第10話 神聖都市ルミナス
「宝探しもいいけど、せっかくルミナスに来たんだから、観光でもしようよ」
「あぁ、そうだな。時間はあるし、今後の計画もゆっくり立てるか」
冒険の目標を定めた俺たちだったが、せっかくルミナスに来たということで、すぐには出発せず、今日含め4日ほど滞在することにした。
冒険に出るとなれば、当分訪れることはないだろうし、その上、神聖都市といういかにもファンタジーな街を観光しない手はなかった。
「観光するのなら、ガイドは私に任せてください!」
「よろしくね、カタルシアちゃん」
俺たちは不要な荷物を置くと、早速カタルシアのガイドの元、ルミナスの観光を始めた。
教会を出てしばらくすると、人が沢山いる通りに出た。
色んなお店があり、オリンほどはいかなくともかなりの賑わいだ。
「うわぁ、活気があるなぁ」
「ルミナスは巡礼者や観光客も多いですから。特にこの中央通りは、一番人が集まる場所なんですよ」
「赤ちゃんの時に一度来たことあるらしいけど、全く覚えてないわ」
石畳の道の両脇には、白を基調とした建物が整然と並び、屋台や露店が所狭しと軒を連ねている。
香ばしいパンの匂い、甘い果物の香り、街全体が柔らかな活気に包まれていた。
「うわ〜、お腹空いてきちゃった」
ミリアは目を輝かせながら、辺りを見渡している。
「まだ、昼には早いぞ」
そんな風に通りを歩いていると、向こうに大きな噴水が見えてきた。
「おぉ、噴水があるぞ!」
「あれは有名な『星噴水』です」
噴水は通りの中央広場にあり、白い大理石で作られている。
水は淡く光を帯びており、見ているだけで心が浄化されるようだ。
「聖導士が定期的に浄化している水なので、飲むと疲れが取れるって言われてるんです」
「へぇ、飲水としても使えるのか」
「水浴びしたい!」
「それはやめときなさい」
俺が感心している横で、今にも噴水に突撃しそうなミリアを、マヨが静かに制止する。
そしてさらに通りを進むと、今度は露店が密集した一角に出た。
店の人の呼ぶ声が、あちこちから聞こえてくる。
「いらっしゃい! 竜紋パンはいかがだい!」
「ルミナス名物ですよ! 竜の加護入り!」
「加護入りってなんだよ」
俺は苦笑するが、ミリアは興味津々で屋台を覗き込んでいる。
「これ、かわいい。竜の絵が描いてある」
「それは竜紋パンと言って、甘い菓子パンですね。中に蜂蜜クリームが入ってます」
「蜂蜜……テンにぃ、これ買って!」
お腹が空いていたミリアは、目で訴えてくる。
「……まぁ、せっかく来たんだし、買ってやるか!」
俺はその眼差しに負け、買うことにした。
「わ〜い!!」
ミリアはしっぽを振りながら喜んでいる。
「じゃぁ、私とカタルシアちゃんの分もお願いね!」
「え゙……わかりましたよ」
それで俺は結局、全員分買うことになった。
「いい香りだな」
パンを手に取ると、焼けた生地と蜂蜜の香りが漂ってきた。
「いただきます」
そして、そのパンを一口かじると、ふわっとした生地と優しい甘さが口に広がる。
「うまっ!?」
「おいし~!!」
「甘くて、美味しいわ」
俺たちはそのパンの予想外の美味しさに、思わず声を漏らしてしまった。
(こんな甘い物、食べたことない)
この世界の蜂蜜は、俺のいた元世界のものより一段と甘く感じた。パンの生地も同様だ。
「でしょ? ルミナスのパン職人さんは、みんな腕がいいんです」
「これは反則級だな」
そんな風に食べながら進んでいると、今度は段々と人の数が減ってきた。
どうやら通りを抜けたようだ。
「段々と緑が濃くなってきたな」
街の雰囲気も変わり、道や建物にツル植物がまとわりついている。
「こんな街に、緑が生い茂る場所があるなんて……」
その先には小さな森が広がっていた。
「この先は聖域で、普段人が立ち寄らない隠れスポットがあるんです」
カタルシアはそう言うと、「こっちです」と俺たちに手招きする。
さすが天導師の孫と言ったところか、聖域にも躊躇わず入っていく。
そして、カタルシアの案内で、俺たちは森の中へと進んでいった。
しばらく森を進んでいると、巨大な池と、その中央にそびえ立つ白亜の神殿が見えてきた。
ルミナスの隠れた象徴のようだ。
「おぉ……!」
「すごい……圧倒されるわね」
水面に反射する神殿は、まるで天に浮かんでいるかのようだった。
「これは『竜星神殿』と呼ばれる、天導師などが禊ぎやミサ、その他神聖な儀式をするときにのみ訪れる聖域です。まぁ、ここにあるのはレプリカで、本物は別の場所にあるんですけど……」
俺は神殿を見つめながら、空想のような神秘的空間に、心を奪われていた。
そんな俺たちを横目に、
「さぁ、まだ見せたい場所は沢山ありますよ!」
と、カタルシアは少し急かすようそう言った。
どこか嬉しそうな顔。ここまで生き生きとしたカタルシアの顔を見るのは、初めてな気がした。
(本来は、活発な女の子だったんだな)
そう言って歩き出すカタルシアの背中を追いながら、俺は思う。
その後も、俺たちはルミナスを一日中観光した。
――すっかり日が落ち、辺りが暗くなってきた頃。
俺たちは、カタルシアの家で夕飯をご馳走になっていた。
レインは別の教会に出かけたらしく、4人での食事だ。
「いや~、神秘的な世界観で、心が浄化したよ~」
「喜んで頂けて嬉しいです!」
みんなで食卓を囲み、今日の出来事を語り合う。
「それで、明日は何をしようか……」
やがて、話題は明日の話へと切り替わった。
俺がそう呟くと、
「実はですね――」
と、カタルシアが切り出す。
少しだけ声を潜め、テーブルの中央に一枚の地図を広げる。
「ルミナス周辺には、観光しに着た冒険者向けに、解放されている古代系ダンジョンがいくつかあるんです」
カタルシアはそう言うと、地図上の赤い印を指差す。
「危険度は低めに調整されていて、初心者から中級者向けですね」
印は街の外縁部に、数カ所ついていた。
森の奥、丘の地下、廃神殿の跡地――いずれも探索済みのダンジョンらしい。
「ダンジョン観光かぁ。面白そうだな!」
「冒険者らしくていいじゃない」
マヨも興味を示した様子で、地図を覗き込む。
「結界で管理されていて、魔物の強さも段階制限されている上、万が一の際でも、教会の伝導士がすぐに対応できる距離なので安心安全です」
「なるほど、さすが神聖都市だな」
俺は地図の印を指でなぞりながら考える。
「で、どれに行くんだ? 何かオススメは?」
「候補は3つあります」
俺の疑問に対し、カタルシアは指を折りながら説明を始めた。
「1つ目は『星導の地下迷宮』。石造りの迷路型ダンジョンで、罠と謎解きが中心です」
「頭使う系か……」
「2つ目は『古代樹の霊窟』。自然と融合したフィールドタイプのダンジョンで、精霊系や植物系の魔物が多いです」
「ミリア向きかもね」
「え、そう?」
ミリアはきょとんとしつつも、少し嬉しそうだ。
「そして、3つ目は『竜星神殿・試練層』。表向きにはレベルアップのためのダンジョンですが、実際は本物の竜星神殿に行くための、天賦力の適性を見る試練ダンジョンです」
その言葉に、俺は反射的に顔を上げた。
「……竜星神殿……か」
「はい。本物の神殿へ行く前段階として、聖職に就いている能力者が挑む場所です。本物の神殿は異空間にあって、代々魔神王陛下に対して祈りを捧げてきた教会の関係者ですら、たどり着くことが困難な最高位聖域の一つなんです。もちろん、私もたどり着けていません。
ですが、特別危険と言うわけでもないので、ただのダンジョンとして解放されていますし、むしろ神殿までたどり着けた者が現れたら、教会としても願ったりです」
カタルシアの話を聞き、マヨは腕を組んで考え込む。
「テンコにまつわる聖域……聖書の手がかりに繋がる可能性があるなら、3つ目が気になるわね」
「俺もそう思う」
マヨの意見に、俺も同意する。
今はまだ聖書巡りの序盤だが、神殿関連は避けて通れない。
「でも、いきなり神殿系は危なくない?」
「戦闘よりも適性と精神性を重視した構造なので、無謀でなければ大丈夫です」
「適性……ね。まぁ、俺たちは行けるのほぼ確してるけどな」
俺は苦笑しつつ、3人を見る。
「まっ、これで決まりだな。明日は――『竜星神殿・試練層』を攻略する」
「賛成です」
「私も」
「がんばる!」
そして、全員の意見が一致したところで、自然と空気が締まった。
「明日は朝から向かいます。装備と消耗品は、私の方で最低限用意しておきますね」
「いいのか? 助かるよ」
食事も終盤に差し掛かり、皆の表情には程よい疲労と期待が混じっていた。
(竜星神殿……俺由来の聖域。前のアース神殿みたいな、何かがあるかもしれない……面白くなってきた!)
竜星神殿、古代ダンジョン、そして天神聖書。大冒険の一歩目としては、申し分ない。
「じゃあ、今日は早めに休もう」
「そうね」
こうして俺たちは、神聖都市ルミナスでの初めてのダンジョン攻略に向け、静かな夜を迎えるのだった。
少しでも、
「面白い!」「展開が気になる!」
と思ったら、ぜひ☆☆☆☆☆評価、感想で応援お願いします。
ブックマークがいただけると、大変励みになります。
〈主な登場人物〉
テンコ:神のゲームの主人公に選ばれた、普通の高校生。性格は厨二病で、抜けてるところもあるが、意外と頭はいい。
マヨ:大魔ミルキーウェイ神皇国の第一皇女。性格は真面目だが、皇女として過ごしてきた反動で素が出る場面もある。意外と間が抜けている。
ミリア:獣人の少女。とても活発で食いしん坊。強い。
カタルシア:紫髪のエルフの少女。人間で言う14歳くらいの見た目。とても誠実で真面目。




