が、最悪の場合「片道切符」になる可能性が高いからだ。
抵抗する若人を、年配の船乗りたちが無理やり諦めさせたが、それでもかなりの人数が残った。
ヤニスも乗船するといったが、ヨルゴスに止められた。
ヤニスに何かあればマリアが一人になってしまう。
苦渋の決断でヤニスは村に残ることを受け入れた。
「生きて帰って来いよ、親父。…帰ってきたら…この事をもっと詳しく教えてもらうぜ」
ヤニスは真剣な表情で父親に語りかけた。
「お前にも迷惑をかけたな。生きて帰ったら、すべてを話そう」
ヨルゴスは息子を抱きしめた。
出発直前の深夜、セルゲイは万全を期すため、搭載物資の確認と自身の短剣を研いでいた。
これは兵士であった頃から使用している短剣。
何度も研ぎ直したせいで、随分と短くなってしまった。
それでも、長年の相棒であり、ここぞという時に頼りになる相棒である。
セルゲイは乗船する船員達にも、武器の準備をするように伝えていた。
(…どこまで体がついて来れるかな)
剣から筆に持ち替えて、数年が立つ。
願わくは、相棒の活躍が無いことを祈った。
翌朝、ついに出港の時間である。
セルゲイと二十五名の船乗りたちが、次々と船に乗り込み始める。
もう帰ってこれないかもしれないと、家族や友人に別れを告げている。
ヨルゴスはすでに乗船し、海を眺めていた。
「先生も無事でな。絶対巨人を見つけてくれよ」
「せんせー帰ってきたら巨人のお話聞かせてね」
「ああ、任せておけ」
二人の言葉に、セルゲイは短く返事を返すと、船に乗り込んだ。
「先生。準備はよろしいですかな?」
ヨルゴスが聞いてくる。
「いつでも」
若干、緊張した面持ちでセルゲイが答える。
それを見てヨルゴスが笑みを浮かべた。
「緊張しなくても大丈夫ですぞ。何としても無事に送り届けて見せますわい」
静かな覚悟を秘めた老船乗りがそう断言すると、セルゲイはいくらか落ち着きを取り戻した。
「…そうですね、それでは改めて『神の島』までお願いします」
「承知!野郎ども錨を上げろ!出港だ!」
ヨルゴスの号令で出港する。
桟橋からはマリアとヤニスが、そして村の者たちが手を振っている。
帆船は風を掴み、ぐんぐんと速度を上げる。
そして、瞬く間に村が見えなくなった。
ここから『神の島』までは約半日程度かかる。
例の海域に夜間侵入するのは自殺行為であるため、日中の明るい時間帯のうちに通過する必要がある。
今回、セルゲイには二人の護衛がついた。
一人はストラトスという。
もともと、アテンの都市守備隊に所属していたが、五年前の奇病で村の守衛が死んでしまったため、後任を探していた村長に誘われて村に来たという。
鋼鉄の筋肉に覆われた大男で、性格は寡黙で実直な男である。
もう一人はアンサールという。
ストラトスと対照的に小柄で、常に陽気な男であるが、かつては各国を渡り歩いた歴戦の傭兵であるという。
今はアテンを気に入り、魔獣退治などを請け負い、気ままに暮らしている。
今回はたまたま村にいたところを、村長に雇われたらしい。
出港前に二人に引き合わされた際、同席したヨルゴスは二人に対して「死んでも先生を守れ」と脅迫していた。
それに対し、ストラトスは「無論」と表情を変えずに発言し、アンサールは「そんな怖い顔するなって、任せろって、じいさん」と軽口を叩いた。
二人の、主にアンサールの態度に、ヨルゴスの額には青筋が浮かんでいた。
(心臓に悪いから止めてくれ…)
セルゲイは心底そう思った。
ストラトスは「命に代えてお守りする」とだけ宣言すると、以降は無言となった。
アンサールは退屈しのぎと、かつて諸国を放浪していた時の話を聞かせてくれた。
大変興味深い話であった。
お返しとして、セルゲイは昔に出会った「黒い大熊」の話や、神代の巨人についての話を聞かせた。
アンサールも興味を持ったのか、根掘り葉掘り、目を輝かせて質問してきた。
時折、ストラトスも聞き耳を立てているようだった。
こうして、両極端な二人と交流を深めていった。
出港してからは穏やかな船旅だった。
照り付ける太陽に肌を焼かれながら、セルゲイは海を眺めている。
島に接近するまではまだ時間がある。
セルゲイはこれまでの旅を、手記にまとめることにした。
(短期間のうちにいろいろあったな…)
巨人の伝承、アテンの火山、村人の奇病に、神の島。
思えば、ここまで来れたのには何かしらの大いなる「意図」を感じてしまう。
あの日、セルゲイがヤニス達を救わなければ、今頃はあの図書館で沈んでいた頃だろう。
(これが運命というものか)
セルゲイは、何か大きな流れの中にいるような、そんな気がした。
船は順調に進み、正午を迎えようとしたその時だった。
「先生!見えてきたぞ」
ヨルゴスから呼ばれて、甲板に出る。
視線の先にはうっすらとだが、島の影のようなものが見えた。
全体的に平らな形状だが、中央部に山のようなものが見える。
このアテンの命運を決する地。
『神の島』だ。
「いよいよだ、ここから先は海が荒れるぞ。準備はいいか先生?」
「ああ、いつでも行ってくれ」
セルゲイが覚悟を決める。
「よしきた。野郎ども気合入れろ!突っ込むぞ」
ヨルゴスの檄と共に沸き立つ船員たち。
そうして島の海域に入ったのだろう、先ほどまでの穏やかさが嘘のように、船体が大きく揺れるのを感じた。
船が何かに引きずられているような、嫌な感覚。
船体は大きく傾き、白波を砕くたびに水しぶきが顔を打つ。
だが、ヨルゴスは慌てることなく、船員に指示を下しながら、鋭く海を睨みつけていた。
そして。
「…見えた!あそこだ。面舵いっぱい!急げ」
ヨルゴスが叫ぶ。
船は急速に進路を変え、海流の「隙間」その一点を目指す。
そしてヨルゴスの読み通り、船は海流の障壁を超えた。
「…さあ、ここからだ」
海流を越えたものの、ヨルゴスには緊張の色が見え始めた。
そして唐突に空が暗く覆われ、突風が吹き始める。
先ほどの海流を上回る、凄まじい揺れ。
船はいよいよ、神の島の逆鱗に触れたのだ。
船員たちは素早く帆をたたみ、最小限にする。
そして船の角度を制御し、わずかに、しかし確実に前進していく。
「相変わらず…大時化だな!」
厳しい表情で海を睨むヨルゴス。
容赦のない大時化は、確実に船を痛めつけ蝕んでいく。
「船長!マストがたわんでやがる!そろそろやべぇ!」
「なんとしても、もたせろ!島につけゃいい!」
ヨルゴスが船員に檄を飛ばす。
しかし、嵐の勢いはますます強くなる一方だ。
セルゲイも立ってるのがやっとの状態だ。
横に立つストラトスが、巨体で風を遮りながら時折支えてくれた。
アンサールはこんな状態なのに呑気に居眠りしている。
ヨルゴスの顔にも、徐々に焦燥が浮かんでいる。
船は波に乗り上げるたびに、大きく揺れ、船体はギシギシと嫌な音を立てる。
セルゲイ達は、この嵐を抜けるために、ただひたすらに耐えるしかなかった。
あれから何時間が経っただろう。
相変わらずの大嵐で船は僅かにしか進んでいないが、それでも確実に島へと近づいていた。
暗がりで分かりずらいが、いつの間にか、島の輪郭がかなり大きく見えていた。
このまま進めば島にたどり着く。
そう希望が湧いた時、船体が横から強い衝撃を受けた。
何事かと側面を覗くと、船員が一人、海に引きずり込まれた。
そして何かが、不気味な音と共に船に登ってくる。
それも何十匹も。
それは、蛸のような人のような、セルゲイ自身、実物を見るのは初めての生物ではあるが、その生物について聞いたことがあった。
(やはり『海魔』か)
海に生息する魔物を総称して海魔と呼んでいる。
海中ゆえ、詳しい調査ができず、そういった未知の生物を全て一纏めにしてそう呼んでいる。
一匹の強さは大したことはないが、気がつけば多勢に囲まれているため、抗う力を持たない民にとっては被害が大きくなりやすい。
三十年前、ヨルゴス達を襲った『何か』の正体。
それがこの『海魔』の群れである。
セルゲイは自分の予想が的中したことに安堵する。
正体が分れば対策などいくらでも立てられる。
「皆さん打合せ通りに!松明を!」
セルゲイが声を張り上げる。
海魔の対策として、今回セルゲイが準備したもの。
それは単純に【武器】そして【火】である。
海魔は数こそ脅威だが、完全武装した兵士であれば敵ではない。
三十年前のヨルゴス達は、十分な装備のない状態で襲われたため、蹂躙されたのだ。
だが、今回は違う。
相手が海魔と分かっているならば、万全の武装で迎え撃てばいい。
そして、もう一つが【火】だ。
大多数の海魔が火と光を苦手とすると、兵士時代に教えられていた。
揺れる船上で火を使うことに抵抗はあったが、奴らを叩きのめせるならと、ヨルゴスも了承してくれた。
船員たちは次々と松明をともし始める。
それを感じ取ったのか、海魔達の動きが明らかに鈍くなり、松明を持った船員を嫌がったのか、距離を取り始めた。
効果はてきめんだった。
ヨルゴスが腰の剣を抜き構える。
「待ってたぜこの時をよ。仲間の、妻の無念。今日ここで晴らさせてもらう!野郎ども武器を取れ。奴らを一匹も逃がすな!」
そう吠え、ヨルゴスが海魔に斬りかかる。
襲われた海魔は、老人の力任せの一撃に胴を両断され動かなくなった。
その後も、ヨルゴスは狂戦士のように、近場の海魔達を切り刻んでいく。
そこには、温和な老人の姿はどこにもなかった。
海魔は次々と船に上ってくる。
船上のあちこちで戦闘が始まった。
セルゲイも腰の短剣を抜き、戦闘に加わろうとしたが、ストラトスに遮られた。
「先生は、俺の後ろへ」
大柄なストラトスは槍と大盾を装備している。
彼は迫りくる海魔を、適切に盾でさばき、槍で突き刺していく。
時折、数匹の海魔にまとわり付かれるが、それを力で無理やり引きはがし、文字通り素手で引きちぎった。
(すさまじい力だな…)
セルゲイは兵士時代でもこれほどの力を持つものはいなかったと驚愕した。
ストラトスは忠実にそして確実に敵を屠っていく。
その行動原理はすべて救世主のため。
アテンのとある商家に生まれたストラトスは物心ついた頃から、守備隊に憧れていた。
都市国家アテンを守る守護者たち。
その姿は幼い少年にとって、神の使いのように見えた。
その後、恵まれた体躯を持つストラトスは、晴れて守備隊となった。
揉め事の仲裁から、魔獣の討伐。
アテンのために働くことが、ストラトスの誇りとなった。
ある時、アテンに正体不明の病が蔓延った。
次々と倒れる民たち。
見える敵ならいくらでも屠ってきたストラトスだが、敵が分らなければどうしようもない。
初めて己の無力に打ちのめされた。
その後、奇病により守衛がいなくなった村に雇われた。
己のふがいなさの贖罪のため、その村の守衛を引き受けた。
そして、村に再び奇病が発症した。
幼い女の子だった。
ストラトスにも気さくに話しかけてくれる子であった。
無力なストラトスは神に祈った。
どうか病に打ち勝てるようにと、アテンに平穏が訪れるようにと。
そして、一人の男が来た。
名をセルゲイと言った。
男は奇病に苦しむ村の者たちを、たちまち救っていった。
そして、救世主はこのアテンを救うために、神の島に挑むという。
ストラトスは、彼は神が遣わした救世主だと思った。
ストラトスは真っ先に船員に志願した。
救世主が困難な道を進むなら、自分が切り開こう。
救世主が脅かされるなら、自分が盾になろう。
ストラトスは、その感情の読み取れない表情の奥に、セルゲイに対する狂信的なまでの崇拝を秘めていた。
アンサールは完全に敵のど真ん中にいた。
彼の手に持つ獲物は、傭兵時代からの愛刀である曲剣。
「はじめてみる生物だが切れば死ぬだろう」と軽く相手をしたら、気が付いたら数十匹を切り刻んでいた。
(つまらん連中だ)
アンサールはあくびをし、流れるように敵を切り殺していく。
アンサールは、アテンより南東の砂漠に覆われた国に生まれた。
生まれは高い身分であったが、格式ばった生活に嫌気がさしたアンサールは、ある時、自由を求め家を飛び出した。
うまい飯や、景色、人との触れ合いを求め旅人となった。
当然、金などない。
昔から、剣の扱いについては覚えがあったため、路銀を稼ぐために、傭兵になった。
長年、戦場に身を置き、命のやり取りをする中で、剣の扱いにおいては右に出る者はいなくなっていた。
ある時、傭兵稼業に疲れ、諸国を放浪しているときに見つけた都市国家。
平和そのものである町、飯もうまい。
すぐに気に入り、しばらくの定住地とした。
魔獣の討伐や、用心棒の様な仕事を請け負っていた。
そんな時、ふらりと立ち寄った村で、救世主がいると騒ぐ村人がいた。
話を聞いてみると、その救世主は奇病を癒し、アテンを救うために神の島に向かうのだとか。
話の意味は分からなかったが、大いに興味を持った。
アンサールはその日の内に、村長に売り込みに行った。
二つ返事で了承を得て、船に乗り込んだ。
そこであった人物はごく平凡な男だった。
しかし、男からの話を聞くと、ますます興味が湧いた。
(黒い大熊と神代の巨人か)
そんな、面白い連中が今も存在しているなんて。
これは大いに面白い旅になる。
(こいつらを早く始末して、その巨人とやらに早く合わせろ)
アンサールは目の前の敵を興味なく抹殺し、旅路を急ぐのだった。
海魔の勢いは依然衰えず、次々と這い登ってくる。
ストラトスは未だ無傷の様だが、僅かに疲労の色が見える。
アンサールは縦横無尽に飛び回り、敵の数を減らしているが、よく見ると肩で息をしている。
「…数が減りませんな」
ストラトスが暴れる海魔を引きちぎりながら、ぼやいた。
「おいおい…流石の俺も疲れてきたぞ」
アンサールも近くに来て、座り込む。
しかし、それでもその剣は近づくものを細切れにしている。
(器用だな…)
先ほどから、隙を見てセルゲイも戦線に参加しているが、何匹目かを切り捨てた時に、腕に痺れと疲労を感じた。
長らく戦場から離れ、学問に没頭していたため、昔のようには、身体が動かなくなっていたのだ。
「先生、大丈夫かぁ?」
アンサールが海魔をみじん切りにしながら、呑気に聞いてくる。
「…お恥ずかしいことに大分衰えているようです。まさか、この程度で音を上げることになるとは」
セルゲイが答える。
「そういえば、昔兵士であったと言っておられましたな。お見事な剣さばきです」
大盾で海魔を打ち飛ばしながら、ストラトスに褒められる。
「でも、無理すんなよ」
アンサールが何十匹目か分からないが、海魔を切り捨てる。
ストラトスとアンサールにより、戦況はほぼ膠着状態である。
だが、嵐と物量に圧倒され、船員の中には犠牲者も出始めていた。
そこへ、全身血まみれのヨルゴスが近づいてきた。
「ヨルゴス殿!大丈夫ですか」
「全部返り血ですわい。ご心配なく。それより先生、奴らの勢いが少し鈍ってきた。そろそろ攻勢に出ようと思うのですが…」
ヨルゴスが海魔を睨みつけながら、提案する。
確かに当初より数は減っている。
今が好機か。
セルゲイがうなずく。
「よし、おい!デカいの!先生を確実にお守りするんじゃぞ!」
ヨルゴスの命令にストラトスが無言でうなずく。
アンサールは我先にと、敵陣に突っ込んでいく。
「全員、もう一押しじゃ!奮起せよ!」
ヨルゴスの檄が響く。
セルゲイもストラトスも守りではなく攻勢に打って出た。
それから、さらに数刻の間、戦い続けた。
海魔は、とうとう数えるほどに減少した。
(…いよいよ打ち止めか)
セルゲイは何とか切り抜けられたことに安堵した。
そして油断したことを後悔する。
突然として、船体から破壊音が響き、船が傾き始める。
「な、何ごと?」
「あいつら船体をぶち抜きやがった!」
どうやら海魔が船の側面に穴を空けたらしい。
船体ごと沈めてしまう算段のようだ。
セルゲイは衝撃で体勢を崩し、船の手すりへと叩きつけられた。
痛みで隙のできたセルゲイに海魔の触手が迫る。
セルゲイはそれを呆然と見ながら、動けないでいた。
(これは死んだな…教授…すみません)
そんなことをぼんやりと考えながら、セルゲイは自身の終わりを受け入れた。
しかし
いつまでも終わりが来ない。
怪訝に思ったセルゲイが目を開けると、直前で攻撃が止まっていた。
不思議と海魔を見ると、表情も分らないのに、明らかに何かに怯えている。
気がつけば船の揺れも収まっていた。
奇妙なほどの静寂。
そして、先ほどまで近くにいたストラトス達も、何かを驚愕の表情で見つめていた。
セルゲイは何事かと思い、恐る恐る後ろを振り返る。
そこにあったのは大きな一つ目だった。
海面から立ち上る、あり得ないほど巨大な青い体。
その巨躯から延びる太腕が船を捕まえている。
その大きな一つ目は、船上の船員と海魔を品定めするようにじっと眺めている。
「これが…巨人…か?」
ヨルゴスが驚愕の声を漏らす。
セルゲイ達がその圧倒的な質量に驚愕し、固まっていると。
突如、巨人が唸り声を上げ、そのまま船を持ち上げた。
「おい、嘘だろ…まさか…」
アンサールは嫌な予感がした。
「全員!何でもいいから、何かにつかまれー!」
アンサールが叫ぶや否や、巨人は船をそのままひっくり返した。
「あああああああああーーーーっ!!」
絶叫と共に落ちる船員と海魔。
セルゲイも間に合わず落ちていく。
しかし、巨人は落ちていく船員のみを器用に受けとめ、海魔だけを弾き飛ばした。
巨人の手のひらに叩きつけられたセルゲイ達は、何が起きたのか分からず、その姿を呆然と眺めるしかない。
(助けてくれた…のか?)
海魔だけ捨てている巨人を見て、セルゲイは注意深く観察した。
そして、すべての海魔を処理し終え、船を元通りの位置に戻した巨人は、今度はその一つ目でセルゲイだけを見た。
それも何かを品定めするかのような、何かを探しているかのような、奇妙な視線だった。
(私を…見ている?)
疑問と恐怖に支配されるセルゲイ、そして巨人は満足したのか、手のひらを動かして…
「まずい!先生!備えろー!」
船に残ったアンサールが叫ぶ。
そして、巨人は何を思ったのか手のひらをひっくり返し、船員たちを船に落とした。
「なにいいいいいいいいいいーーーっ!!」
再度絶叫する船員たち。
セルゲイは何かなんだか分からないまま、1つ目と再度目が合い、そして甲板に体を打ち付け、意識を手放した。
ー
ー
ー
ー
ー
ー
セルゲイは日差しの眩しさに目を開けた。
あたりを見渡すと、船の船員室で寝かされていた、船員は他に誰も見当たらない。
セルゲイは最後に何があったか思い出そうとして、1つ目と目が合ったところまで思い出した。
(そうだ…あれが巨人?)
セルゲイは起き上がり他の船員を探す。
船の損傷はかなり激しい、いたるところに穴が開いている。
これではもう、海には出られないだろう。
そして、セルゲイは船が動いていないことに気が付いた。
ハッとして船を出る。
船体は岩礁のような、おそらく入り江の奥なんだろう、そんな場所に乗り上げていた。
船を降り、砂浜を進む。
そして、その視線の先にそびえるは、航海中に船上から見た高い山。
神の島だ。
セルゲイはとうとう神の島に辿り着いた。




