第9話 天神聖書
翌日。俺たちは朝一でオリンを出発した。
「……のどかな朝だな」
気づけばこの世界に転移してから早一週間が過ぎていた。
精神面が異世界に移行したせいか、ずっと前からこの世界の住人のような気分だ。
「何ボケッとしてんのよ?」
「すまん、少し考え事してたわ。で、ここからどのくらいかかりそう?」
行先はカタルシアの故郷であるという、神聖都市『ルミナス』で、目的はもちろん謎の書物である『天神聖書』について調べるためだ。
「ルミナスはオリンから西に3時間ほど歩いた場所にあります。隣町なんです」
カタルシアの案内で、俺たちはルミナスへと向かう。
「家が教会だって言ってたけど、君ん家って結構すごい家柄なのか?」
「えぇ、家は代々『天星竜皇教』と呼ばれる宗教の聖職者を務めており、伝導士の家系としても名高いです」
「伝導士……魔導士とか聖導士ってやつか。その天……なんちゃら教ってのが、この国の一部の地域で広まってる俺を崇める宗教ってことだな」
「そういうことです」
「へぇ〜、私もあまり詳しく知らなかったわ」
どうやら、マヨは皇族のため宗教には疎かったらしい。
まぁ、元々皇宮の地下に、本物の俺が封印されていた状態だったから、当然と言えば当然だ。祈るべき神の存在と現状を知っているのに、空虚な思想を信仰することはない。
「ルミナスの街なら、知らない人はいないくらい親しみのある教会なんです」
「色々な儀式は全部帝都にある教会で行ってたから知らなかったわ。帝都の教会は宗教というより、ただの神聖な場所って感じだったから余計に……ローズたちが貴女を勧誘した理由が何となくわかった気がしたわ」
そんな話をしていると、小高い丘が見えてきた。
「あそこの向こうがルミナスです」
そして俺たちが丘を登り終えると、眼下には壮大な景色が広がっていた。
白系統の色で明るく整備された街に、自然が共存している。小川が流れ、所々に噴水があり、巨大な池の中央に神殿らしきものもある。
もし楽園が存在するのならば、こういう所なんだろうと思うほど圧巻の風景だ。
「うわぁ~、すごーい!」
「ここが神聖都市……すごい景色だなぁ……」
そのあまりの美しさに俺は言葉を失う。いくら異世界といえど、これほどの景色は滅多に拝めないだろう。
「人口はそこまで多くありませんが、いい所でしょう」
カタルシアはそう言って微笑むと、
「それでは行きましょう」
と、俺たちを連れて街へ降りていった。
街に着くと、俺たちは街外れにそびえ立つ大きな教会へとやってきた。
白を基調とした、古き良き協会と言った感じだ。
「ここが天星竜皇教会……」
「そう、略して天竜教会です」
「おっき~なぁ」
「ご立派な教会だわ」
俺たちが裏にまわると、そこに大きな建物が教会と繋がっている。どうやらここがカタルシアの実家のようだ。
カタルシアはガチャッと扉を開ける。
「お、おじゃましま~す」
中に入ると、神父さんのような格好をしたエルフの老人がいた。白い法衣に金の刺繍が施され、優しい表情を浮かべている。
「おじい様、ただいま戻りました」
カタルシアが嬉しそうに駆け寄ると、
「おぉ、ルシア。帰ってきたのか。1週間ぶりくらいかな」
と、どこか嬉しそうな声で話し始めた。
それからこちらに視線を向け、不思議そうな顔で口を開いた。
「ところで、そちらの方々は、冒険者の仲間かね?前に家に来た者たちとは違うようじゃが……」
「はい。こちらは新しいパーティメンバーのテンコさん、マヨさん、そしてミリアさんです」
カタルシアは俺たちを老人に紹介し、それを聞いて老人は穏やかに微笑み、俺たちに頭を下げる。
「ようこそ、天竜教会へ。私はここの天導師長を務めているレインと申します。そして、この子の祖父です。ルシアが世話になっておるようで」
どうやら、カタルシアの祖父にあたる人物らしく、天導師といういわゆる聖職者をしているみたいだ。
「いえ、こちらこそ助かっております」
俺が軽く会釈すると、レインはカタルシアへ視線を戻す。
「それで、わざわざ戻ってきたということは、何かあったのだな?」
その問いに、カタルシアは表情を引き締めた。
「はい。おじい様に見ていただきたいものがあるんです」
カタルシアはそう言うと、俺のほうへ両手を差し出す。
「あ、あぁ、これか」
俺は腰に下げていた袋から、例の『天神聖書』を取り出す。
その瞬間、それを見た老人の目が、その瞬間だけ鋭く光った。
「こ、これは……!?」
レインは両手でそっとそれを受け取り、表紙に触れると、深く息を吸い込む。
「――まさか、本当に封印を解く者が現れるとは……」
レインは静かに椅子へ腰掛け、書物を慎重に開きながら語り始める。
「これは『天神聖書』……数万年前の古代に書かれたとされる、我が国の魔神王陛下の足跡を記した禁断の書。
古い文献などに書かれているも、その存在を確認できず、長らくただの伝説だと考えられてきた……」
レインの声に、俺も思わず息を呑む。
「しかしつい最近になって、魔神王陛下がお目覚めになったとウワサが流れると同時に、突如その存在が世界各地で確認され始めたのです。私は仲間と共に古代アース神殿に赴きましたが、厳重に封印されており触れることすらできませんでした。
この間、封印を解けるものが現れるかもしれないと、ダンジョンとして開放されたばかりなのですが、まさか、それを貴方たちが……?」
俺はその言葉を聞いてドキッとした。
(古代アース神殿のことを知っていたなんて。しかも、ダンジョンとして開放まで……)
レインはパタン、と静かに本を閉じる。そして、少し驚いた表情でこちらを見た。
「一体、貴方たちは何者なんでしょうか?」
(まずいな、予想以上に疑われている)
俺がどうしようかと少し困っていると、
「ん……? そこの君、名前をもう一度教えてくれんか?」
と、何かに気づいたレインがマヨにそうお願いし始めた。
マヨはそれを聞いて、
「えっと、マヨと言います」
と、答える。すると、レインの表情が段々と緩んでいった。
「あぁ、やはりマヨ様でしたか!! お久しぶりでございます」
「えっ!? 私のことご存知だったんですか!?」
レインの予想外の言葉にパーティ一同は驚愕する。
「えぇ。覚えておられないかもしれませんが、貴方様の5歳の誕生日の際、正式に皇族として認めるため、帝都の教会で行われた儀式に私も参列していたんですよ。
いや~、随分立派になられましたね。魔神王陛下と関わりの深い皇族ならば、聖書の封印を解けたのも納得です」
「はぁ、そんな前に……」
「そ、そうなんでよ。実は僕たち、皇女様の旅にお供している従者でして――」
俺はレインの言葉にすかさず乗っかる。
まだ色々混乱しているが、とりあえず危機を乗り越える事ができた俺は、ホッと胸を撫で下ろした。
ふと隣を見ると、マヨを皇族派の貴族だと思っていたカタルシアが目を丸くしていた。
ミリアは何の話かよくわかってない様子。
「それで、僕は魔神王についてよく知らないのですが、具体的にどの様な存在なのでしょう?」
続けて、俺は話を少しそらして質問をした。
それを受け、レインはゆっくりと話し始める。
「魔神王は伝説上の存在というのが一般的な認識です。魔力と神力の両方を扱うことのできる神のような存在……これは神話なのですが――
遥か昔、天神によって現在の種族の起源である、4柱の原初神が生み出されました。彼らは四天王と呼ばれ、それぞれ、
竜系統の起源、『最強』の竜天神、
鳥系統の起源、『最恐』の凰天神、
獣系統の起源、『最狂』の獣天神、
鬼系統の起源、『最凶』の鬼天神、
が、存在します。ちなみに人類は天神が起源だと言われています」
レインはわかりやすいように、紙に系統図のようなものを書きながら説明を続ける。
(竜天神……この間マヨが口にしてたやつか)
俺はそれを聞いて、オリンに向かう途中の夜について思い出していた。
「こういった伝説や伝承が各地にあり、いつしか魔神王と呼ばれ、崇められるようになりました。ですが、魔神王が実在するのか知っているのは、魔神王が君臨していると言われている国の魔王や神王、皇帝といった君主のみです。
魔神王は神に等しい高位の存在。例え存在したとしても我々平民には知る由もありません……」
レインはそう言うと、コトッとペンを机に置いた。そして、
「話が長くなりましたね。魔神王について知りたいのなら、各地にある天神聖書を集めて見てはどうでしょう? 聖書は7つあり、全て集めることで解読できるという言い伝えがありますよ。もし行くアテが無いのであればですけど」
と、提案をしてくる。その話を聞いて俺は即決心した。聖書巡りをすると。
「それは良いですね!! ただ抽象的な冒険をするより、具体的な目標があったほうがいいですしね」
「私も賛成だわ」
マヨも意外と乗り気だ。
「行かれるのであれば、天賦力探知で得たマップがございます。まだ4カ所しか表示されていませんが、参考にしてください」
レインはそう言うと、一枚のマップを渡してきた。
スクロールできる不思議な世界地図に、4色の印が各所に散らばっている。
「ありがとうございます!! よしっ、みんな。宝探しの始まりだ!!」
俺は面白そうなイベントに胸を踊らせる。
(ここから本格的に始まるんだ……チュートリアルじゃない、俺たちのメインストーリーが)
俺はこの先に広がる未知の世界に、目を輝かせていた。
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〈主な登場人物〉
テンコ:神のゲームの主人公に選ばれた、普通の高校生。性格は厨二病で、抜けてるところもあるが、意外と頭はいい。
マヨ:大魔ミルキーウェイ神皇国の第一皇女。性格は真面目だが、皇女として過ごしてきた反動で素が出る場面もある。意外と間が抜けている。
ミリア:獣人の少女。とても活発で食いしん坊。強い。
カタルシア:紫髪のエルフの少女。人間で言う14歳くらいの見た目。とても誠実で真面目。
レイン:天星竜皇教会の天導師長を務めるエルフの老人。カタルシアの祖父兼育ての親。




