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正義の結託

夢がまた始まる。

だが、今まで再生された”悪夢”の続きではなかった。


そこは山の中。空は暗く、だがいくつもの星が小さく輝いていた。

木々の隙間から小さく風がすり抜けていく。

土のにおいが微かに漂った。


「ここは・・・」




大和村の裏手の山


───病で亡くなった者が眠る墓




こんもりと盛り上がった小さな山の前には線香が立ち

それに気づくと同時に、独特な香りが鼻に届く。


そしてその小さな山の向こう

うっすらぼやけているが、彼に背を向け立つ女がいる。

白装束に緋色の袴。巫女装束だ。




「・・・峰子?」


皇乃介はゆっくりと一歩踏み出す。

・・・二歩・・・三歩。

土を踏む音が静かに響く。


「峰子だろ?」


肩を触れると、彼女は振り向いた。




─────皇乃介さん・・・




(・・・懐かしいな)

その夢に身をゆだねていたかったが、そうはいかなかった。




「・・・しかと見たぞ。お前がこの国にたどり着いてからの出来事を」


峰子の顔は、大和村で過ごしていたころよりも

遥かに翳りを落とすものだった。




───まさか 見られてしまうなんて

   よりによって あなたに




「お前が見せたんじゃないのか?」




───違います

   私は 知られたくなかった

   覚えていてほしくなかった

   だから 私が関わる思い出を 私の存在を

   あなたの記憶の中から 消した




(記憶を消す・・・?)


事実、皇乃介は一切その間の記憶を失くしていたのだ。


「そんな事、出来るのか?」




───私は あなたを疑ってしまった

   あんなに親切にしてくれた あなたを




巫女たちは言った。

かわいそうに、失恋しちゃったのね。


ステラは言った。

仕方ないよ。その人はさ、峰子が”かわいそう”だから助けてあげただけだし。


グレイスは言った。

そういう善意を、好意と勘違いしちゃ、いけないわ。



『違う、違います、そうじゃなくて、恋とかじゃなくて、そもそも私は獅子神様の』



峰子を囲む笑みを浮かべる彼女らは、声をそろえた。


   疑うことを、少しは覚えたら?



『疑う・・・?』



   そうよ

   その男性は 神社で見かけたあなたを 笑ってたんでしょう? 

   空腹で腹を鳴らす 情けない姿を見て

   嘲笑っていたの


   飯をがつがつ食べる姿を見て

   浅ましい女だなって 思っていたの


   また来いよ なんて社交辞令だったのに

   本当に来るなんて 恥知らずな図々しい奴


   そう思っていたんじゃないかしら



『・・・皇乃介さんは・・・私を・・・』



甘えていた。

異端な自分に、唯一優しさをくれる存在だった。


もし、彼女らの言うとおり

彼の差し伸べた手は、好奇心と嘲笑からくるものだとしたら───



皇乃介は声を張り上げる。

「そんな、そんなわけ、ねーだろ!!

そんな奴らの言う事なんて、信じるな!!」




───確かに彼女らは 疑惑を押し付けた

   でも あなたを疑い 信じる事をやめたのは

   他でもない 私




「だから、・・・俺は、忘れていたのか。お前との全てを・・・」


峰子は俯き、目を逸らす。

皇乃介は一つ息を吐き、また語りかけた。


「・・・俺は、春子を救いたい。そしてお前も救いたいんだ。

何か方法は無いか?なんだってする!三人で村に帰ろう!」




───邪神が溶け込んだ 私の体は もう元には戻らない




「何か方法があるはずだ、俺は諦めねェ!」


ふふっ、と彼女は笑った。




───あなたは 昔のまま 何も変わらない

   ・・・うれしい 

   でも 私が救われることはない

   仕方のないこと これは 決まっていること




邪神を降ろした峰子

そして、彼女を救おうとザリは峰子のクローンを作り出した

そのが飛ばされた先は『大和村』

そのクローンを拾ったのが、過去に峰子と関わりがあった皇乃介。


全ては偶然によるもの、そのはずだ。

峰子の白い唇が小さく動き、ぽつり呟く。




───全ては 意味のある 偶然の一致




そして顔を上げ

強い意思を宿した目を、皇乃介に向けた。




─────このままでは あなたは 大事な娘を失う

     早く 彼らを 止めて

     私はもう 助からない

     でも 私のクローンは 助かります


     私のクローン いえ あなたの娘

     あなたの大事な存在を 守って


     そして

                逃げて



_________




研究室の大きな水槽───カプセル。

巨大蜘蛛と化した峰子は、いつもと変わらず

淡く光る液体の中を漂う。


乃亜は、その横にある小さなカプセルにかけられた布をそっとめくった。



春子は、ずっと眠り続けている。

ザリに連れてこられた時から、ずっと。



「・・・かぐや姫の次は、眠り姫か・・・。」


無垢な寝顔を見ながら、自嘲気味に呟く。



───本当は、自分が育てるはずだった。監視役として。



5体目のクローンが生まれ、監視役に抜擢された。


今までの監視役は皆死んだと聞いている。

ついに自分の番が来たか。

そう思い、全身に緊張が走った。




「お気をつけて!」


敬礼する兵士や研究者に見守られながら

生成されたばかりのクローン『春子』を抱き、転移の門をくぐる。


目的地は、ヒイズル国の山奥『大和村』。



だが、弘法も筆の誤りというのか

ザリの作った転移の門に小さな揺れが発生し

乃亜とクローンは離れ離れになってしまった。



大和村の近くにつき、周囲を見回すが

どこにもクローンはいない。


焦りは十分に感じていたが

やみくもに探し回って、村人に怪しまれるわけにはいかない。


大和村で住居を構え、村人に溶け込みつつ

必死にクローンを探す。



そして”探し物”は見つからないまま

ラヴァゴートから移動して三か月。



(こんな事、総長に知れたら怒鳴られるだろうなぁ)


そんな事を考えながら

ふいに隣家に住む”根無し草の男”の元を訪ねると




クローンはそこにいた。




聞けば『山奥で拾ってきた』という。

何故、夜更けに山奥にいたのかはわからない。

乃亜にとってはどうでもいい事だ。


驚きと安心のあまり、動揺が隠せなかった。

この男は自分を怪しんでいたが、そんなこともどうでもよかった。


問題は、クローンが皇乃介から離れたがらなかった事。

乃亜は一歩引いた場から、監視をするしかなかった。



「みんな、元気かな・・・」

乃亜の呟きが、無人の研究室に響いた。


大和村で生活した数か月を思い出す。


ヨシ江は元気にしているだろうか。

給任仲間の美代は、焼け落ちた皇乃介の家の跡で

自分を探しているかもしれない。


一夜にして姿を消した、皇乃介、春子、乃亜、そして

───正体不明の異国人。



(もう、村のみんなには会えないんだ・・・)



ふいに胸が苦しくなり、目頭が熱くなる。



ザリが起こした火災。

あの後、雷を落とした黒い雲が大雨を降らし

火災の被害は皇乃介の家だけだったと知らされた。


(被害は最小限。総長はそこまで想定していた・・・)


さすが、と思う反面、ふざけんなという思いが湧き上がる


(あのうすらとんかち、早まって大和村に乗り込んでくるもんだから)


こんな連れ去るようなやり方はしたくなかった。

ちゃんと皇乃介に説明して、心の準備をさせ

春子を連れてラヴァゴートに戻ってくるつもりだった。


(説明っていっても国家機密のようなものだから、曖昧にしか話せないけど)


それでもあんな誘拐みたいな真似よりか幾分ましだったろう。




春子の入ったカプセルにそっと手を添える。


今日、この子は消えてしまうんだ。

何も知らない、純粋無垢な寝顔。

赤子の頃からの笑顔が、走馬灯のように脳内に浮かぶ。




背後に気配を感じ、乃亜はそっと振り返り言った。

「・・・相変わらず、手荒だね」


そこにはザリが立っていた。


「お前は、あの男やクローンに情をかけすぎだ。冷静になれ。」


乃亜はザリを睨み

「わかってるよ!」

そう吐き捨て、逃げるよう足早に研究室を出た。




どうせ言ったってわかってもらえるわけがない。

そうわかっていても、乃亜の心は荒れていた。


総長だって、峰子を救いたいんだ。

そして、この方法を自分に持ちかけてきた。

加担した自分も同罪なのはわかっている。


でも───他にも方法はあったのかもしれない。

何も犠牲にせず、峰子を救う方法が。



そう、今からだってその方法が見つかれば───


まだ、間に合う。

まだ、春子は生きている。

まだ、遅くない。




───乃亜は、皇乃介のいる客室へ向かった。



_________




夢の中の皇乃介は、怒りに震えていた。


「春子だけ連れて逃げろだと・・・?」


勝手な事を言うな、そう言いたかったが

忌々しい現実を前に成す術もない。

だからといって、峰子が犠牲になって丸く収まればそれでいいのか。


行き場のない怒りは、自分へと向く。

自分の無力さに苛立ち、それを振りほどくように皇乃介は叫んだ。


「お前がなんて言おうと、俺は諦めねェ!!

簡単に引き下がる男じゃねぇ事は、お前が一番わかってんだろ!」


目の前に立つ峰子は、どこか悲しそうに微笑みを浮かべる。




───ちょっと、起きてよ




突然、天から鋭い声が降り注いだ。

峰子は背を向け、暗闇の中に姿を消す。


「なんだ!?今大事な話をしてんだ!俺は諦めねェって・・・」


声の主に、体を強く揺さぶられている事に気づく。



「アンタ、寝言もうるさいんだね」

「あ?・・・乃亜?」


乃亜が呆れた顔で、見下ろしている。


「・・・なんだ?朝か?」

皇乃介は目をこすりながら問うが、返答はない。



真剣な顔だ。

切れ長の目が、皇乃介の寝ぼけ眼を見つめる。


「いいの?このままで」

「・・・え?」



「ウチは嫌だ。こんなの嫌だ!!」



乃亜は一人興奮し、皇乃介の頭をポカポカと叩く。


「いてっ、いててて!落ち着け、一体何の話だ?何がどうしたんだ?」



「これから春子ちゃんはバラバラになって、峰子の体の一部になる。

アンタは本当にそれでいいの?

・・・ウチは嫌だ!

簡単な話じゃないってわかってる。

でも、二人とも助けられる方法、探せばあるんじゃないかって!!」


騎士長ともあろう存在が、まるで駄々をこねる子供だ。



「・・・お前は、この国の人間だろう」


皇乃介は睨んだ。

その目に乃亜は軽くたじろいだが、退くことはない。



「そうだけど・・・そうだけど!気が変わった!!」



悪びれもせず『自分の属する国』の敵側に回る言葉を放つ。

皇乃介は呆気にとられ、ぽかんとその様子を見ていた。


乃亜は床に転がっているグラスを拾い、目を細める。


「薬、盛られたみたいだね。

アンタが邪魔しないように、寝てる間に事を済ませようって魂胆だ。

ウチはもう一度、総長と話をする。

アンタも協力してよ!まさか、春子ちゃんを諦めたわけじゃないでしょ?」


「・・・実は、俺もそう思ってた。二人とも助けたいって。

無謀だとわかってるけどよ。」


「それじゃ、ウチと手を組もうよ!!」

「いいのか?お前、女王さんやあのクソザリガニを裏切るって事になるんじゃ」




「いい!!!!」




乃亜はことさら大きな声を張り上げる。

迫力に気圧され、皇乃介は目を丸くした。


彼女の姿に、迷いは見受けられない。


「・・・お前らしいな」

皇乃介は小さく笑い、そして

「わかった。お前を信じる」

手を差し出した。


「ありがと、頼むよ!」

乃亜はその手を強く握った。



「春子は今どこにいるんだ?ザリはいつ動こうとしてる?」


乃亜は、あっ!と声を上げ、時計を見た。

「9時・・・もうすぐだ!」


「それを早く言え!!」

皇乃介は立ち上がり、慌てて部屋を飛び出した。

乃亜もその後を追う。




「春子ちゃんは研究室にいる!場所は・・・」

「わかる!あの壁の向こうだろ!?」




二人は隠し扉の前に立った。

だが、壁は沈黙を続ける。



「クソッ!昨日はすんなり開いたのに!」

皇乃介は壁を叩いた。


「待って」

乃亜はポケットの中から小さなカードを取り出し、壁にくっつける。


彼女の持つカードが小さく光ると

壁がスーッと動き、道を開いた。




「やるじゃねェか、頼もしい同志だな!」

皇乃介が言うと、乃亜は一瞬得意げな笑みを見せた。


「行こう!!」


二人は階段を駆け下りる。



_________




大きな水槽───『メインカプセル』

生命維持装置だ。

そこに巨大蜘蛛は眠る。


その横にある小さい水槽───『サブカプセル』

入れた素材を微粒子にし、メインカプセルに送り込む事が出来る。



春子はその中で眠り続けていた。



書類をめくる音。

小声のやり取り。

淡々と鳴り続ける、小さな機械音。


冷ややかな蛍光灯の下、研究員らは手を動かす。

壁際には兵士がズラリと並び、その様子を見守っていた。




研究室の中心、───ザリが立っている。




無機質な部屋の中

壁際の兵士たちの灰色の装い、そして無心で手を動かす白衣姿の研究員。


ただでさえ派手な赤いサーコートが、ひときわ異質に目立つ。




春子はふいに目を覚ました。




(ここは・・・どこ・・・・?)




淡く光る液体の中。

だが、不思議と息は出来る。


目の前は分厚いガラスの壁。

そっと手を動かしてみるが

いくつものコードが体に繋がれ、引っ張られる。



狭いカプセルの中

手足をばたつかせようと試みるが

水の抵抗と、邪魔なコードでうまく動かせない。




(父ちゃん・・・どこにいるの・・・?)




研究員たちが、バインダーを見ながら機械を操作する。

声は聞こえない。




(こわいよ・・・)




白衣の群れの

中心にいるのは、あの赤い恰好をした異国人。




(あのひとが、むらにこなければ・・・)




一つ涙がこぼれ、続いてぽろぽろと、大粒の涙を流し続けた。


その涙は、不思議と春子の体が沈む液体には溶け込まず

まるでゼリーのようにぷかぷかと浮く。



白衣の群れの中に、一人だけ白髪の中年男性がいた。

その男が指揮を執っている。


「そっちの出力もオッケーか。ふん。

・・・総長、ほぼ準備は整いましたよ。」



鼻につく態度をひけらかし、その男は言った。



「しかし、あなたも随分変わり者だ。

私はこの城の医者として勤務し、30年以上経ちますがね。

あなたのような変わり者を、他では見た事がない。」


メインカプセルを荒く、ゴンゴン、と叩く。


「こんな気味の悪い化け物を、人間に戻そうなんざ・・・普通は考えない。

あんたはマッドサイエンティストだ。

最高神とやらの天罰を受けますよ。」


医師の嫌味をザリはさらりとかわす。


「そう言うのなら、あなたはマッドドクターだな。

この実験に加担してるんだから、同類だ」




ザリは一段と声を張り、号令した。

「今より、複製の微粒子化および体内転送を開始する。よろしく頼む。」


研究員はザリを向き、敬礼する。



兵士たちはその様子を不安そうに見つめていた。


───果たして本当に、この巨大蜘蛛が人間に戻るのか。



確信など持てない。


だがザリだけが、”成功を疑う”という事を欠落させていた。





研究室は緊迫した空気に包まれていた。

カタ、カタ、カタ・・・単調な機械音と、白衣たちの小さな足音。

緊張ゆえの、生唾を飲む音まで聞こえそうな静寂。


その時




ドオオン!!!




突然、轟音が鳴り響いた。

皆肩を大きく跳ね上げ、音の方向を見る。


「な、なんだ!?」

壁際に控えていた兵士たちは、武器を構えた。


ドアだ。

開くはずの無かったドアは勢い良く吹き飛び、”侵入者”が立っていた。


研究員たちは怯え、後ずさり

兵士と同じく待機していた兵士長が、の姿を見て一歩前へ出た。


「騎士長!何を・・・!」


乃亜は槍の尻をガン!!と床に打ち付け、一言放った。



()()()()きた」

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